「管理しない経営」は本当に成り立つ?アトラエに聞く「ホラクラシー型組織」のススメ

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階級や役職が存在しないフラットな組織形態のことを言う「ホラクラシー型組織」。新しい組織の形として注目を集めていますが、企業に実際に導入するとどう機能するのでしょうか?

今回は、ホラクラシー型組織をいち早く実践してきた株式会社アトラエに、ホラクラシー型組織の実態、メリット・デメリット、導入の際の注意点などをお聞きしました。

「社長もただの“役割”のひとつ」役職がない組織の仕事

【プロフィール】梅村 芳延(うめむら よしのぶ)
1984年生まれ。2006年に株式会社アトラエでのインターンを経て2007年に入社。
2014年から取締役CFOに就任。IPO(新規公開株)推進を担い、2016年に達成。2018年12月に取締役CFOを退任し、現在はプロジェクトチームの一員として組織をサポートする。

――まず、御社の事業内容と社内の雰囲気を教えてください。

テクノロジーによって人の可能性を拡げるPeople Tech領域を中心に事業を展開しています。現在は、成功報酬型の求人メディア「Green」、ビジネスパーソン向けのマッチングアプリ「yenta」、組織改善プラットフォーム「wevox」の3つのサービスを運営しています。

社員の規模は約50名、平均年齢は29歳。とても自由な雰囲気の会社だと思います。例えば、出社時間は自由で、現在はコアタイムもなくして社員それぞれが成果を出しやすい時間帯にコミットしてもらうようにしています。

そして、当社には「役職」がありません。ここが、組織形態としてアトラエの最も特徴的な点かもしれません。

――「役職」がないとは、具体的にどういうことですか?

会社組織は一般的に部門や課があり、それぞれに「長」がいて……と、ピラミッド型に成り立っているケースが多いと思います。ですが、当社は役員が数名いる以外、役職がないんです。

仕事はプロジェクトごとにチームを組んで進めています。各プロジェクトチームにはプロジェクトリーダーがいますが、それもただプロジェクトリーダーという「役割」があるだけ。それぞれのチームのやりたい内容によって、誰が進行役を務めるかはチームに任せています。「この人はこの領域が得意だから〇〇をやらせよう!」と上から指定する発想ではなく、時と場合によって役割を変動する仕組みです。

役員の他に役職がないと言いましたが、役員というポジションもただの「役割」。極端ですが、「代表取締役社長」ですら役割でしかありません。実際に現在稼働しているあるプロジェクトでは、インターン生がプロジェクトリーダーを担い、そのメンバーに社長がついています。インターン生の指示の元、社長が日帰り出張に行くこともありますよ。

会社の長期的な目標について誰よりも考えるという役割の社長であっても、他のプロジェクトではメンバーの一人として貢献する場合もあるように、その時々で立場を変えているんです。

役職があるから言い訳をする。フラットな組織にした理由

――なぜ、そのような組織形態にしようと思ったのでしょうか?

もともと代表の新居佳英が、一般的な会社の枠組みに違和感を抱いていたのが大きな理由です。スポーツや芸術の領域では、みんな使命感や自分の仕事の価値を感じながら熱中をしているのに、どうしてビジネスの領域では、会社の悪口を言ったり、ぼんやり暗い顔をしながら通勤する人が多いのだろう、と。

そういった違和感をなくし、意欲ある人が無駄なストレスなくいきいきと働ける理想の組織をつくろうと起業したのがアトラエです。

新居の考える無駄なストレスの一つが「出世や役職」です。「出世や役職」のような枠組みがあると、出世争いや社内派閥が生まれ人間関係もギクシャクするかもしれませんし、「私の役職は〇〇だから」というようにできないことの言い訳にしてしまうかもしれません。

ビジネスにおいてもスポーツや芸術の領域の方々と同じように、一人ひとりが自ら思考し、目標に向かって努力し続けるべきです。そのときに、会社の中だけの枠組みやルールに基づいて働いていると、その人自身も組織も成長しづらく、世の中に大きな影響を与えることができないと考えました。だから、成果だけにコミットでき、組織が窮屈にならないように「出世や役職」という枠組みを取っ払ったんです。

私がインターンでアトラエに入社したのは、設立から3年後の2006年。その当時から新居は「意欲ある人がいきいきと働けるようにしたい」と言っていました。

もちろん当時は「ホラクラシー」なんて言葉はありません。どこかにあるモデルではなく、アトラエオリジナルの理想の組織として、リーダーをその都度立てながら流動的に微調整を続け、出世や役職のないフラットな組織を保っています。

――フラットな文化を社内に根付かせるために、意識したことはありますか?

入社する前の意識のすり合わせ(エントリーマネジメント)が大前提ではありますが、入社以降は組織を考えるきっかけになるコミュニケーション作りを意識しましたね。

例えば、情報のオープン化。売上をはじめ会社の数字は全社員に公開しています。全員が経営者視点で数字を把握し、ビジネスにおける諸々の判断を現場メンバーでもできるようにするのが狙いです。流れの速いIT業界では、社員自らが意思決定をしなければならない場面がたくさんあります。各々が自分で判断してすぐに行動できるように、自走できる土壌を作っています。

また、少人数の頃は誰とでもコミュニケーションがとりやすいですが、社員数が増えてくると一人ひとりとのコミュニケーションが減ってきますよね。組織が成長していくにつれてコミュニケーション量が少なくなることで、創業時から大切にしていたビジョンや熱量が組織全体にうまく伝わらないのではないかと危惧していました。

そこで、組織が大きくなる前に、いかに自分たちの言葉でビジョンやマインドを伝えていくかを考え、少しずつ準備してきました。

例えば、毎月末の金曜日に行っている「ATPF(アトラエ的プレミアムフライデー)」という取り組みがあります。午後4時に全社員が業務を止めて、組織の課題や行動指針について話すグループワークを行っています。それぞれの考えや価値観を共有することで、会社のビジョンに対してズレがなくなり、自然と文化も根付いていくのではと感じています。

IT企業の中でも、役職がなく自由な組織だと聞くと、「効率的でドライ」という印象を持たれがちなのかなと思います。でも、アトラエはすごく仲間意識が強く、常に互いにカバーし合っています。どちらかといえば、社員間の関係はとてもウェットだと思いますよ。

一人ひとりが自ら走りながら、チームとして世の中へインパクトを起こすことを目指していく。そのマインドと文化があってこその組織なので、コミュニケーションは欠かせません。

――役員やプロジェクトリーダー、給料や評価はどのように決定しているのでしょうか?

役員やリーダーは立候補の上、社長が指名します。組織面において社長が持っている唯一の権限がこの指名権ではないでしょうか(笑)。

また、給料は「360度評価」の結果をベースに決定しています。自分を評価してほしい5名を自ら選出し、その5名からの評価を受けます。この際、単純な成果ではなく、組織への「貢献度」を重視し、売上や成約数のような表面上の数字だけでなく、バックオフィスや他メンバーへのフォローなど、チームに対してどう動いたかまで見て評価しています。そして、その評価に応じて全体の給与分の予算を分配していきます。

ちなみに、先ほど会社の数字を全社員に公開していると話しましたが、この評価の順位と給与だけは非公開です。仮に自分が下位だと、モヤモヤしてしまう可能性もありますし、そうやって社内で人と比べて悩んでしまうなんて、もったいないですよね。

社外に意識を向けて働きかけ、成果を出すことが最優先。社内の他メンバーの評価は知る必要ないと思います。

マインドが要! ホラクラシー型組織のメリット・デメリット

――ホラクラシー型の組織形態には、どんなメリットがあるのでしょうか?

大きく3つあります。まず、役職を省くことで無駄なストレスがなくなることです。役職による出世争いや組織内派閥など、人間関係の無駄なストレスが解消できることは大きいと感じています。

2つ目が成長や意思決定のスピードが速いこと。何かを決定するときに上長に確認して……と社内稟議に時間を使うことはなく、迅速な判断が可能です。また、新卒社員も10年目のベテラン社員も同じ土俵に立つので、意思決定力やスキルが磨かれて成長機会は多いです。

3つ目が、組織全体が柔軟に変化できること。例えば、子連れ出社に関する話があります。

うちでは子連れ出社について特に規定はないのですが、保育園や学童に入れないことが理由で仕事を辞めるのはもったいないと思っています。「本人の意欲があるのなら、子どもと一緒に仕事すればいいよね」となり、今では子連れ出社している社員がいたり、社員の子供(小学生)が夕方にオフィスに帰ってきたりしますよ。

「やってみてダメだったらやめればいいだけ」という風土もあるので、状況に応じていろんな取り組みが生まれたり無くなったりしながら少しずつ変化しています。

そうやって柔軟に変化しているので、IPOを行ったときや社員が50名を超えたときも、急に大きな変化が起こったということはありませんでした。その順応度の高さは、変化の速い現代において一つの強みではないでしょうか。

――反対にデメリットと感じる部分はありますか?

人材確保がしにくい点です。一般的な企業とは組織形態もマインドも大きく異なるので、カルチャーマッチする人が多くないんです。ルールがない、役職もない、自律性が求められるけれどチーム戦でもあるという環境は、頭では分かっていても、これまでやったことがないとなかなか難しいのだと思います。

なので、うちの採用ではスキルではなくマインドに重きを置いています。面接の段階でこちらのビジョンを共有し「これまでどんな思いでビジネスをやってきたのか?」というような価値観に関する質問をして、アトラエのマインドと合っているか判断をします。

多少スキルが足りなくてもマインドが合う人材がいたら、そちらを採用しているんですよ。反対に、どんなにスキルが高い人材でも、マインドが合わなければ採用しません。

スキルにフォーカスを当てて採用していたら、事業の成長スピードも上がったかもしれないと思う場面もありました。今すぐそのスキルは欲しい、でもマインドが……とジレンマもあります。

でも、そこで目先の利益にとらわれてマインドの合わない人を採用すると、一時的に事業が成長しても、その後どこかで組織が崩れていくと思うんです。中長期的に見て強い組織を作ろうと考えると、このやり方の方がいいんだと信じて、マインド重視の採用をブラさずに続けています。

――新卒での採用が全体の約7割と高い理由も、マインド重視だからですか?

そうですね。一般的な企業で長く勤められていた方は、うちに来ても仕事のやり方やビジネスにおける価値観が合わずあまり活躍できない、なんてことも考えられます。一方で、先入観が何もなく真っさらな新卒の方は、順応が早く成長しやすいと思っています。なので、うちでは新卒採用がメインですね。

あとは、役職やルールがないため経験の浅い社員でも責任ある仕事をするチャンスがあることは、成長速度が早まることにもつながりメリットですが、その反面、失敗を許容する文化がないとデメリットに感じることも増えるかもしれません。

新卒で入ったばかりの社員が長くいる社員と同じことをやらなくてはいけないわけですから、そこにはスキル不足による失敗もつきものです。そんなときに、ミスを許容できなかったり、できないことを相談してくれた社員を周囲がカバーできない状態だったりすると、途端にチームが破綻してしまいます。

個人の判断を尊重して動く組織だからこそ、各々の短所をカバーしあえる陣形配置とチーム力が必要だと思います。

まずは組織の課題の把握を。ホラクラシー型組織導入の注意点

――企業がホラクラシー型組織を導入したい場合、どんなところに注意したらいいでしょうか?

ホラクラシー型組織は、意思決定のスピードが速いので、流れが速いIT業界などと相性がいいと思います。反対にミスをしたら取り返しがつかないようなライフラインを担う業界や的確なオペーレーション重視の工場などは避けたほうがいいでしょう。未経験の人がいきなり責任のある立場になることも多いので、たとえ失敗してもリカバリーできる業種、かつそういった風土のある会社さんにはおすすめです。

導入する前の一歩としては、まず社員の声を聞くこと。今ある課題が、ホラクラシーを取り入れることで解決するのかをしっかり検討してください。

役職を作らないという組織は珍しいので、とりあえず試したいと興味を抱いてしまいがちです。ですが、ビッグワードに踊らされて軽い気持ちで導入したら、きっと失敗してしまいます。会社の現状を理解して上で、「今これがネガティブな状況である」「ネガティブを排除するためにはこうしたほうがいい」と、きちんと整理ができないと本来はやるべきことではないと思います。

私たちも軌道に乗るまでに何度も調整してきましたし、これまで培ってきた組織の力、マインドの強さがあるからこそ成り立っています。

一人ひとりが自立しながら周囲としっかりコミュニケーションをとってチームとして支え合う考え方を個人が持つことで、より組織の成長や働きがいにつながると感じているので、ホラクラシーの考え方はどんどん広がってほしいと思っています。でも、実際に企業で取り入れる際は「なぜ取り入れるのか?」という部分をしっかりと考えてほしいですね。

――最後に、今後の展望を教えてください。

組織の形として、必ずしも今の私たちの状況が正解だとは思っていません。今後社員や事業が増えた場合、役職の有無などの組織形態も少しずつ変化すると思います。でも、一人ひとりが自立しながら互いを大切にして支え合うマインドは、どんな形であっても変わらないと思います。

最終的には、組織形態がどうであれ「アトラエのメンバーって、みんなイキイキしているよね」というような状態を作れたら嬉しいですね!

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

Bizpedia編集部

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