- 更新日 : 2024年10月30日
【定額減税】月次減税なしに年末調整で一括対応したら罰則?労働基準法の観点から
令和6年6月から定額減税が実施されました。業務の煩雑さから、企業の担当者が月次減税を行わず、年末調整で一括して減税を行うということも考えられます。
しかし、こうした処理方法では、法令上の問題が生じる可能性があります。本記事では、その罰則について、税法と労働基準法の観点から詳しく解説します。
目次
月次減税なしに年末調整で一括対応したら罰則がある?
定額減税を月次減税として実施せず、年末調整で一括して行う場合、税法上の罰則は設けられていません。国税庁の星屋和彦次長は、2024年4月26日の衆議院財務金融委員会での答弁において、「税法上の罰則は設けられていない」と明言しました。
これは、企業が6月からの定額減税を実施せず、年末調整に先送りした場合でも、税務上の罰則が適用されないことを意味します。
ただし、星屋次長は「法令に従い適切に定額減税に係る事務を実施いただく必要がある」とも述べており、企業は法令に基づいた適切な対応を求められています。このため、税法上の罰則がないからといって、企業が月次減税を無視して年末調整で一括処理することは推奨されません。適切な手続きを踏むことが重要です。
労働基準法からみた年末調整一括対応の罰則
定額減税を月次減税として実施せず、年末調整で一括して行う場合、労働基準法上の罰則が適用される可能性があります。
労働基準法第24条第1項では、「賃金は通貨で直接、労働者にその全額を支払わなければならない」と規定されています。この例外として、法令に別段の定めがある場合には賃金の一部を控除して支払うことが認められていますが、定額減税を年末調整に先送りすることは、この例外に該当しないとされています。
具体的には、6月の給与から本来控除すべき税額よりも過大な税額を控除することになるため、労働基準法第24条第1項に違反する可能性があります。この違反に対する罰則は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。したがって、企業は月次減税を適切に実施し、労働基準法に違反しないよう注意する必要があります。
厚生労働省の現在の見解
国税庁では、公式に「税法上の罰則は設けられていない」していますが、前述のように労働基準法上の解釈では、罰則の適用を受ける可能性があります。
これについて、厚生労働省および政府はどのように解釈しているのでしょうか。
厚生労働省の増田嗣郎大臣官房審議官の見解
厚生労働省の増田嗣郎大臣官房審議官は、2024年4月26日の衆議院財務金融委員会での答弁において、労働基準法第24条第1項に基づく罰則の適用について言及しました。
増田審議官は、「賃金は通貨で直接、労働者にその全額を支払わなければならない」と規定されていることを強調し、定額減税を年末調整に先送りすることは、6月の賃金から本来の源泉徴収額より過大な税額を控除することになるため、労働基準法第24条第1項に違反する可能性があると述べました。
この違反に対する罰則は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。増田審議官の見解は、企業が月次減税を適切に実施し、労働基準法に違反しないよう注意を促すものであり、企業は法令に基づいた適切な対応を求められています。
林芳正内閣官房長官の見解
林芳正内閣官房長官は、2024年5月29日の記者会見で、定額減税を給与に反映しなかった企業について「税法上の罰則は設けられていないが、労働基準法に違反し得る」との認識を示しました。林長官は、企業の違反が確認された場合には「まずは労働基準監督機関から是正指導が行われる」と述べ、直ちに罰則が適用されるものではないと説明しました。
林長官の見解によれば、定額減税を給与に反映しないことは労働基準法第24条第1項に違反する可能性があり、企業は是正指導を受けることになります。
法令遵守を最優先!定額減税の適切な取り扱いを心掛けよう!
定額減税を月次減税として実施せず、年末調整で一括して行うことは、国税庁の見解では税法上は罰則の対象とはなりません。
しかし、労働基準法第24条第1項に違反する可能性があり、罰則が適用されるリスクがあります。そのため、企業は法令に基づいた適切な対応を行い、月次減税を確実に実施することが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
契約社員も有給休暇を取得できる? 条件や日数、繰越の可否などを解説
契約社員も要件を満たせば、有給休暇が取得できることをご存じでしょうか。この記事では、契約社員が有給休暇を取得する際の条件や日数などを解説します。また「取得申請は何日前までにすべき?」「有給休暇は繰越できる?」などの疑問にも触れていきます。 …
詳しくみる中小企業の平均年収は?現在の状況と今後の展望
日本の経済を支える中小企業の平均年収はどれくらいなのでしょうか。 ここでは統計データからその数値を割り出すとともに、今後経営者が従業員の賃金についてどのように対応すべきかを考えます。 中小企業の平均年収の現在の状況 中小企業の平均年収と、大…
詳しくみる号俸とは?制度の仕組みと使用法について解説
「号俸」という言葉をご存じでしょうか。普段の生活では使用しないこともあり、一般的には読み方も含めて知らない人のほうが多いかと思います。 しかし、「号俸」は公務員や会社員の給与を決める重要なキーワードです。今回はこの「号俸」について、その定義…
詳しくみる有給休暇の給料はいくら支払う?賃金3つの計算方法と買取できる例外を解説
有給休暇は給与が発生する休暇のため、正確に給与計算を行い、支給しなくてはいけません。有給休暇の給与の計算方法や付与要件、パートやアルバイトの有給休暇の条件などについてまとめました。また、従業員が有給休暇を取得しない場合、買取が可能か、違法に…
詳しくみる給与デジタル払いとは?解禁はいつから?メリット・デメリットや実施方法を解説!
2023年4月より、給与のデジタル払いが解禁されます。給与デジタル払いには、銀行口座がない従業員にも現金以外で給与の支払いができる、振込手数料を削減できる、といったメリットがあります。一方で給与支払い業務の負担増などのデメリットもあり、導入…
詳しくみる賞与の算定期間とは?査定期間との違い、休業・休暇は含まれるか解説
賞与は、従業員のモチベーションに大きく関わる重要な要素です。そのため、正しく働きを評価し、賞与額に反映させなければなりません。その際に重要となるのが、賞与の算定期間や査定期間です。 当記事では、賞与の算定期間について、査定期間との違いや、期…
詳しくみる