• 更新日 : 2025年7月14日

「離職票なし」でも雇用保険被保険者資格喪失届の提出は必要?手続きの流れや注意点なども解説

従業員が退職する際、雇用保険被保険者資格喪失届の提出をはじめ、雇用保険に関する事務処理が必要です。もし従業員が離職票の交付を希望しない場合、雇用保険被保険者資格喪失届は提出するべきか、気になる人もいるかもしれません。

本記事では、退職する従業員が離職票の交付を希望しない場合に、雇用保険被保険者資格喪失届の提出は必要であるかを解説します。また、雇用保険被保険者資格喪失届を提出する際の手順や注意点なども解説するため、ぜひ参考にしてください。

離職票なしの場合でも雇用保険被保険者資格喪失届の提出は必要

結論として、従業員に離職票を交付しない場合でも、雇用保険被保険者資格喪失届の提出は必要です。雇用保険法では、雇用保険の被保険者が被保険者資格を失った場合に、ハローワークへ届け出るよう定めています。そのため、従業員が会社を辞める際は、雇用保険被保険者資格喪失届の提出が必要です。

離職票に関する手続きは、原則として従業員が離職票の交付を希望する場合に限り行います。資格喪失の届け出と離職票の交付に関する手続きは、別物として捉えましょう。

離職票とは

離職票とは、労働者が失業保険を申請するために、ハローワークへ提出する書類です。従業員が退職等により雇用保険の被保険者資格を失った際に、会社がハローワークに対して、雇用保険被保険者離職証明書をはじめ必要書類を提出することで発行されます。

基本的に、従業員が交付を希望する場合にのみ発行されますが、59歳以上の従業員が離職する場合は必ず発行しなければなりません。

離職票には離職理由や直近の賃金額などが記載されており、失業保険の額を決定する際に重要な情報が多数含まれています。

関連記事:「離職票は必要?離職証明書との違い、再発行の方法、退職時・失業保険の手続きを解説」

離職票なしの場合の雇用保険被保険者資格喪失届を提出する手順

ここからは、離職票を交付しない場合における、雇用保険被保険者資格喪失届を提出する手順を解説します。

1. 従業員から退職届を受理する

従業員は、会社に退職届を提出することで、正式に退職の意思を表明します。従業員が退職する予定であることを知っていても、退職届を受け取ってから、雇用保険被保険者資格喪失届の準備を始めましょう。

従業員が離職票の交付を希望する場合は、雇用保険被保険者資格喪失届だけでなく、離職票に関する手続きの準備も必要です。退職届を受理する段階で、離職票の交付を本当に希望しないか、入念に確認するよう心がけましょう。

2. 雇用保険被保険者資格喪失届に必要事項を記載する

雇用保険被保険者資格喪失届には、退職者の氏名や被保険者番号、個人番号など26の項目があります。記入ミスがないように、一つひとつ丁寧に記載しましょう。

雇用保険被保険者資格喪失届は、ハローワークインターネットサービスを利用することで、パソコンで必要事項を入力したうえで印刷が可能です。個人番号に関しては、雇用保険被保険者資格喪失届の印刷後に手書きで書く必要があるため注意してください。ほかに記入に関する不明点があれば、管轄のハローワークに確認しましょう。

3. ハローワークへ雇用保険被保険者資格喪失届を提出する

雇用保険被保険者資格喪失届の記入が終わったら、ハローワークへ提出します。提出期限は従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日(退職日の翌々日)から10日以内であるため、余裕を持って早めに対応しましょう。窓口への持参、もしくは郵送で提出できます。

郵送で提出する場合、雇用保険被保険者資格喪失届にはマイナンバーが記載されている点に注意が必要です。マイナンバーは「特定個人情報」に該当し、通常の個人情報より厳格に扱う必要があります。簡易書留やレターパックなど、送付履歴がわかる方法で郵送し、万が一紛失・盗難が発生した際にすぐ対応できるよう心がけましょう。

雇用保険被保険者資格喪失届は電子申請で提出できる?

雇用保険被保険者資格喪失届の手続きは、デジタル庁が提供するオンラインサービス「e-Gov」を利用して電子申請できます。

e-Govを利用すると、雇用保険被保険者資格喪失届を印刷することなく、オンラインで必要事項を入力するだけで送信可能です。e-Govを利用するにはアカウントが必要になるため、あらかじめ作成しておきましょう。

なお、特定の法人による雇用保険被保険者資格喪失届の提出は、e-Govを使った電子申請が義務化されています。電子申請が義務化されている「特定の法人」は、具体的に以下を指します。

  • 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金が1億円を超える法人
  • 保険業法で規定されている「相互会社」
  • 投資信託及び投資法人に関する法律で規定されている「投資法人」
  • 資産の流動化に関する法律で規定されている「特定目的会社」

雇用保険被保険者資格喪失届の手続きを行う際は、自社が上記に該当するかを確認しておきましょう。

離職票を交付せずに雇用保険被保険者資格喪失届を提出する際の注意点

ここからは、離職票を交付せずに雇用保険被保険者資格喪失届を提出する際の注意点を解説します。

離職票を交付しないデメリットを説明する

退職する従業員が、離職票の交付を希望しないと伝えた場合、離職票がないと失業手当を受給できない旨を明確に説明しましょう。後から交付を求められた場合でも発行は可能ですが、会社側が再度手続きを行うため、従業員に送付するまでに時間がかかる点を伝えることも大切です。

従業員の転職先が決まっていると、失業保険を受給しないため離職票は不要であると思いがちですが、必ずしもいらないとは限りません。転職先に入社後、予期せぬトラブルが発生し、すぐ辞めてしまう可能性があるからです。すぐに転職先を辞めた場合、失業保険を申請する際に、支給要件の関係で自社の離職票を求められる可能性があります。

仮に従業員の転職先が決まっている場合でも、離職票が必要になる可能性は詳細に伝えたうえで、交付を希望するか判断してもらいましょう。

離職票の交付を希望しない旨を文面に残してもらう

従業員が離職票の交付を希望しない旨は、口頭だけで確認しても問題ありません。しかし、希望しない旨を文面に残してもらうと、証拠が明確になるため「言った・言わない」のトラブルが起こりにくくなります。文面に残す方法は以下が挙げられます。

  • 退職届に、離職票の交付を希望しない旨を記載してもらう
  • 「離職票交付不要の確認書」といった書類を用意して、署名してもらう
  • メールやチャットツールで離職票の交付を希望しない旨を確認する

離職票は失業保険の受給に関わる書類であり、有無によって労働者の収入を左右する可能性があります。「言った・言わない」のトラブルが発生すると深刻化するおそれがあるため、交付を希望しない旨はぜひ文面に残しましょう。

外国人の従業員には特に注意深く確認する

外国籍の従業員は、日本の雇用保険制度を十分に理解していない可能性があります。失業保険の存在や、離職票との関係などを把握していないことが考えられるため、まずは失業保険や離職票について丁寧に説明しましょう。そのうえで、離職票の交付を希望するかを慎重に確認します。

可能であれば、通訳を介したり母国語で書かれた説明資料を用意したりして、極力誤解を与えないように注意を払いましょう。

雇用保険被保険者資格喪失届の提出以外の退職手続き

従業員の退職時に人事担当者が行う手続きは、雇用保険被保険者資格喪失届の提出以外にも存在します。ここからは、雇用保険被保険者資格喪失届の提出以外の退職手続きを解説します。

健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出

会社で働く従業員は、健康保険や厚生年金保険への加入が必要です。会社を退職する場合は両方とも脱退するため、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出し、資格を喪失した旨を届け出る必要があります。

提出期限は従業員が退職した翌日から5日以内であり、提出先は事業所を管轄する年金事務所です。雇用保険被保険者資格喪失届より提出期限が短いため、従業員が退職するとわかったら早めに準備を始めましょう。

住民税に関する手続きの実施

原則として、会社は所属している従業員の給与から住民税を徴収し、市町村へ納めます。従業員が会社を辞める場合は、徴収対象の従業員が離職する旨を市町村に伝える手続きが必要です。具体的には「給与支払報告に係る給与所得異動届書」を準備し、従業員が居住する市町村に提出します。

提出期限は退職日の翌月10日までですが、徴収した税額を計算して記載する必要があるため、早めに準備しましょう。

退職者への源泉徴収票の発行

源泉徴収票は、発行した年の1月1日から退職日までの間において、退職者に支払った給与や源泉徴収した所得税額などが書かれている書類です。従業員が会社を辞めた際は、退職の日以後1ヶ月以内に、本人へ源泉徴収票を交付する必要があります。

源泉徴収票は、退職した従業員が年末調整確定申告を行う際に使われます。発行が遅れると、従業員が各種手続きをできないため、忘れずに対応しましょう。

退職者の健康保険証や貸与品の回収

従業員は会社を退職すると、会社の健康保険の被保険者資格を喪失します。被保険者資格を喪失することで、会社の健康保険証も使用できなくなるため、退職時に回収しましょう。従業員に健康保険の被扶養者がいる場合は、被扶養者の健康保険証も一緒に回収します。

退職により使用できなくなった健康保険証は、従業員が退職した翌日から5日以内に、事業所を管轄する年金事務所へ提出します。なお、令和6年12月2日以降に発行された資格確認書(黄色のプラスチックカード)も同様です。

また、健康保険証だけでなく、名刺や社員証など従業員が持っている貸与品の回収も忘れないようにしましょう。

従業員の退職後に離職票の交付を求められたら

離職票は不要であると言っていたものの、退職後に予期せぬ事態が発生し、従業員から離職票の交付を求められるケースは少なくありません。退職後の従業員から離職票の交付を求められた場合でも、ハローワークに申請することで離職票を発行できます。退職者の離職票を発行してもらう際は、以下の書類を準備しましょう。

書類名説明
雇用保険被保険者資格喪失確認通知書資格喪失届を提出した際に事業主宛に発行される完了通知
雇用保険被保険者離職証明書離職票の発行に必要な書類。従業員の退職理由や、支払っていた賃金額などを記載する
離職日以前の賃金支払い状況が確認できる資料賃金台帳や出勤簿などを指す。賃金額を証明するものとして必要
離職理由が確認できる資料退職届・解雇予告通知書・労働契約書などを指す。離職理由を証明するものとして必要で、理由に応じた資料を準備する

退職した従業員に関する資料が必要であるため、準備に時間がかかりやすいです。離職票を求められた従業員には、交付に時間がかかる可能性がある点を説明しましょう。

雇用保険被保険者資格喪失届に関するよくある質問

最後に、雇用保険被保険者資格喪失届に関するよくある質問と、その回答を解説します。

雇用保険被保険者資格喪失届の添付書類は?

雇用保険被保険者資格喪失届を提出する場合、添付書類は特にありません。退職する従業員から離職票の交付を求められた場合には、雇用保険被保険者資格喪失届に加えて、以下の書類もハローワークに提出します。

  • 雇用保険被保険者離職証明書
  • 離職日以前の賃金支払い状況が確認できる資料
  • 離職理由が確認できる資料

従業員から離職票の交付を求められない場合は、雇用保険被保険者資格喪失届のみ提出することで、雇用保険に関する退職手続きは完了します。

離職以外で雇用保険被保険者資格喪失届の提出を行うケースはある?

従業員の離職以外にも、雇用保険被保険者資格喪失届の提出を行うケースはあります。具体的には以下の通りです。

  • 労働者の週の所定労働時間が20時間未満となった場合(一時的な労働時間の減少は除く)
  • 労働者が法人の役員になった場合
  • 兼務役員が従業員としての身分を失った場合
  • 労働者がほかの事業所へ出向になり、出向先で生計を維持するための賃金の大部分を受けるようになった場合

雇用保険被保険者資格喪失届の提出は、労働者が雇用保険の被保険者資格を喪失する際に行います。離職以外にも、上記のケースで雇用保険の被保険者資格を失うため、雇用保険被保険者資格喪失届の提出が必要になることを覚えておきましょう。

雇用保険被保険者資格喪失届の提出が遅れるとどうなる?

雇用保険被保険者資格喪失届の提出が遅れると、雇用保険法に違反したとみなされ、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。提出期限である「従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日(退職日の翌々日)から10日以内」を守っていれば、罰則が科されることはありません。

罰則が科されると企業イメージに悪影響を及ぼすリスクがあるため、雇用保険被保険者資格喪失届の提出は忘れないようにしましょう。


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