- 作成日 : 2022年11月11日
法定福利厚生とは?種類や費用、法定外福利厚生との違いを解説!
会社が費用を負担する従業員の福利厚生のうち、法律で定められているものを福利厚生、法律で定められていないものを法定外福利厚生といいます。法定福利厚生は健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6種類です。その他はすべて法定外福利厚生で、主に10種類を挙げることができます。
目次
法定福利厚生とは?
給料や賞与以外に従業員に対して、利益となるものを与えることを福利厚生といいます。社会保険料の会社負担分の支払いや住宅費用の補助など、従業員のために会社が行う支出のことです。福利厚生には、法定福利厚生と法定外福利厚生の2種類があります。
法律で義務付けられた福利厚生のこと
法定福利厚生とは、会社が従業員に対して行う利益供与のうち、法律で定められているものをいいます。法定福利厚生は、会社が所定の費用を負担しなければなりません。法定福利厚生を行わない会社は法律違反として処罰され、損害などが生じた場合は賠償金の支払いを命じられる可能性もあります。
法定福利厚生の種類
法定福利厚生には、健康保険・厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6種類があります。
健康保険
健康保険について、会社は保険料の1/2を負担しなければなりません。この健康保険料の会社負担分の支出は、法定福利厚生の1つに該当します。会社員が加入する健康保険は、組合健保と全国健康保険協会(協会けんぽ)の2種類に分けられます。組合健保はそれぞれの会社が設立・運営する、その会社の従業員のみが加入できる健康保険です。健康保険組合を持たない中小企業の従業員は、協会けんぽに加入します。
健康保険料は、従業員と会社が折半して負担するため、1/2ずつを支払います。
厚生年金保険
厚生年金保険は、会社員や公務員が加入する公的年金制度の1つです。加入者や加入していたことのある者が老齢になった場合や、一定の障害状態になった場合、遺族になった場合に、老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金の保険給付を行います。
厚生年金保険料も従業員と会社が折半して負担するため、1/2ずつを支払います。
雇用保険
雇用保険は、労働者の生活と雇用の安定を目的とした公的保険制度です。会社などに雇用された働く労働者が失業した場合などに保険給付を行うほか、雇用二事業として失業の予防や雇用状態の是正、雇用機会の増大、労働者の労力の開発・向上、その他労働者の福祉の増進を図るためにさまざまな施策・事業を行います。
雇用保険料は、保険給付事業分は労使折半ですが、雇用二事業分は使用者が全額負担します。
労災保険
労災保険は、労災事故があった場合などに被災した労働者に対して必要な給付を行う公的保険制度です。仕事中や通勤中のケガ、業務を発症理由とする疾病などで働けない労働者に、療養や年金などを給付します。労災保険の給付対象者は、労働基準法の規定による労働者に限られます。
労災保険料は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料とは違い、会社のみが負担義務を負います。従業員に負担義務はないため、全額を会社が支払います。
介護保険
介護保険は、高齢者に必要な介護を提供するために、2000年に創設された制度です。高齢化が進むなかで増していく家族の負担を軽減し、社会全体で介護を支えるために設けられました。40歳になると介護保険に第2号被保険者として加入し、保険料負担義務が生じます。
介護保険料は従業員と会社が折半して負担するため、1/2ずつを支払います。
子ども・子育て拠出金
児童手当の支給に必要な費用や、国や自治体が実施する子育て支援事業費などの一部として徴収されるのが、子ども・子育て拠出金です。
子ども・子育て拠出金は、会社のみに支払い義務があります。従業員に負担義務はないため、全額を会社が支払います。
法定福利厚生の費用目安
それぞれの法定福利厚生について、会社の負担額は以下のように計算します。
- 健康保険
- 標準報酬月額や標準賞与額×健康保険料率×1/2
- 健康保険料率は全国健康保険協会の場合9.51~11.00%
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 標準報酬月額や標準賞与額×厚生年金保険料率×1/2
- 厚生年金保険料率は18.3%
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 賃金の総額×会社が負担する雇用保険料率
- 会社が負担する雇用保険料率は6.5~8.5%
- 雇用保険
- 労災保険
- 賃金の総額×労災保険料率
- 労災保険料率は0.25~8.8%
- 労災保険
- 介護保険
- 標準報酬月額や標準賞与額×介護保険料率×1/2
- 介護保険料率は16.4%
- 介護保険
- 子ども・子育て拠出金
- 標準報酬月額や標準賞与額×子ども・子育て拠出金率
- 子ども・子育て拠出金率は0.36%
会社が負担する法定福利厚生は、上記の合計額です。従業員に支払う給与の14~18%が目安とされます。
法定外福利厚生とは?
法定外福利厚生とは、企業が従業員に対して行う利益の供与のうち、法律で規定されていない部分のことをいいます。
企業が独自に設けた福利厚生のこと
法定福利厚生は、法律で規定されている6種類に限定されています。これらのみが法定福利厚生で、他にはありません。これに対して法定外福利厚生は、法定福利厚生以外の福利厚生すべてを指します。法律で規定されている福利厚生以外が法定外福利厚生になり、さまざまな福利厚生があります。企業が独自に創出することも可能です。
法定外福利厚生の種類
法定外福利厚生の種類はさまざまで、いろいろなものがあります。大きくは通勤・住宅、健康・医療、レクリエーション、慶弔・見舞い、育児・介護、財産形成、職場環境、能力向上・スキルアップ、自己啓発、休暇の10種類に分けることができます。
通勤・住宅
通勤に使用する電車やバスの定期を支給したり、独身寮を提供したりする福利厚生です。
注意点
社宅の場合、税法上、賃貸料の50%以上を従業員から徴収していないと福利厚生として認められません。50%未満の場合は、給与とみなされます。通勤費の場合、税法上、福利厚生に認められる金額には以下の限度額が定められています。
- マイカーや自転車を利用している場合
以下の表の限度額の範囲片道の通勤距離 1カ月あたりの限度額 2㎞未満 全額 2㎞以上10㎞未満 4,200円 10㎞以上15㎞未満 7,100円 15㎞以上25㎞未満 12,900円 25㎞以上35㎞未満 18,700円 35㎞以上45㎞未満 24,400円 45㎞以上55㎞未満 28,000円 2㎞以上 31,600円
- マイカーや自転車を利用している場合
- 電車やバスなどの交通機関だけを利用している場合
通勤手当や通勤定期代などを合わせて1カ月あたり15万円以下 - 交通機関とマイカーや自転車を利用している場合
通勤手当や通勤定期代と、マイカーや自転車を使って通勤する場合の限度額を合わせて1カ月あたり15万円以下
- 電車やバスなどの交通機関だけを利用している場合
健康・医療
健康のため残業時に食事を提供したり、ジムのような施設を従業員が無料や割引価格で使用できるようにしたり、人間ドッグの費用を負担したりする福利厚生です。健康・医療についての福利厚生は、従業員全員が利用できるものにする必要があります。社員食堂や食事手当、メンタルヘルスケアなどがあります。
注意点
税法上、以下のようなものは福利厚生の範囲を超えるとして、給与扱いになります。
- 役員や一定以上の役職者を対象としている
レクリエーション
社員同士のコミュニケーション活性化やリフレッシュのため、社員旅行に行ったり、新年会などを行ったりします。社内部活、サークル活動、交流会、親睦会、忘年会などがあります。
注意点
税法上、以下のような新年会・忘年会は福利厚生の範囲を超えるとして、給与扱いになります。
- 1人あたりの費用が高額(約5,000円が妥当)
- 従業員のうち一部しか参加できない
- 二次会や三次会の費用
以下のような親睦会は福利厚生の範囲を超えるとして、給与扱いになります。
- 取引先などの外部の人が参加
- 1人あたりの費用が高額(約5,000円が妥当)
以下のような社員旅行は福利厚生の範囲を超えるとして、給与扱いになります。
- 旅行期間が4泊5日以上
- 従業員の半分未満しか参加しない
慶弔・見舞い
従業員の慶事にお祝い金を出したり、不幸事にお香典を出したり、病気やケガに対してお見舞金を出したりする福利厚生です。
具体例
結婚祝い金、出産祝い金、傷病見舞金、災害見舞金、死亡見舞金、昇進祝い金、成人祝い金、開店・開業祝い金、創立記念祝い金
注意点
税法上、以下のような慶弔見舞金は福利厚生の範囲を超えるとして、給与扱いになります。
- 一部の従業員のみを支給対象にしている
- 金額が著しく高額
育児・介護
育児や介護を行う従業員のために企業内保育所を設置するなど、働きやすいように職場環境を整えたり、育児休業・介護休業を法律の定めより長く取れるよう独自の制度を設けるといった支援策を講じたりすることです。育児休業の延長制度や社内保育園、ベビーシッター料金の補助、介護費用の補助などがあります。
財産形成
従業員が将来や住宅購入のために行う財産形成について、制度を設けて給与から天引きを行ったり利息の上乗せを行ったりする福利厚生です。財形貯蓄制度や社内預金制度、社内貸付制度、持株会、ストックオプション制度、マネー相談会の開催、金融セミナーへ参加する助成などがあります。
職場環境
従業員が快適に業務に従事できるよう、職場環境を整える福利厚生です。フレックスタイム制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、ノー残業デーなどがあります。
能力向上・スキルアップ
従業員が能力向上やスキルアップを目的に参加する研修会や講習会など、購入する書籍などの費用を負担することです。これらの費用は適正であることが必要です。
自己啓発
従業員が自身の自己啓発のために行う活動に対して支援することです。従業員の心身の健康維持や成長を図るために行います。
休暇
労働基準法では、従業員に対して有給休暇を付与することが規定されていますが、有給休暇以外に企業が独自に休暇制度を定め、従業員のワークライフバランス向上につなげることです。リフレッシュ休暇やバースデー休暇、アニバーサリー休暇、ボランティア休暇、結婚や出産に対する休暇などがあります。
法定外福利厚生の費用目安
法定外福利厚生には大企業ほど費用をかけることができ、企業規模が小さくなるにつれて支出が小さくなります。全体の平均は従業員1人に1カ月あたり20,000~30,000円が目安とされます。
企業が福利厚生を充実させる目的は?
企業にとって福利厚生を充実させることには、従業員のモチベーション向上により生産性向上が図れるというメリットがあります。福利厚生が充実していないと、従業員の労働に対する意欲も低下します。
作業効率も落ち、またミスも増えるため生産性はダウンします。福利厚生が充実していると従業員一人ひとりの労働意欲が高まり、全体の士気も上がります。効率よい作業が可能になり、生産性の大幅な向上が期待できます。
また福利厚生がしっかりしている企業は対外的に好印象を与えることができ、採用や融資、取引先との交渉といった、さまざまな場面で有利に働きます。求人を出した際には優秀な人材を多く集めることができ、金融機関に資金繰りを相談する際は好条件での借入が受けられ、仕入先や販売先との取引も上手く運ぶといった効果があると期待できます。
福利厚生を導入する際のポイントは?
福利厚生のうち法定福利厚生については、会社は必ず導入しなければなりません。法定外福利厚生はさまざまな種類のなかから自由に選んだり、独自の福利厚生を創出したりすることが可能です。法定外福利導入の際は、ポイントや注意点に気をつける必要があります。
ニーズ
給料や賞与といった報酬とは別に従業員に対して利益を供与することが福利厚生です。そのため、従業員ニーズを無視した福利厚生はあまり活用が期待できません。アンケートなどを行って従業員の希望を調査し、求められている福利厚生を導入することが大切です。
公平性・平等性
福利厚生は、公平性・平等性があるものでなければならず、従業員全員に利用の機会が与えられてることが欠かせない条件です。役員や一定以上の役職者、一部の従業員だけが利用するものでない福利厚生を導入することが必要です。
費用
福利厚生を導入する際は、費用負担について慎重に検討する必要があります。導入費用だけでなく維持や運営のために出費が継続することも十分に考慮しなければなりません。導入後の負担も含めて、費用負担が十分に見合う福利厚生を導入しましょう。
法定外福利厚生を導入して福利厚生充実によるメリットを得よう
福利厚生には、法律で会社に義務付けられている法定福利厚生と、法律では義務付けられていない法定外福利厚生があります。健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6種類のみが法定福利厚生で、それ以外のものはすべて法定外福利厚生です。
法定福利厚生は、従業員の標準報酬月額・標準賞与額や賃金の総額に、健康保険料率、厚生年金保険料率、雇用保険料率、労災保険料率、介護保険料率、子ども・子育て拠出金率をかけて計算されます。費用の目安は、従業員に支払う給料の14~18%です。
法定外福利厚生は、通勤・住宅、健康・医療、レクリエーション、慶弔・見舞い、育児・介護、財産形成、職場環境、能力向上・スキルアップ、自己啓発、休暇の10種類に大きく分けられ、費用の負担は従業員1人・1カ月あたり20,000~30,000円とされています。
導入の際は、従業員のニーズや公平性・平等性、費用負担額が適切であるかどうかをポイントにして選ぶことが大切です。自社に合う法定外福利厚生を導入して福利厚生を充実させ、従業員のモチベーションアップによる生産性向上を図りましょう。
よくある質問
法定福利厚生とは?
健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6種類が法定福利厚生です。詳しくはこちらをご覧ください。
法定外福利厚生との違いは?
法定福利厚生は6種類のみに限られていて他にはありませんが、法定外福利厚生はさまざまなものがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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