- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第34条とは?休憩時間をわかりやすく解説
労働基準法第34条は、労働者に与える「休憩時間」について定めた規定です。簡単に言えば、一定時間以上働く労働者には途中で休憩を与えなければならないと法律で義務付けています。働きすぎによる疲労や事故を防ぐため、休憩を確保するルールが設けられているのです。
連続して長時間働き続けることによる労働者の疲労防止や安全確保が目的であり、6時間を超える連続労働は法律上許容されないという考えに基づいています。
この記事では、労働基準法第34条の基本的な内容と休憩時間に関する具体的なルール、職場での扱い方についてわかりやすく解説します。
目次
労働基準法第34条とは?
労働基準法第34条では、働く時間の長さに応じて、休憩を取らせることが企業に義務づけられています。
労働基準法第34条の条文では、具体的に以下のように定められています。
- 労働時間が6時間を超えるときは、45分以上の休憩時間を与える
- 労働時間が8時間を超えるときは、1時間以上の休憩時間を与える
- 労働時間が6時間以内のときは、休憩を与える必要はない
このように所定の労働時間に応じて「労働時間の途中」に最低限の休憩時間を与える義務があると規定されています。
例えば7時間勤務なら45分以上、9時間勤務なら1時間以上の休憩が必要です。
休憩時間は労働時間には含まれず、その間の賃金は発生しないのが原則です。ただし、会社の就業規則や労使の取り決めで支払う場合もあります。
法律の趣旨は、労働者が業務から離れてリフレッシュできる時間を確保することにあり、労働者の安全と健康を守るための、法律上の最低限のルールといえるでしょう。
労働基準法第34条|休憩時間の3つの原則
労働基準法第34条では、働く人がしっかりと休憩をとれるように、休憩時間についてのルールが定められています。ここでは、その基本的な決まりを3つの原則に分けて紹介します。
休憩は「途中」で与える
休憩は始業直後や終業直前ではなく、労働時間の途中に与える必要があります。業務の区切りなどに合わせて、勤務時間の中間あたりで取得させることが求められます。これは「中途付与の原則」と呼ばれ、仕事の区切りに合わせて、勤務の中間あたりに休憩を取らせるのが適切とされています。
例えば、9時から18時まで働く場合、13時から14時のように真ん中の時間帯に設定することが望ましいとされています。
「休憩を取らずにその分早く帰らせる」といった対応も、法律では休憩時間を与えたことにはなりません。
全員に「一斉に」休憩を与える
休憩時間は企業(事業場)の全労働者に一斉に与えるのが原則です。同じ職場で働く人たち全員に、同じ時間帯に休憩を取らせる必要があります。
職場の一部の人だけが休憩を取れないような不公平な状態を避けるために設けられているルールです。
ただし、業務の性質などによって一斉に休憩を取ることが難しい場合は、労使協定を結べば交代制で休憩を取らせることも認められています。
休憩は「自由に使える時間」であること
休憩時間は、労働者が自由に利用できなければならないとされています(労基法34条3項)。会社が休憩中に電話当番や来客対応を命じることは、休憩とは言えません。
例えば、無線や携帯電話を持たせて常に呼び出しに備えさせるような扱いは、「休憩」と言いながら実質的に仕事をさせていると見なされ、法律に反する可能性があります。
従業員が休憩中に外出したり仮眠を取ったりすることも基本的に自由であり、会社は正当な理由がない限り、それを制限することはできません。
これらのルールをまとめると、「6時間を超えて働く人に休憩を与えないのは違法」であり、休憩を与える際はタイミングや取得方法にも一定のルールがあるということです。
労働基準法第34条|休憩時間の適用範囲と例外
労働基準法第34条で定められた休憩のルールは、正社員・パート・アルバイト・契約社員など雇用形態を問わず、原則としてすべての労働者に適用されます。
1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を取らせることが会社の義務とされています。
例えば、アルバイトのシフトが7時間であれば、正社員と同様に45分以上の休憩を与えなければなりません。
また、休憩時間の規定は労基法が定める最低基準であり、労働者本人が「休憩はいらない」と申し出た場合であっても省略することはできません。
忙しさから自発的に休憩を返上しようとする人もいますが、法律上、休憩の放棄は認められていません。
仮に労使間で「休憩なしで働く代わりに手当を支給する」といった合意を交わしても、それ自体が法違反となる可能性があります。休憩時間は本来労働してはいけない時間であり、休憩を取らなかった代わりに賃金を支払うというような取り決めは認められていません。
要するに、雇用形態や労働者の希望にかかわらず、一定時間を超える勤務には休憩を与える必要があり、本人の同意があってもスキップは認められないという点に注意が必要です。
休憩時間のルールが適用されない例外ケース(適用除外など)
休憩時間のルールには、一部例外的に適用されないケースがあります。労働基準法や関連法令で定められた特例がある場合、例外的に第34条のルールがそのまま適用されないことがあります。
管理監督者(管理職など)
代表的な例外として、管理監督者(いわゆる管理職に該当する労働者)があります。労基法第41条では、経営に近い立場で働く管理監督者や、企業の機密に関わる事務を扱う人について、労働時間・休憩・休日の規定を適用除外としています。
つまり、一定の要件を満たした管理職については労働時間規制の枠外であり、休憩の規定が適用されないため、法律上は休憩を与えなくても違法にはならない場合があるということです。
ただし、「管理監督者」と認められるには厳しい基準があり、単に役職名や肩書きだけでは判断されません。
管理職でも一般の従業員と変わらぬ拘束を受けていれば適用除外は認められません。実際の職務内容や勤務状況によって判断されるため、名ばかりの管理職には適用除外が認められないこともあります。
業務の性質上、一斉に休憩を取りにくい業種・職種
もう一つの例外は、一斉に休憩を取ることが難しい業種や職場です。例えば、長距離トラックやバス、列車の運転業務のように、勤務中に全員が同時に休憩を取ることが現実的に難しい場合、労働基準法施行規則第32条により、休憩の付与方法が緩和されることがあります。
同様に、少人数で業務をまわしている郵便局の窓口業務や、通信業などでも、業務の特殊性から休憩のの適用除外が認められるケースがあります。
さらに、労基法34条2項ただし書により、労使協定を結べば、一斉付与の原則を外して交替制の休憩を導入することも可能です。。サービス業や交替勤務の職場では、全員が同時に休憩に入ると業務が止まってしまうため、こうした交替制休憩が実務上よく使われています。
銀行、病院、旅館など、従業員全員が一斉に離席できない業種についても、あらかじめ施行規則で一斉付与の原則が除外される業種とされており、労使協定がなくても交替制休憩が認められています。
このように、管理監督者や特殊な乗務員など一部の労働者については休憩時間規定の適用除外があり得ます。また、業種・業態によっては休憩の取り方に柔軟性を持たせる仕組み(交替制休憩)が認められています。
ただし、これらはあくまでも例外的な措置です。一般的な職場や業務では、第34条の通常ルールどおりに休憩を確実に与える必要があります。例外に該当しないのに休憩を取らせなかった場合、正当な理由のない違法行為とされる可能性があるため、十分な注意が必要です。
労働基準法第34条|企業が休憩時間を適正に付与するには?
企業は労働者に対して適切に休憩時間を付与する義務があります。人事・労務担当者として、第34条に基づく休憩時間を適正に運用するために押さえておきたいポイントを紹介します。
休憩スケジュールを設定する(中途付与の徹底)
休憩時間は労働日ごとの勤務計画の中間に組み込むようにしましょう。始業から終業まで連続して働かせて最後にまとめて早上がりさせる、といった形は法律上休憩とは認められません。
必ず勤務の途中で区切りをつけて休憩を取得させる必要があります。また休憩時間の分割も可能ですが、最低時間(45分や1時間)を下回る細切れ休憩にしないよう注意が必要です。
例えば15分休憩を4回に分けて1時間とすること自体は違法ではありませんが、労働者が十分に休めるよう休憩間隔や長さには配慮すべきです。
休憩中の業務指示を禁止する(自由利用の確保)
休憩時間中は、原則として労働者を業務から完全に解放しなければなりません。緊急の場合を除き、電話対応や来客対応を休憩中の社員に頼むのは避けるべきです。どうしても休憩中も待機が必要な業務(例えば警備業務での緊急対応待機など)の場合、それは休憩時間とはみなされず労働時間と評価されるリスクがあります。
休憩中の社員に対して外出や仮眠を制限する社則がある場合も、必要最低限に留めましょう(安全管理上の理由で所在の届出を求める程度にとどめ、許可制で外出を禁じるのは望ましくないとされています)。
休憩は自由に使える時間であるという原則に基づき、職場から離れることを含め、従業員の判断に委ねる運用が基本です。
休憩を確実に取らせる仕組みを整える
現場が忙しいと「今日は休憩返上で働きます」と自主的に休もうとしないケースもあります。しかし、たとえ本人の意思であっても、企業側には休憩を確実に取らせる責任があります。
休憩を取らせずに働かせると、賃金支払義務が発生するだけでなく、行政からの指導や労使トラブルの原因にもなりかねません。そのため、交替要員の配置や休憩の取得状況を記録・確認する体制が重要です。
例えば、タイムカードや勤怠管理システムで休憩開始・終了時刻を記録し、管理者がチェックする運用が有効です。休憩が未取得であった場合は、その理由を把握し、再発防止策を検討しましょう。
休憩時間を賃金で代替しない
しばしば現場の判断で「休憩を取れなかったから、その分、割増賃金を出しておこう」といった対応がなされることがあります。しかしこれは本来望ましい対処ではありません。休憩時間は金銭で置き換えることができない時間であり、休憩を与えず働かせた事実自体が労基法違反となってしまいます。
やむを得ず休憩が後ろ倒しになった場合は、可能な限り別の時間に振り替えて休憩を取得させてください。それでも結果的に休憩無しで終業まで至った場合は、その日の勤務を振り返り、問題の発生原因を分析して次回以降同じことが起こらないよう改善することが大切です。
労働基準法第34条|休憩時間違反のリスクと罰則
休憩時間に関する法律違反を放置すると、企業にはさまざまなリスク・罰則が及びます。人事・法務担当者は以下の点を認識しておきましょう。
刑事罰のリスク
労働基準法第34条に違反し、本来与えるべき休憩を与えなかった使用者(会社)には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。これは多くの労基法違反に共通の法定刑であり、悪質な長時間労働をさせて休憩も与えなかったような場合には送検・起訴されるケースも考えられます。
未払い賃金(残業代)の発生
休憩時間のはずだった時間に労働者が業務を行っていた場合、その時間は労働時間とみなされ残業代支払いの対象となります。例えば「休憩中に対応した業務」が発生して休憩がつぶれてしまった場合、企業はその分の賃金を支払わなければなりません。
労働基準監督署の調査などで「名目上休憩になっているが実際は働いていた時間」が発覚すると、過去2年分(※現在は原則3年分)の未払い残業代の支払いを是正勧告されることがあります。休憩を適切に与えなかったことにより、結果的に想定外の人件費支出が生じるリスクがあるわけです。
行政指導・企業イメージへの影響
労基法違反が疑われる場合、労働基準監督署からの調査や是正指導が入ります。是正勧告を受けた事実は社内外に公表されることもあり、企業の信用失墜につながりかねません。特に昨今は「ブラック企業」という言葉も定着し、労務管理の杜撰さが指摘されると採用面や取引面でマイナスイメージを持たれる恐れがあります。
コンプライアンス経営の観点からも休憩時間の遵守は重要です。
訴訟リスク
休憩時間を与えなかったことで労働者から訴えられ、残業代の支払いを請求されるケースも考えられます。
実際に後述するように、休憩不履行を含む違法な長時間労働が問題となり企業が裁判で敗訴した例もあります。訴訟になれば金銭的な賠償に加え、訴訟対応のコストや労力、社会的な注目といった負担も発生します。日頃から法令どおり適正な労務管理をしておくことが、こうした紛争の予防につながります。
労働基準法第34条の最新動向
現時点(2025年)において、労働基準法第34条そのものに大きな改正は加えられていません。 休憩時間の長さや要件(「6時間超で45分、8時間超で1時間」)は、少なくともこの数十年一貫して変わらず維持されています。
2019年の働き方改革関連法でも主に見直されたのは残業時間の上限規制や有給休暇取得義務などであり、第34条の休憩規定に直接の変更はありませんでした。
しかし、休憩時間を含めた労働時間管理の重要性は年々高まっています。 厚生労働省は2017年に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、企業に対して労働時間とともに休憩時間の管理徹底を周知しました。
このガイドラインでは、使用者が労働者の労働時間を適正に把握する責務を明確化し、労働時間の考え方(何を労働時間とみなすか)についても説明されています。休憩中に指示待機させていた時間が後から「実は労働時間だった」と認定される事態を防ぐためにも、タイムカードや勤怠システムで休憩取得状況を客観的に記録・管理する取り組みが推奨されています。
労働者が自主的に休憩を取りやすい環境にしよう
昨今では、テレワークやフレックスタイム制の普及に伴い、労働者が自主的に休憩を取りやすい環境整備も課題となっています。リモートワーク下では上司の目が行き届かない分、適切に休憩を取っているか自己申告に頼る部分も出てきます。そのため、多くの企業が勤怠管理システム上で一定時間ごとに休憩取得を促すアラートを出す機能を活用したり、連続稼働時間をモニタリングして6時間を超えないよう警告する仕組みを導入したりしています。
法律の条文に変化はなくとも、実務面では最新のICTツールを活用して休憩管理の精度を高める動きが進んでいます。
休憩時間の適切な付与は、労働者の健康維持と企業の法令遵守の両面に直結する重要なテーマです。最新の情報にもアンテナを張りつつ、現行法のもとで適正な労務管理を行うことが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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