• 更新日 : 2026年10月5日

退職所得控除とは?計算方法や早見表、退職金にかかる税金の求め方を解説

Point退職所得控除とは何か?

退職所得控除とは、退職金から一定額を非課税で差し引ける税制上の優遇制度です。

  • 勤続20年以下は40万円×勤続年数
  • 勤続5年以下は、控除後の退職所得のうち300万円を超える部分について2分の1課税が非適用
  • 申告書未提出で一律20.42%源泉徴収

Q. 勤続30年で退職金2,000万円の税額は?

A. 控除額1,500万円を引いた250万円が課税対象となり、所得税の納税額は約15.6万円程度です。

退職所得控除とは、退職金など「退職所得」から一定額を差し引ける所得税法上の優遇制度です。本記事では、退職所得控除の計算方法や勤続年数別の早見表、退職金にかかる税金のシミュレーション、iDeCoや5年ルールなどの注意点まで、バックオフィス担当者が押さえておきたいポイントを解説します。

退職所得控除とは?

退職所得控除とは、退職一時金などの「退職所得」から一定額を非課税で差し引ける制度であり、この控除により課税対象額が大きく減り、所得税・住民税の負担が軽くなります。

毎月の給与や賞与は「給与所得」として課税されるのに対し、退職時に受け取る退職一時金や一定の一時金、解雇予告手当などは「退職所得」に区分されます。なお、企業年金については、受け取り方によって所得区分が異なり、一時金として受け取る場合は退職所得となることがありますが、年金形式で受け取る場合は原則として雑所得(公的年金等)として扱われます。

退職所得は長年の勤務に対する功労報酬としての性格を持つ一時的な所得であるため、税制上の特別な配慮として退職所得控除や後述の2分の1課税が設けられています。

退職所得控除の対象となる退職金

対象となるのは、退職一時金や確定拠出年金の老齢一時金、解雇予告手当、企業倒産時の未払賃金立替払制度による退職手当相当額などです。これらはいずれも税法上「退職手当等」として退職所得控除の適用対象になります。

一方で、退職後に支払われる顧問料や業務委託料、在職中の賞与、年金形式で分割支給される退職年金は対象外となるため注意が必要です。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

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退職所得控除額の計算方法は?

退職所得控除額は、勤続年数が20年以下か20年超かによって計算式が異なります。20年以下は「40万円×勤続年数」、20年超は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で算出します。

この計算式は所得税法および所得税法施行令に定められており、勤続年数が長いほど控除額が大きくなる仕組みです。

勤続年数の端数はどう数える?

勤続年数に1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。たとえば勤続19年6カ月であれば「20年」として扱います。

この端数切り上げの取り扱いは、退職所得控除額を算出する際の法定ルールとして明確に定められています。

勤続年数20年以下・20年超の計算式

勤続年数 退職所得控除額の計算式
20年以下 40万円 × 勤続年数(計算結果が80万円未満の場合は80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)

たとえば勤続15年(実際は14年3カ月、端数切り上げで15年)の場合は「40万円×15年=600万円」、勤続40年の場合は「800万円+70万円×20年=2,200万円」となります。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

勤続年数別の退職所得控除額早見表は?

ご自身の勤続年数と照らし合わせるだけで、退職所得控除額がわかる早見表です。受け取る退職金がこの金額以下であれば、課税対象額はゼロとなります。

勤続年数 退職所得控除額 勤続年数 退職所得控除額
1年 80万円 21年 870万円
5年 200万円 25年 1,150万円
10年 400万円 30年 1,500万円
15年 600万円 35年 1,850万円
20年 800万円 40年 2,200万円

ただし、同一年中に複数の退職金を受け取る場合や勤続年数が短い者・役員等については、控除額や課税方法の扱いが異なるため、申告時には源泉徴収票や支給明細をもとに慎重に確認することが重要です。

退職金にかかる税金はどう計算する?

退職金にかかる所得税は、課税退職所得金額の算出、速算表による税額計算、復興特別所得税の上乗せという3つのステップで求められます。

いずれも所得税法第30条・第31条、所得税法施行令第70条などに基づく計算方法であり、退職金の満額ではなく控除後・2分の1後の金額に課税される点が最大のポイントです。

STEP1 課税退職所得金額を求める

課税退職所得金額は「(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2」で求め、1,000円未満の端数は切り捨てます。

たとえば勤続30年・退職金2,000万円の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×10年=1,500万円」となり、課税退職所得金額は「(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円」です。この1/2計算は所得税法第30条第3項に基づく功労への配慮措置です。

STEP2 所得税の速算表で所得税額を算出する

STEP1で求めた課税退職所得金額に、国税庁公表の速算表の税率を掛け、控除額を差し引くことで所得税額が求められます。

この計算は所得税法第89条および所得税法施行令第164条に基づく超過累進税率によるものです。

課税退職所得金額 所得税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超 330万円以下 10% 97,500円
330万円超 695万円以下 20% 427,500円
695万円超 900万円以下 23% 636,000円
900万円超 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

たとえば課税退職所得金額が300万円の場合、「195万円超330万円以下」の区分に該当し、「300万円×10%-97,500円=202,500円」が基準となる所得税額です。

参考:No.2260 所得税の税率|国税庁

STEP3 復興特別所得税を加えて最終納税額を出す

最終的な納税額は「所得税額×102.1%」で求め、1円未満の端数は切り捨てます。

復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源確保法附則第104条および所得税法第12条に基づき、基準所得税額の2.1%を上乗せする仕組みです。たとえば基準の所得税額が202,500円であれば、「202,500円×102.1%=206,752円(端数切り捨て)」が最終的な所得税の納税額となります。

住民税の計算方法

退職所得には所得税だけでなく住民税も課税され、税率は一律10%(都道府県民税4%、市区町村民税6%)です。

地方税法第34条の2および第321条の5に基づき、退職所得に係る住民税は「特別徴収」として支払者(事業主)が退職金の支払時に源泉徴収し、翌月10日までに納入する仕組みとなっているため、受給者本人が別途納付する必要はありません。

退職金にかかる税金のシミュレーション例は?

計算式に実際の数値を当てはめると、税額のイメージがつかみやすくなります。ここでは2つのケースで試算します。

ケース1 勤続15年、退職金1,500万円の場合

退職所得控除額は「40万円×15年=600万円」、課税退職所得金額は「(1,500万円-600万円)×1/2=450万円」です。

所得税額は「450万円×20%-427,500円=472,500円」、復興特別所得税を加えた最終納税額は「472,500円×102.1%=482,422円」となります。

ケース2 勤続38年、退職金3,500万円の場合

退職所得控除額は「800万円+70万円×18年=2,060万円」、課税退職所得金額は「(3,500万円-2,060万円)×1/2=720万円」です。

所得税額は「720万円×23%-636,000円=1,020,000円」、最終納税額は「1,020,000円×102.1%=1,041,420円」となります。

退職所得控除を利用する際の注意点は?

退職所得控除は勤続年数が短い場合やiDeCoを受け取る際など、税負担や手続きの扱いが変わるケースがあるため、事前の確認が欠かせません。

短期退職で注意すべき「5年ルール」

勤続年数が5年以下の場合、退職金のうち300万円を超える部分については2分の1課税が適用されません。これは一般に「5年ルール」と呼ばれ、短期勤続者への優遇を制限する制度です。

所得税法第30条第4項・第5項、所得税法施行令第70条第3項に基づく取扱いで、2022年1月1日以降の支給分からは法人役員や特定役員等に限らず、一般の従業員については、勤続年数が5年以下の「短期退職手当等」について、退職所得控除額を控除した残額のうち300万円を超える部分には2分の1課税が適用されません。一方、役員等については、勤続年数が5年以下の場合、「特定役員退職手当等」として原則として2分の1課税が適用されません。

iDeCoやDC一時金を受け取る場合の注意点

iDeCo(個人型確定拠出年金)の老齢給付金を一時金で受け取る場合も、税法上は退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となります。

所得税法第30条・第31条、確定拠出年金法第32条に基づく取扱いで、同一年中や近接した時期に複数の退職一時金を受け取ると、勤続年数を通算して控除額を計算するため、控除額を使い切ってしまい2回目以降の受給分が課税対象となる場合があります。受取時期をずらすなどの調整が税負担軽減の対策となります。

退職金が退職所得控除額より少ない場合

退職金の額が退職所得控除額を下回る場合、課税退職所得金額は0円となり、所得税・住民税は課されません。

所得税法第31条および所得税法施行令第69条に基づく取扱いで、控除しきれなかった金額を給与所得など他の所得から差し引くことはできない点に注意が必要です。

複数の会社から退職金を受け取る場合の注意点

前年以前に他の退職金を受け取ったことがある場合や、同一年中に複数の会社から退職金を受け取る場合には、勤続年数の重複期間を調整して退職所得控除額を計算する必要があります。

所得税法施行令第69条第3項に基づき、それぞれを単独で計算するのではなく、通算した勤続年数により控除額を算定する点が通常の計算方法と異なります。

障害者になったことが退職理由の場合

障害者になったことが退職の直接の原因である場合、通常の計算式で算出した退職所得控除額に100万円が加算されます。

これは所得税法施行令第69条第6項に定められた特例で、障害により退職した人の生活への配慮を目的としています。

退職金を年金形式で受け取る場合

退職金を年金形式で受け取る場合、退職所得控除は適用されません。年金として定期的に受け取る所得は「雑所得」に区分され、公的年金等控除の対象となります。

所得税法第35条・第36条、施行令第83条・第84条に基づく取扱いで、一時金として受け取る場合は退職所得控除や2分の1課税の対象となるため、税制上は一時金受け取りの方が有利になるケースが多いものの、老後の資金計画に応じて受取方法を検討することが重要です。

未払賃金立替払制度を利用した場合

企業倒産により国が未払賃金を立て替える未払賃金立替払制度で退職金相当額を受け取った場合も、税法上は退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。

賃金の支払の確保等に関する法律第7条に基づく立替払いであっても、所得税法第30条・第31条上は退職手当等の性質を有するものとみなされます。

参考:未払賃金立替払制度の概要と実績|厚生労働省

令和8年(2026年)施行の退職所得控除の改正で何が変わった?

令和7年度税制改正により、DC一時金と会社の退職手当等を近い時期に受け取った場合の勤続年数重複排除の調整期間が、2026年(令和8年)1月1日以後の支払分から4年以内から9年以内に延長されました。

改正の背景には、雇用の流動化を進める観点から、退職一時金の受け取りタイミングによる控除の使い方に偏りが生じているとの指摘があります。2026年9月時点ですでに施行済みの制度であるため、これから退職金やDC一時金を受け取る人は調整対象になるかどうかを確認しておく必要があります。

DC一時金と退職手当の重複排除期間が4年から9年に延長

会社の退職手当等より前にDC一時金(確定拠出年金の老齢一時金)を受け取っていた場合、退職手当等を受け取る年の前年以前9年以内にDC一時金を受給していると、勤続年数の重複部分について退職所得控除額の調整が行われます(改正前は4年以内)。

なお、退職手当等を先に受け取り、その後にDC一時金を受け取る場合の重複排除期間は従来どおり19年以内のままで変更はありません。

申告書の保存期間・源泉徴収票の提出義務はどう変わった?

DC一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間は7年から10年に延長され、退職手当等を受け取る全ての居住者について、退職所得の源泉徴収票を税務署長へ提出することが義務化されました(改正前は居住者である役員のみ)。

いずれも2026年(令和8年)1月1日以後に支払いを受ける退職手当等・提出すべき源泉徴収票から適用されています。

参考:令和7年度税制改正の大綱の概要|財務省

退職所得控除の適用を受けるための手続きとは?

退職所得控除の適用を受けるには、退職金が支払われる前に「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」を勤務先へ提出する必要があります。

所得税法第203条、所得税法施行規則第77条に基づく手続きで、この申告書を提出すれば勤務先が課税退職所得金額を計算して源泉徴収するため、原則として受給者自身の確定申告は不要です。なお様式は令和8年1月1日以後の退職とそれ以前とで異なるため、提出時期に応じた最新の様式を使用します。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないとどうなる?

申告書を提出し忘れると、退職金の支払額に対して一律20.42%(所得税20%+復興特別所得税2.1%)が源泉徴収されます。

所得税法第203条および所得税法施行令第322条の2に基づき、申告書未提出時は退職所得控除などの優遇を適用せず退職金全額を課税対象とみなして源泉徴収するためです。実際の税負担より多く天引きされることが多いため、翌年に確定申告を行って還付を受ける必要があります。

参考:A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁

関連記事:

退職金の確定申告が必要になるケース

原則として退職金の確定申告は不要ですが、申告書を提出しなかった場合や年をまたいで支払われ源泉徴収が正しく行われなかった場合、海外企業から受け取り日本で源泉徴収がされていない場合には確定申告が必要です。

また、医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税など)を受けたい場合は、退職所得に関係なく確定申告を行うことで税金の還付を受けられる可能性があります。

退職金を受け取る際は申告書の提出を忘れずに

退職所得控除は、長年の勤労に報いるための税制優遇制度であり、勤続年数に応じた控除額の計算方法や5年ルール、令和8年施行の改正内容を理解しておくことで、退職金の手取り額を正しく見積もれます。制度を最大限に活用するためにも、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ必ず提出しておきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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