- 更新日 : 2025年3月18日
外国人雇用における教育訓練は必須!具体的な方法と成功のポイントを解説
日本の労働市場において、外国人労働者の活躍は重要になってきています。しかし、言語の壁や文化の違いにより、適切な教育訓練が行われなければ、生産性の低下や労働災害のリスクが高まる可能性があるので注意が必要です。
本記事では、外国人雇用における教育訓練の重要性や種類、成功に導くポイントを解説します。
目次
外国人雇用における教育訓練の重要性
外国人労働者が日本の職場で適切に業務を遂行するためには、教育訓練の実施が不可欠です。厚生労働省が定める「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」においても、教育訓練の実施が推奨されています。
事業主は、外国人労働者が在留資格の範囲内で能力を最大限発揮できるよう、教育訓練の実施や働きやすい環境の整備を行うことが求められています。具体的な内容は、下記のとおりです。
- 母国語での導入研修の実施
- 苦情・相談体制の整備
- 適切な業務指導
適切な教育訓練を行うことで、外国人労働者のスキル向上はもちろん、企業の生産性向上や労働環境の改善にもつながります。外国人労働者を雇用する企業は、教育訓練の必要性を理解し、積極的に取り組むことが重要です。
以下の記事では、外国人労働者を雇用する際のメリットや問題について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
外国人労働者の教育訓練の種類
外国人労働者が日本の職場で適応し、円滑に業務を遂行するためには、適切な教育訓練が必要です。
ここでは、3種類の教育訓練について、詳しく解説していきます。
日本語教育
外国人労働者がスムーズに仕事を進めるためには、日本語でのコミュニケーション能力が必須です。仕事の指示を正確に理解し、適切に対応できることが求められます。
日本語教育の重要性は、下記のとおりです。
- 業務指示の誤解を防ぐ
- 職場の会話に参加できるようになる
- 職場のルールや安全対策の理解が深まる
言語の壁があると、作業ミスや安全管理の問題が発生しやすくなります。適切な日本語教育を行えば、外国人労働者は自信をもって業務に取り組めるため、企業の生産性向上にも貢献します。
職務に関連した訓練
外国人労働者が職場で適切に業務を遂行するためには、業務内容の教育が重要です。とくに、日本の職場では正確な業務フローの理解が求められるため、適切な訓練を行う必要があります。
職務訓練の重要性は、下記のとおりです。
- 業務の流れを理解し、生産性を向上させる
- 品質のバラつきを防ぐ
- 労働災害のリスクを軽減
職務に関連した訓練を体系的に行うことで、外国人労働者が短期間で即戦力となることが期待できます。
安全衛生教育
日本の職場では、安全基準が厳格に定められています。しかし、外国人労働者は母国とは異なる安全意識をもっていることが多く、日本の安全ルールを十分に理解していない場合があります。
労働災害を防ぐためにも、安全衛生教育は必須の訓練です。安全衛生教育の重要性は、下記のとおりです。
- 労働災害のリスクを軽減する
- 安全意識の向上させる
- 企業の責任リスクを軽減する
事故が発生すると、企業の信用問題にも関わるため、外国人労働者に対して危険作業のルールや緊急時の対応方法を徹底的に指導することが求められます。
厚生労働省では、外国人労働者向けの安全衛生教育教材を提供しており、多言語対応の動画教材も用意されています。これらを活用することで、外国人労働者がより理解しやすい環境を整えることが可能です。
外国人労働者の教育でよくある課題
外国人労働者が日本の職場に適応するためには、教育訓練は必須です。しかし、言語の壁や文化の違い、知識の差など、さまざまな課題が教育の障壁となることがあります。
ここでは、外国人労働者の教育訓練においてよくある課題を詳しく解説します。
以下の記事では、外国人雇用に関する注意点を詳しく解説していますので、参考にしてください。
言語の壁
日本語を十分に理解できない外国人労働者に、日本語のみで業務の説明を行っても、正確に伝わらないことが多くあります。
結果、業務の進め方や注意点を十分に理解できず、作業ミスが増える可能性があります。とくに、専門用語が多い業界では、誤解による業務トラブルが発生しやすくなるでしょう。
また、指示が適切に伝わらないことで、安全対策を守れず、労働災害のリスクも高まります。とくに建設業や製造業などの現場では、適切な指示が伝わらないと事故の原因となる可能性があるため注意が必要です。
このような労働災害を防ぐためにも、言語の壁を越える工夫を行うことが大切です。言語の壁を克服できれば、外国人労働者の業務理解が向上し、企業の生産性向上や安全管理の強化につながります。
文化や慣習の違い
外国人労働者が日本の職場で働く際、文化や慣習の違いが教育の障壁となることがあります。そのため、職場ルールの理解に時間がかかるケースもあります。
たとえば、日本では時間厳守が強く求められるのが一般的ですが、国によっては時間に対する考え方が異なります。そのため、遅刻や締切の管理に対する意識の違いがトラブルの原因となる可能性があるでしょう。
また、日本の職場では、上司や先輩に対する敬語や、報連相(報告・連絡・相談)が重視されます。しかし、外国人労働者の中には、フラットな職場環境に慣れている方もいるため、これらのルールに戸惑うことがあります。
文化や慣習の違いを理解し、適切な指導を行うことで、外国人労働者がスムーズに職場に適応できるでしょう。
知識の差
外国人労働者がもっている知識や技術は、出身国の教育制度や職業経験によって異なります。そのため、日本の職場で必要とされるスキルが不足しているケースも少なくありません。
たとえば、製造業や建設業では、母国と日本の作業手順や安全基準が異なる可能性があります。経験がある外国人労働者でも、スムーズに業務をこなせるとは限りません。
また、日本の職場では、多くの業界用語や略語が使用されるため、十分に理解していないと、指示の誤解や作業ミスにつながる可能性があります。
業務に関する知識の差を埋めるためには、一度の研修だけでなく、継続的な学習機会の提供が重要です。
外国人労働者の教育訓練を怠ると生じる5つの問題
外国人雇用の際には、教育訓練が重要ですが、十分な研修が行われない場合、さまざまな問題が発生する可能性があります。企業にとっても大きなリスクとなるでしょう。
ここでは、教育訓練を怠ることで生じる5つの問題を解説します。
1. 働く意欲の低下と離職率の増加
外国人労働者に適切な研修や教育が提供されない場合、仕事への意欲が低下する可能性があります。具体的には、下記の問題が発生し、最終的には離職率の増加につながることが懸念されます。
- 仕事内容や職場ルールが理解できず、不安を感じる
- 成長の機会を得られず、仕事への興味を失う
- 職場で孤立しやすくなる
このような状況が続くと、最終的に外国人労働者は離職を選択するケースが増えるでしょう。企業は人材確保に苦労することになるため、教育訓練の重要性を再認識する必要があります。
2. 業務効率の低下と生産性の悪化
十分な教育訓練が行われないと、業務の進行がスムーズにいかず、企業の生産性が低下するリスクがあります。具体的な問題点は、下記のとおりです。
- 業務の流れを理解するのに時間がかかり、作業が遅れる原因になる
- 作業指示が正しく伝わらず、業務ミスが増加する可能性がある
- 同じミスが続き、修正に時間を要することで業務全体の流れが悪化する
結果として、業務の生産性が低下し、企業の競争力にも影響を及ぼすことが懸念されます。
3. 製品やサービスの品質低下
製造業や建設業では、品質管理が重要です。しかし、外国人労働者への教育訓練が不十分だと、製品やサービスの品質低下につながる可能性があります。
具体的な問題は、下記のとおりです。
- 作業手順を理解できないまま業務を進めると、品質にばらつきが出るリスクが高まる
- 統一した基準が浸透しないため、不良品の発生率が上がり、検品作業の負担が増える
- 顧客からの信頼を失い、取引の減少やクレームの増加につながる可能性がある
このような問題が続くと、企業の評判が悪化し、最終的には売上にも影響を及ぼしかねません。
4. サービス業における顧客満足度の低下
飲食業やホテル業など、外国人労働者が活躍するサービス業では、教育の不足が直接的に顧客満足度の低下につながる可能性があります。
- お客様とのコミュニケーションがうまく取れない
- 接客態度の違いがクレームの原因となる
- SNSでの悪評が拡散するリスクが高まる
最近では、サービスの良し悪しがSNSを通じて拡散されやすい傾向があります。一度悪い評判が広まると、企業のイメージに大きな影響を与えるでしょう。
サービス品質の低下が続くと、企業の評判が落ち、新規顧客の獲得が難しくなる可能性があります。そのため、企業側は外国人労働者に適切な教育を提供することが求められます。
5. 労働災害の増加
工場や建設現場など、危険を伴う職場では、安全教育の不足が大きな事故につながる可能性があります。具体的なリスクは、下記のとおりです。
- 安全手順を理解していないと事故が発生しやすい
- 文化の違いにより危険認識が異なる
- 企業側の責任が問われることもある
労働災害が発生した場合は、企業の管理体制が問われることになり、行政指導や損害賠償などのリスクが生じる可能性があります。
このように安全管理を怠ると、企業の信用を大きく損なうことになりかねません。そのため、徹底した安全教育の実施が必要です。
外国人雇用で教育訓練を成功に導くポイント
外国人雇用の際に、適切な教育訓練を行う必要があります。しかし、言語の壁や文化の違いが原因で、教育が十分に行き届かず、職場環境に適応するのが難しくなるケースもあるでしょう。
ここでは、外国人労働者の教育訓練を成功に導くためのポイントを詳しく解説します。
1. 外国語対応の教材を作成する
外国人労働者が業務を正しく理解するためには、母国語や視覚的に理解できる教材の活用が重要です。しかし、すべての資料を外国語に翻訳するのは大きな負担となるでしょう。
そのため、下記のような方法を活用するのが効果的です。
- 多言語対応のマニュアル・動画の活用
- ピクトグラムやイラストを使った非言語マニュアル
- デジタル翻訳ツールの活用
これらの仕組みを導入することで、言語の壁を低くし、スムーズな教育訓練が実施可能になります。
2. 日本の職場文化を伝える
日本の職場では、「報連相(ほうれんそう)」や「安全第一」といった文化が根付いています。しかし、外国人労働者にとっては馴染みのない概念であることが多くあります。
単にルールを押しつけるのではなく、なぜ必要なのかを理解してもらうことが大切です。具体的な方法は、下記のとおりです。
- 実際の事例を交えながら説明する
- ロールプレイングや実践型研修を取り入れる
- 相互理解を深める文化交流の機会を設ける
このような方法を実践すれば、日本の職場文化の押し付けではなく「納得感をもって学ぶ」環境を作れます。
3. 視覚的な指導を取り入れる
言葉だけで説明しても理解しづらい作業手順や安全対策は、視覚的な教材を使って伝えることで、理解度を高められます。
具体的な方法は、下記のとおりです。
- 作業動画・シミュレーションを活用する
- 作業エリアに視覚的なガイドを設置
- 繰り返し視聴できる環境を作る
視覚的に学べる環境を整えることで、労働災害を防ぎながら作業精度の向上を図れます。
4. 仕事で使える日本語フレーズを教える
業務を円滑に進めるためには、最低限の日本語を習得する必要があります。しかし、一般的な日本語学習とは異なり、業務に必要なフレーズを重点的に指導することがポイントです。
具体的な指導方法は、下記のとおりです。
- 現場で頻出するフレーズをリスト化する
- 日常業務の中で自然に学べる環境を作る
- 音声教材やアプリを活用する
日常業務に直結する形で学習を進めることで、外国人労働者がよりスムーズに職場に適応できるようになるでしょう。
5. 継続的に学べる仕組みを作る
一度の研修で終わらせるのではなく、継続的な学習機会を提供することが大切です。外国人労働者の定着率を向上させるためにも、反復学習が可能な環境を作りましょう。
具体的な方法は、下記のとおりです。
- 定期的な振り返り研修を実施
- 自主学習ができるオンライン教材の整備
- 指導者のスキル向上も並行して行う
継続的な学習の仕組みを整えることで、外国人労働者のスキルアップと職場定着を促進できます。
外国人雇用の際は教育訓練給付制度の活用がおすすめ
外国人労働者のスキルアップやキャリア形成を支援するために、教育訓練給付制度の活用がおすすめです。この制度は、労働者の能力向上を促し、雇用の安定や就職の促進を目的としています。
厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。雇用保険の加入条件を満たしていれば、外国人労働者も日本人と同様に利用可能です。
対象となる教育訓練の種類ごとの給付率を、下表にまとめています。
教育訓練の種類 | 給付率 | 上限 |
---|---|---|
一般教育訓練 | 受講費用の20% | 10万円 |
特定一般教育訓練 | 最大で受講費用の50% ※2024年9月までに受講開始した場合は受講費用の40% | 25万円 ※2024年9月までに受講開始した場合は上限20万円 |
専門実践教育訓練 | 最大で受講費用の80% | 年間上限64万円 |
参考:
厚生労働省|教育訓練給付制度
厚生労働省|教育訓練給付制度のご案内
厚生労働省|教育訓練給付の講座指定の対象となる主な資格・試験など
教育訓練給付金の支給要件は、下記のとおりです。
- 受講開始日時点で、1年以上雇用保険に加入している(していた)
※専門実践教育訓練給付金は2年以上の加入が必要 - 受講開始日時点で、働いている、もしくは離職してから1年以内である
- 教育訓練給付を受給したことがある場合は、下記2つの条件に該当すること
- 前回の受講開始日以降、3年以上雇用保険に加入している
- 前回の支給日から今回の受講開始日までに3年以上経過している
パート・アルバイト、派遣社員でも、一定の雇用条件を満たしていれば支給対象となります。
対象となる講座は約16,000種類あり、オンラインや夜間・土日講座もあるため、働きながら受講できます。受講前に外国人労働者が給付対象であるか、受けたい講座は対象かを確認しましょう。
外国人労働者のスキル向上を支援することで、即戦力化を促し、企業の成長にもつなげられます。
以下の記事では、教育訓練給付金について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
外国人雇用の教育制度を整え、長期的な定着を実現しよう
外国人労働者が職場で活躍するためには、適切な教育訓練が不可欠です。企業側は言語の壁を低くし、日本の職場文化を理解できる環境を作ることが大切です。
また、教育訓練給付制度を活用すれば、費用を抑えながらスキルアップの機会を提供できます。本記事を参考に、外国人雇用の教育制度を整えて、定着率向上や生産性向上を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
エニアグラムとは?性格診断をタイ プ別に解説、ビジネスへの応用や導入企業の事例
エニアグラムとは、人の思考や行動パターンを診断し9つのタイプに分類する性格類型です。従来、哲学・人間学・心理学などで研究が行われてきましたが、近年ではビジネスシーンでも積極的に活用されています。採用活動・人材配置・組織運営などの場面で役に立…
詳しくみるアウトソーシングの意味とは?メリットやデメリット、派遣との違いを解説
アウトソーシングとは、社内の業務を外部に委託するサービスです。人材不足の解消や業務の効率化など、さまざまなメリットがあります。アウトソーシングにより、従業員は成果を生む主要業務に集中できるのも利点です。 本記事ではアウトソーシングの意味を簡…
詳しくみるノマドワーカーとは?働き方の新しいスタイル!メリット・デメリットを紹介!
ノマドワーカーとは最近注目されている新しいの一つ働き方です。そんなノマドワーカーの意味はご存じでしょうか。「カフェなどでパソコン作業をしている人」というイメージの方も多いと思います。そこで本記事では、ノマドワーカーの概要と向いている人・仕事…
詳しくみるファシリ―テーターとは?司会との違いや役割・必要なスキルを解説
ファシリテーターとは、会議や研修などを円滑に進める役割を担う人のことです。この記事ではファシリテーターの定義を司会などとの違いに着目して説明し、ファシリテーターが注目される背景、ファシリテーターの必要性、求められるスキルや育成方法について解…
詳しくみる改善基準告示とは?運転者の労働時間等の改正ポイントも解説
トラックやバス、タクシーなどの運輸業者は、「改善基準告示」に則ってドライバーを就業させる必要があります。 この記事では改善基準告示の意味や令和6年度に施行される改正のポイントについて解説。業種ごとの労働時間の目安についてもご紹介します。 改…
詳しくみるパワハラ加害者のよくある言い訳は?パワハラの判断基準や対応方法を解説
パワハラの加害者は、自分の行為が全て正しいと思っている傾向があり、その意思表示と強気な態度がパワハラ行為の言い訳につながる可能性があるでしょう。 本記事では、パワハラ加害者のよくある言い訳について解説します。パワハラの判断基準や対応方法も紹…
詳しくみる