• 更新日 : 2025年4月1日

社宅の退去費用を負担するのは企業?入居者?相場やトラブルの対応策を解説

社宅は従業員の住環境を支援する制度です。しかし、退去時の費用負担をめぐってトラブルが起こるケースも少なくありません。

本記事では、社宅退去時にかかる費用の種類や相場、企業と入居者の負担区分、トラブルを避けるための対策を解説します。ぜひ参考にしてください。

社宅の退去時にかかる費用の種類・相場

社宅を退去する際には、部屋の状態を整えるための費用が発生します。費用の種類と相場を詳しく解説します。

以下では、社宅について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

1.原状回復費用

原状回復費用とは、退去時に部屋を入居前の状態に戻すための修繕費のことです。具体的には、下記のような修繕にかかる費用が対象となります。

  • 壁紙(クロス)の張り替え
  • フローリングや畳の張り替え
  • 天井や壁の穴・傷の修復
  • 扉やサッシなどの補修

費用は修繕する範囲や使用されている素材によって異なります。相場は下記の通りです。

費用の種類相場
床材の交換(1平方メートルあたり)1万~15,000円
クロスの交換(1平方メートルあたり)1,000円~1,500円
壁や天井ボードの交換3~6万円
フローリングの張り替え(1畳あたり)2~6万円
スクロールできます

間取りにもよりますが、3万円~5万円程度を想定しておくとよいでしょう。

2.ハウスクリーニング費用

ハウスクリーニング費用とは、部屋全体を清掃し、次の入居者が快適に住める状態にするためのクリーニング費用です。主な作業内容は、下記のとおりです。

  • 浴室やトイレの水垢・カビ除去
  • キッチンの油汚れ除去
  • フローリングのワックスがけ
  • エアコンや換気扇のクリーニング
  • サッシや窓ガラスの清掃

部屋の広さや汚れの程度によって費用は変動します。

費用の種類相場
浴室1~2万円
トイレ5,000円~1万円
キッチン15,000~25,000円
床材1~2万円
サッシ1~2万円
スクロールできます

とくに水回りの清掃は費用がかさむため、全体で2万~4万円程度を見積もっておくと安心です。

3.退去手続きにかかる費用

社宅退去時には、原状回復や清掃費用以外にも、退去に関する手続き費用が発生する場合があります。主な費用は、下記のとおりです。

費用の種類詳細
解約手続きに伴う違約金契約期間内の短期退去の場合、家賃1ヶ月分程度の違約金が発生するケースがある
敷金の精算手数料敷金を返還する際に、事務手数料が差し引かれる場合がある
契約解除に伴う事務手数料不動産会社が介在している場合、契約解除の手続き費用がかかる場合がある
スクロールできます

このような費用も、事前に確認しておくことが大切です。

社宅退去時にかかる費用は誰が負担する?

社宅退去時に発生する原状回復費用は、入居者の故意・過失による損傷が原因であれば負担が生じます。しかし、企業と従業員のどちらが支払うかに明確なルールは存在しません。

一般的には、下記のような対応がとられます。

  • 社宅規程で企業負担と明記されている場合:企業負担
  • 故意・過失による損傷が原因の場合:従業員負担
  • 企業が一部負担し、超過分を従業員負担とする場合:企業+従業員で折半

また、ハウスクリーニング費用は、契約時に「一律〇万円」と定め、企業負担とすることが多くあります。ただし、ルールが不明確だとトラブルの原因になるため、注意が必要です。

以下では、社宅の種類ごとの退去費用の負担ルールについて詳しく解説します。

借り上げ社宅の場合

借り上げ社宅とは、企業が一般の賃貸物件を借り上げ、それを社宅として従業員に貸し出す形態です。賃貸契約を結んでいるのは企業であるため、原則として退去費用の請求先も企業となります。

そのため、企業が全額を負担するケースも多い傾向です。しかし、社宅規程によっては従業員の給与から天引きする形で、費用を回収するケースもあります。

また、企業と従業員で退去費用を折半したり、一定の負担額を企業が決め、超過分は従業員負担としたりする場合もあります。いずれにしても、従業員とのトラブルを避けるためには、事前に社宅規程を確認し、費用負担のルールを明確にしましょう。

以下の記事では、借り上げ社宅制度について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。

社有社宅の場合

社有社宅とは、企業が所有する建物を従業員に社宅として貸し出す形態です。賃貸契約は企業が貸主、従業員が借主となるため、管理・運営は企業自身が行います。

退去費用の負担については、従業員が費用を負担するケースが多く、修繕費や清掃費などを給与から天引きするケースもあります。企業が全額負担する場合もありますが、比較的少数派です。

借り上げ社宅と違い、社有社宅では従業員に費用を負担させる運用が一般的であるため、契約時に原状回復費用や清掃費用の範囲、支払方法などを明確にしておくことがトラブル防止につながります。

原状回復とは?

原状回復とは、賃貸物件を退去する際に、借主が部屋を一定の状態に戻すことを指します。ただし、原状回復の範囲には明確なルールがあり、すべての修繕費用を入居者が負担するわけではありません。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の使用による経年劣化や消耗は、貸主(大家)が負担すべきと定められています。一方で、入居者の故意・過失による損傷については、入居者負担となるケースがあります。

このように、費用負担の線引きが曖昧なままだと、大家・企業・従業員の間でトラブルになるリスクが高まるでしょう。契約時に負担範囲を明確にしておくことが大切です。

参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復費用は原則、大家が負担する

原状回復費用は、基本的には大家(賃貸人)が負担するべきものです。しかし実際には、多くのケースで企業や従業員などの入居者側に費用請求が行われており、トラブルの原因となっています。

前述したように、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、通常の経年劣化や日常使用による消耗は、大家の負担とするように定められています。

大家負担となるケースは、下記のとおりです。

  • 日光による壁や床の色あせ
  • 家具の設置による床のへこみ
  • 冷蔵庫やテレビ裏の電気焼け
  • 通常の使用によるクロスの変色

これらは、入居者が支払っている家賃に含まれている維持管理費と考えられており、入居者に追加請求するのは不当とされます。トラブルを避けるためにも、ガイドラインに沿った適正な対応が求められます。

参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

入居者が自己負担するケース

原則として、原状回復費用は大家が負担します。しかし、入居者の使用状況によっては、費用を負担しなければならないケースもあります。

下記のような場合は、企業や従業員側が原状回復費用を負担する可能性が高いでしょう。

  • 結露を放置したことで発生したカビやシミ
  • ペットによる傷や臭い
  • タバコのヤニ汚れ
  • ネジやクギで開けた壁の穴
  • 家具を引きずったことによるフローリングの傷
  • 飲み物や油の飛び散りによるシミ汚れ

入居者には「善管注意義務」があり、通常の範囲で部屋を適切に管理する義務があります。この義務を怠り、故意・過失によって部屋を損傷させた場合は、退去時に修繕費を請求される可能性があります。

参考:企業年金連合会|善管注意義務

社宅退去時に起こりやすいトラブル4選

社宅の退去時には、費用負担や契約手続きに関するさまざまなトラブルが発生しやすくなります。ここでは、企業担当者が注意しておくべきトラブルを4つ紹介します。

1.原状回復費用の修理箇所をめぐるトラブル

原状回復費用には、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」により一定の基準が設けられています。しかし現場では、下記のようなケースでトラブルが発生しがちです。

  • 入居前からあった傷や汚れの修繕費用が請求される
  • 通常の経年劣化による修繕費が入居者(または企業)に請求される
  • 修理箇所が明確にされないまま、一括で高額な請求がされる
  • 次の入居者のスケジュールにあわせて急ぎで修繕され、費用負担の説明が曖昧になる

このような不透明な請求は、企業と従業員間での信頼関係を損ねるため、修繕の内訳確認と事前の合意が大切です。

2.短期解約による違約金の負担トラブル

借り上げ社宅では、通常の賃貸契約と同様に2年間の契約期間が設けられていることが一般的です。しかし、従業員が1年未満で退去した場合などには、違約金(家賃1ヶ月分など)が発生するケースがあります。

また、下記のような認識のズレがあると、企業と従業員の間でトラブルが発生する原因となります。

  • 従業員が「契約者は会社なので、自分が違約金を払う必要はない」と誤解する
  • 企業側が社宅規程を従業員に十分説明しておらず、違約金のルールが周知されていない
  • 短期解約の定義(1年未満or2年未満など)が、企業と賃貸人で異なる
  • 退職に伴い社宅を解約する場合、誰が負担するのか明確でない

退職に伴う社宅の解約では、違約金の負担者を明確にしておくことが、トラブル回避のポイントです。

3.退去費用の高額請求トラブル

社宅を退去する際に、想定以上に高額な原状回復費用や修繕費が請求されるケースがあります。とくに、下記のような点が問題となりやすいです。

  • 修繕業者が不当に高額な見積もりを出す
  • 修繕範囲が不明確で、不要な工事が含まれている
  • 企業側が修繕費用の内訳を確認せず、従業員に全額請求する
  • 給与から一方的に控除される

費用発生のタイミングでは、見積書の精査と企業・従業員間で事前共有することが大切です。

4.解約予告期間をめぐるトラブル

通常の賃貸契約では、退去の1ヶ月前に解約予告を出す必要があります。しかし、社宅の場合、下記のような問題が発生しやすくなります。

  • 従業員が退去日を企業に伝え忘れ、解約手続きが遅れる
  • 企業側が不動産会社へ解約通知を出し忘れ、不要な家賃が発生する
  • 退職後の有給消化や引っ越しの関係で、退去日が曖昧になる
  • 退去が遅れたことで次の入居者が入れず、トラブルになる

このような事態を防ぐには、従業員と企業が退去スケジュールを事前にすり合わせ、解約日を明確にしておきましょう。

社宅退去時のトラブルを防ぐ4つのポイント

社宅の退去時に発生するトラブルの多くは、費用負担の曖昧さや認識の食い違いが原因です。ここでは、社宅退去時のトラブルを未然に防ぐために企業が取り組むべき4つの対策を解説します。

1.国土交通省が定めたガイドラインを活用する

社宅の退去時におけるトラブルを防ぐには、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を活用するのが効果的です。

ガイドラインを活用するメリットは、下記のとおりです。

  • 国の基準にもとづいた判断が可能となり、費用負担を適正化を図れる
  • 退去時の原状回復費用の負担割合を明確にできる
  • トラブル発生時の証拠資料として活用できる

また、入居時・退去時の確認ポイントは、下記のとおりです。

  • 入居時に傷や汚れのチェックリストを作成し、企業・不動産会社と共有する
  • 傷や汚れのある箇所を具体的に記録し、写真を添付する
  • 退去時の立会い時に、チェックリストと照合しながら確認する

ガイドラインの活用によって、不当な費用請求を防ぎ、スムーズな退去対応が可能になるでしょう。

参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

2.契約条件を社員に説明する

社宅退去時のトラブルの多くは、契約条件に対する企業と社員の認識のズレから発生しています。そのため、入居前に契約内容を明確に説明し、社員に十分理解してもらいましょう。

具体的な説明のタイミング
  • 契約締結前に契約書の内容を社員へ開示する
  • 入居時に契約条件の説明会を実施する
  • 特約がある場合は、具体的な内容を強調して説明する
説明すべき主な契約条件
  • 原状回復義務の範囲
  • 社宅退去時の負担費用(修繕費・クリーニング費用など)
  • 特約がある場合の具体的な負担内容
  • 解約予告期間とそのルール

これらを明確に伝えることで、社員の誤解を防ぎ、トラブル発生のリスクを大幅に減らせます。

3.社宅規程に費用の負担区分を明記する

社宅制度を導入している企業は、社宅規程に退去時の費用負担区分を明記することが大切です。明確なルールがあれば、社員は退去時に発生する費用を事前に把握でき、企業側も不要なトラブルを回避しやすくなります。

  • 企業が負担する費用(例:経年劣化による修繕)
  • 社員が負担する費用(例:故意・過失による損傷)
  • 特約による追加費用の有無
  • ハウスクリーニング・原状回復費の扱い
  • 敷金の精算ルール

とくに借り上げ社宅は、費用負担の線引きが曖昧になりやすいため、具体的に規定しておきましょう。

以下の記事では、社宅制度で所得税をかけないポイントについて解説していますので、あわせてご覧ください。

4.企業と社員で誓約書を取り交わしておく

口頭だけの説明では「言った・言わない」のトラブルが起きるリスクがあります。そのため、企業と社員の間で社宅使用に関する誓約書を取り交わしておくことが効果的です。

誓約書の役割
  • 契約条件を文書化し、双方の認識を一致させる
  • 社員に社宅の使用ルールを守らせる意識を持たせる
  • トラブル発生時の証拠として活用できる
誓約書に記載すべき内容
  • 入居条件
  • 従業員が負担する費用
  • 禁止事項(無断改装・ペット飼育など)
  • 原状回復義務の詳細
  • 特約の有無と内容

誓約書を取り交わせば、社員が社宅を正しく利用する意識が高まり、トラブルの未然防止につながります。

適正な退去費用負担で、企業と従業員の信頼関係を築こう

社宅の退去費用は、原状回復やハウスクリーニング費用などが中心です。しかし、企業と入居者のどちらが負担するかは社宅の種類や社宅規程によって異なります。

費用負担をめぐるトラブルを防ぐためには、契約内容やガイドラインの活用、社宅規程での明確化がポイントです。明確なルール設定と事前説明を徹底し、円滑な退去対応を実現しましょう。


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