- 更新日 : 2025年3月19日
社宅のデメリットとメリットとは?制度を導入する手順も解説
社宅制度にはメリットがある一方で、コストの増大や管理業務の負担などデメリットが存在します。
本記事では、企業と従業員の視点から社宅制度のメリット・デメリットを解説するとともに、社宅制度を導入するための具体的な手順も紹介します。
社宅のデメリットを理解できると、自社にとって社宅制度が最適なのか判断できるようになるでしょう。
目次
社宅制度とは
社宅制度は、企業が従業員に住宅を貸し出す福利厚生の一環です。
内閣管轄の人事院が実施した「令和4年民間企業の勤務条件制度等調査」によると、社宅を導入している企業の割合は全体で41.6%です。従業員数500人以上の企業では72.1%に上り、大企業ほど積極的に導入していることがわかります。
また、社宅制度の主な目的は従業員の満足度向上です。たとえば、企業が住宅を比較的安く貸し出すと、従業員の経済的負担が軽減できます。急な転勤が発生した際にもスムーズに住まいを確保できるため、従業員は安心して業務に専念できるでしょう。
企業にとっても人材確保や定着率の向上につながるメリットが大きい制度です。
【企業】社宅制度のデメリット3つ
社宅制度は企業側にとって負担となる場合もあります。
以下では、企業側から見た社宅制度のデメリットを紹介します。デメリットを理解したうえで適切な対策を講じ、効果的な社宅運用をしましょう。
1. コストの負担が大きい
社宅の購入や賃貸にかかる費用、固定資産税などは、企業にとって大きな財務負担となります。
また、入居者が退去して次の入居者が決まるまでの間、企業が家賃負担をし続けなければなりません。そのため空室期間が長引くほど、運用コストが膨らみます。
コストの負担を軽減するには、社宅の借り上げ方式を採用し、初期投資を抑えながら法人契約のメリットが活かせる方法で、コスト削減を行うとよいでしょう。
2. 管理業務の負担が発生する
社宅制度を導入すると、入退去の手続きや家賃の徴収、設備トラブルへの対応など多くの業務が発生します。
とくに、管理業務は主に人事や総務担当者が担うため、業務負担が増え、本来の業務に支障をきたす恐れがあります。従業員数が多い企業では、管理の煩雑さが課題となりかねません。
負担が大きい場合は、社宅の手続きを専門に扱う担当者を配置するか、新たに管理業務を担う従業員を雇うなどの対応を検討するとよいでしょう。
3. 従業員間の不公平感が生まれやすい
社宅の立地や設備に違いがあると、従業員間の不公平感が生まれ、不満が出やすくなります。また、社宅に入れる人と入れない人の間で格差が生じるのも、問題になりかねません。
不公平感が生じる状況は、従業員のモチベーション低下や人間関係の悪化にもつながります。
不公平さを避けるには、社宅利用の基準や家賃補助額を明確にし、社宅に入れない従業員にも家賃補助などの代替制度を設けるなど、バランスを取るのが重要です。
【従業員】社宅制度のデメリット4つ
社宅制度は従業員の経済的負担を軽減する一方、デメリットも存在します。以下では、従業員側から見た社宅制度のデメリットを4つ紹介します。
1. プライベートが確保しにくい
社宅は、プライベートを確保しにくいのがデメリットです。
同じ建物に同僚や上司が居住するため、生活空間と業務空間の境界が曖昧になり、心身のリラックスができないと感じる人が少なくありません。
社宅に入居する以上やむを得ないことではありますが、同じ部署の同僚や上司と隣にならないように、可能な限り居室の配置計画を工夫するとよいでしょう。
2. 住居選択の自由がない
社宅制度では、住居選択の自由が制限されるのがデメリットです。
社宅は企業指定の立地や設備に限定されるため、従業員個々の生活環境や好みが十分に反映されにくくなります。
たとえば、希望するエリアや交通の利便性が合致しない場合、不満や生活の不便を感じるでしょう。
従業員の不満を軽減するには「物件で何を重視するか」ニーズを調査し、物件選定に反映させるとよいでしょう。
3. 同棲は認められない場合が多い
単身者向け社宅では、同棲は認められない場合が多いです。
パートナーや婚約者であっても、社宅使用契約書に同棲禁止が明記されている場合は、同棲が認められません。
一方、ファミリー向けの社宅の場合は従業員と家族を入居対象にしているため、同棲は認められる可能性が高いです。
入居条件を明確に定めたうえで入居希望者に説明をし、未然にトラブルを防ぎましょう。
4. 転勤時の住居変更が強制される
転勤時に社宅から住居変更を強制されるのは、従業員にとって大きな負担です。転勤に伴い、従業員は社宅を退去しなければならず、短期間での引越しを余儀なくされるケースは少なくありません。
急な引越しの場合は、子どもの学校や配偶者の職場にも影響を及ぼします。
退去までの猶予期間を設定したり、転勤時には引越し補助を支給したりなどの配慮をし、従業員本人と家族の負担軽減につなげましょう。
【企業】社宅制度のメリット5つ
社宅制度は、企業に多くのメリットをもたらします。以下では、企業側から見た社宅制度のメリットを5つ紹介します。
1. 従業員の生産性が向上する
社宅制度を導入する最大のメリットは、従業員の生産性向上です。家賃は生活費のなかで大きな割合を占めており、社宅に住むと経済的負担が軽減できます。
また、経済的な余裕が生まれると、自由に使えるお金が増え、従業員の満足度が向上します。
満足感がモチベーションを維持する要因となり、業務に前向きに取り組む意欲が湧き、業務効率や生産性の向上につながるでしょう。
2. 従業員の定着率向上・人材確保に役立つ
社宅制度は、従業員の定着率向上や人材確保に寄与します。とくに若手社員や地方から上京した社員にとって、生活費は大きな負担になりかねません。
社宅を提供すると、経済的負担が軽減でき、安心して働き続ける環境が整います。
安心な環境は離職を防ぎ、企業にとって貴重な人材を確保する手段となります。経済的なサポートを通じて、企業に対する信頼感も高まるでしょう。
3. 企業イメージの向上につながる
社宅制度を導入するのは、企業のイメージ向上につながります。社宅制度は従業員の経済的負担を軽減するため、働きやすい環境を整えているアピールができるでしょう。
また、福利厚生に力を入れている企業は、外部からの評価が高く、求職者に対して企業の魅力を伝える手段として有効です。
社員が安心して働ける環境を提供する企業の姿勢は、社会的な信頼を高めるだけでなく、企業イメージの向上にも大きく貢献します。
4. 節税効果がある
社宅制度は、節税効果があります。企業が従業員の家賃を一部負担するかたちで社宅を貸し出す場合、全額を損金として算入可能です。
結果、法人税の課税対象額が減少し、税負担が軽くなります。
社宅制度を上手に運用すると、企業はコスト削減と税負担の軽減を同時に実現できるため、効果的な施策といえるでしょう。
5. 緊急時の対応がしやすい
社宅を導入すると、緊急時の対応が迅速に行えるようになります。災害時やその他の緊急事態では、従業員の安否確認が必要です。
社宅制度を通じて従業員の住環境を把握しておくと、迅速にサポートができ、企業としての危機管理が強化できるでしょう。
また、従業員が不安な状況でも、企業が迅速に対応する姿勢を見せられるため、企業への信頼度が高まるメリットがあります。
【従業員】社宅制度のメリット5つ
社宅制度は従業員にも、多くのメリットをもたらします。以下では、従業員側から見た社宅制度のメリットを5つ紹介します。
1. 経済的な負担が軽減する
社宅制度の最大のメリットは、従業員の経済的負担が軽減される点です。
一方社宅の場合は、安い家賃で住めるため、生活費を抑えて自由に使えるお金が増えます。また、企業側が敷金や礼金、仲介手数料を負担する場合も少なくありません。
企業側が初期費用を負担すると、従業員の引越しに伴う経済的負担が軽減でき、満足度が高まるでしょう。
2. 物件探しや手続きの手間がかからない
社宅を利用すると、従業員は物件探しや手続きにかかる手間がかかりません。
通常、物件を探す際には周辺環境を調査したり、不動産業者とのやり取りが必要です。しかし、社宅制度では企業が提供する物件に住むため、従業員が物件選びや契約手続きをする必要がありません。
また、転勤が発生した場合でも社宅が空いていれば、迅速に入居手続きを進められます。急な転勤でも住まいの心配をせずに済むため、従業員満足度の向上に期待できるでしょう。
3. 節税につながる
社宅制度は節税効果が期待できます。
一般的に社宅使用料は給与から控除されるため、住宅手当を受け取る場合と比較すると、従業員の総支給額は少なく、税金や社会保険料の負担が軽減されます。従業員は実質的な手取り額が増え、経済的な余裕を持てるようになるでしょう。
企業にとっても社宅を提供すると従業員の負担を軽減、かつ満足度が高められるため、福利厚生の一環として有効な制度です。
税制面でのメリットを活用すれば、従業員の生活の質を向上させるとともに、企業の社会的責任も果たせるでしょう。
4. 従業員同士の交流が増え、相談しやすい環境になる
社宅制度はプライベートが確保しづらい一方で、従業員同士の交流が増え、相談しやすい環境になるメリットもあります。
新卒社員や地方から転勤してきた社員にとっては、同じ会社の仲間が近くに住んでいるのは安心材料です。新しい環境での生活が始まるなかで、職場での悩みや生活に関する相談がしやすくなります。
業務外でのリラックスした会話で、仕事の相談や情報交換ができるため、職場内での人間関係の円滑化が期待できます。社員同士の絆が強化され、職場のチームワーク向上にもつながるでしょう。
5. 会社の近くに住めるため、通勤が便利
多くの企業が社宅を会社の近くに設置しているため、従業員は通勤時間の短縮が可能です。
通勤時間が短縮されると、プライベートの時間をより多く確保でき、心身の疲労回復につながります。
また、朝の出勤時や帰宅時に感じる満員電車のストレスも少なく、心身の負担が軽減できるでしょう。
通勤が便利で快適になると、従業員の働きやすさを高め、企業への満足度が向上する可能性があります。
社宅を導入する手順
社宅を導入するには、計画的な準備と適切な手順が欠かせません。以下では、社宅を導入する手順を紹介します。
社宅制度の方針を決める
社宅制度を導入する際は、方針を決めましょう。社宅制度の方針が曖昧だと、入居条件や費用負担の基準が不明確になります。
従業員間の不公平感が生じ、運用トラブルや管理負担の増加にもつながりかねません。
たとえば、単身者の住居支援を目的とする場合は「社有住宅」、初期投資を抑えつつ柔軟な運用をしたい場合は「借り上げ社宅」を選ぶのが適しています。社宅制度の方針を明確にすると、後の運用がスムーズになるでしょう。
社宅制度のルールを決め、運用体制を整える
社宅制度のルールを決め、運用体制を整えます。入居条件や家賃負担割合、退去時の規定など、具体的なルールを定めるのが重要です。
社内使用契約書を作成し、トラブルが発生した際の対応策を整備しましょう。
また、社宅の管理業務の担当者を任命し、スムーズな運営体制を構築するのも大切です。
運用体制が整うと、法的なリスクを回避できるでしょう。
関連記事:社宅使用契約書とは?雛形をもとに内容や注意点を解説
社宅物件の選定と契約を行う
社宅の方針と運用ルールが決まったら、社宅物件を選定し、契約を行います。物件を選ぶ際には立地やコスト、管理のしやすさなど、複数の要素を考慮するのが大切です。
たとえば会社からの距離を確認したり、購入と賃貸のどちらが最適かを検討したりなど、企業側と従業員側双方の視点で選定しましょう。
社宅物件の選定と契約は慎重に進めると、従業員の満足度向上や企業の負担軽減につながります。
従業員への周知と入居手続きを行う
従業員へ社宅制度の詳細を公表し、希望者を募集・選定したうえで入居手続きを進めます。
従業員が社宅を利用する際の条件や申し込み方法を明確にし、全員に公平な機会が与えられるよう配慮しましょう。
入居者が決まったら、契約内容を十分に説明し、手続きをスムーズに進めるのが重要です。また、社宅生活を快適に送るためのルールやサポート体制についても事前に案内し、安心して利用できる環境を整えましょう。
社宅のメリットとデメリットを理解したうえで、導入を検討しましょう
社宅のデメリットとメリットを解説し、制度を導入する手順を説明しました。
企業側も従業員側も多少のデメリットはあるものの、経済的負担の軽減や従業員の人材確保、節税効果などメリットは多く存在します。
従業員の満足度を向上させ、自社の生産性を上げたいと考える企業は、社宅制度の導入を検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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