• 更新日 : 2021年6月11日

発生主義・現金主義・実現主義の違いは?青色申告での注意点も解説

発生主義・現金主義・実現主義の違いは?青色申告での注意点も解説

企業会計原則に示される会計の基準は、会計処理をする上での基本的なルールです。
しかし、企業会計原則に直接的に「発生主義とは」「現金主義とは」などの記載があるわけではありません。
この記事では、企業会計原則における「発生主義」や「実現主義」について、対立する概念である「現金主義」とともにわかりやすく解説していきます。

会計における3つの主義

わが国の会計は、一般に公正妥当と認められる会計慣行に従うこととされています。企業会計原則は、その基準の一つとして1949年に定められて以来、経済・社会の変化にあわせて改訂されてきました。

企業会計原則
1一般原則
2損益計算書原則
3貸借対照表原則

企業会計原則は左のように3部構成となっており、損益計算書原則は、企業が損益計算書を作成する際に適用すべきルールを示しています。
そして損益計算書原則には、損益計算書の本質として「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。(後略)」と記されています。

この「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」という考え方を発生主義の原則と呼んでいます。言い換えますと、発生主義の原則は「費用と収益は発生した期間に計上する」ことを要請しているわけです。

損益計算書原則
1発生主義の原則
2実現主義の原則
3総額主義の原則
4費用収益対応の原則

発生主義に従う中で、「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」という部分については実現主義の原則と呼ばれています。
実現主義の原則は、収益は実現したもののみを計上することを要請していると言えます。損益計算書原則は、企業会計原則において一般原則や貸借対照表原則と共に企業の会計の基礎ルールを担っています。
また、企業は半永久的に営業活動を続けるという前提があります。したがって、利益を計算するためには、どこかで期間を区切る必要があります。この区切った期間を会計期間といいます。企業会計では、企業が一会計期間にどれだけ利益を獲得したのかを計算することになりますが、この考え方を「期間損益計算」といいます。発生主義は期間損益計算を達成するために生まれた考え方だと言えます。
一方、現金主義という考え方があります。現金主義とは、会計において現金の支出と収入があった時点で金額を計上する考え方です。
現在は個人事業主確定申告において、規模が小さな一定の人を対象に現金主義会計が許されているのみです。したがって、現金主義は企業会計原則で示されている考え方ではありませんが、発生主義と対立する概念として、発生主義を捉える上で非常に重要な考え方となります。

発生主義とは?

発生主義は、取引をとらえる上で、現金の出入りではなく取引が発生したタイミングで認識する考え方です。
例えば、会社で使うために1,000円の文房具を買って、支払は月末にしたとします。
発生主義では、まず商品を購入したタイミングで会計仕訳をするわけです。
取引の終了を待たずに、取引を発生(取得、購入など)と処分(支払、入金、廃棄など)分けて考える方法であり、取引には必ずしも金銭は関係しません。

発生主義
取引
借方
貸方
購入時
商品を購入する
消耗品費
1,000円
未払金
1,000円
支払時
商品代金の支払いをする
未払金
1,000円
現金
1,000円

たとえば、減価償却とは、固定資産の取得価額を毎年規則的に費用とする会計処理のことですが、固定資産の使用によって生じる価値の減少を、費用の発生ととらえて費用を認識しています。これは、発生主義の考え方に基づくものです。

実現主義とは?

売上などの収益について発生主義を適用した場合、客観性、確実性に欠けることがあります。
当期にはまだ実現していない収益が当期の収益として認識されることは、期間損益計算では許されません。
例えば、X社から20,000円の商品の発注があり、先に手付金として現金10,000円が入金されたとします。単なる発生主義の考えだと、発注があった時点で計上した売上20,000円には確実性はありません。商品の納品が遅れて翌期になることもあります。

取引
借方
貸方
単純な発生主義
20,000円の商品の発注あり
預金
10,000円
売上
20,000円
売掛金
10,000円
商品を納品した
仕訳なし
実現主義
20,000円の商品の発注あり
預金
10,000
前受金
10,000
商品を納品した
前受金
10,000円
売上
20,000円
売掛金
10,000円

そこで、「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」という実現主義の考え方により制限をかけ、実現した時点で収益として認識して損益計算書に計上することとしています。

このように、発生主義の考えを支えるために、収益は実現主義、費用はその収益に対応した発生主義により計上されます。それが、企業会計原則の求める期間損益計算となるわけです。

現金主義とは?

現金主義とは、現金の受け取りや支払いがなされた時点で会計処理をする考え方です。現金主義のよい点としては、取引の管理に対する手間が少なく、不正をしづらい点などが挙げられます。
しかしながら、現金主義は現金が動いた時点での認識基準となるため、将来の費用の支払いや過去の収益の入金を現金主義で記録すると、期間損益計算が成り立ちません。

たとえば、掛けで商品を取得した場合は、現金主義だと支払うまで帳簿には現れません。その結果、正しい損益計算書ができなくなってしまいます。
1,000円の文房具を買って、支払は月末にした例では次のようになります。
支払が翌期になると、当期には費用が計上されず、正しい期間損益計算ができなくなります。

現金主義
取引
借方
貸方
購入時
商品を購入する
(仕訳なし)
支払時
商品代金の支払いをする
消耗品費
1,000円
現金
1,000円

現金主義はキャッシュの動きがわかりやすいという点で活用の場は大いにあります。
企業会計においては、現金主義は許されていないものの、黒字倒産(利益はあっても資金がなくなったための倒産)を防ぐために、資金繰り表等を作成した「キャッシュフロー経営」にも力をいれるべきでしょう。
資金繰り表は、明らかに現金主義で取引をとらえたものの集まりです。

発生主義と現金主義が活きる会計とは?

ここまでは、発生主義と現金主義について重点的に説明してきましたが、今度は実際によく見る伝票において、発生主義と現金主義がどのような形で活かされているかを見ていきます。

<起票例>
(1)

借方
貸方
○○費用
10,000円
現金
10,000円

この仕訳は費用が発生した時点で、発生主義によって費用計上していますが、現金で支払っています。
このように、適正な期間損益計算を行うためには発生主義にもとづく起票が必要となりますが、実際の取引では現金主義での計上も行われていることになります。実際の取引ではこのようなケースは多いといえます。
もし、上の「〇〇費用」が翌期に計上すべき費用であれば、決算時に発生主義にもとづく(2)の仕訳を行い、翌期の費用として計上する必要があります。

(2)

借方
貸方
前払費用
10,000円
○○費用
10,000円

この仕訳は決算仕訳として利用されるもので、決算振替と呼んだりします。
期中において費用が発生した時点で、発生主義によって費用計上し現金で支払ったとしても、その費用が来期分のサービス費用であった場合は、発生主義に基づき、「当期の発生費用ではない」とするために、上のように前払費用として貸借対照表の資産として計上します。

実現主義が活きる会計とは?

<起票例>

借方
貸方
期中起票時
売掛金
10,000円
売上高
10,000円
決算時
売上高
5,000円
前受収益
5,000円

実現主義は、発生主義における収益の認識基準です。
例えば、当期に当社サービス売上を計上しましたが、そのうち半分は翌期のサービスに係るもので当期に属さないとします。
一旦、発生したサービスをすべて売上高としましたが、決算時にまだ売上が当期に実現していない1/2を振り替えます。
未実現売上の振替先は債務であり、翌期において顧客に提供しなければならないサービスです。

わが国の発生主義による会計では、収益は実現主義により認識をするものとされてきましたが、その収益認識に関する包括的な会計基準が長い間存在しませんでした。しかし、収益認識に関する会計基準が整備され、今後はこの会計基準が収益認識のルールとなっていくでしょう。適用開始予定は2021年4月です。
(参考:企業会計委員会:収益認識に関する会計基準

貸借対照表でも発生主義による財政状況の把握を

発生主義による取引の仕訳は、損益計算書にも貸借対照表にも現れてきます。
貸借対照表は、右側が資金の調達源泉を示し、左側が資金の運用形態を示しています。

損益計算書原則には、実現主義の記載に続いて「前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。」とあります。

例えば、貸借対照表に、当期の売上から振替られた前受収益が多ければ、来期の売上が期待できることがわかりますし、前払費用があれば来期の費用はすでに支払済みであることがわかります。
固定資産についても、減価償却累計額がわかれば資産の規模も見えてきます。

発生主義で作成された損益計算書だけでなく、貸借対照表に現れた「財産の状況」について分析すると、よりその会社の置かれた状況が見えてきます。

青色申告での手続について

最後に、個人事業主は、一定要件を満たせば現金主義による記帳が認められています。現金主義により起票し、確定申告が認められている個人事業主の要件とは次の3つです。

  • 青色申告
  • 前々年分の所得金額が300万円以下
  • この特例を適用する年の3月15日までに届出書提出

しかしながら、この現金主義の特例でも減価償却費の計上が求められており、完全な現金主義とは言えなくなっています。

(参考:国税庁:現金主義による所得計算の特例を受けるための手続き

よくある質問

発生主義とは?

取引をとらえる上で、現金の出入りではなく取引が発生したタイミングで認識する考え方です。詳しい説明や、現実主義・現金主義についてはこちらをご覧ください。

現金主義のメリットは?

現金主義はキャッシュの動きがわかりやすく、黒字倒産を防ぐことが出来ます。詳しくはこちらをご覧ください。

確定申告が認められている個人事業主の要件とは?

「青色申告」「前々年分の所得金額が300万円以下」「この特例を適用する年の3月15日までに届出書提出」が要件になります。詳しくはこちらをご覧ください。


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