- 更新日 : 2025年3月4日
部署異動とは?スムーズな進め方や伝え方のポイントを解説
部署異動は、組織の活性化や人材の育成において重要な役割を果たす人事戦略の一つです。新しい環境での経験を通じて、従業員の能力を引き出し、企業の成長を促進するためには、異動の進め方や伝え方が大切です。本記事では、部署異動を成功させるためのポイントやスムーズに進めるための流れを解説します。
目次
部署異動とは
部署異動は、組織の活性化や人材育成、事業戦略の推進など、さまざまな目的で実施されます。ここでは、部署異動の具体的な目的と、検討すべきタイミングについて解説します。
目的
部署異動の主な目的は、以下のとおりです。
- 事業戦略の推進
- 業務効率化と組織活性化
- 人材育成とキャリア開発
- 不正防止とリスク管理
それぞれについて、見ていきましょう。
事業戦略の推進
部署異動は、企業が事業戦略を推進するために行われる施策です。新規事業の立ち上げや組織の再編に伴い、適切な知識やスキルのある人材を既存の部署から選出し、新たな役割への配置により、効率的な目標達成を目指します。
部署異動では、挑戦をいとわず経験豊富な人材が求められる場合も多く、適任者の選定が重要なポイントといえます。
業務効率化と組織活性化
部署異動は、業務効率化と組織活性化を促進する有効な手段です。従業員のスキルや適性に応じた部署への異動は、個々の能力を大いに引き出すとともに、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
さらに、部署間の交流を活発化させることで、知識やノウハウの共有が円滑に進み、新たな発想やイノベーションが生まれる可能性も高まるでしょう。
また、部署の固定化によるマンネリ化を防ぎ、組織の新陳代謝を促すことで、従業員のモチベーション向上と組織全体の活性化にもつながります。
人材育成とキャリア開発
人材育成とキャリア開発を目的とした部署異動は、従業員のスキルアップや幹部候補の育成に効果的です。新たな業務経験により、柔軟性のある人材を育成できます。
さらに、経験豊富な社員を育成担当に据えることで、チーム全体のスキル向上も期待できます。こうした部署異動の活用により、多様な業務に対応できる人材を育成する基盤が整うでしょう。
不正防止とリスク管理
部署異動の目的の一つに、不正防止とリスク管理があります。同じ担当者が、長期間にわたり同一業務を担当すると、ミスの隠蔽や横領といった不正が発生しやすくなります。
業務に流動性を持たせるための部署異動により、不正のリスクを抑える効果が期待できるでしょう。さらに、欠員発生時の迅速な対応を可能にするなど、組織運営の柔軟性を高める効果もあります。
検討すべきタイミング
人事異動を検討するうえで、適切なタイミングを見極めることは重要です。ここでは、人事異動に適した時期と、一般的な異動の周期について解説します。
人事異動に適したタイミング
多くの企業では、決算月や半期決算月に人事異動を実施する傾向が見られます。決算月は事業戦略を再検討する時期であり、組織再編の必要性が生じやすいためです。
新しい事業の開始や業務拡大の際には、人員配置の見直しが求められます。次年度の目標達成に向けた動き出しとして、決算月に人事異動を行うことは合理的といえるでしょう。
人事異動の周期は3〜5年が多い
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業における転勤の実態に関する調査」によれば、3年周期が最も多く、次に5年周期が多いとされています。
この3〜5年の周期は、ジョブローテーションの一環として、多様な経験を通じた人材育成に適している期間といえるでしょう。一部の企業では、若手社員の育成を目的に1年未満の短い周期で実施されることもあります。
参考:企業の転勤の実態に関する調査|独立行政法人労働政策研究・研修機構
部署異動を行うメリット・注意点
企業が部署異動を行うのには、さまざまな理由があります。企業と従業員双方にとってプラスとなるよう、部署異動のメリットと注意点を把握しておきましょう。
メリット
部署異動のメリットは多岐にわたります。企業にとっては、適材適所の人材配置が可能となり、組織の活性化と新たな視点や発想の創出につながります。
従業員個人にとっては、多様なスキルの習得やキャリアアップの機会となり、異なる部署での経験を通じて視野を広げられるでしょう。また、業務の属人化を防ぎ、組織全体のリスク管理にも役立ちます。
注意点
部署異動を実施する際には、いくつかの注意点があります。まず、従業員のモチベーションや生産性が一時的に低下する可能性があります。新しい環境への適応には時間がかかるため、十分なサポート体制が必要です。
また、異動の意図や目的を明確に伝えない場合には、従業員の不安や不満を招く恐れがあります。さらに、個人の希望や適性を無視した異動は、ミスマッチや退職リスクを高めるおそれもあります。そのため、異動後も従業員の状況を定期的に確認し、必要に応じたフォローアップが必要となるでしょう。
部署異動を進める流れ
部署異動を円滑に進めるための流れは、以下のとおりです。
1.組織の現状把握とニーズ分析
まず、組織の現状把握が重要です。各部署責任者へのヒアリングでニーズや問題点を把握します。次に、現場の社員などからも情報収集し、多角的な視点を得ましょう。
次に、異動ニーズを整理します。受け入れ部署で、異動の目的や対象職務、求める人物像を明確にします。目的は、増員や課題解決などさまざまです。対象職務や求める人物像は、採用・評価・育成の観点からも整理するとよいでしょう。
2.異動計画の立案
組織目標達成に必要な人材の能力や人数を管理するため、計画は不可欠です。計画立案にあたっては、経営層と連携し、組織の経営戦略と連動させる必要があります。
従業員のスキル・経験・適性・キャリア志向などのデータを集め、分析しリスト化します。データ収集を怠ると、適切な人材配置ができません。収集データにもとづき、人事異動計画を策定しましょう。
3.異動候補者の選定
人事異動の候補者選定は、計画にもとづき行いましょう。異動は、会社からの打診と本人の希望による場合があります。
会社からの打診では、なぜその人が適任なのかについて期待を込めて説明します。本人の希望の場合は、異動理由やキャリアプランを確認しましょう。
候補者の選定後、異動後の組織全体のバランスを考慮し、問題が予想される場合には、候補者の再検討が必要です。
4.関係者との調整
会社からの打診では、まず異動候補者の上長や部門長に異動の意図や必要性を明確に伝え、協力を得ることが重要です。本人の希望にもとづく場合は、希望を把握したうえで、異動先候補となる部門やチームの責任者と協議を進めます。
一方の受け入れ部門では、判断材料として面接や試験を実施する場合があります。受け入れ判断は採用と同様のため、選考基準がある場合には、比較的容易に進められるでしょう。
5.内示と辞令
人事異動では、まず「内示」で異動の意思を非公式に伝えましょう。内示は異動を事前に知らせるものであり、「辞令」は異動を正式に通知するものです。
内示は口頭の場合が多いものの、内示書を使うこともあります。その後、準備期間を設け、正式な辞令を交付します。
内示から辞令までの期間は、業務の引き継ぎや転居準備に必要な時間を考慮し、余裕をもって設定しましょう。
6.引き継ぎとオンボーディング(定着・戦力化の促進)
引き継ぎとオンボーディングでは、まず異動元で業務内容や進行中の案件を明確にし、新担当者への円滑な引き継ぎをします。
その後、異動先部門では、受け入れ計画を立て、必要に応じてメンターを選任しましょう。また、異動前後のマネージャー間で評価や目標の共有を進め、情報の連携を図ります。
オンボーディングでは異動者が新環境に迅速に適応できるよう支援体制を整え、早期の定着と戦力化を目指します。
7.フォローアップ
フォローアップは、異動者が環境に適応し業務を円滑に進めるために重要です。定期的な面談や研修を実施することで、不安やストレスを軽減し、モチベーションの維持が期待できます。
また、節目ごとにアンケートやインタビューを行い、業務上の課題や改善点を把握すると効果的です。
さらに、チームビルディング活動(組織のパフォーマンス向上を図るための活動)や、歓迎会などを通じた新しいメンバーとの関係構築の支援により、職場での定着と活躍を促すようにします。
部署異動を拒否・希望された場合の対応
従業員からの異動拒否や希望への対応は、適切に行わなければなりません。相互理解を深め、納得を得ることでスムーズな異動を目指しましょう。
拒否された場合
まず、従業員が拒否する理由を把握しましょう。正当な理由(介護や病気治療など、やむを得ない事情)がある場合、異動を強行すると違法になる可能性があります。
次に、就業規則や雇用契約書などに問題がないかの確認です。人事異動は契約条件の範囲内で行う必要があり、範囲を超える場合は訴訟リスクがあります。
正当な理由がない場合は、異動の必要性を説明します。従業員自身へのメリットを伝え、納得を得るよう努めましょう。
それでも拒否する場合は、昇給や昇格、解雇などの検討も必要です。ただし、解雇は最終手段であり、慎重に対応する必要があります。専門家への相談も、視野に入れるべきでしょう。
希望された場合
社員から部署異動の希望があった場合、企業として必ずしも応じる義務はありません。しかし、希望が通らないと判断されれば、社員が転職してしまう可能性もでてくるでしょう。
異動希望の理由が、現在の部署の問題にある場合には、会社として適切な対応が求められます。ハラスメントが原因であれば、事実確認を行い、関係者への措置と再発防止策を講じる必要があります。
部署異動を行う時の伝え方のポイント
部署異動を円滑に進めるには、適切な伝え方が重要です。本人への説明や異動先への連絡など、各段階で配慮すべきポイントがあります。以下で、見ていきましょう。
本人へ伝えるポイント
配置転換を知らせる際には、配置転換の意図が前向きなものであることをしっかりと伝えることが大切です。そして、個人と会社の双方にとってメリットがある点を説明しましょう。
次に、配置転換を行う理由や背景を具体的に説明する必要があります。企業の方針や目標、業務上の必要性などをわかりやすく示すことで理解を促しましょう。
さらに、新たな役割やポジションにおいて期待する内容を伝えることで、従業員の納得を得やすくなります。
異動先の従業員や関係部署へ伝えるポイント
異動の挨拶は、まず正式な辞令後に行います。伝える相手は、現部署、異動先、取引先です。手段は対面、電話、メールですが、可能な限り対面が望ましいでしょう。
メールの場合は、個別送信を心がけ、内容は感謝と今後の抱負を述べます。ネガティブな言葉は避け、前向きな姿勢を示します。
異動は、新たな関係を築く機会でもあるため、丁寧な挨拶で円滑なスタートを切れるように心がけることが大切です。
部署異動の対象になる従業員の選び方
部署異動の対象者を選定する際は、人材の最適配置と組織の活性化を目的とすることが重要です。まず、優秀な人材については、キャリア形成を支援するために異動を通じて、幅広い経験を積ませます。次に、現職に適性が見られない従業員には、新たな職種への異動の検討が必要となるでしょう。
若手社員には、ジョブローテーション制度(スキル向上や能力開発を図るため戦略的に部署や業務の異動を行い、成長を促す制度)を活用し、成長を促す目的で異動を実施します。一方で、問題行動が見られる従業員に関しては、組織の秩序を保つ観点から、配置転換を検討する必要があります。
適切な部署異動で、組織全体のパフォーマンスを高めよう
部署異動は企業の成長や組織の活性化に重要な役割を果たしますが、その進め方には慎重な計画と従業員への配慮が必要です。異動を円滑に進めるには、正確な現状把握とニーズ分析、関係者との調整が欠かせません。
従業員が新しい環境に適応できるようサポートし、フォローアップを徹底することも大切です。部署異動を効果的に活用することで、組織全体の活力が向上します。適切なタイミングと綿密な計画で、部署異動を円滑的に進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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