• 更新日 : 2025年3月31日

労働基準法第67条とは?育児時間の取得方法や男性社員の対応もわかりやすく解説

労働基準法第67条(育児時間)とは、生後1歳未満の子を持つ女性労働者に与えられる、1日2回各30分の育児のための休憩時間に関する規定です。この記事では、条文の丁寧な解説や、制定の趣旨・背景を説明します。また、企業の人事・法務担当者が知っておくべき実務上のポイントとして、育児時間の取得条件、男性社員への適用可否や賃金の扱い、違反時の罰則などについて、厚生労働省のガイドラインや行政通達、判例も交えて具体的に解説します。初心者の方にも分かりやすいよう、具体例を交えながら平易に説明します。

労働基準法第67条(育児時間)とは

労働基準法第67条は、「生後満1年に達しない生児を育てる女性」が請求した場合、使用者(企業)は通常の休憩時間とは別に1日2回、それぞれ少なくとも30分の育児のための時間を与えなければならないと定めています​。

この規定に基づき確保される時間は一般に「育児時間」と呼ばれ、かつては授乳のための時間という意味合いから「授乳時間」とも呼ばれていました。

使用者は育児時間中、該当する女性労働者に業務をさせることはできません。これは法律で保障された権利であり、会社は労働者から請求があれば必ず与える必要があります。

労働基準法第67条の背景・目的

労働基準法第67条は、出産後間もない母親が就業中にも育児(授乳や乳児の世話)ができるよう配慮することを目的としています。
立法当初から、赤ちゃんの健やかな成長と働く母親の健康を守るため、授乳のための時間確保が必要と考えられていました​。このため、本条は女性労働者に限定した保護規定として設けられています。

1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以降、労働基準法上の女性保護規定の多くは男女差別の観点から見直されましたが、育児時間の制度は母性健康保護の観点から存続しています。

働く母親が職場で授乳や育児ができるようにすることで、出産後の早期復職や母乳育児の継続を支援し、ひいては母子の健康と職業生活の両立を図ることが本条の目的です。

育児時間の対象者

労働基準法第67条の育児時間を取得できるのは、生後満1歳に満たない子どもを育てる女性労働者です。ここでいう「子ども」には養子も含まれるため、実子でなくとも生後1年未満の乳児を養育していれば対象となります。また、この権利は雇用形態によって制限されず、正社員だけでなく契約社員やパートタイム労働者であっても取得できます​。

重要なのは、労働者本人からの請求があることです。請求があった場合、企業は法に従い育児時間を与えなければなりません。なお、育児時間の権利が及ぶ期間は子どもが1歳の誕生日を迎える前日までであり、1歳の誕生日の前日以降は法定の育児時間請求権は消滅します。

育児時間の回数

育児時間は1日あたり2回まで、各少なくとも30分与えることとされています​。したがって最低でも合計1日1時間の育児時間を確保できる計算です。ただし、この「1日2回」というのは1日8時間程度のフルタイム労働を想定した規定であるため、1日の労働時間が4時間以内の場合は1日1回30分の育児時間付与で足りるとの行政解釈が示されています​(昭和36年1月9日 基収第8996号通達)。

取得にあたっては、2回に分けず1回にまとめて1時間取得することも可能です。法令上「必ず2回に分けること」とは定めておらず、育児時間の与え方は柔軟に運用できます。

どの時間帯に育児時間を取るかについても法律上の細かい制約はありません。通常の休憩時間のように「労働の途中で与えること」という決まりもないため、例えば始業直後や終業前に育児時間を充てることも可能です。

具体的な取得時間帯は労働者の希望を尊重し、業務に支障がない範囲で柔軟に対応することが望ましいでしょう。なお、育児時間中の具体的な行為は授乳に限らず、オムツ替えや乳児の世話など広く「育児」のために使えます。

企業はその時間の使途について制限を設けることはできず、労働者が必要とする育児に自由に充てられる時間と考える必要があります​。例えば、育児時間を利用して保育園への送迎を行うケースも実務上しばしば見られます​。

育児時間の申請方法

育児時間は労働者から請求(申請)されて初めて発生する権利です。法律上細かな手続き方法までは定められていませんが、会社の就業規則や社内手続きとして申請方法を定めておくことが実務上重要です。

例えば、「育児時間取得を希望する場合は○○部署に所定の届出用紙を提出すること」等のルールを設け、社員に周知しておくと良いでしょう。また、育児時間の取得にあたっては業務上の配慮と周囲の理解も欠かせません。上司や同僚にも勤務スケジュールを共有し、休憩のタイミングを調整するなど、職場全体でスムーズに受け入れる環境を作ることが大切です。

また、育児時間の使い方に制限を設けないこともポイントです。労働基準法第67条は育児時間の用途を限定していないため、使用者(会社側)は育児時間中に従業員が何をするか干渉できません​。授乳はもちろん、搾乳のための時間や保育所への送迎、一時的に子の様子を見るために帰宅するといった利用も可能です​。

現場の運用としては、従業員本人の申し出た希望の時間帯に育児時間を与えることが望ましく、もし業務の都合で難しい場合でも代替案を話し合うなど柔軟な対応を心掛ける必要があります。

育児時間の賃金

労働基準法第67条には、育児時間中の賃金支払いに関する規定が明示されていません。そのため、育児時間を取得した時間を有給(賃金支給あり)とするか無給(賃金控除)とするかは企業の裁量に委ねられています。法律上は無給として扱っても違法ではありません。

ただし、育児時間は労働時間内の一定時間を育児目的で確保する制度であり、これを取得するとその分労働提供が減るため、本来の賃金計算上は控除対象となるケースが多いです。

もっとも、企業が独自に有給の扱いとすることも可能であり、就業規則に「育児時間中も賃金を支払う」あるいは「育児時間手当を支給する」旨を定めれば、取得者の経済的負担を軽減できます。いずれの場合にせよ、育児時間中の賃金の取り扱いは賃金規程に明記しておくことが望ましいでしょう​。そうすることで労使間の認識違いを防ぎ、制度を円滑に運用できます。

労働基準法第67条における男性の育児時間

労働基準法第67条では、育児時間を求めることができるのは女性の労働者に限られており、男性の労働者にはこの法律に基づく育児時間の権利は認められていません。これは、本条の立法趣旨が授乳の時間確保にあり、生物学的に授乳を行うのは女性であることが理由です​。

したがって性別によって請求権の有無が区別されていますが、これは男性差別というより母性保護のための特別措置と位置付けられています。実際、労働基準法第3条・第4条(男女同権や差別禁止)との関係でも、第67条の女性限定規定は合理的根拠のある区別として違法ではないと解されています。

男性社員の育児時間に関する企業の対応

法律上は男性は育児時間を請求できないものの、近年では育児参加する父親を支援する観点から、社内制度として男性社員にも育児時間相当の休憩を認める企業も出てきています。

労働基準法は男性への育児時間付与を禁止しているわけではなく、就業規則や企業内制度で独自に男性にも育児時間を与えることは可能です​。

例えば就業規則に「生後○歳未満の子を養育する従業員(男女問わず)は1日1時間の育児時間を取得できる」等の定めを置けば、男性社員でも取得ができるようになります。

実際に男性社員へ制度を拡大する場合は、運用面での公平性(取得対象や時間数の条件など)にも留意し、職場の理解を得ながら制度設計を行うと良いでしょう。

育児休業制度(育児・介護休業法に基づくもの)など他の両立支援策とあわせ、男性の育児参加を促す取り組みは、企業のダイバーシティ推進にもつながります。

労働基準法第67条に違反した場合の罰則

使用者(会社)は労働基準法第67条に基づく育児時間の請求があった場合、これを拒否することはできません。万が一、正当な理由なく育児時間の付与を拒んだり、育児時間中に就労させたりした場合、同条違反となります。

労働基準法はこのような違反に対して罰則規定を設けており、第119条により6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります​。実際に刑事処分に至るケースは多くありませんが、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、企業のコンプライアンス違反として社会的信用を失ったりするリスクもあります。

なお、育児時間の取得を理由に不利益な取扱い(減給や降格、人事評価での不当な減点等)を行えば、労働基準法だけでなく男女雇用機会均等法や育児・介護休業法上の間接差別・不利益取扱いの問題にも発展しかねません。

過去の裁判例でも、育児時間などの権利行使を理由とした不利益措置は、公序良俗に反し無効と判断された例があります。

企業としては法令を順守するのはもちろん、育児時間を安心して取得できる企業風土づくりが重要です。

労働基準法第67条に関する判例

育児時間の取得について企業が違法な対応をした場合のトラブルもいくつか報告されています。

例えば、ある事例では育児時間の請求を行った女性社員に対し、直属の上司が「業務が忙しいので取得は困難だ」と事実上拒否する対応を取り、社員が労働基準監督署に相談したケースがあります。

監督署からの指導により企業側はただちに是正措置を行い、その社員に育児時間を与えたものの、結果的に職場に信頼関係の溝が生じてしまいました。このケースからも分かるように、請求があった育児時間を正当な理由なく認めないことは明確な法違反であり、早期に是正されることになります。

また過去の判例では、就業規則上で育児時間の制度を形骸化させるような規定(形式上は認めるが実質的に取得できない運用を誘導するような定め)が、公序良俗に反し無効と判断された例もあります。例えば、「業務に支障がある場合は育児時間を与えない」といった包括的な免除規定を設けていたケースで、裁判所は労働基準法67条や育児・介護休業法の趣旨に反するとしてその部分を無効としました。

一方、ポジティブな例としては、ある企業で育児時間の制度を導入後、育児中の社員の仕事継続率が向上し、離職防止に繋がったという報告もあります。

育児時間を適切に運用することで、社員は子育てと仕事を両立しやすくなり、企業にとっても貴重な人材の流出防止や士気向上といったメリットが期待できます。企業の人事・法務担当者は、違反事例だけでなく成功事例からも学びつつ、自社の制度運用に活かすことが重要です。

労働基準法第67条に関する厚生労働省の行政通達

労働基準法第67条に関しては、厚生労働省(旧労働省)からいくつか行政通達が発出されており、具体的な運用指針が示されています。

代表的なものとして、昭和36年1月9日付け基準局長通達(基収第8996号)があります。この通達では、育児時間の規定(1日2回各30分)は1日8時間労働を前提とした制度であることが明示され、1日の労働時間が4時間以内の場合には1日1回30分の育児時間付与で足りると解釈する旨が示されています​。これは、短時間労働者について現実的な運用を可能にするための柔軟な取り扱い指針です。

また、昭和25年7月22日付け基準局長通達(基収第2314号)では、育児時間の往復時間の考慮について触れられています。例えば、職場と託児所・保育施設が離れている場合、育児時間中にその往復移動が必要になることがあります。この通達によれば、往復の移動時間も含めて30分以上の育児時間を与えていれば法違反ではないとされています​。

しかし同時に、育児時間の立法趣旨に照らして実質的に育児に充てられる時間を確保することが望ましいとも述べられており​、企業には単に形式的に30分与えるだけでなく、可能な範囲で実際に授乳や育児に使えるだけの時間を確保する配慮が求められます。

例えば移動に片道10分かかる場合、合計30分では実質的な育児時間が10分程度しか残らないため、余裕をもって時間を認めるといった対応が望ましいでしょう。

さらに、厚生労働省の公表しているQ&Aやガイドラインでは、育児時間を2回に分けず1回にまとめて取得することも可能であることや、育児時間と他の育児支援制度(育児休業や短時間勤務制度等)との関係にも言及されています。

特に後者については、育児時間は授乳等の目的で設けられた制度であり、所定労働時間の短縮制度(短時間勤務)とは趣旨が異なるため、短時間勤務制度を利用している労働者であっても別途育児時間を請求できることが示されています。

以上のように、行政通達やガイドラインは労働基準法第67条の解釈や運用について補足的な指針を提供しています。企業の人事・労務担当者はこれらも踏まえて、自社の就業規則や運用ルールを整備すると良いでしょう。

労働基準法第67条に関する企業向けのガイドライン

厚生労働省や各労働局は、企業向けに育児時間制度の周知や適正な運用を促すためのガイドラインやパンフレットを提供しています。例えば、「働く女性の心とからだの応援サイト」や各都道府県労働局のQ&A資料には、育児時間の制度概要や留意事項が解説されています。

そうした資料では、企業が育児時間の取得を認める際の具体的な運用例(始業時や終業時に取得させるケース、業務の引き継ぎ方法等)や、他の休憩時間との区別、育児時間取得者への周囲の配慮などについて触れられています。また、育児時間は育児・介護休業法で定める育児休業や所定外労働免除等の制度とは異なる制度であるため、それぞれの制度の違いを理解するよう注意喚起もされています。

企業としては、これらガイドラインを参考にしながら、自社の実情に合った形で育児時間制度を導入・運用することが重要です。ガイドラインに沿った運用は労働基準監督署から見ても適切と判断されやすく、コンプライアンス上も安心です。万一、社内で対応に迷う場合は、所轄労働基準監督署や社会保険労務士、企業法務に詳しい弁護士等に相談して指導を仰ぐことも有効でしょう。

労働基準法第67条に関して企業が注意すべきポイント

労働基準法第67条(育児時間)を適切に運用するためには、企業の人事・法務担当者がいくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、企業側の注意点を詳しく解説します。

育児時間の請求があった場合は必ず付与する

労働基準法第67条では、生後満1歳に達しない子を育てる女性労働者が請求した場合、企業は育児時間を付与する義務があります。「業務の都合がつかない」「人手が不足している」といった理由で育児時間を拒否することはできません。

万が一、正当な理由なく育児時間を与えなかった場合、労働基準監督署の指導や是正勧告を受ける可能性があり、最悪の場合、労働基準法第119条に基づき6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるリスクもあります。

育児時間の取得を理由とする不利益取扱いは禁止

企業は、育児時間を取得した労働者に対して、不利益な取扱い(減給・降格・評価の引き下げ・解雇など)を行ってはならないとされています。労働基準法には直接的な不利益取扱い禁止規定はありませんが、育児時間の取得を理由に不利益な扱いをした場合、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の「間接差別」に該当する可能性があります。

過去の裁判例では、育児時間を取得した女性社員の人事評価を下げた企業に対し、裁判所が違法と判断したケースもあります。そのため、企業は公平な人事評価制度を整備し、育児時間取得者が不当な扱いを受けないように注意しなければなりません。

育児時間の取得手続きを明確化し、適切に運用する

労働基準法第67条には、育児時間の申請方法や取得のルールについての細かな規定はありません。しかし、企業内で適切に運用するためには、就業規則や社内ルールで申請手続きを明確にしておくことが望ましいです。また、搾乳室の設置、育児時間取得者のスケジュール管理、業務のフォロー体制の整備など、育児時間を取得しやすい環境づくりに努めることも大切です。

労働基準法第67条は働く母親のための重要な制度

労働基準法第67条(育児時間)は、働く母親のための重要な制度です。企業としては、この法律の趣旨を正しく理解し、女性社員が育児と仕事を両立できるよう適切に運用することが求められます。

請求があった場合には速やかに育児時間を認め、その間は業務に従事させないなど、法令遵守が必要です。また、育児時間中の賃金の扱いや男性社員への自主的な適用など、就業規則の整備や職場環境の向上を通じて、従業員が安心して育児と仕事を両立できる環境づくりを目指しましょう。

こうした取り組みは、従業員の定着率向上や企業イメージのアップにもつながるでしょう。


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