- 更新日 : 2025年4月1日
【雛型あり】社宅規定の必要性とは?記載すべきことや注意点を解説
企業が社宅を適切に運用するためには、明確なルールを定めることが必要です。規定がないままでは、入居条件・費用負担などの解釈にズレが生じます。
本記事では、社宅規定の必要性や記載すべきポイント、注意点を解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
社宅規定とは?作成の必要性
社宅規定とは、会社が提供する社宅に関するルールを定めた規則のことです。以下のように、会社が提供する住居を公平に運用することを目的に作成します。
- 公平性の確保
- 法令遵守
- トラブル防止
以下記事で、社宅制度のメリット・デメリットを解説しています。あわせてご覧ください。
公平性の確保
社宅制度を公平に運用することが大切です。家賃負担額や入居期間を統一し、利用対象者や条件を明確にすることで透明性の確保につながります。
社宅は、入社や転勤に伴う住居の確保や生活支援を目的とした福利厚生のひとつです。従業員が安心して業務に集中できる環境を整える役割があります。
公平で適正な規定基準を設け、すべての従業員が納得できる形で制度運用をしましょう。
法令順守
社宅規定は、就業規則の一部に定めることが一般的です。作成に法的な義務はありません。
労働基準法八十九条により、企業が作成した就業規則は労働基準監督署に提出する義務があります。そのため、就業規則内に社宅規定を制定した場合も、同様に届出が必要です。
社宅規定は社宅の運用を開始するタイミングで規定を作成しましょう。利用条件やルールを明確にし、スムーズな運用につながります。
なお、就業規則の届出義務は、従業員10人以上雇用する企業のみです。現在10名未満の企業も、将来的に増員を検討している場合は、早めに作成が望ましいでしょう。
トラブル防止
トラブル防止の観点から、社宅規定を決めておくことも重要です。
社宅規定がない状態では、入居条件や負担額などに疑問や不満が生じても適切に対応できません。不公平感による満足度の低下につながる可能性もあります。
また、明確なルールがないと、騒音やゴミ出しなどのトラブルが起こることも考えられます。未然に防ぐためにも、社宅の利用ルールを明確に規定しましょう。
社宅規定に記載しておくこと
社宅規定は、必要事項を適切に記載することも重要です。従業員の混乱を防ぐためにも、以下を明確にしましょう。
- 入居資格
- 賃料の基準と負担額
- 物件の条件
- 入居期間
- 禁止事項
- 入退去手続き
- 規定違反の対処法
入居資格
入居資格を有する対象者と条件を明確にしましょう。たとえば以下のとおりです。
- 転勤者のみ
- 新入社員限定
- 単身者のみ
- 家族や駐在者がいる場合は家族の入居を認める
- 自宅からの通勤
特定の従業員のみ利用できる社宅である場合は、条件を明確に定めないと、不公平感につながります。社宅規定へ事前に記載しておきましょう。
賃料の基準と負担額
社宅の賃金や費用負担に関するルールも定めておきましょう。別途負担が必要な費用も、明確にすることでトラブルを回避できます。
火災保険の加入を個人負担とする場合は、加入証明書の提出を求めるなどし、企業側でも内容を把握しましょう。
退去時の対応は、敷金を上回る修繕費が発生した場合の負担ルールを定めます。従業員と会社の双方で認識にズレが生じないようにすることが大切です。
物件の条件
社宅選びは、必要な部屋数や物件の広さを考慮し、条件を明確にすることで効率的に部屋を探せます。
条件が厳しすぎると、従業員の満足度低下につながります。制度の利用が進まなくなる可能性もあるため、常識の範囲内で設定しましょう。
交通費を支払っている場合は、通勤の利便性に考慮した基準を置きます。公平かつ妥当な運用を心がけましょう。
入居期間
入居期間に関する情報は、円滑に契約を進めるためにも重要です。まず、「入居期間」には、入居開始までの期間・入居可能な期間・立ち退きまでの期間を明記します。
入居可能期間は、物件の契約更新時期にあわせて「〇年」と記載することが一般的です。入退去時は、必ず企業へ報告する旨を契約書に記載し、手続きの漏れを防ぎます。
入居期間に関する情報を整理し、明確なルールを設定することで、入居者と企業側の双方が安心できる社宅運営にできます。
禁止事項
適切な社宅運営を続けるためにも、禁止事項の記載は必須です。具体例は以下のとおりです。
- 増改築
- 第三者への貸与
- ペットの飼育
- 深夜の騒音
上記以外にも、近隣住民への迷惑行為や社宅に相応しくない使用方法なども記載しておくとよいでしょう。
入退去手続き
入退去手続きは、わかりやすく簡潔に記載することがポイントです。記載内容の例は、以下のとおりです。
- 提出書類
- 申請先の部署や申請方法
- 初期費用の負担の有無
- 期日までに入退去しなかった場合の対処法
- 入居契約書の有無
社宅の運用を続けていくなかで、追記事項の記載が必要な場合は適宜おこないましょう。
規定違反の対処法
社宅規定に違反した場合の対処や罰則を、明確にすることが不可欠です。違反への対応が曖昧ではルールが軽視され、秩序の乱れにつながります。
規定違反に対する具体的な罰則や対応策を記載し、入居者に順守を促しましょう。違反した場合の対処方法の例は以下のとおりです。
- 規定違反が発覚した場合、立ち退きを命じられる
- 立ち退きを命じられた場合、〇日以内に退去しなければならない
- 違反による立ち退きの場合、会社は引っ越し費用を負担しない
違反内容の程度におうじて段階を設けてもよいでしょう。入居者に改善の機会をあたえつつ、管理を強化することが重要です。
社宅規定の雛型
社宅規定の雛型を紹介します。以下の例を参考に、自社に適した規定を作成しましょう。
借り上げ社宅規則 制定 令和〇〇年〇〇月〇〇日 第1条(目的) この規則は、〇〇会社(以下「会社」という)の借り上げ社宅の取り扱いについて、必要事項を定める。 第2条(社宅の定義) この規則において、社宅とは、会社がリスクマネジメントの観点から、緊急時に休日・夜間を問わず可能な限り迅速に各施設に駆けつけることのできる人員配置をおこなうために設置する業務用借り上げ社宅をさす。 第3条(管理および運営) 社宅の管理および運営は、人事グループがこれを統括する。 第4条(社宅の条件) 社宅は以下の条件で選定することとする。 (1)会社が指定するエリアから半径2キロ以内に存在する住宅とする (2)賃貸条件は別紙に定める各種条件の範囲内とする。 第5条(入居資格) (1)社宅を使用できるのは、社員および契約社員(出向者を除く、以下「職員」という)を対象とする。 (2)社宅の使用できる者は配偶者または同居する3親等以内の家族がいる社員および独身社員とする。 第6条(入居申請手続き) (1)社宅に入居を希望する職員は、入居申請書を所属長の承認を得た後、人事グループへ提出することとする。 (2)入居を許可された者は入居誓約書を提出し、指定の期日まで入居しなければならない。入居期日までに入居しない場合は、入居を取り消すことがある。 第7条(社宅の入居期間) 入居期間の上限は〇〇年間とする。ただし、業務の状況におうじて延長する場合がある。 第8条(社宅使用料) 社宅使用料は、賃料・共益費の合計の〇〇%とし、毎月の給与より控除する。月の途中で入居または退去する場合は日割り計算をする。 第9条(費用負担) 入居者は下記の費用を負担しなければならない。 ・電気、ガス、水道使用料 ・町内会費 ・その他会社が入居者負担と認めた費用 第10条(敷金・礼金) 社宅の仲介業者に支払う仲介料、家主に支払う敷金・礼金は会社が負担するものとする。 第11条(届出事項) 第入居者は次の場合は人事グループに届出をおこない、指示を受けるものとする。 (1)同居家族に移動があった場合 (2)建物・付属設備・室内器具等の破損があった場合 (3)火災・盗難等異変があった場合 (4)2週間以上居室を空ける場合 第12条(退去の手続き) 入居者が社宅を立ち退く場合は◯◯日前までに所属長を経由し届出をしなければならない。退去するときは会社立会いの上明け渡し、原状に回復して確認を受けるものとする。 第13条(損害賠償) 入居者が故意または過失により、社宅を毀損または汚損あるいは減失させるなど、会社に損失をあたえた場合はその修復に要する費用を入居者に負担させる。この場合、入居を取り消し、退去を命ずることがある。 第14条(退居申請) 退去を希望する職員は、退去日の1ヶ月前までに退去申請書(様式3)を所属長の承認を得た後、総務部長へ提出することとする。 第15条(退去) 入居者は、次の各号のひとつに該当する場合は、定められた日以内に退去しなければならない。 (1)退去申請後 退去申請書の日付 (2)退職したとき 退職日の〇ヶ月以内 (3)死亡したとき 死亡日の〇ヶ月以内 第11条 その他、総務部長の判断により決定する。 附則 この規則は、令和〇〇年〇月〇日から施行される。 |
社宅規定を作成する際の注意点
社宅規定を作成する際の注意点があります。具体的には以下のとおりです。
- 家賃相場に考慮する
- 家族構成や生活状況に配慮する
- 内容を定期的に見直す
家賃相場に考慮する
社宅の賃料や条件は、地域ごとの相場に見合う設定が必要です。複数拠点をもつ企業の場合は、各地域の賃料や物価に考慮した家賃を設定しましょう。
賃料が高い都市部は会社負担を増やしたり、地方は広めの物件を選定するなど、柔軟な対応が求められます。
住宅事情・設備の充実度・間取りなどを考慮し、魅力的な条件にすることが社宅制度の利用促進につながるでしょう。
家族構成や生活状況に配慮する
社員の家族構成や生活状況などの個別事情に考慮し、柔軟に対応する姿勢も重要です。
たとえば、間取りを1LDKに限定すると、子育て世帯にとっては利用しにくくなります。社宅利用率の低下にもつながるでしょう。
また、周辺環境や通勤の利便性などを考慮し、物件の選択肢を広げることも大切です。多様なライフスタイルに対応しやすくなり、社宅制度の魅力を向上できます。
内容を定期的に見直す
賃料や物価は変化することから、制度を定期的に見直すことも必要です。従業員のニーズに沿った規定に改善することで、従業員満足度の向上につながります。
ただし、地域情報や特性を網羅した社宅規定にするのは困難です。社労士など外部へサポートを依頼してもよいでしょう。
以下記事で、社宅制度における税金について解説しています。あわせてご覧ください。
従業員満足度を高められる社宅規定にしよう
社宅規定は、公平性の確保・法令順守によってトラブルを防止できます。社員が安心して社宅利用できる環境を整えることが重要です。
本記事で紹介した雛型を活用しながら、自社に最適な社宅規定を整備し、社員が安心して利用できる社宅制度を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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