- 更新日 : 2024年12月3日
厚生年金の44年特例とは?特例の対象者にメリット・デメリットはある?
会社員が加入する厚生年金保険には、44年特例という優遇措置があります。
年金制度自体が非常に複雑であるため、44年特例もあまり知られていないのが実情です。
本稿では、44年特例の優遇措置の対象者・要件の他、受給手続き、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
厚生年金の44年特例とは?
公的年金は、2階建て構造になっています。1階部分はすべての国民が加入する定額の国民年金(基礎年金)、2階部分は会社員・公務員が加入し、在職中の報酬に比例する厚生年金です。
この仕組みは1985年4月、年金一元化に向けて改正された新年金制度と呼ばれるものであり、それまでは自営業は国民年金、会社員は厚生年金、公務員は共済年金という縦割りの構造になっていました(公務員の共済年金が厚生年金に統合されたのは2015年10月です)。
厚生年金はもともと2階建て構造であり、1階部分が定額部分、2階部分が報酬比例部分となっていたため、改正によって1階部分が国民年金(基礎年金)に置き換わったことになります。
しかし、厚生年金の支給開始年齢が60歳であるのに対し、国民年金は65歳とされていました。
新年金制度では、原則は国民年金に合わせて支給開始年齢を65歳としましたが、期待権を保護するという観点から、暫定的に60歳から65歳になるまでの間は、特別支給の老齢厚生年金という形で残しました。
厚生年金の44年特例とは、この特別支給の老齢厚生年金における優遇措置のことです。
特別支給の老齢厚生年金は改正前の厚生年金であるため、1階部分(定額部分)と2階部分(報酬比例)で構成されます。
当初は、65歳になるまでは定額部分と報酬比例部分の両方が支給されることになっていましたが、暫定措置であったこともあり、生年月日に応じて段階的に廃止されることになりました。
廃止の方法としては、まず1階の定額部分を生年月日に応じて支給開始年齢を段階的に60歳から引き上げて廃止し、65歳からの国民年金(定額部分:老齢基礎年金)につなげます(1994年の法改正)。
その後、2階部分の報酬比例部分も生年月日に応じて段階的に60歳から引き上げて廃止し、最終的には65歳からの新年金制度(1階部分は国民年金、2階部分は厚生年金)に完全に移行するという流れです(2000年の法改正)。
1994年改正による定額部分の廃止、つまり国民年金(老齢基礎年金)への移行は2013年度に完了しています(女性は5年遅れ)。
厚生年金の44年特例は、長期間厚生年金に加入して特別支給の老齢厚生年金の2階の報酬比例部分を受けている人が、国民年金(老齢基礎年金)が支給される65歳になる前に退職などで被保険者でなくなったとき、本来であれば受けられない1階の定額部分も合わせて支給するという増額措置です。
厚生年金の44年特例の対象者・条件は?
厚生年金の44年特例は、どのような人が受給できるのでしょうか。対象者および条件について見ていきます。
65歳までの定額部分も受給できる条件
44年特例は、65歳になるまで特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分に加えて定額部分も受給できる制度ですが、対象者は以下の3つの条件を満たしている必要があります。
- 報酬比例部分が受給できること
- 厚生年金保険の被保険者期間が44年以上あること
- 厚生年金の被保険者でないこと
①については、男性の場合はすでに2022年度からは報酬比例部分の支給開始年齢は64歳となっており、2025年度には報酬比例部分も廃止されます。仮に44年特例を受けるとしても、64歳からの1年間となります。
対象者は、1961年4月1日までに生まれた人です。
ただし女性の場合、支給開始年齢の引き上げは5年遅れとなっているため、報酬比例部分が廃止されるのは2030年度です。それまでは報酬比例部分と合わせて44年特例の定額部分を受け取ることができます。
対象者は、1966年4月1日までに生まれた人です。
②については、44年特例が設けられた経緯が関係しています。中学卒業後16歳で就職して厚生年金の被保険者となり、60歳で定年退職して老齢厚生年金を受給することを想定していたためです。
44年以上の長期間加入していたことによる特例措置という位置づけでした。
③については60歳で定年退職し、その後雇用延長によって非正規雇用となった場合、注意が必要です。
短時間労働者の4分の3ルールに該当した場合は、厚生年金保険の資格喪失とはならないからです。
逆にいえば、退職後に非正規雇用で働いていても、4分の3ルールに該当せず雇用保険の適用対象とならなければ、③の要件は満たすことになります。
また、44年特例によって定額部分を受給開始後、再就職あるいは4分の3ルールに該当して被保険者になると特例措置は停止します。
加給年金額も受給できる条件
加給年金額の受給要件を満たしている場合は、被保険者でなくなった月の翌月分から加給年金額を受け取ることができます。
受給要件は以下のとおりです。
- 本人が厚生年金保険の被保険者期間が240月(20年)以上あること
- 加給年金額の対象者がいること
対象者は、本人に生計を維持されている65歳未満の配偶者および18歳の誕生日の属する年度の年度末に達していない未婚の子です。
「生計を維持されている」とは、齢厚生年金の受給権者と生計をともにしている者のうち、恒常的な収入金額が将来にわたって年額850万円(所得で655万5千円)未満と認められることを意味します。
厚生年金の44年特例の受給手続き
44年特例の定額部分の受給手続きは、どのように行えばよいのでしょうか。定額部分、加給年金額のそれぞれについて見ていきます。
定額部分を受け取るための届出は必要?
在職中に特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を在職老齢年金として受給している場合、すでに年金を受給するための手続きはなされています。
その後44年特例の受給者が退職すると、事業所が被保険者資格喪失届を年金事務所に提出することになり、その際に定額部分の受給手続きも併せて行われます。
したがって、受給権者自身が定額部分を受け取るための手続きを行う必要はありません。
報酬比例部分に定額部分が付加されると、日本年金機構から年金改定通知書が送付されます。
加給年金額の受給手続き
44年特例の定額部分と異なり、加給年金額については、すでに支給されている報酬比例部分の手続きの際に加給年金額の対象者が確認されていなかった場合は、「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」を年金事務所に提出します。
また、加給年金額の対象者が登録済の場合は、「老齢厚生年金 加給年金額加算開始事由該当届(生計維持申立書)」を年金事務所に提出します。
いずれの場合も添付書類として、受給権者の戸籍抄本または戸籍謄本(記載事項証明書)、世帯全員の住民票の写し(続柄・筆頭者が記載されているもの)、加給年金額の対象者(配偶者や子)の所得証明書または非課税証明書(加算開始日から見て直近のもの)が必要です。
厚生年金の44年特例の対象になるといくらもらえる?
44年特例の定額部分の年間の金額は、以下の計算式で算定されます。
生年月日に応じた率は、1946年4月2日以降生まれは「1」です。44年間加入していた場合、月数にすると528月になりますが、480月が上限とされているため、以下の計算式で算定します。
1,621円×1×480月=77万8,080円
加給年金額の対象者がいる場合、さらに1人当たり22万3,800円(3人目以降の子は各7万4,600円)が加算されます。
厚生年金の44年特例の対象になるメリット・デメリットは?
44年特例のメリット・デメリットについて考えてみましょう。
メリットは、本来は支給されない特別支給の老齢厚生年金の定額部分が増額されることです。
その金額は、年間約78万円。加給年金額が支給されれば100万円ほどになり、決して少なくない金額です。
しかし、高年齢雇用安定法で65歳までの雇用が義務づけられ、さらに2021年4月からに70歳まで就業機会の確保が努力義務とされている現状を鑑みると、65歳になる前に完全に退職して無職となるのは主流とはいえないかもしれません。
60歳以降、嘱託など勤務形態の変更によって労働時間を大幅に短縮し、厚生年金保険の被保険者とならずに給与所得を得ながら、44年特例の増額措置を受けるという選択肢もあります。
とはいえ、給与所得は月額8万8,000円未満である必要があります。年収では約100万円で、加給年金額と合わせた44年特例の年金とほぼ同額です。
厚生年金の被保険者としてフルタイムで勤務した場合、在職老齢年金も含めた60代前半の平均年収は374.7万円という調査結果もあります(労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」)。
※参考:「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」|労働政策研究・研修機構
デメリットは、健康で働ける場合は270万円ほどの収入を失うことです。
厚生年金の44年特例について知っておこう!
44年特例の優遇措置の対象者・要件の他、受給手続き、メリット・デメリットについて解説しました。
厚生年金保険の長期加入者に対する増額制度であり、完全に引退し、年間約80万円から100万円が支給されるというのは確かに魅力的です。
一方、働けば得られるその倍以上の収入を放棄することになるため、特例措置を受けるかどうかは慎重に判断すべきでしょう。
よくある質問
厚生年金の44年特例とは何ですか?
厚生年金の長期加入者に対する、60歳代前半の老齢厚生年金の増額措置のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
44年特例の対象となるメリット・デメリットについて教えてください。
完全に退職すれば年間約80万~100万円の年金が支給されますが、働けば得られるその倍以上の収入を放棄することになります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
契約社員も産休はとれる?取得条件や手続きの流れを解説
契約社員として働きながら出産を検討していると「産休は取得できるの?」と不安になる方もいるでしょう。結論、労働基準法が定める女性労働者であれば、契約社員やパートなどの有期契約労働者も産休を取得できます。 本記事では、契約社員の産休取得に必要な…
詳しくみる厚生年金保険の加入年齢と受給年齢について
厚生年金保険はいつから加入でき、いつまで保険料を納めることができるのか。また、いつから厚生年金を受け取ることができるのか。これらを理解することは、老後の生活を維持するうえでとても重要になります。 そこで、今回は、厚生年金保険の加入年齢と受給…
詳しくみる健康保険加入の手続き
法人事業所では、従業員が1人であっても規模・業種に関係なく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が強制され、個人事業所では、常時5人以上の従業員を雇用している一定の事業所で、社会保険への加入が強制されます。 他方、従業員は社会保険に加…
詳しくみる公務災害と労災の違いは?対象や給付内容、手続きの流れなどをわかりやすく解説
公務災害と労災の違いは、初めて事故や病気に遭った際に混乱しやすいポイントです。「自分はどちらに該当するの?」「どうやって申請するの?」と悩む方も多いでしょう。この記事では、公務災害と労災それぞれの定義や補償内容、適用対象者、具体的な申請手続…
詳しくみる社会保険の4分の3ルールとは?短時間労働者にかかわる制度
事業主は、従業員を雇用するとさまざまな社会保険に加入させる義務が生じます。健康保険と厚生年金保険には適用対象者について、いわゆる「社会保険の4分の3ルール」がありますが、これまで段階的に適用拡大が進められてきました。 本記事では、その前提と…
詳しくみる雇用保険被保険者資格取得届とは?書き方や記入例・提出先を紹介!
従業員を雇い入れたら、複数の社会保険手続きをする必要があります。 その一つが「雇用保険被保険者資格取得届」です。これは、従業員を雇用保険に加入させるために、管轄のハローワークに提出する書類です。 この記事では、雇用保険被保険者資格取得届の概…
詳しくみる