- 更新日 : 2024年8月27日
二重派遣とは?禁止理由や罰則、確認方法、起こりやすい業界
二重派遣とは派遣先企業がさらに別の会社に労働者を派遣し、第2の派遣先での指揮命令を受けて働かせることを指します。二重派遣は職業安定法や労働基準法に抵触するため、罰則が課されます。本記事では二重派遣が禁止される理由や二重派遣にならないケース、二重派遣を避けるポイント、二重派遣に関する相談先などについて解説します。
目次
二重派遣とは?
二重派遣とは、派遣労働者を巡る違法行為の一つです。具体的には派遣元と雇用契約を結んでいる労働者を受け入れた派遣先が、その労働者をさらに別の企業に派遣することを指します。このような行為は、職業安定法第44条および労働基準法第6条によって禁止されています。
二重派遣の具体例をみてみましょう。派遣元であるA社から派遣された労働者が派遣先のB社で働いているとします。B社がこの労働者をさらにC社に派遣すると、二重派遣となります。このような二重派遣では派遣労働者の立場を利用して、不当な搾取が行われるリスクが高まるため、法律で禁止されているのです。
派遣労働は多くの企業で一般的に行われていますが、派遣労働者の権利を守るための法的枠組みが厳格に適用される必要があります。特に二重派遣は労働者の権利を侵害する行為として、厳しい規制がかけられています。
二重派遣が禁止される理由
二重派遣によって、労働者にはさまざまな不利益が生じます。ここでは、二重派遣が禁止される理由について解説します。
雇用に関する責任の所在が曖昧
二重派遣が禁止される理由の一つは、雇用に関係する責任の所在が曖昧になることです。本来、労働者派遣は派遣元が従業員を派遣先で働かせる形態をとっており、派遣労働者は派遣先の社員ではありません。
それにもかかわらず、派遣先からさらに他の会社へ派遣される二重派遣が認められると、賃金の支払いや労働災害発生時などの対応の際に、どの会社が責任を負うのかが不明確になります。企業間で責任の押し付け合いが生じやすくなり、派遣労働者が十分に保護されないリスクが高まるのです。
中間搾取により賃金が低くなる
二重派遣が禁止される理由の一つとして、労働者の賃金が中間搾取により低くなることが挙げられます。二重派遣が行われると、賃金の流れが複雑になり労働者が受け取る賃金に到達するまでに多くのマージンが取られるため、最終的に労働者に渡る賃金が少なくなってしまいます。
このような中間搾取は、労働基準法第6条で禁止されているため、二重派遣は違法とされています。
不当解雇のリスク
二重派遣による不当解雇のリスクもあります。通常の労働者派遣では、雇用契約の締結によって、責任の所在が明らかです。しかし、二重派遣では派遣労働者の雇用主や指揮命令者の責任が不明確となります。派遣先企業から派遣を受けた企業が労働者を中途解除した場合などに、どの企業が責任を負うのか不透明になりやすいのです。
二重派遣によって派遣労働者の不当解雇や契約解除のリスクが高まることも、二重派遣が禁止されている理由の一つです。
なぜ二重派遣が行われるのか
ここでは、なぜ二重労働が行われるのか、その理由についてみていきましょう。
知識不足
知識不足により二重派遣が行われる場合があります。派遣元や派遣先、さらにはその関連企業が二重派遣の違法性を理解しておらず、無意識のうちに違法行為を行ってしまうのが原因です。
人手不足
業界によっては人手不足問題が深刻です。例えば、人手不足に悩む関連会社や取引先に対して、派遣先企業が自社の派遣労働者を応援に派遣することがあります。この場合、派遣労働者に対する指揮命令が関連会社や取引先から行われると、二重派遣に該当します。
企業間の力関係
取引先との力関係も二重派遣の要因となります。特に、上位の取引先から労働者の派遣を求められた場合、依頼を断ると取引関係に悪影響を及ぼすことを懸念し、違法と知りながらも二重派遣を行ってしまうのです。
派遣会社の管理不足
派遣会社の管理不足も大きな問題です。派遣元が派遣労働者や派遣先とのコミュニケーションを十分に取らず、法令や労働者派遣に関する情報提供を怠っていると、二重派遣につながりやすくなります。二重派遣が常態化すると、違法行為が見過ごされることもあるでしょう。
二重派遣が起こりやすい業界や業種
ここでは、二重派遣が起こりやすい業界や業種について解説します。
製造業
製造業では日々の業務量に変動があり、繁忙期と閑散期の差が大きく受注量が少ない日には人手が余ることもあります。このようなとき、派遣社員を他の会社に送ることもあるでしょう。派遣元から派遣された労働者が、本来の派遣先ではなく別の企業の指示に従って業務を行う場合に二重派遣の問題が生じます。
IT業界
IT業界では、多くの企業が他社のシステム開発や運用を請け負っており、この過程で派遣社員を利用することが少なくありません。特に大規模プロジェクトになると、派遣社員がクライアント企業に常駐することも多く見られます。
このような場合、常駐している派遣社員に派遣先が指揮命令を出せば問題ありませんが、常駐先であるクライアント企業の指揮命令に従うと二重派遣に該当します。
二重派遣に関する具体的な罰則
二重派遣を行うと以下のような罰則が課されます。
職業安定法違反による罰金
二重派遣を行った場合、派遣先の企業は職業安定法第64条に基づき、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。罰則は派遣先と第2の派遣先の両方に適用されますが、第2の派遣先が二重派遣であることを知らないまま労働者を受け入れていた場合には罰則の対象外となることがあります。また、労働者自身は処罰の対象にはなりません。
労働基準法の違反
二重派遣は労働基準法第6条違反につながります。第6条は中間搾取の排除を目的とした規定で、派遣先がさらに他の企業に派遣スタッフを派遣して報酬を得る行為が問題です。この場合、派遣先には労働基準法第118条に基づき、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
参考:
二重派遣にならないケース
二重派遣に該当しないケースとして準委任契約があります。準委任契約は、委託企業が特定の業務を他の企業や個人に委託し、業務の遂行に対して対価が支払われる契約形態です。この契約では、業務の結果や成果に対する責任は問われず、業務遂行に関する指示や管理は受託会社が行います。ここでは、派遣先が受託企業であるという前提で考えます。
二重派遣の場合、人材派遣会社から派遣された労働者が派遣先からさらに別の企業に派遣されて指示を受けて働くため違法性があります。一方、準委任契約では業務の管理と指示が一任されているのは委託企業から業務を受託した派遣先です。
このとき労働者への指示や管理の権限が派遣先であることに変わらない以上、二重派遣のような違法性は生じません。つまり、二重派遣のリスクを避けるためには、準委任契約などの業務委託を適切に利用し、指揮命令系統を明確にすることが重要です。
ただ、準委任契約においても、労働者への指揮命令権が委託企業に移った場合には、偽装請負となり違法性が生じるので注意が必要です。
二重派遣の抜け道、偽装請負とは?
二重派遣の抜け道とされているのが偽装請負です。偽装請負とは、労働者派遣が実態であるにもかかわらず、請負契約の形態を装う行為を指します。
通常の請負契約では、業務を委託する側(注文主)が、実際に業務を行う請負元の社員に対して直接指示を出すことは禁じられています。請負元の社員が注文主から直接業務指示を受ける場合には、労働者派遣契約の締結が必要となるためです。このように、労働者派遣契約を締結せずに請負契約の形式で労働者派遣を行うことが偽装請負となります。
二重派遣かどうか確認するには?
二重派遣かどうかを見極めたり、二重派遣のリスクを避けたりするにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、二重派遣に巻き込まれないためのポイントについて解説します。
契約内容をしっかり確認する
二重派遣かどうかを判断するためには、契約内容を確認することが大切です。労働契約を結ぶ際だけでなく、実際に派遣先で働き始めた後も、日々の業務指示がどこから出ているのかを常に確認しましょう。
派遣先以外からの指示を受けていると感じた場合、二重派遣の可能性があります。自分の身を守るためにも、不明点があれば契約締結の前に必ず確認し、納得した上で契約を進めましょう。
信頼性の高い派遣会社を利用する
二重派遣のリスクを避けるためには、信頼性の高い派遣会社を選ぶことが重要です。派遣会社を選ぶ際には、よく知られた大手企業を選ぶとよいでしょう。大手企業はコンプライアンス対策がしっかりしており、二重派遣が発生しにくい環境を整えている傾向にあります。
また、大手派遣会社は登録者数が多く、口コミや評判も多数あります。インターネット上での評価や口コミを事前にチェックすることで、その派遣会社の信頼性を確認できるでしょう。また、派遣会社のホームページで、コンプライアンスへの取り組み状況や労働者保護に対する姿勢を把握することも大切です。
二重派遣に関する相談先
二重派遣かもしれないと感じたら、すぐに誰かに相談することが大切です。ここでは、主な相談先について解説します。
派遣会社
二重派遣に関して疑問や不安を感じた場合、まずは自分が雇用契約を結んでいる派遣元の派遣会社に相談することが大切です。派遣会社は労働者と派遣先の間に立ち、適正な労働環境を提供する責任があります。派遣会社に相談することで、雇用の安定を図るための適切な対応を期待できます。
ハローワーク
ハローワークを相談先として利用することもできます。ハローワークは、職業紹介や雇用に関する支援を行っている公的機関であり、労働者の権利を守るためのさまざまなサポートを行っています。ハローワークには、専門知識を持った職員が常駐しており、派遣労働者の具体的な相談にも対応してくれるでしょう。
労働局相談窓口
二重派遣に疑問や問題を感じた場合の相談先として、全国の労働局の相談窓口も活用しましょう。労働局では、労働者派遣事業や職業紹介事業に関するさまざまな相談を受け付けており、専門的なアドバイスを提供しています。
違法な二重派遣や偽装請負が疑われるときには、まず労働局に相談することをおすすめします。自身の権利を守るために、相談窓口を積極的に利用することが大切です。
「二重派遣かも」と思ったら速やかに相談を
二重派遣で働くと、本来もらえるはずだった金額よりも少ない報酬しかもらえなかったり、労働条件が曖昧になったりと不利益になることが多いです。二重派遣の状態にあるかもしれないと感じた場合は、労働者は速やかに人材派遣会社や労働局に相談することが大切です。
派遣労働者自身に落ち度はありませんが、労働者の権利を守るためにも契約書をしっかりと確認して、信頼のおける派遣会社と雇用契約を結びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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