- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第65条とは?産前産後休業で企業が注意すべきポイントを解説
労働基準法第65条は、妊娠・出産する女性労働者の母性を保護するため、産前・産後の休業に関する規定を定めています。一般に「産休」と呼ばれる制度で、出産前後に女性が働かなくてもよい期間を法的に保障するものです。企業の人事担当者や法務担当者にとって、従業員の妊娠・出産時に適切な対応を行うために理解必須の条文です。この記事では、第65条の第1項・第2項を中心に、具体的な内容と例外規定、制度の趣旨・目的について解説します。
目次
労働基準法第65条第1項(産前休業)
労働基準法第65条第1項では、女性労働者の産前休業について定めています。
「出産予定日の6週間前(双子以上の多胎妊娠の場合は14週間前)以内」に本人から休業の請求があった場合、使用者(企業)はその女性を就業させてはならない
と規定されています。これが産前休業の基本ルールです。
産前休業の期間はいつからいつまで?
単胎妊娠の場合は出産予定日の6週間前から産前休業が可能です。多胎妊娠の場合は身体的負担が大きいため特例として出産予定日の14週間前から休業を請求できます。例えば、予定日が10月1日で単胎妊娠の場合、8月21日(予定日の6週前)から産前休業に入ることができます。多胎妊娠なら7月中旬(予定日の14週前)から請求が可能です。
産前休業は、出産当日まで継続します。出産日は法律上、産前6週間に含まれるとされています(※1)。したがって予定日より実際の出産日が前後した場合でも、出産日までは休業できます。もし出産が予定日より遅れた場合、その遅れた日数分だけ産前休業が自動的に延長されます(この延長によって労働者に不利益が生じることはありません)。逆に予定日より早く出産した場合は、その時点で産前休業は終了し、以後は産後休業に移行します。
※1「出産予定日の6週間前」は原則42日前ですが、出産当日も6週間以内に含まれるため、予定日ちょうどに出産した場合は41日前からが産前休業の請求可能開始日となります。
産前休業の取得要件
産前休業は本人の請求が必要です。つまり、妊娠中の女性労働者が「産前休業を取りたい」と申し出て初めて発動します。請求がない場合、法第65条第1項自体は直接適用されず、そのまま就業を続けることも可能です(本人の意思で出産直前まで働くこともできます)。企業側は請求があれば拒否できず、必ず休業させなければなりません。
労働基準法第65条第2項(産後休業)
労働基準法第65条第2項では、女性労働者の産後休業について規定しています。出産直後の女性の就業を原則禁止するもので、母体の回復と健康確保のために極めて重要な保護規定です。
産後休業の期間はいつからいつまで?
法律上、出産の翌日から8週間は女性を就業させてはならないと定められています。言い換えると、出産日後8週間(約56日間)は強制的に休業期間となります。産前休業と異なり、この産後8週間の休業は女性労働者からの請求がなくても当然に与えられる休業です。企業は本人が「働きたい」と言っても、原則として産後8週間は働かせてはいけません。
ここでいう「出産」とは、妊娠満4か月(85日)以上の分娩を指し、死産や流産、人工中絶の場合も含まれます。したがって妊娠4か月以降に出産(結果的に生児でない場合も含む)した女性には、一律で産後休業(産後8週間の就業禁止)が適用されます。企業は、たとえ残念ながら死産となったケースでも、法律に従い出産後8週間は就業させない対応が必要です。
産後休業の期間計算は「実際の出産日」を基準とします。出産日の翌日を1日目として8週間数えます。例えば、10月1日に出産した場合、10月2日から数えて8週間後の11月26日までが原則就業禁止期間です。
産後休業の例外規定
産後休業には一つだけ例外が設けられています。それは、産後6週間を経過した女性労働者について、本人が就業を希望し、かつ医師が支障ないと認めた業務に就かせる場合です。この条件を満たす場合に限り、産後6週目以降〜8週目の間に就業することが認められています。
つまり、産後6週間が過ぎ、本人が「そろそろ職場復帰したい」と希望し、医師の健康上問題ない旨の判断があるときだけ、8週間経過前でも復帰可能です。
逆に言えば、6週間未満ではいかなる理由があっても就業させることは禁止されており、6週経過後でも本人希望と医師のOKがなければ8週目までは働かせられません。
産後休業の法的効力
産後休業の期間に、企業が一方的に「出てきて働いてくれ」と命じることは法律違反になります。また本人が「休みたくない」「早く復帰したい」と言った場合でも、少なくとも産後6週間は働かせることができません(仮に本人が希望しても医師の確認なしで就業させれば違法です)。
産後休業は母体保護の観点から特に強く守られており、産後6週間は絶対的就業禁止期間、6週経過後〜8週も原則禁止という仕組みになっています。
労働基準法第65条第3項(妊婦の軽易業務転換)
労働基準法第65条には、第1項・第2項の産前産後休業のほかに第3項の規定があります。
第65条第3項では、
「妊娠中の女性労働者が他の軽易な業務への転換を請求した場合、使用者はこれに応じなければならない」
と定めています。これは、妊婦の就業中の負担を軽減する措置です。
妊娠中の従業員が現在の仕事内容を続けることが体調的にきつい場合に、今より負担の軽い業務へ配置転換してもらうよう請求できます。請求を受けた使用者は必ず対応しなければなりません。例えば、力仕事や長時間立ち仕事を伴う業務に就いている妊婦が、座り仕事や負担の少ない業務への変更を求めた場合、企業は可能な範囲で配置転換を行う義務があります。
「軽易な業務」に法律上明確な定義はありませんが、一般的には現在よりも肉体的負担・危険性の少ない業務を指します。原則として本人が請求した業務(本人が希望する軽易な仕事)に転換させる趣旨とされています。
ただし、企業にまったく新しいポジションや業務を創設する義務まではないと解されています。現実には就業規則や勤務状況に応じて、負担の軽い部署への異動や業務内容の変更等で対応するケースが多いです。
この軽易業務転換制度も母性保護の一環であり、妊娠中でも働き続けたい女性が無理なく勤務を継続できるようにすることが目的です。企業は妊婦から申し出があれば真摯に検討し、対応策を講じる必要があります。
労働基準法第65条の目的
労働基準法第65条(産前産後休業および軽易業務転換)の目的は、一言で言えば「働く女性の母性の保護」です。妊娠・出産は女性の身体に大きな変化と負担をもたらします。無理な就労を続ければ、母体の健康や胎児の安全に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
母体と胎児の健康を保護するため
産前休業は出産前の一定期間、業務による過度な負担やストレスから妊婦を守り、安全に出産の日を迎えることを支援する目的があります。特に妊娠後期(臨月近く)は体調が不安定になりやすく、いつ出産となるか予測がつきません。
休業を保障することで、母体の負担軽減と出産準備の時間を確保します。また多胎妊娠ではリスクが高まるため、通常より長い休業期間を与えることでより一層の安全確保を図っています。
出産後の回復や育児準備をサポートするため
産後休業は出産という大仕事を終えた女性の身体回復期間を保証するものです。産褥期と呼ばれる産後数週間は、子宮の回復やホルモンの変化、新生児の世話などで女性の負担が非常に大きくなります。
法律で強制的に休ませることで、職場復帰を焦ることなく安心して療養と育児のスタートに専念できる環境を提供します。医学的にも産後6〜8週程度の静養が推奨されており、それを反映した制度と言えます。
女性の雇用継続を支援するため
もう一つ重要な目的は、女性が妊娠・出産しても仕事を辞めずに済むようにする点です。法律で産前産後の休業や業務軽減を義務づけることで、企業側が妊娠を理由に退職を迫ったり、女性自身が「職場に迷惑をかけるから…」と退職を選択したりせずに済む環境作りを目指しています。
母性保護規定は結果的に男女雇用機会均等(女性の就業継続支援)にも資するものです。第65条は労働基準法の最低基準として、企業に対し妊産婦への配慮を義務付け、出産前後の一定期間は雇用を守る役割を果たしています。
以上のように、労働基準法65条は妊娠・出産に伴う女性の心身の健康と雇用の両面を守るための制度です。企業としてもこの趣旨を十分理解し、従業員が安心して出産・育児と仕事を両立できるよう支援することが求められます。
労働基準法第65条の裁判例
労働基準法第65条に関連して、企業が実務で留意すべきポイントを示す裁判例があります。注目すべきなのは、妊娠・出産を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタニティハラスメント)に関する最高裁判所の判例です。以下、代表的な事例を紹介し、企業が注意すべき点を解説します。
広島中央保健生協事件(最高裁 平成26年10月23日)
広島市の病院に勤務していた女性職員(理学療法士)が第1子妊娠中に労働基準法65条3項の権利(軽易業務への転換)を行使し、体への負担が少ない職務への配置転換を申し出ました。
病院は彼女を別部署へ異動させましたが、その際にそれまで与えていた副主任(管理職)の役職を外し、降格扱いとしました。出産・育児休業を経て職場復帰した後も副主任には戻されず、役職手当分の給与も減額されたままだったため、女性は減給分の支払と慰謝料等を求めて提訴しました。この訴訟は最高裁まで争われ、最終的に女性側が勝訴しています。
最高裁判所は「妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる」会社の措置について、原則として男女雇用機会均等法9条3項が禁止する不利益取扱いに当たると判示しました。
均等法9条3項は「妊娠・出産、産前産後休業の取得等を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止」を規定する強行法規です。最高裁はこの強行規定に違反する就業規則や取扱いは無効であることを明言したうえで、以下のような厳格な判断基準を示しました。
違法となる原則
妊娠・出産に関連して勤務軽減措置(産休や軽易業務転換等)を利用したことを「契機」とする不利益取扱い(降格や減給、配置転換、解雇など)は原則すべて違法(均等法違反)となります。
適法となり得る例外
例外的に許されるのは、
①労働者が自由な意思で降格を承諾したと認められる合理的理由が客観的に存在する場合、
または
②どうしても降格しないと業務運営に著しい支障が生じ、かつその措置が均等法の趣旨に反しない特段の事情が存在する場合
に限られるとしました。
②の「特段の事情」とは、業務上どうしても必要で、不利益を回避する努力を尽くしたが配置転換では対応できず已むを得ない場合など、極めて限定的な状況です。最高裁は「かなり厳格な理由が必要」だと述べ、実質的にこれら例外に該当しない限り違法と判断されています。
形式的理由の排斥
会社側が表向き「能力不足」など妊娠と無関係な理由で処分したと主張しても、実質的に妊娠や産休取得をきっかけとしていれば不利益取扱いに該当するとしました。一般に妊娠・出産事由の終了(出産から)1年以内に行われた不利益処分は、それを契機としたものと推定されるとも述べています。
本件では、女性は望んで降格を承諾したわけではなく、病院側も業務上どうしても降格させる必要があったとは言えませんでした。そのため病院の降格措置は違法・無効と判断され、女性の損害賠償請求が認められました。この最高裁判決は日本で初めてマタニティハラスメントに明確な判断を示した重要判例であり、後の法改正にも影響を与えました。
上記判例から明らかなように、妊娠・出産に関連する権利(産前産後休業や軽易業務転換、育児休業など)を行使した労働者に不利益な扱いをすることは厳禁です。降格のみならず、解雇・減給・嫌がらせ的な配置転換なども広く含まれます。
もし業務上の都合で何らかの人事変更が必要な場合でも、本人の明確な同意を得るか、よほど合理的で緊急の事情がない限り行ってはなりません。「産休を取ったら職場のポジションがなくなる」「戻ってきても閑職に追いやられる」ということが無いようにするのが企業の責務です。
この判決を受けて均等法と育児・介護休業法の改正が進み、企業に対してマタニティハラスメント防止措置の義務が課せられるようになりました。例えば上司や同僚による妊娠中の嫌がらせ(「迷惑だ」などと言う等)も含め、職場環境が害されることを防止する措置を講じることが義務付けられています。
厚生労働省も違法行為企業名の公表等、厳しい姿勢で臨んでいます。企業は単に法律遵守するだけでなく、社内研修や相談窓口設置など積極的にハラスメント防止策を実施することが肝要です。
労働基準法第65条の最新の法改正と企業への影響
労働基準法第65条そのものについて、直近で大きな法改正は行われていません。しかし、周辺の関連制度において近年いくつか改正や新設があり、企業の人事労務の実務に影響が出ています。以下、最新のトピックを整理します。
育児・介護休業法の改正による産後パパ育休の創設
2022年(令和4年)から順次施行された育児・介護休業法の改正により、子の出生直後の時期における父親の柔軟な育児休業制度(いわゆる「産後パパ育休」)が創設されました。男性労働者が子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)の育児休業を取得できる制度です。
これは第65条で定める女性の産後休業とは別枠で、主に父親の育児参加促進を目的としたものです。
従来、出産直後の時期は母親のみが法律上休業(産後休業)でき、父親は通常の育児休業(子が1歳まで等)を取得するしかありませんでした。そこで、より早期に父親も育児に関われるよう、出生直後8週間に限定した特別な育休枠を設けたものです。
これにより、母親が産後休業中の期間に父親も休業して育児を担うことが可能となり、夫婦で協力して子育てや産後の家事サポートをしやすくなりました。
正式には「出生時育児休業」といい、子の出生後8週間以内に分割して2回まで取得できます(合計で4週間まで)。取得するためには原則として事前申請が必要ですが、申し出期限が従来より短縮されており柔軟に取得しやすくなっています。
母親である女性労働者については、第65条によって産後8週間の就業禁止=強制休業期間があります。一方で父親については労働基準法上の強制休業はありませんが、この新制度により希望すれば産後休業期間中に休めるようになりました。
企業としては、男性従業員の出産直後休業取得のニーズにも対応する必要があります。就業規則を改定し、新制度に沿った育児休業の規定整備や周知を行うことが求められます。
産後パパ育休(出生時育児休業)は令和4年10月1日から施行されました。また関連して育児休業の分割取得や従業員への個別周知・意向確認義務(妊娠・出産を申し出た労働者に制度説明と取得希望を聞く義務)も令和4年4月1日から施行されています。
人事担当者は、該当する社員(妊娠中の社員や配偶者が出産予定の社員)に対し、この育休制度の案内と意向確認を個別に行うことが義務付けられています。
以上の改正により、第65条の産前産後休業と新設の育児休業制度(特に産後パパ育休)を組み合わせて運用する必要が出てきました。例えば、女性社員が産休・育休を取得するケースだけでなく、男性社員から「子どもが生まれるので産後パパ育休を取りたい」という申し出があれば、会社は法に従い休業を認め、適切に手続きを進める必要があります。
社会保険制度の改正による企業負担減の措置
法改正ではありませんが、産前産後休業に関連する社会保険上の措置も人事労務における重要ポイントです。平成26年(2014年)より、産前産後休業期間中の厚生年金保険・健康保険料の免除制度が導入されています。産前産後休業を開始した社員について所定の届出を行えば、休業期間中の労使双方の社会保険料が免除されます(会社負担分・本人負担分ともゼロ)。
この制度により、産休取得者がいる間は企業もその人の社会保険料負担が免除されるため、コスト面での負担軽減にもつながります。忘れずに申請手続きを行うことで、社員の手取り減少を防ぐとともに企業負担も軽減できます。産休に入る社員が出た場合、人事担当者は速やかに年金事務所等への届出(産前産後休業取得者申出書)を行いましょう。
保険料免除期間も将来の年金受給額においては保険料を納めたものとして扱われますので、社員にとって不利益はありません。安心して休業できる経済的支援策の一つです。
また、健康保険からは出産手当金と呼ばれる給付もあります。これは産前産後休業中(原則出産日を挟む計98日分を支給)に加入する健康保険から支給されるもので、おおむね標準報酬日額の2/3相当額が支給されます。
労働基準法上、産休中の賃金について企業に支払い義務はありません(無給でも違法ではない)。そのため、この出産手当金が実質的な収入補償となります。
企業によっては就業規則で産休中の給与を何割か支給する制度を設けているケースもありますが、法律上は任意です。人事担当者は、自社の産休中給与の取扱いや社会保険給付の制度について、社員に丁寧に説明しサポートすると良いでしょう。
労働基準法第65条に関して企業が注意すべきポイント
裁判例ではありませんが、労働基準法65条に関連して企業が法的に注意すべき事項を補足します。
産前産後休業中の解雇禁止
労働基準法第19条は、産前産後休業中の女性労働者(産前休業を請求せず就業しているケースも含む)を解雇してはならないと定めています。つまり、産休に入っている期間とその後30日間は原則として解雇禁止期間です。ただし、天災事変等で事業の継続が不可能な場合や、打切補償を支払う場合などは解雇制限が解除されます。
妊娠・出産を理由とする解雇無効
男女雇用機会均等法第9条第4項により、妊娠中と産後1年以内の女性労働者の解雇は、会社が妊娠・出産等によるものでないことを立証できなければ無効と推定されます。
非常に強い保護規定であり、「たまたま業績不振によるリストラ対象が妊娠中の社員だった」という場合でも、企業側が妊娠とは無関係であることを証明できなければ解雇無効になる可能性があります。それほど妊娠・出産を理由とした解雇は厳しく禁止されています。
労働基準法第65条に違反した場合の罰則
労働基準法第65条に違反した場合、使用者(企業)には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法119条に基づく刑事罰)。例えば、産前休業を請求した妊婦を無理に働かせたり、産後8週以内の女性を就業させた場合が該当します。実際には行政指導が入ることが多いですが、悪質な場合は検察送致もあり得ます。「うっかり知らなかった」では済まないので、法定事項は確実に守りましょう。
以上のように、第65条をはじめとする母性保護規定に違反すると企業イメージの悪化や法的責任を負うリスクが高まります。裁判例や法律の趣旨が示す通り、企業は妊娠・出産する社員に対して法定以上に配慮するくらいの姿勢が求められていると言えます。
労働基準法第65条の今後の動向
2025年前後において、労働基準法65条そのものの改正予定は特段公表されていません。ただし、周辺分野では例えば男性の育児休業取得状況の公表義務(一定規模企業に年1回、公表を義務付ける改正)が2023年に成立し、2025年からは対象企業が拡大する予定です。これは育児介護休業法の改正事項ですが、社員の産休・育休取得を促進し職場風土を変えていく施策の一環です。
また、女性の産後職場復帰支援や職場のハラスメント防止策も強化が図られています(後述の裁判例を受けた法改正等)。企業としては、第65条の遵守はもちろん、その周辺制度のアップデートにも注目し、就業規則や社内制度を適宜見直していくことが重要です。
労働基準法第65条に関してよくある質問
最後に、労働基準法第65条に関連してよく調べられる疑問点をQ&A形式で整理します。
Q. 労働基準法第65条の産前休業はいつから取得できますか?
出産予定日の6週間前から取得可能です(多胎妊娠の場合は14週間前から請求可能)。具体的には、予定日を含めてさかのぼり6週間以内のタイミングであれば、本人の申し出一つでその日から休業に入れます。例えば予定日が○月○日の場合、その42日前(予定日当日を含めて算出)から休業開始日とすることができます。なお、予定日より出産が遅れた場合はその分休業期間が延びますし、早まった場合は出産時点で産前休業が切り上げとなりますが、不利益が生じないよう法律上保護されています。
Q. 産後休業の期間はどれくらいですか?いつまで仕事を休めますか?
出産の翌日から起算して8週間が産後休業期間です。この間は法律により就業禁止とされています。ただし、産後6週間を経過後は本人が「働きたい」と希望し医師が問題ないと認めれば、8週目に入る前でも復帰することが例外的に可能です。復帰しない場合はそのまま丸8週間は休業できます。要するに、最低でも産後6週間は必ず休み、望めば8週間まで休めるということです。多くの方は産後8週間きっちり休んでから育児休業(育休)に移行しています。
Q. 産休(産前産後休業)中の給料は出ますか?
法律上、産前産後休業中の賃金を支払う義務は企業にありません。そのため、就業規則などで有給と定めていない限り、産休期間中は無給とする企業が多いです。ただし、経済的支援策として健康保険から「出産手当金」が支給されます。
標準報酬日額の3分の2相当額が産前産後休業期間(出産日を挟む計98日分が上限)について支給される制度で、会社を通じて申請することで受給できます。さらに出産時には出産育児一時金(子1人あたり原則50万円(2023年以降))も健康保険から支給されます。これらによって休業中の生活をサポートする仕組みになっています。
※なお、企業によっては就業規則や労使協定で産休中も一定割合の賃金を保障したり、独自の手当を支給したりするケースもあります。自社の制度を確認しましょう。
Q. 妊娠した社員から「勤務を楽な部署に替えてほしい」と言われたら応じる必要がありますか?
はい、応じる必要があります。労働基準法第65条第3項により、妊娠中の女性労働者が他の軽易な業務への転換を請求した場合、使用者は拒否できず必ず転換させなければなりません。法律上の義務ですので、「人手が足りないからできない」と一方的に断ることは許されません。現実には代替要員の手配や他部署との調整など企業側も対応は大変かもしれませんが、社員の健康と安全のために可能な限り配慮しましょう。
なお、「軽易な業務」とは今の仕事より負担が軽い業務のことで、具体的内容は職場によって様々です。本人とよく話し合い、通勤時間帯の変更や在宅勤務の活用、事務作業中心のポジションへの配置換えなど、状況に応じた措置を検討してください。
Q. 産休や育休を取得した社員をその後解雇・降格させることはできますか?
基本的にできません。法律で厳しく禁止されています。産前産後休業中およびその後30日間の解雇は労働基準法で明確に禁じられています。また、妊娠・出産・産休・育休取得を理由とする解雇・降格・減給などの不利益取扱いは男女雇用機会均等法で禁止されており、もし行えば無効となります。
特に解雇については産後1年以内なら会社側が「妊娠出産と無関係」と立証しない限り無効と推定されます。降格についても先述の最高裁判例の通り、本人の同意や極めて特別な事情がない限り違法と判断されます。
要するに、産休・育休を取ったことでキャリア上不利益を受けることがあってはならないというのが法の考え方です。復職後の配置については業務上の必要に基づく範囲での変更は認められるものの、それが実質的な嫌がらせや冷遇と見られないよう十分注意する必要があります。
労働基準法第65条は働く女性をサポートする重要なルール
以上、労働基準法第65条(産前産後休業)に関する基本知識と最新情報、裁判例ポイントを解説しました。企業の人事・法務担当者としては、この規定を単なる「最低ライン」ではなく、働く女性をサポートするための重要なルールと捉えて実務に活かすことが大切です。厚生労働省のガイドラインや判例の趣旨も踏まえ、妊娠中・出産後の社員が安心して働き続けられる職場環境づくりに努めましょう。それが結果的に企業の法令遵守と人材定着、ひいては生産性向上にもつながるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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