• 更新日 : 2024年8月8日

発生主義とは?メリットデメリットや実現主義・現金主義との違い

発生主義は、取引や義務・権利が発生した時点で会計処理を行う方法です。現金の入出金に関係なく認識され、将来の収支予測や正確な財政状況の把握に役立ちます。ただし、現金の動きが分かりにくく、処理が複雑になるデメリットもあります。
この記事では、発生主義の概念、メリット・デメリット、適用シーン、会計処理の流れ、そして他の会計原則との比較について解説していきます。

発生主義とは

発生主義とは、取引や何らかの義務や権利が発生した時点で会計処理を行う考え方のことです。発生主義で認識する場合、実際の現金の入出金は関係なく認識が行われます。

例えば、発生主義ではサービスの提供を受けるために支払いを行った時点ではなく、サービスの提供を受けるための契約を締結した時点で会計処理を行います。将来支払う予定がある賞与なども、発生主義では支払時ではなく、支払いが確定した時点で引当金として認識します。

発生主義のメリット

発生主義で会計処理を行うことのメリットを紹介します。

入出金を伴わない取引も把握できる

発生主義では、現金の入出金がまだ行われていない取引も認識します。そのため、将来どのくらいの入金があって、どのくらいの出金があるのかを予測しやすいのがメリットです。そのため、資金繰りの計画や納税資金の準備に役立ちます。

正確な財政状況がわかる

発生主義には、企業の正確な財政状況を把握しやすいというメリットもあります。取引などが発生した時点で会計処理を行うことから、期間損益を正しく計算できるためです。資産の使用に応じた費用の期間配分や、将来発生する費用に備えた引当金の計上ができるため、企業の経営実態をより適切に表すことができ、企業の経営成績の把握や予算計画の策定に役立ちます。

発生主義のデメリット

発生主義で会計処理を行うことのデメリットを紹介します。

入出金の実態をつかみにくい

発生主義では、現金の入出金によって取引を認識しません。そのため、発生時と現金の入出金時でずれが生じ、現金の動きをつかみにくいというデメリットがあります。また、発生主義は現金のやり取りを基準に認識しないことから、現金化などへの不確実性が存在します。

会計処理の手間が増える

会計処理が複雑になって手間が増えることも、発生主義のデメリットです。発生主義では、発生時点と入出金があった時点で会計処理を行う必要があります。

例えば掛取引で仕入を行った場合、その時点で掛仕入が行われたことを認識する会計処理を行います。さらに、掛仕入により未払いとなっていた代金を支払う際には、買掛金と現金の振替処理が必要です。現金の入出金を基準にする場合は、代金支払いの時点で会計処理を行えばよいため、発生主義のように複雑な会計処理は不要です。

発生主義が適用されるシーン

発生主義を適用する代表的なシーンを4つ紹介します。

掛仕入

掛仕入とは、商品や原材料を仕入れる際に目的物の引き渡し時点ではなく、後日代金を支払う約束で仕入れる取引のことです。発生主義では、債権や債務が確定した時点で取引を認識することになるため、仕入により目的物の引き渡しが行われた時点で仕訳を行います。

未払金

未払金とは、目的物の引き渡しやサービスの提供が行われたにもかかわらず、代金が支払われていない金銭のことです。土地や建物、あるいは消耗品を購入する場合など、仕入れ以外の出費が発生する場合に未払金勘定を使います。掛仕入と考え方は同じで、発生主義では目的物の引き渡しやサービスが提供された時点で会計処理を行います。

引当金

引当金とは、将来発生することが予測される費用や損失の見積額のことです。引当金の計上ルールは厳格に定められており、以下に該当する場合に引当金として計上することになります。

  • 将来の特定の費用あるいは損失であること
  • 当期以前の事象により発生していること
  • 発生の可能性が高いこと
  • 合理的に金額を見積もれること

代表的な引当金には、債権の貸倒れを見積もった「貸倒引当金」、賞与に関わる「賞与引当金」、退職金に関わる「退職給付引当金」などがあります。いずれも、発生主義では上記の要件に該当する場合で、支払いの事由が発生した際に会計処理を行います。

減価償却

建物や機械などの固定資産は、一般的に期間の経過とともに価値が減少していきます。経年劣化や使用による劣化などにより、新品と比較して価値が下がるからです。発生主義では、使用可能年数や耐用年数に応じて価値が減少したと認識するため、期間に応じて減価償却を行います。

発生主義の会計処理の流れ

発生主義により会計処理を行う場合、取引発生時点と取引に関わる代金の受け渡し時点で会計処理を行う必要があります。以下は、発生主義により掛仕入を認識した場合の仕訳例です。

(仕訳例)

A社から商品10万円を掛取引により仕入れた。

借方貸方
仕入100,000円買掛金100,000円

※仕入に関わる仕訳は三分法による。

(仕訳例)

A社に対する買掛金10万円について当座預金より支払った。

借方貸方
買掛金100,000円当座預金100,000円

発生時に費用(仕訳例では仕入)を認識し、支払義務が発生したものとして負債の項目に買掛金を計上します。その後現金による取引が行われた際に、支払義務が消滅したものとして買掛金を減少させる仕訳を行います。

発生主義と実現主義の使い分け

実現主義とは、取引の実現をもってその取引を認識し、会計処理を行う考え方のことです。

例えば、収益の認識を発生主義で行ったとすると、取引が発生した時点で認識することになります。しかし、取引が発生した時点を基準とすると不確実性が生じます。取引が発生した時点で認識すると、代金引き渡しの不確実性や取引額が変動する可能性があるからです。

そのため、企業会計原則に基づいて期間損益を正しく計算するには、収益は実現主義(上場企業などは新収益認識基準)、費用は発生主義によって認識し、会計処理を行うことになります。

発生主義と現金主義の使い分け

現金主義とは、現金の受け渡し時点で認識して会計処理を行う考え方のことです。現金の入出金を基準にすればよいため、例えば仕入れは商品の引き受け時点ではなく、現金を支払った時点で認識することになります。発生主義では掛取引の場合、商品を引き受けた時点で認識するため引受時と支払時に処理が必要ですが、現金主義は支払時の1回のみで済みます。

現金主義は簡便な方法であるため理解しやすいのですが、法人の会計処理では認められていません。青色申告を行う事業所得または不動産所得のある個人で、小規模事業者に該当する場合に限り適用できます。

小規模事業者とは、前々年の事業所得と不動産所得の合計が300万円以下(専従者給与などを必要経費にしない場合の金額)の事業者のことです。事業規模が小さい場合は、現金主義の適用を考えてもよいでしょう。

発生主義の考えは会計処理を行ううえで大事

発生主義は、適切な会計処理を行ううえで基本となる考え方の一つです。発生主義は、費用の認識の原則的な方法として知られています。小規模事業者は現金主義との選択適用が可能ですが、正確な期間損益の計算を行いたい場合は発生主義での会計処理を行いましょう。


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