- 更新日 : 2025年2月21日
就業規則見直しの適切なタイミングは?法改正の最新情報と押さえるべきポイントも解説
社会環境の変化や、労働環境を取り巻く近年の法改正にともない、就業規則の見直しを迫られている経営者や人事担当者の方も多いでしょう。
就業規則の見直しは大変ですが、従業員が長く安心して働くために欠かせない取り組みです。
この記事では就業規則を見直すタイミングや、具体的な見直しのポイントを解説していきます。
目次
就業規則見直しの4つのタイミング
就業規則を見直す4つのタイミングについて解説します。
①就業規則と実態が乖離している場合
1つ目は、企業の成長や業務内容の変化にともない、就業規則が実態と乖離しているときです。
たとえば、従業員が増えたり新しく事業を始めた結果、当初作成した就業規則では現状に対応しきれない場合があります。
▼既存の就業規則で対応できなくなる例と対策
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また、現場の従業員から就業規則に対して改善の声があった場合も見直しの良いタイミングになります。
②就業規則が社会情勢の変化に対応できていない場合
就業規則が現在の社会情勢や、労働環境の変化に対応できていない場合も見直しを検討しましょう。
たとえば、近年では働き方の多様化により、下記のような見直しがされています。
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このように現状に合った就業規則へ改定することで、従業員が満足して働ける環境が整います。
反対に就業規則の見直しができないままでは現代の働き方に対応できず、従業員のモチベーションが低下していくおそれもあるでしょう。
③働き方に関する法改正があった場合
働き方に関する法改正があった場合、現行の就業規則が新しい法律に適合しなくなる場合があります。
たとえば、最低賃金の改定や、育児・介護休業法の改正による休暇制度の見直しなどです。
法改正による就業規則の見直しの機会は頻繁にあり、近年では正社員と非正規社員の間の待遇の格差を埋める目的で「同一労働・同一賃金」が施行されました。
この制度は大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月からそれぞれ適用されています。
さらに、働き方改革が推し進められた結果、2025年2月現在では、労働基準法の最長48日間の連続勤務に関するルールの見直しも行われています。
就業規則へ迅速に反映させるためにも、労務に関する法改正の情報を日頃から確認しておきましょう。
参考:“14日以上の連続勤務禁止” 労働基準法改正へ 報告書まとまる | NHK
④労働基準監督署から是正勧告を受けた場合
労働基準監督署から是正勧告を受けた場合も、就業規則の見直しが必要です。
労働基準監督署による臨検調査の結果、下記のように就業規則に関する不備が見つかる場合があります。
就業規則の不備の例
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※常時従業員10人以上の事業者は就業規則の作成が義務
労働基準監督署からの是正勧告に従わなかった場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金を科されるおそれもあります。
就業規則の見直し方がわからない場合は、社労士に相談するなどして早急に対応しましょう。
就業規則見直しのポイント一覧!近年の法改正とは
この章では、就業規則見直しのポイントを解説します。
近年では働き方改革の影響もあり労働環境に関する数多くの法改正が行われているため、見直すべき点が多くあります。
ハラスメント対策を見直す
職場におけるハラスメント防止は重要な課題であり、対策を講じていない場合見直しが必要です。
2020年6月から大企業を対象にパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が義務化されましたが、2022年4月からは中小企業も対象となりました。
厚生労働省が定めた事業主が講じなければならない措置を踏まえたうえで、下記のような事項を就業規則へ記載しましょう。
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参考:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!│厚生労働省(P19)
ハラスメントへの対策は事業主の義務であると共に、従業員が安心して働ける職場づくりには欠かせない取り組みです。
割増賃金率の引き上げを見直す
次に見直しが必要なポイントは、割増賃金率の引き上げについてです。
過度な長時間労働を抑制するため、2023年4月から「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率」が引き上げられました。
2023年3月31日までは大企業が50%、中小企業が25%でしたが、猶予期間の経過によって、大企業・中小企業問わず割増率は一律で50%になっています。
そのため、割増賃金率の引き上げにまだ対応できていない企業は、就業規則の見直しの必要があります。
対応としては、就業規則における時間外労働の割増賃金率の項目を確認し、月60時間を超える労働に関しては割増賃金率を50%とすることです。
また、長時間の残業が常態化しているなど、必要があれば時間外労働の上限に関しても併せて見直しを行うとよいでしょう。
同一労働・同一賃金への対応を見直す
先ほどご説明した「同一労働・同一賃金」についてです。
「同一労働・同一賃金」は職務内容が同じであれば、正社員や非正規社員を問わず、同じ賃金を支払い同じ福利厚生を設けるべきという制度です。
正社員と非正規社員など雇用形態の違いによる待遇の格差をなくすことを目的に、2020年4月から大企業を対象に施行されました。
2021年4月からは中小企業も対象とされています。
待遇差の代表的な例としては、正社員と非正規社員が同じ仕事をしているのに、賃金や福利厚生に差があるというような場合です。
企業としては、正社員や非正規社員、アルバイトなどの間で賃金や各種福利厚生に差がないか緻密に確認し、必要に応じて待遇差を埋めるための対応が必要になります。
また、もし待遇差があっても、その差が合理的な理由に基づいており、企業がその理由を説明できるのであれば問題はないとされています。
合理的な待遇差の例
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一方で不合理な待遇差であれば、格差解消のために就業規則を点検し見直していかなければなりません。
育児・介護休業法への対応を見直す
育児・介護休業法は、男女問わず仕事と育児・介護の両立を支援する目的で、2021年からほぼ毎年のように改正が続いています。
改正の内容や見直すべき就業規則が膨大であるため、この章では2025年度4月に行われる改正内容の一部を紹介します。
改正内容(2025年4月) | 概要 |
---|---|
子の看護休暇の取得事由の拡大 | 「感染症等にともなう学級閉鎖」や「入園(入学)式・卒園式」など、取得事由を追加 |
所定外労働の制限対象の拡大 | 3歳以上小学校就学前の子を持つ労働者も対象にし長時間労働を抑制 |
育児休業取得状況の公表義務の拡大 | 従業員数300人超の企業に育児休業等の取得状況の公表義務を課す |
育児のためのテレワーク導入の努力義務化 | 3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務を課す |
介護離職防止のための措置の義務化 | 介護休業等に関する情報提供や研修の実施を義務化 |
また、2025年度では10月1日にも改正が行われる見込みです。
度重なる改正への対応は大変ですが、ライフイベントに関連する就業規則を柔軟に設定すれば、従業員が家庭と仕事を両立しやすくなります。
結果的に職場環境への満足度も上がり、従業員がより良いパフォーマンスを発揮することにもつながるでしょう。
厚生労働省が提供する下記の規定例を参考に、見直しを進めていきましょう。
勤務に関する各制度を見直す
最後に、勤務に関する各制度の見直しです。
終身雇用が失われつつある中、コロナ禍をきっかけとした社会環境の変化などもあり、勤務体系に関しても多様化が進んでいます。
こちらもさまざまな法改正が行われているため、見直しのポイントを簡単に紹介します。
勤務体系や勤務時間に関する見直しのポイント
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従業員が仕事と生活をより良く両立できるようになれば、業務の生産性も上がります。
従業員がどのような働き方を望んでいるのか積極的に意見を伺い、就業規則へ反映させていきましょう。
就業規則の変更の流れ
この章では、就業規則の変更の流れを簡単に解説していきます。
①変更内容を検討・決定する
就業規則を変更する際は、まず現行の就業規則を評価しなければなりません。
現在の就業規則を1から見直し、法改正への対応の必要性を検討しましょう。
見直しの必要がある場合は、変更案を作成します。
②決裁を受ける
変更案を正式に承認してもらうため、代表取締役社長や取締役会に変更後の就業規則を説明し決済を受けます。
③労働者の意見を聴取する
就業規則の変更内容について、労働者側の意見を聴取する義務があります。
労働組合が存在する場合は、組合の意見を聞きましょう。
組合がない場合は労働者の過半数を代表する人物から意見を受け、変更内容をすり合わせます。
④意見書を作成する
就業規則の変更内容についての労働者の意見を「意見書」としてまとめます。
⑤変更届を提出する
変更後の就業規則、労働者の意見書、そして就業規則変更届を所轄の労働基準監督署長に提出します。
変更に必要な書類は、持ち込み・郵送・電子申請で提出可能です。
⑥社内へ周知する
就業規則は社内への周知が義務付けられています。
事業所内に掲示したり、社内共有フォルダへデータを置くなどして、すべての従業員へ新しい就業規則を周知しましょう。
変更された就業規則は、社内への周知によって有効となります。
就業規則の見直し・変更の流れは、上記のようになります。
詳しい注意点などは、関連記事で解説していますので変更の際はご確認ください。
関連記事:「就業規則の変更の仕方 – 手続きの流れと注意点」
また、就業規則変更届と意見書について様式の指定はありませんが、厚生労働省がフォーマットを配布しています。
自社で作成する手間が省けますので、こちらを使ってもよいでしょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
社労士に就業規則の作成代行を頼むときの注意点
この章では、社労士に就業規則の作成を代行してもらうときの注意点を解説します。
就業規則の見直しを自社内で完結しようとすると、正確性の担保が難しく工数もかさんでしまう場合があります。
社労士など外部パートナーの力を借りることも検討してみてください。
実績は十分あるか
まず確認したいのは、社労士の実績です。
就業記録の作成・変更の経験や、その他社労士としての実績が豊富な社労士に依頼すると安心です。
また、社労士と言っても、得意な業界はそれぞれ異なります。
就業規則に記載する内容も業界によって変わってくるため、自社の業界に関連する実績を持っているとよいでしょう。
料金は適正か
次に代行料金が適正価格であるかどうかを確認しましょう。
就業規則作成代行の相場は見直しの内容やオプションなどで大きく変動するものの、一般的には10万~30万円程度です。
複数の社労士に相見積もりを取るなどして、適正な料金で対応してくれる社労士を選びましょう。
コミュニケーションが取りやすく信頼できるか
コミュニケーションが取りやすいか、人として信頼できるかというのも、社労士を選ぶうえで大切な要素です。
いくら能力が高い社労士でも、コミュニケーションに不備があるようでは仕事が進めにくくなってしまいます。
場合によっては、希望とまったく違う就業規則を作成されてしまうおそれもあるでしょう。
コミュニケーション能力が高く人柄も信頼できる社労士であれば、就業規則に関して自社の要望を理解したうえで、良い提案もしてくれる可能性もあります
安心して依頼を進めるためにも、信頼できる社労士を選びましょう。
就業規則は定期的に見直そう
就業規則は働きやすい職場づくりや、法改正への対応義務として定期的に見直しが必要になります。
経営者や人事担当者にとっては非常に手間がかかる仕事ですが、企業のさらなるステップアップのためには、必要な過程です。
定期的に就業規則を見直し、従業員がモチベーション高く働ける環境を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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