- 更新日 : 2025年3月26日
労災申請を本人が行うデメリットとは?弁護士に依頼するメリットも解説
労災保険は、仕事中や通勤中のケガ・病気など万が一のときに労働者を守る大切な制度です。しかし、手続きが複雑だったり、補償内容に制限があったりと、申請者本人には見えにくいデメリットも存在します。本記事では、労災保険の基本的な内容から、本人が申請するデメリット、そして弁護士へ依頼するメリットまで、幅広く解説しています。労災申請を考えている方は、ぜひ事前に知識を深めて適切に備えましょう。
労災保険とは
労災保険とは、業務上の事故や病気により発生した際の労働者に対する補償制度です。労働者が仕事中に負った傷害や病気に対し、国がその補償を行うことで安心して働ける環境を提供しています。
具体的には、労災保険は労働者が仕事に関連して起きた事故や疾病を対象にし、医療費、休業手当、障害年金などが支給される仕組みです。これは、労働者が例えば怪我をしたり、職場でのストレスが原因で精神的に病んでしまった場合など、様々なケースを想定しています。
労災保険の目的
労災保険の目的は、労働者の安全と健康を保護し、万が一事故が起こった場合にも速やかに必要な支援を受けられるようにすることです。労働現場で予期せぬ事故が発生しても、この制度を利用することで、経済的な不安が軽減されます。
労災保険の対象と補償内容
労災保険の対象となるのは、会社員やパートタイマー、アルバイトなど、雇用関係にある全ての労働者です。以下では、労災保険で受けられる代表的な給付の種類と内容について説明します。
療養(補償)給付
仕事中や通勤途中に負傷したり、業務が原因で病気になったりした場合、その治療に必要な費用を補償するのが療養(補償)給付です。医療費だけでなく、通院にかかる交通費も対象になります。
療養給付には2つのパターンがあります。
1つ目は「療養の給付」と呼ばれ、労災指定病院または指定医療機関で受ける治療です。この場合、窓口での自己負担はなく、無料で治療を受けることができます。
2つ目は「療養の費用の支給」で、指定外の医療機関で治療を受けた場合に、いったん自己負担で支払い、その後に労働基準監督署へ申請して、費用の払い戻しを受ける仕組みです。
休業(補償)給付
業務災害や通勤災害により、働けなくなった期間中の収入減少を補うための給付です。仕事を休んだ最初の3日間は支給対象外ですが、4日目以降については「給付基礎日額」の60%が支給されます。
さらに、「休業特別支給金」として給付基礎日額の20%が上乗せされます。合計でおおよそ休業前の賃金の80%程度が補償されることになります。
障害(補償)給付
業務や通勤による負傷や病気が治った後に、体に何らかの障害が残った場合に支給される給付です。障害の程度によって、「障害等級」が1級から14級まで設定されており、それに応じて一時金または年金が支給されます。
重い障害の場合は年金が支給され、軽い障害であれば一時金となります。障害等級の認定は労働基準監督署が行い、その内容に納得できない場合は、不服申立ても可能です。
遺族(補償)給付および葬祭料・葬祭給付
業務や通勤に起因する災害によって労働者が死亡した場合、その遺族に対して支給される給付です。遺族の人数や構成によって年金または一時金の支給額が決まります。
また、死亡した労働者の葬儀を行う人には、葬祭料または葬祭給付として、一定の金額が支払われます。支給額には上限があり、実際の葬儀費用のすべてをカバーできるとは限りません。
傷病(補償)年金
療養を1年6ヶ月以上続けても治らず、なおかつ障害の程度が重い(障害等級1級〜3級)場合に支給されるのが傷病(補償)年金です。この年金は、療養を継続しながら生活を支えるために支給されます。
介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金を受給している方のうち、一定の重度障害により常時または随時介護が必要と認められる場合に、介護費用の一部が支給されます。
この給付には条件があり、施設入所中や入院中の方は対象外となることがあります。支給額にも上限が設けられています。
二次健康診断等給付
一次健康診断で、脳や心臓に関する特定の検査項目に異常が見つかった場合、二次健康診断を無料で受けることができます。また、その結果に応じて、生活習慣の改善を支援する「特定保健指導」も提供されます。
労災申請を本人が行うデメリット
労災申請を本人が行うデメリットは、手続きが複雑で時間がかかることです。労災申請のプロセスは多岐にわたり、適切に進めないと申請が遅れることがあります。
複雑な手続きや必要書類が多い
労災申請には多くの手続きと書類が必要です。例えば、申請には怪我や病気の詳細を証明するための診断書、事故報告書などが含まれており、それぞれの書類は正確に記載されている必要があります。これらの手続きを通常の業務の合間に行うことは、非常に手間と時間がかかります。
労災申請にストレスがかかる
また、申請手続きの不透明さや進捗の不確実さから、精神的なストレスにも繋がります。他の業務や日常生活を続けながら、手続きの進行に神経を使うことは、心理的な負担を増やす要因となります。
専門的な知識が不足している
法律や労働保障に関する知識が必要となり、専門的な理解が求められます。特に、労災の認定条件や給付額の計算方法などは、詳細まで把握するのが難しく、不慣れな本人が全てを理解し正確に申請を進めるのは困難です。
会社が非協力的な場合がある
労働基準法では、会社には労災申請の手続きを助ける義務がありますが、実際には協力的でないケースもあります。会社が申請書への記入や押印を拒否したり、申請そのものを嫌がることがあります。
労災申請を会社に伝えたことで、職場での関係が悪化することを心配する声も多く聞かれます。中には「労災隠し」と呼ばれる違法行為が行われているケースも存在します。
労働基準監督署との対応が難しい場合がある
申請後は労働基準監督署による調査が行われます。内容によっては、本人に対して事故の詳細説明や追加資料の提出を求められることがあります。
専門的な内容を含むやりとりを自力で対応するのは精神的にも負担が大きく、調査が長引けば給付の支払いが遅れることもあります。
労災申請の流れ
労災申請の流れは、比較的明確ですが、各ステップできちんとした対応が求められます。具体的な手続きについて順を追ってご説明します。
1. 労災認定を受けるための準備
まずは、労働災害が発生したことを証拠として立証するために、事故の詳しい記録や医療機関での診断書などの必要書類を揃えます。そして、労災が発生したことを就業先の担当者に速やかに報告します。事故の詳細について誤りなく伝えることが重要です。
2. 労災申請書類の作成
次に、労災保険給付の申請に必要な書類を作成します。主な書類には、「特別加入者労災補償請求書」や「療養補償給付申請書」などがあります。これらの書類には、事故の詳細や医療機関の診断内容を正確に記載する必要があります。記載内容に不備があると、申請がスムーズに進まないことがありますので慎重に対応しましょう。
3. 労働基準監督署へ提出
作成した申請書類は、事業所を通じて、または本人が直接、管轄の労働基準監督署へ提出します。提出先は従業員が働いている地域の労働基準監督署が基本です。提出後、監督署による審査が行われるため、審査開始までに数週間かかることもあります。
4. 労災認定
監督署での審査は、提出した書類に基づいて行われます。場合によっては、追加の証拠や説明が求められることがあるため、速やかに対応できるように備えておきましょう。審査が完了すると、認定結果が通知されます。審査結果に不服がある場合は、再審されたり、不服申し立てを行うことも可能です。
5. 給付の受け取り
労災が認定されると、休業中の所得補償や医療費が労災保険から給付されます。給付の内容や金額については、事前に確認しておくことをお勧めします。給付金の支払いは一般的に速やかに行われますが、手続きに時間がかかる場合もあるため、計画的に生活資金を管理することが大切です。
労災申請が認められないケース
労災保険はすべてのケガや病気に適用されるわけではなく、適用の条件や例外も存在します。ここでは、労災保険の対象にならないケースや、給付が制限される場面について詳しく解説します。
業務災害・通勤災害と認められない場合
労災と認められるためには、災害が「業務遂行中」であり、「業務が原因」と判断されなければなりません。業務時間外の私的な行動中の事故や、休憩中に私的な目的で行動していた際のケガは、原則として対象外です。
通勤災害の場合も、通常の通勤経路を外れたり、寄り道や目的外の行動をしていた場合、その後に起きた災害は通勤とは認められません。ただし、日常生活に必要な行動(コンビニへの立ち寄りなど)は例外として認められることもあります。
また、持病の悪化が業務と関係ないと判断された場合も、労災としては認定されません。
故意または重大な過失による災害
本人がわざとケガや病気を引き起こした場合、労災保険の給付は一切行われません。さらに、重大な過失(酒気帯び運転など)による災害の場合は、給付が最大で30%減額される可能性があります。
医師の指示に従わない場合
治療やリハビリなど、医師から指示された療養を正当な理由なく拒否した場合には、労災保険の給付が減額されるか、支給されないこともあります。これは、本人にも早期回復のための協力義務があるとされているためです。
労災申請を弁護士に依頼するメリット
労災申請を弁護士に依頼する最大のメリットは、法律の専門知識を活用できる点です。労災申請は法律的な要素が絡むため、経験豊富な弁護士の支援は非常に有用です。以下に、弁護士に依頼する具体的なメリットをいくつかご紹介します。
専門的な法律知識を活用できる
弁護士は労働法や労災制度に関する深い知識を持ち、複雑なケースでも適切な対策を提案してくれます。例えば、労災申請が複数回にわたって不承認となったケースでも、適切な理由付けと証拠を提出することで、状況を大きく改善することができます。また、現在の法律や制度の改正点についても情報を常に更新しており、新しい法規に対応した申請を行うことができます。
労災申請をスムーズに進められる
労災申請は多くの書類と手続きを伴います。弁護士に依頼すると、これらの手続きを迅速かつ正確に進めてもらえるため、申請がスムーズに進行します。彼らは過去の経験から、最適な手段と対策をすぐに講じることができ、結果として承認率を上げることも期待できます。
精神的な負担が軽減される
自身で労災申請を行う場合、手続きの複雑さや事務的な負担、さらには結果に対する不安など精神的なストレスが少なくありません。弁護士に依頼することで、安心感が得られ、精神的な負担が軽減されます。専門家がサポートしているという安心から、職場復帰や治療に専念できるというメリットもあります。
交渉力が高い
もし労災申請が認められない場合や、納得のいく補償が得られない場合には、弁護士はその経験を活かして交渉を行うことができます。直接の交渉においても、法的な観点を元にした効果的なアプローチでより良い結果を導き出すことが可能です。
労災申請が負担になる場合は専門家に依頼しましょう
労災保険は、働く人の万が一に備える重要な制度です。給付内容や申請手続きには明確なルールがある一方で、申請の煩雑さや精神的な負担、会社の非協力といった課題も無視できません。こうしたデメリットを正しく理解し、必要に応じて弁護士など専門家の力を借りることで、より確実に制度を活用できます。万が一に備えて正しい知識を持ち、自身の権利を適切に守る行動を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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