- 更新日 : 2025年3月18日
人事異動で通勤時間が2時間になったら、会社都合の退職になる?
人事異動によって通勤時間が大幅に伸びると、仕事だけでなく私生活にも大きな影響を及ぼします。とくに片道2時間となると、往復で1日4時間を通勤に費やすことになり、従業員の負担は大きくなります。
また、このような人事異動が原因で従業員が退職してしまった場合、会社都合の退職になるのか疑問に思うかもしれません。
本記事では通勤時間の増加による会社都合退職が認められるのかを解説するとともに、転勤や異動を拒否できるケースや、会社側が配慮すべきポイントも紹介します。
目次
異動で通勤時間が2時間に伸びた場合、会社都合の退職にできる?
会社の移転や異動によって、従業員の通勤時間が伸びてしまうことは珍しくありません。このとき、通勤時間が片道2時間に伸びてしまったとしても、従業員側から退職を申し出たら自己都合退職となってしまいます。
つまり、人事異動で従業員側に負担を強いることになったとしても、会社から不当な扱いを受けたとはみなされないのです。
一方で、通勤時間が往復で4時間以上かかることが原因で離職した場合、「通勤困難による離職」とみなされ特定理由離職者となる可能性もあります。もし、特定理由離職者に該当すれば、給付制限期間を経ず失業手当を受け取れるようになります。
従業員が通勤時間の増加を理由に、退職を検討しているようならば、特定理由離職者の制度も伝え、ハローワークへの相談を促してみましょう。
特定理由離職者とは
特定理由離職者とは、一定のやむを得ない事情により離職した者を指します。具体的には、以下のような条件に該当する場合は、特定理由離職者とみなされます。
〇次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者 |
---|
|
※参考:ハローワーク インターネットサービス,特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
厚生労働省の資料によると、通勤困難とは、「通常の方法で通勤する際の往復所要時間がおよそ4時間以上であるとき」とされています。
特定理由離職者とみなされた場合、通常の自己都合退職とは異なり、失業給付の面で優遇措置を受けられます。
特定理由離職者とみなされたら失業給付が優遇される
失業給付とは、労働者が失業をした際、求職期間中に必要な給付を受け取れる制度です。特定理由離職者として認定されると、失業給付をもらう際に、以下のような優遇措置を受けられます。
|
そして、失業給付を受けるには、ハローワークにて以下のような手続きが必要です。
- 離職票や本人確認書類といった必要書類を準備する
- ハローワークで求職申し込み、失業給付の受給手続きを行う
- 雇用保険説明会へ参加する
- 失業認定日に再度ハローワークへ行き、求職活動を行う
要件を満たしていたとしても、必要な手続きを行っていなければ失業給付を受け取れません。必要書類を準備して、ハローワークにて手続きを行いましょう。
転勤や人事異動は拒否できる?
いくら失業給付で優遇を受けられるといっても、通勤時間が増加する転勤や人事異動に納得する従業員は決して多くありません。中には、会社からの命令を拒否しようとする従業員もいるでしょう。
会社からの転勤や人事異動の命令を従業員は拒否できるのか、拒否できるケースについても紹介します。
基本的に拒否することは難しい
基本的に会社からの転勤や人事異動に対して、従業員は拒否できません。
多くの日本企業では、長期的な雇用関係を前提にしており、会社に対する雇用規制が厳しくなっています。その分、従業員に対する会社の人事権は強くなっており、転勤や人事異動の命令を従業員は拒否できないのです。
とくに、就業規則に「会社の都合により配置転換や転勤を命じることがある」と明記されている場合、従業員はその異動を受け入れなければなりません。もし正当な理由がなく異動を拒否すると、業務命令違反とみなされる可能性があり、最悪の場合、懲戒処分の対象となることもあります。
転勤や異動を拒否できるケース
基本的に従業員は会社からの人事異動命令を拒否できません。しかし、以下のようなケースに該当する場合、異動の拒否が認められる可能性があります。
- 雇用契約書で職種や勤務地が限定されている場合
- 「介護や育児の負担が増大する」「家族との生活に大きな支障をきたす」など、従業員側の不利益が大きい場合
- 正当な理由なく賃金が減額される場合
- 「自主退職を促すため」「嫌がらせのため」といった、不当な動機による人事異動の場合
一方で、残業時間の増加や通勤時間の増加などを理由に、従業員が人事異動命令を拒否できるケースはほとんどないでしょう。
人事異動が原因の出費は会社が負担すべきなのか?
人事異動によって従業員の通勤費や転居費用が増加してしまったとしても、企業側がその費用を負担しなければならないという法律はありません。
会社が転勤・異動に伴う費用をどの程度負担するのかは、企業ごとの就業規則や労使協定に記載されている内容によって決まります。具体的な記載項目、内容としては以下のような例があげられます。
引っ越し費用の負担範囲 |
|
---|---|
通勤費の支給上限 |
|
何も規定がない場合や例外的な事例については会社側と従業員側で、適宜交渉する必要があるでしょう。
費用負担の条件や交渉では往復4時間以上がポイント
会社が転勤や人事異動に伴う費用を負担するかどうかの基準として、往復4時間以上の通勤時間が目安とされているのが一般的です。特定理由離職者の要件も往復4時間以上の通勤時間を「通勤困難」とみなしているため、客観的な基準として有力です。
就業規則を取り決める際や、従業員と交渉をする際には、往復4時間以上の通勤時間をひとつの目安としましょう。
人事異動にて会社側がしておきたい配慮
人事異動によりライフスタイルが変化するのは、従業員にとって大きな負担となります。
そこで、従業員側に負担を伴う人事異動では、面談を通してフォローを行いましょう。人事異動の目的や意図を従業員と共有し、理解してもらうことが重要です。
また、次のような規則や仕組みを作り、人事異動を受け入れてもらえる体制を構築するのも大切です。
- 人事異動に伴う費用は会社側が負担する
- 昇進や昇給の条件に異動を含めておく
- 従業員が希望するキャリアプランに沿った人事異動を行う など
従業員の不満を放置したままでは、モチベーションの低下やパフォーマンスの低下を引き起こす恐れがあります。適切な取り組みや仕組み作りを行い、従業員に対する配慮を忘れないようにしましょう。
通勤時間が2時間に伸びても会社都合退職にはできない
人事異動によって通勤時間が2時間に伸びた場合でも、会社都合退職になるとは限りません。しかし、通勤困難な状況が認められれば「特定理由離職者」として扱われ、失業給付が優遇される可能性があります。
また、会社からの転勤や異動の命令は、基本的に拒否することはできません。拒否できるケースもありますが、通勤時間の増加だけが理由では難しいでしょう。
人事異動による従業員のモチベーションを懸念するならば、「転勤による出費は会社側が負担する」「人事異動を昇給の条件にする」などの仕組み作りで対策しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
変形労働時間制とは?1ヶ月単位や残業時間の計算をわかりやすく解説!
変形労働時間制とは、業務に合わせて従業員の労働時間を変えられる制度です。柔軟な働き方が可能になり、時間外労働を減らす効果が期待できます。1年・1カ月・1週単位の非定型的変形労働時間制、フレックスタイム制があり、それぞれの期間の合計労働時間を…
詳しくみるアニバーサリー休暇とは?メリット・デメリットや導入事例について解説
「社員のモチベーションを上げたい」「働きやすい職場環境を作りたい」 上記のような課題を抱える企業におすすめなのが、アニバーサリー休暇です。 従業員が誕生日や結婚記念日などの特別な日に休暇を取得できるこの制度は、企業文化の強化や人材確保にも役…
詳しくみるテンプレート付き – 出勤簿をエクセルで作成するには?
労働基準法で整備が義務づけられている法定帳簿の一つに出勤簿があります。様式は任意ですが、5年(民法改正の経過措置に伴い、当分の間3年)の保存義務があります。従来は、紙に記録して管理するのが一般的でしたが、パソコンが普及している昨今、エクセル…
詳しくみる深夜労働とは?割増率や給与の計算方法、深夜労働が禁止される労働者について解説
22時〜翌5時までの間に労働者に労働させた場合は、25%の割増賃金を支払う義務があります。 本記事では、深夜労働についての定義や深夜労働が禁止されている人、割増賃金の計算方法について解説します。 深夜労働とは? 深夜労働とは何か、概要を解説…
詳しくみるコアタイムとフレキシブルタイムとは?フレックスタイム制の基本を解説
子育てをしながら働く社員や、仕事をしながら親の介護をしている社員など、生活環境が多様化するなか、現在政府は「フレックスタイム制」を促進しています。 この制度は「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を労使間で決定し、それに基づいて運用されなけ…
詳しくみる48連勤は違法?労働基準法に基づき分かりやすく解説!
48連勤は、単なる「働き過ぎ」では済まされないほどの負担を労働者にもたらします。身体的な疲労と精神的なストレスが限界を超え、健康を損なうだけでなく、仕事のパフォーマンスや人生全体の質までも低下させてしまいます。 本記事では 「48連勤は違法…
詳しくみる