• 更新日 : 2025年3月17日

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めても大丈夫?雇用保険や社会保険の二重加入についても解説

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めてよいのかは、多くの人が抱く疑問です。収入が途切れるのを避けたい、新しい仕事をスムーズに始めたいと考えれば、このような選択肢を検討するのは自然なことです。しかし、一見シンプルな問題のように思えても、実際には日本の労働法や会社の就業規則社会保険の手続きなど、さまざまなルールが関係しており、慎重に考える必要があります。

この記事では、有給休暇を消化中に転職先で働くことが法律的に認められるのかについて詳しく解説し、注意すべきポイントや必要な手続きについてもわかりやすく解説します。

退職前の有給消化中に転職先で働くことはできる?

結論、退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めることは、法律で明確に禁止されているわけではありません。これは、日本国憲法第22条で保障されている「職業選択の自由」という原則に基づいています。すべての国民は、公共の福祉に反しない限り、自由に職業を選ぶことができる権利を有しているため、原則として、退職するまでの期間であっても、他の仕事に就くことは個人の自由と解釈できます。

しかし、この「職業選択の自由」は絶対的なものではなく、労働契約や就業規則によって合理的な範囲で制限されることがあります。特に、現在雇用されている企業との間には労働契約が存在し、その契約には、従業員が誠実に職務を遂行する義務、いわゆる忠実義務が含まれていると考えられます。

実際、多くの企業では、従業員が本業に専念することを目的に、二重就労や兼業を禁止または制限する規定を設けています。したがって、退職を前提とした有給消化中の転職であっても、現職と転職先の両方が認めている場合に限り、二重就労の禁止規定に抵触しない可能性があるのです。

また、有給休暇は労働者の心身のリフレッシュやゆとりのある生活の実現を目的とした制度であり、休暇中に他の仕事で疲弊してしまうことが制度の趣旨に反すると解釈される可能性も否定できません。

そのため、法律で直接的に禁止されていなくても、必ず事前に現職と転職先の両方に事情を説明し、了解を得る必要があります。無断で新しい仕事を始めてしまうと、後々、現職あるいは転職先との間で予期せぬトラブルに発展するリスクがあることを理解しておきましょう。

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めるリスク

退職前の有給休暇中に転職先の仕事を始めることは、「二重就労」に該当する可能性があり、さまざまなリスクが伴います。

現職でのリスク

現職に対しては、退職日まで雇用契約上の義務を負っています。これには、職務専念義務や秘密保持義務などが含まれます。有給休暇中であっても、これらの義務が免除されるわけではありません。もし、転職先での業務が現職の業務と競合する内容であったり、現職の機密情報を利用する可能性があったりする場合は、これらの義務に違反するおそれがあります。

転職先でのリスク

転職先に対しても、入社前から労務を提供することになるため、労働時間や健康管理の面で問題が生じる可能性があります。例えば、現職の有給消化期間中に長時間労働をしてしまい、転職先での業務に支障をきたすようなことがあれば、転職先からの評価を損ねるだけでなく、最悪の場合は雇用契約の解除につながる可能性も否定できません。

さらに、雇用保険の二重加入ができないという点は、手続き上の煩雑さだけでなく、万が一の事態が発生した場合の保障にも影響を与える可能性があります。雇用保険は、失業した際の生活保障や再就職支援を目的とした保険であるため、適切に手続きを行わないと、これらの給付を受けられない場合があります。

したがって、有給消化中に転職先の仕事を始める場合は、これらのリスクを十分に理解し、慎重に判断する必要があります。

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始める方法

退職前の有給消化期間中に転職先で働くことを検討している場合、事前に確認しなければならないポイントがいくつかあります。特に、現職と転職先の就業規則の確認、転職先への相談、雇用・社会保険の手続きは非常に重要です。これらを適切に行わなければ、予期せぬトラブルに発展する可能性があります。

現職と転職先の就業規則を確認する

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めるにあたって、最も重要なステップは、現職と転職先の両方の就業規則を詳細に確認することです。

有給休暇中であっても、正式な退職日までは現職の社員であるため、現職の就業規則が適用されます。そのため、転職先の仕事を始める前に、必ず現職の会社の就業規則を確認し、二重就労や兼業の制限がないかをチェックすることが重要です。

現職の就業規則の確認事項

多くの企業では、従業員が本業に専念するように兼業や副業を禁止する規定を設けています。このルールに違反すると、最悪の場合、懲戒解雇の対象となったり、退職金が減額・不支給となったりする可能性があります。

また、有給休暇は本来労働者の休養を目的とした制度であるため、その期間に他の仕事をすることが会社の方針に反していると判断される場合もあります。こうした点を考慮し、事前に人事部門などに確認し、ルールを明確にしておくことが必要です。

転職先の就業規則の確認事項

転職先の企業にも、兼業や副業を制限するルールが存在する可能性があります。特に以下のような規定がある場合、事前の確認が必要です。

  • 試用期間中の兼業禁止
    転職先の企業が「試用期間中は副業を禁止」としている場合、有給休暇中の業務がルール違反となる可能性があります。
  • 競合企業での勤務禁止
    前職が転職先と競合関係にある場合、在籍期間中に転職先の業務を行うことで、契約違反と見なされることがあります。

転職先のルールを守らないと、入社後の信頼関係に影響を与えたり、最悪の場合、内定取り消しや解雇につながる可能性があるため、十分な注意が必要です。

転職先の企業に相談する

有給消化中に転職先の仕事を始める場合、転職先の企業と事前に話し合い、了解を得ることが大切です。特に以下の点について、転職先の人事担当者と相談しておくとよいでしょう。

入社日や勤務開始日の調整

転職先の企業としては、新しい従業員がいつから正式に勤務を開始できるのかを把握する必要があります。有給消化中の勤務が問題ないか、また入社日を正式な退職日以降に設定できるかどうかを相談することが重要です。

雇用保険や社会保険の手続き

有給消化中に働き始めることで、雇用保険や社会保険の手続きに影響が出ることがあります。転職先の企業にも事前に状況を伝え、手続きの調整を行うことが望ましいです。

万が一、転職先の企業に相談せずに有給消化中の勤務を開始した場合、後になって発覚すると信頼関係が損なわれ、内定取り消しや解雇につながるリスクもあるため、慎重に対応する必要があります。

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始める場合の手続き

転職先の仕事を開始する際には、雇用保険や社会保険の手続きが複雑になる可能性があるため、適切な対応が求められます。

雇用保険の手続き

雇用保険の二重加入は、法律で禁止されています。したがって、有給消化中に転職先の仕事を始める場合、どちらの企業の雇用保険に適用されるかが問題です。

通常、雇用保険の資格喪失手続きは、退職日に合わせて現職の企業が行いますが、有給消化中に転職先の企業で働き始めると、雇用保険の適用がどちらになるか不明確になる可能性があります。このため、現職の人事担当者と相談し、資格喪失手続きを前倒しで進める必要があるかどうかを確認することが大切です。

もし、手続きが適切に行われない場合、雇用保険の二重加入状態となり、後々失業給付の受給資格や社会保険の適用に影響が出る可能性があるため、慎重に対応する必要があります。

社会保険の手続き

社会保険(健康保険・厚生年金)は、短期間であれば二重加入の状態になることもありますが、基本的には最終的にどちらかの企業の保険を選択して加入する必要があります。

転職先の健康保険に加入する場合は、現職の健康保険の資格喪失手続きを行う必要があり、通常は退職後に手続きが進められます。

しかし、有給消化中に転職先で働き始める場合、社会保険の適用をどちらの企業にするかが問題になるため、事前に現職と転職先の両方の人事担当者と確認を行うことが重要です。

退職前の有給消化中にトラブルが発生した場合の対処方法

有給消化中に転職先の仕事を始める際には、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。事前に適切な対応をしておくことで、スムーズな転職を実現できます。

現職から有給消化を拒否された場合

有給休暇は労働者の権利であり、原則として会社側が拒否することはできません。もし有給消化を拒否された場合は、まずは上司や人事部門に相談してみましょう。それでも解決しない場合は、労働基準監督署に相談することも一つの手段です。

転職先から早期の入社を求められた場合

転職先が「できるだけ早く働いてほしい」と希望している場合でも、自身がまだ現職の有給消化期間中であることを正直に伝えることが大切です。

そのうえで、入社日を調整できるかどうか交渉しましょう。また、両社の就業規則を確認し、二重就労が許可されているかを明確にすることも重要です。早く働くことが可能な場合でも、契約上問題がないかを慎重に確認することが求められます。

二重就労の禁止が後から判明した場合

もし転職先の就業規則で二重就労が禁止されていることを後になって知った場合、すぐに現職と転職先の両方に状況を説明し、適切な対応を相談することが必要です。

例えば、入社日を延期する、または現職の退職日を早めるなどの方法を検討することで、ルール違反を避けることができます。問題を放置すると、後々大きなトラブルに発展する可能性があるため、早めの対応が重要です。

雇用保険の二重加入が発生する場合

有給消化中に転職先の仕事を始めると、雇用保険の二重加入が発生する恐れがあります。通常、退職日が確定してから雇用保険の資格喪失手続きが行われますが、有給休暇中に新しい仕事を始めると、どちらの企業で保険に加入するべきかが不明確となります。

この場合は、現職と転職先の人事担当者に相談し、手続きを進めてもらうよう依頼しましょう。もし手続きがうまく進まない場合は、ハローワークに相談することで解決できる場合もあります。

退職前の有給消化中に転職活動を行うことは問題ない

退職前に有給休暇を取得している期間中に、転職活動を行うこと自体は、一何ら問題ありません。むしろ、時間に余裕ができるため、じっくりと求人を探したり、面接対策を行ったりするのに適した期間と考えることもできます。

ただし、有給消化中に転職活動を行う場合でも、現職の企業に対する秘密保持義務は依然として存在します。現職の機密情報や顧客データなどを転職活動に利用することは絶対に避けるべきです。

また、有給消化期間は、あくまで現職との雇用関係が継続している期間です。転職活動に集中するあまり、現職の業務の引き継ぎを疎かにしたり、会社からの連絡を無視したりするような行為は、社会人としてのマナーに反するだけでなく、円満な退職を妨げる原因にもなりかねません。

退職前の有給消化中にしてはいけないこと

退職前の有給消化中の行動によっては、思わぬトラブルを招くことがあります。特に、現職のルールを守らずに行動した場合や、転職に関する手続きを適切に進めなかった場合、後々問題が発生する可能性があるため注意が必要です。

有休消化中に無断で次の仕事を始める

有給消化中とはいえ、正式な退職日までは現職の従業員であるため、無断で転職先の仕事を始めることは避けるべきです。

前述の通り、多くの企業の就業規則では二重就労や兼業を禁止しており、許可を得ずに転職先の業務を行うと就業規則違反となる可能性があります。

また、雇用保険や社会保険の手続きが適切に行われず、後々手続きのトラブルが発生することもあります。現職の規則や手続きに従い、転職先とも事前に相談したうえで、適切なタイミングで業務を開始することが重要です。

無断でパート・アルバイトを行う

有給消化中だからといって、転職先以外のパート・アルバイトを無断で行うことも問題となる可能性があります。現職の就業規則に兼業禁止の規定がある場合、許可を得ずに副業を行うことは規則違反と見なされることがあります。

また、たとえ短期間のパート・アルバイトであっても、会社に許可なく業務を行った場合、後から問題視されることがあるため注意が必要です。副業を希望する場合は、事前に現職の規則を確認し、必要であれば人事部に相談することが大切です。

現職の機密情報を持ち出す

退職後のキャリアにおいて、前職の機密情報を持ち出したり、転職先で活用したりすることは厳禁です。特に、転職先が競合企業である場合、前職の業務で得た情報を持ち込むことは、法的なトラブルにつながる可能性があります。

多くの企業では、就業規則や労働契約において「秘密保持義務」が定められています。この義務は、有給消化中はもちろん、退職後も一定期間継続するケースが多いため、特に注意が必要です。違反した場合、企業側から損害賠償請求を受けたり、転職先での信用を失ったりするリスクがあります。

会社の悪口をSNSなどに投稿する

退職にあたって、会社に対する不満を持っている場合でも、SNSやインターネット上で現職の悪口や内部事情を暴露するような行為は絶対に避けるべきです。会社に対する批判的な投稿は、企業の名誉を傷つける行為とみなされ、名誉毀損や業務妨害といった法的責任を問われる可能性があります。

また、たとえ匿名で投稿したとしても、転職先の企業がそれを知ることで、入社後の信用を損ねる恐れもあります。退職時の不満があったとしても、冷静に対処し、将来のキャリアに悪影響を及ぼさないようにしましょう。

転職先に対して嘘をつく

転職先に対して、自分の退職日や現職での状況について虚偽の報告をすることも、避けるべき行為です。例えば、「すでに退職済み」と伝えて実際にはまだ現職の有給消化中であった場合、雇用保険の手続きや社会保険の加入に問題が発生する可能性があります。

また、前職の経歴や役職、業務内容について事実と異なる情報を伝えた場合、後に発覚した際に転職先での信用を大きく損なうことになります。
正直に現職の状況を伝えたうえで、円滑に転職が進むように調整することが重要です。

退職手続きを怠る

退職時には、会社からの貸与品(社員証、PC、社用携帯など)の返却、最終給与の確認、雇用保険や社会保険の手続きなど、さまざまな事務手続きがあります。これらの手続きを適切に行わずに退職すると、退職後にトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。

特に、雇用保険や年金の切り替え手続きを怠ると、転職先での保険加入や将来の年金受給に影響が出ることがあるため、計画的に進めることが大切です。

退職日直前に有給休暇の取り消しを求める

有給消化を進めている最中に、「やっぱり出勤したい」「仕事を引き継ぐために戻りたい」などの理由で、直前になって有給休暇の取り消しを求めるのは避けるべきです。会社側としては、有給消化中の業務を前提に人員配置を考えているため、急に予定を変更されると混乱を招く可能性があります。

特別な事情がない限り、一度申請した有給休暇は予定どおり消化し、計画的に退職を進めることが望ましいです。

退職前の有給消化中慎重かつ計画的に行動しましょう

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めることは、法律で一律に禁止されているわけではありませんが、多くの確認事項と注意点が存在します。最も重要なのは、現職と転職先の両方の就業規則を事前に確認し、二重就労に関する規定を理解することです。また、雇用保険をはじめとする社会保険の手続きを適切に行うことも不可欠です。

この記事で解説した内容を参考に、慎重かつ計画的に転職準備を進めてください。もし、不安な点や疑問点があれば、遠慮なく現職または転職先の人事担当者に相談することをおすすめします。正しい知識と準備があれば、有給消化期間を有効に活用し、スムーズなキャリアチェンジを実現できるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事