- 更新日 : 2022年2月10日
エクセルを使用した給与計算の方法とは?メリットや関数を紹介
エクセルでの給与計算は、コストを安く抑えられ手軽に使えるメリットがある一方で、法律の改正を随時手動で反映しなければならないといった作業が必要です。ここでは、エクセルを使用した給与計算で必要な記載項目や便利な関数を紹介するほか、税率や保険料といった給与計算の注意点について解説します。
目次
エクセルで給与計算を行うメリットとは?
エクセルでの給与計算は、数式による計算ミスの防止や、導入コストの削減がメリットに挙げられます。エクセルは表計算のためのソフトです。数式に精通している人がフォーマットを作成すれば、自社の運用にあわせたカスタマイズも可能です。ほかの給与計算ソフトのように、導入のための初期費用やランニングコストを心配する必要もありません。
計算における人為的なミスを防げる
給与計算で重要なのは、従業員ごとの勤務時間・日数の集計や割増賃金率、社会保険料率の計算を正しく行うことです。しかし、数字一つでも入力ミスがあれば、支給する給与額や納めるべき税額に間違いが発生してしまいます。
エクセルでは、給与計算の元となる勤務時間数が正しく入力されていれば、計算式に基づいて正確な値を返してくれます。フォーマットを流用することも可能であり、手動計算と比べて、給与計算のスピードと正確さの両方を担保できます。
基本的には無料で使用できる
エクセルでの給与計算には、基本的に初期費用やランニングコストがかかりません。Microsoft Officeをインストールしていない場合は別途購入する必要がありますが、すでにエクセルが使えるパソコンであれば無料で給与計算の処理ができます。また、エクセルではなくGoogleのスプレッドシートを使用する方法もあります。
クラウド型の給与計算ソフトや給与計算をアウトソーシングするときとは異なり、従業員が増えたとしても、給与計算のランニングコストは変わりません。
エクセルでの給与計算で最低限必要な項目
エクセルでの給与計算は自社のやり方にあわせて、カスタマイズできます。その際、必ず必要となるのは従業員の勤務時間といった勤怠情報です。それ以外に、給与の締め日や手当に関する情報も必要です。
以下に、エクセルの給与計算で入れるべき項目を解説します。
① 給与の計算期間
給与の計算期間を入力する項目を作成しておくと、給与計算の際「いつの」給与なのか間違わずに計算できます。あとあと給与明細書にも転記できるため便利です。
② 従業員情報
従業員氏名、生年月日、年齢、住所、扶養家族の情報を入力する欄を作成します。すでに労働者名簿など関連情報を確認できる書類をエクセルで作成している場合には、そちらと連携するのもいいでしょう。入社日を入力しておけば、有給休暇日数の管理も一緒に行えます。
③ 基本給や交通費などの給与データ
給与の支給項目として、原則固定となる基本給や交通費もあらかじめ入力しておきます。従業員情報と同じシートにまとめて管理しておくと、昇給の際など、変更もスムーズに行えます。
④ 手当に関するデータ
住宅手当、役職手当、家族手当といった従業員個人に紐づく手当に関する情報を入力します。転勤によって住宅手当の額が変動したり、結婚で扶養家族が増えたりと、手当の額に変動がないか毎月の給与計算の前に確認します。こちらも、従業員情報とまとめて同じシートで管理するといいでしょう。
割増賃金を計算するにあたって、割増賃金の単価(1時間当たりの割増賃金の単価)に含めなければならない手当と含めない手当があります。以下の7つの手当は割増賃金の計算の基礎に含めないため、それぞれ区分して管理できるようにしましょう。
<割増賃金の計算に含めない手当(名称にとらわれず実態で判断)>
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
⑤社会保険料率など控除に関するデータ
毎月の給与から差し引く、健康保険料や雇用保険料などの保険料率を入力します。年齢にあわせて、介護保険料の徴収の有無なども確認しておきましょう。
⑥ 従業員の勤怠に関するデータ
エクセルでの給与計算で一番重要な部分です。各従業員の出勤日、始業時間、終業時間を入力し、給与計算の元となるデータを作成します。従業員の勤怠データは、タイムカードなどで打刻したものを給与計算担当者がエクセルに入力し集計する方法と、各従業員がエクセルに入力した情報を給与計算担当者が集計・確認する方法があります。
給料を計算する際には、従業員の労働時間と割増賃金が発生する残業時間の集計が最も重要です。割増賃金を計算するには、「1か月の平均所定労働時間」をベースに1時間当たりの割増賃金の単価を計算します。しかし、うるう年、1年の日曜祝祭日の日数、曜日の巡りによって年間の所定労働日数が異なり、それに伴い「1か月の平均所定労働時間」が変動するケースが少なくありません。年間の休日日数も年ごとに変更する必要があることに留意しましょう。
また、働き方改革により多様な働き方に対応するため、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制、1箇月単位の変形労働時間制など、変形労働時間制を採用する企業が増えています。フレックスタイム制の場合には清算期間中の総労働時間、1年単位や1箇月単位の変形労働時間では対象となる期間の所定労働時間によって、割増賃金の計算方法や清算方法が異なります。それぞれの割増賃金の計算方法を理解して、間違いがないようにエクセルの計算式を設定しなければなりません。
勤怠管理をエクセルで行う場合、「残業時間」「深夜労働」「休日出勤」の時間を自動で抽出できるように関数を設定しておくと、給与計算時にミスを抑えることができます。しかし、変形労働時間制を導入するなど複雑な計算が必要となる場合には、クラウド型の給与計算ソフトを導入することも検討しましょう。
参考:変形労働時間制について|厚生労働省 三重労働局
給与計算で役立つエクセル関数
給与計算をエクセルでミスなく、かつ効率的に行うには、関数を有効的に活用しましょう。関数をシートに設定しておくだけで、入力するべき箇所を減らすことができ、業務負担の削減にもつながります。
以下に、知っておくと給与計算で役立つエクセルの関数を紹介します。
WEEKDAY 関数(日付に曜日を割り当てる)
エクセルの給与計算では、管理している勤怠データに日付と曜日を割り当てる必要があります。たとえば、通常土日を休日としている週休二日制の企業の場合、週末の勤務では休日労働の割増賃金が発生するかもしれません。また時給で働いている従業員が、平日と週末とで時給が異なるケースもあります。
このように、給与計算では曜日によって賃金の取り扱いが異なる可能性があります。日付に合わせて自動で曜日が入力される「WEEKDAY」関数を使用すれば、間違わずに曜日を表示させられるうえ、入力の手間を省略できます。
CEILING、FLOOR、MROUND関数(端数処理)
給与計算は、労働基準法において原則として働いた分の賃金を全額支払わなければいけないと定められています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(労働基準法第24条1項)
そのため、1日の労働時間で15分未満の端数を切り捨てたりするような端数処理は違法となります。しかし、給与計算の実務に合わせ、例外的に以下の端数処理が認められています。
なお、これは割増賃金を計算する上での端数処理を事務簡便の視点から認められている方法です。割増賃金以外の計算で端数を処理すると、全額払いの原則に反する可能性があるため、注意しましょう。
- 割増賃金の計算における、1ヵ月通算の労働時間の端数処理
- 1時間あたりの賃金額における、円未満の端数処理
- 1か月における割増賃金の総額の円未満の端数処理
時間外労働、休日労働、深夜労働での割増賃金の計算で、1ヵ月間のそれぞれの時間数を合計し、1時間未満の端数が発生する場合、30分未満であれば切り捨て、それ以上であれば1時間に切り上げます。
月給の場合は、割増賃金や欠勤控除の計算で「1時間あたりの賃金(もしくは割増賃金)」を算出します。この際、50銭未満は切り捨て、それ以上は切り上げて1円とします。たとえば1時間あたり賃金が「1250.3円」の場合は「1250円」とし、「1250.7円」であれば「1251円」として計算します。
時間外労働、休日労働、深夜労働の1ヵ月の割増賃金の計算で、それぞれ1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満を切り捨て、それ以上を切り上げて1円として計算します。
参考:Q10 残業手当の端数処理は、どのようにしたらよいですか。|厚生労働省 鹿児島労働局
こうした端数処理では、基準の数値を設定し切り上げを行う「CEILING関数」、切り捨てを行う「FLOOR関数」、切り上げまたは切り捨てを行う「MROUND関数」を活用するのが効率的です。
IF関数(残業あり/なしの判別など)
条件にあわせ、残業の有無を判別する関数の使用は、雇用保険や社会保険の確認に役立ちます。
雇用保険では週20時間以上の労働が加入要件です。また、社会保険でも従業員数501人以上の企業であれば、以下の条件に当てはまるパート・アルバイトは加入の対象になります。
【短時間勤務の場合の社会保険の加入条件】
- 従業員数501人以上の企業で
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 1年を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
この「所定労働時間」に原則として残業時間は含まれません。たとえば1日4時間、週4日の契約で雇用しているパートタイムの場合、1日2時間の残業が3日間発生した週があっても、雇用保険の対象外となります。
そのため「IF関数」を用いて、週の所定労働時間を超える勤務時間を通常とは区別し、「残業時間」と表示させると、その従業員が雇用保険の対象になるか否かを一目で判別できるようになります。
エクセルで給与計算をする上での注意点
エクセルの給与計算は、コストが低く自社のやり方にあわせて行える反面、転勤や結婚といった従業員の状況の変化や、就業規則の変更など、給与計算にまつわる変更はすべて手動で対応する必要があります。
なかでも、法改正による税率変更は、給与計算ミスに直結するため小まめに確認しなければいけません。以下に注意点を解説します。
改正で税率などが変わった場合対応する
エクセルの給与計算は、関数を用いてフォーマットが完成すれば、毎月継続して使用することができます。しかし、社会保険料の税率変更などがあり、フォーマットに入力している計算式に影響がある場合は、手動で対応しなければいけません。
たとえば、雇用保険料率や労災保険料率は頻繁に変更が行われるため毎年確認が必要です。12月に行う年末調整でも、各種控除の適用条件について変更がないか確認しなければなりません。
エクセルの表計算では法改正により変更がある箇所を踏まえ、計算式の入力が最低限で済むようにフォーマットを工夫しておくとよいでしょう。
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エクセルの表計算は、ランニングコストが抑えられるため、少人数の企業や個人事業主が給与計算をする場合に適しています。自社のやり方にあわせ、フォーマットを簡単に作成出来る点も魅力です。関数を上手に活用すれば、業務効率化を図れます。
ただし、入力した計算式が間違っていると、間違いに気づかないまま給与計算をしてしまう恐れもあります。そのため、給与計算にまつわる知識を抑えたうえで、関連する法律を確認しながら運用することが大切です。
勤怠管理や給与計算に詳しくないから不安、法改正を随時チェックする余力がないという場合は、誰でも簡単に給与計算を行え、税率などの変更があれば自動でアップデートされる「マネーフォワードクラウド給与」を検討してみるといいでしょう。
製品の機能や使い方に関するオンライン個別説明会も行っておりますので、まずは気軽にお問い合わせください。
よくある質問
エクセルで給与計算を行うメリットは何ですか?
費用を抑えられます。ソフトのインストールなど特別な手続きなしに開始することが可能です。また項目を自由に設定できるため、関数や計算式の扱い次第で自社のやり方に合ったフォーマットを作成できます。詳しくはこちらをご覧ください。
エクセルに記載が必須の項目について紹介してください
従業員氏名といった基本情報のほか、基本給や各種手当など支給額に関連するもの、また社会保険料など控除に関連する項目をマスタとして用意します。それに加え給与計算の元となる勤怠情報を入力・集計します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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