- 更新日 : 2025年3月28日
2カ所以上の会社で雇用されるようになった場合の社会保険の取り扱いについて
一般に、会社勤めの方は勤め先の会社(適用事業所)で社会保険に加入します(※1)。
社会保険には「健康保険」(※2)と「厚生年金保険」があり、従業員のみならず会社の社長や役員の方でも加入できます。
通常、社会保険の加入手続きは、入社と同時に会社が行います。
しかし、すでに会社勤めをしていながら、新たに別の会社に勤める(別の仕事を始める)という例も少なくありません。
例えば、本業の傍ら副業でアルバイトをすることなどが挙げられます。
また、会社の代表者が新たに別の会社を設立して、両方から報酬を受ける場合もこれに該当します。
今回は、このように2カ所以上の会社で雇用されるようになった場合の社会保険の加入について解説します。
※1 なかには、社会保険が適用されない会社もあります。法人ではない個人経営で、従業員が常時5人未満の場合、または農林水産業、サービス業など特定の業種に属する会社については、社会保険の適用が任意とされています。
※2 健康保険加入者のうち、40歳以上の方は介護保険にも加入することになります。
社会保険の加入要件
まず、社会保険の加入要件について見ていきましょう。
そもそも社会保険は「国民皆保険・国民皆年金」という日本の社会保障制度を成り立たせるために、強制加入を原則としています。
そして、社会保険が適用されている会社(適用事業所)と使用関係にあり、労働の対価として賃金を得ている人なら、国籍、年齢、賃金の多寡などに関係なく被保険者となります。
主な例外には「短時間労働者」があげられます。これはいわゆるパートタイマーやアルバイトとして働く人々のことです。
ただし、短時間労働者が一定の条件を満たす場合は、社会保険加入の対象となります。
- 1週間の所定労働時間…同一の事業所に使用される通常の労働者の3/4以上
- 1カ月の所定労働日数…同一の事業所に使用される通常の労働者の3/4以上
1週間の所定労働時間や1カ月の所定労働日数が3/4未満であっても、以下の場合にすべて該当する人は、短時間労働者になります(被保険者が常時501人以上の企業や、500人以下でも労使合意に基づき申出をしている企業や個人事務所の場合)。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が88,000円以上であること
- 学生でないこと
出典:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
「通常の労働者」とは、一般的にフルタイムの正社員を指します。フルタイムの目安は、その会社の就業規則などに定められた勤務時間に基づいて考えます。
一般的には「1日8時間、1週40時間」が基準となっていることが多く、この原則は労働基準法のなかで定められている法定労働時間に基づいたものです。
パートやアルバイト社員の場合、この労働時間が保険加入の可否を左右します。
例えば、1週間の平均労働時間を40時間として、40×3/4=30、つまりその人の労働時間が週30時間以上か否か、これがひとつの基準となります。
「有期契約の従業員は社会保険に加入する必要がない」と考えている人が居るかもしれません。
しかし、契約期間の定めの有無は、社会保険の加入に直接影響しません。
例えば、無期契約の従業員であっても、1日4時間で週5日勤務なら計20時間で加入要件を満たしません。これとは逆に、有期契約の場合でも、1日8時間で週4日勤務なら、計32時間となるため社会保険に加入する必要があります。
では、2カ所以上の会社で雇用される場合、どのように社会保険加入の要件が該当するかを見ていきましょう。
2カ所とも要件を満たさない場合
勤め先が2カ所とも短時間勤務で、週30時間以上の要件を満たさない場合には、原則どちらの会社の社会保険も加入対象外です※。
つまり、短時間勤務の職場をいくつ掛け持ちしようと、社会保険には原則加入対象外となります。その場合は、従業員が個人で国民健康保険に加入する必要があります。
健康保険はサラリーマンとその家族を対象とする医療保険ですが、国民健康保険は、健康保険加入者以外の人(すでに退職した75歳までの高齢者や無職者、自営業者など)を対象としています。このため、社会保険の加入要件を満たさない従業員も、国民健康保険の加入者には該当します。
運営する保険者が市町村(または同業の自営業者による国保組合)ということになるため、加入者自らが加入手続きをする必要があるのです。
なお、年金は自動的に国民年金となり、被保険者自身が毎月月末に前月分の保険料を納付します(口座振替も可能)。
1カ所で要件を満たす場合
複数の会社で働いていて、どちらか1つの会社で社会保険の加入要件を満たす場合は、その会社で社会保険に加入します。
この場合、社会保険加入などの手続きや支払う保険料、受け取る保険金などについては1社のみで働いている場合と同じです。
2カ所とも要件を満たす場合
所属している2カ所以上の会社がいずれも社会保険の加入要件を満たす場合、会社と本人それぞれで、社会保険の手続きを行う必要があります。それぞれの手続について見ていきましょう。
本人
2カ所以上の会社で社会保険の加入要件を満たした場合は、被保険者本人が主たる事務所を選択する必要があります。具体的には、2カ所以上の会社で社会保険の加入要件を満たした事実の発生から10日以内に「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。
提出先は、選択する事業所の所在地を管轄する年金事務所です。
保険料の支払い
年金事務所では、すべての会社の給料を合算し、給料額に応じた各会社や被保険者本人の社会保険料を算定します。会社や本人は、年金事務所の計算した金額を納めます。
例えばA社から30万円、B社から10万円の給料を受け取っていたとします。また、この給料(標準報酬月額)に対応する保険料は4万円でした。
この場合、A社とB社の賃金は3:1であるため、社会保険料もこの割合で按分します。按分後の保険料はA社分3万円、B社分1万円となります。
2カ所以上の会社に雇用される場合は社会保険料に注意
以上のように、2カ所以上の会社に雇用される場合でいずれも社会保険の加入要件を満たす場合は、それぞれの会社で資格取得届を提出する必要があります。この場合いずれか一つの会社を選択事業所として届出を提出し、選択する会社の管轄する保険者によって一括して業務が取り扱われます。
多様な働き方に合わせた適切な社会保険の取り扱いについて理解を深めておきましょう。
よくある質問
正社員の社会保険の加入条件は?
正社員は原則、社会保険に加入しないといけません。パート・アルバイトの場合は一定の条件を満たせば加入できます。詳しくはこちらをご覧ください。
パート・アルバイトの場合の社会保険の加入条件は?
1週間の所定労働時間、1カ月の所定労働日数が3/4以上の場合などでは社会保険に加入します。 詳しくはこちらをご覧ください。
2か所で社会保険に加入している場合の手続きは?
詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労災保険の給付期間や申請期限は?休業補償などの種類別に解説!
労災保険の給付には療養補償給付や休業補償給付、葬祭料などがあります。それぞれいつまで補償が受けられるのかに加え、申請可能な期限を確認しておきましょう。うつ病が労災認定されるまでには通常よりも時間を要することが多いため、早めに請求することもポ…
詳しくみる社会保険料の定時決定とは?算定基礎届の書き方・随時改定との違いをわかりやすく解説
健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は毎年見直され、7月1日時点の被保険者を対象に4月から6月までの報酬をもとに標準報酬月額が決定します。この手続きが「定時決定」です。 定時決定は、算定基礎届を作成し、提出することで実施されます。この記事…
詳しくみる厚生年金保険の加入年齢と受給年齢について
厚生年金保険はいつから加入でき、いつまで保険料を納めることができるのか。また、いつから厚生年金を受け取ることができるのか。これらを理解することは、老後の生活を維持するうえでとても重要になります。 そこで、今回は、厚生年金保険の加入年齢と受給…
詳しくみる資格確認書とは?どこでもらえる?送付状のテンプレも
2024年12月2日以降、従来の健康保険証が新規発行されなくなる代わりに、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」が基本となります。 しかし、何らかの事情でマイナンバーカードを取得・利用できない方のために、医療保険者(協…
詳しくみる労災保険とは
労災保険とは、業務中や通勤中に起こる不測の事態を保障する制度で、「労働者災害補償保険法」により裏打ちされています。 この労災保険に加入していれば、病気やけがはもちろんのこと、死亡や障害など大事に至った場合にも保険金が給付されます。ここでは、…
詳しくみる扶養手当とは?支給条件や金額、家族手当との違いについて解説
扶養手当とは、企業が福利厚生の一環として、扶養家族のいる従業員に対して支給する手当のことです。本記事では扶養手当の金額の相場や支給条件、家族手当との違いを解説します。また、育休中や離婚したとき、ひとり親への対応についてもお伝えします。近年、…
詳しくみる