• 更新日 : 2025年3月5日

雇用契約書で必須の記載事項は?労働基準法に基づいた作成方法を解説

雇用契約書には終業場所や労働時間、賃金、休憩・休日など、労働基準法で定められた記載事項を明記する必要があります。

本記事では、労働基準法に基づいた正確な作成方法と必須記載事項を解説します。契約内容を明確にすることで、労使間でのトラブルを防ぎ、信頼関係を築くことが可能です。本記事を参考に、記載漏れのない雇用契約書を作成しましょう。

雇用契約書の記載事項は2種類ある

雇用契約書は民法第623条の規定に基づいた契約書で、雇用者と従業員との間で労働条件を定めるものです。

トラブルを防ぐためには、雇用契約書の作成は欠かせません。雇用契約書の記載事項は、「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」の2種類に分かれます。以下では、後ほど解説する労働条件通知書で明示が必要な事項を用いて、雇用契約書の各記載事項の詳細を解説します。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

絶対的記載事項

絶対的記載事項は、雇用契約書において労働条件を明確にするために必ず記載しなければいけない事項です。具体的な事項は以下のとおりです。

絶対的記載事項内容
労働契約の期間・更新の有無及び更新する場合の条件有期契約か無期契約か、契約期間の長さ、更新の有無や更新の際の条件を明記する
就業場所・従事すべき業務勤務地や従事する業務を具体的に記載する
労働時間・休憩・休日始業・就業時間、残業の有無、休憩時間や休日のルールを記載する
賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金は除く)基本給や手当、支払い方法・時期、昇給の有無を明記する
退職・解雇退職の手続き、解雇の条件を明記する

参考:労働契約等・労働条件の明示|厚生労働省

上記の事項は労働基準法に基づき、書面または電子媒体での交付が義務付けられています。契約内容を明確にし、トラブルを防ぐため、絶対的記載事項に漏れがないよう確認しましょう。

相対的記載事項

相対的事項とは、企業が制度を設ける場合に記載が必要な項目です。法律で記載を義務付けられていませんが、労働条件を明確にするため、契約書に記載することが望ましいとされています。具体的な事項は以下のとおりです。

相対的記載事項内容
退職手当支給対象者、計算・支払い方法、支払い時期を記載する
臨時賃金(退職手当を除く)・賞与賞与や特別手当の有無、最低賃金額を記載する
労働者負担の費用食費や寮費などの自己負担額を記載する
安全衛生職場の衛生管理、健康診断の実施に関する事項を記載する
職業訓練社内研修やスキルアップ制度の有無を記載する
表彰・制裁表彰制度や制裁の種類や程度を記載する
休職休職するための条件や復職手続きについて記載する

参考:労働契約等・労働条件の明示|厚生労働省

上記は、口頭での明示でも問題ありませんが、パートタイム労働者については、昇給・退職手当・賞与の有無を書面で明示する必要があります。口頭での明示でも足りる場合であっても、書面に記載することで、労働者との認識のズレを防ぎ、トラブルの回避につながります。

雇用契約書は内定日や入社日に交付する

企業によって雇用契約書の交付タイミングは異なりますが、内定日や入社日に交付されることが一般的です。

一方、雇入れ後に労働条件を確認し、雇用契約書を取り交わすケースもあります。しかし、雇入れ後の場合は労働条件の適用時点が不明確になり、トラブルの原因となるため避けるべきです。

企業により契約書の交付タイミングに違いはあるものの、労働条件の認識を明確にするためにも、できるだけ早期に契約内容を確認し、交付することが重要です。

雇用契約書の交付方法はメールやSMSでも可能

平成31年4月の法改正により雇用契約書は書面だけでなく、FAXやメール、SMSでも明示できるようになりました。ただし、SMS(ショートメールサービス)での交付は禁じられていませんが、注意が必要です。SMSではPDFファイルが添付できず、文字数制限があるため、十分な情報を伝えにくいため注意しましょう。

また、労働者の希望を無視して電子メールのみで明示したり、労働契約の締結時に必要な情報を明示しなかったりすることは労働基準関係法令違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

一方、雇用契約書の電子化には、事務処理の迅速化やコスト削減などのメリットがあります。状況に応じて適切な方法で交付し、労働条件の認識を明確にすることが重要です。

雇用契約書の電子化の方法やメリットは以下の記事をあわせてご覧ください。

関連記事:雇用契約書を電子化して工数削減!電子化の方法や要件、注意点は?

雇用契約書の作成義務はない

ここまで雇用契約書を作成・交付することを前提に解説しましたが、法律上、雇用契約書の作成義務はありません。民法第623条では、雇用契約は契約の申込と承諾があれば成立するとされており、口頭でも効力を発揮します。

しかし、労働契約法では「できる限り労働契約の内容を書面で確認することが望ましい」とされています。書面がない場合、労働条件に関する認識の利害からトラブルが発生することも珍しくありません。

雇用契約書は、企業と従業員が合意した労働条件を記録するためのものです。両者の署名や捺印があることは、合意の証明となります。トラブルを防ぎ、良好な雇用関係を築くためにも、書面での契約を交わすことが望ましいでしょう。

雇用契約書については下記記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

関連記事:雇用契約書とは?法的な必要性や作り方をひな形付きで紹介

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書と労働条件通知書は似ていますが、目的や法的義務に違いがあります。雇用契約書と労働条件通知書の主な違いは、以下のとおりです。

項目雇用契約書労働条件通知書
目的労働条件の合意を証明する労働条件を明示する
法的義務作成義務はない(民法上、口頭契約も有効)労働基準法第15条に基づき、交付が義務付けられている
交付のタイミング企業により異なる労働契約締結時
署名・捺印必要(合意の証明のため)不要

参考:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項により、雇用契約締結時に労働条件を明示する義務を果たすための書面です。一方、雇用契約書の作成義務はありませんが、労働条件の認識違いやトラブルを防ぐために、書面で契約を交わすことが重要です。

企業と従業員の双方にとって、明確な契約を確認できるようにすることが円滑な業務遂行につながります。

労働条件通知書の詳しい情報は、下記の記事をご覧ください。

関連記事:労働条件通知書とは?テンプレ・書き方・雇用契約書との違いや記載事項

雇用契約書を作成しないことで発生するトラブル

雇用契約書を作成することは義務でないものの、作成しないことでトラブルが発生する可能性があります。雇用契約書の必要性を確認するためには、事前に発生しやすいトラブルを理解しておくことが重要です。以下では、雇用契約書がないことによるトラブル例を紹介します。

契約内容が明確でなく従業員と相違が生じる

雇用契約書がないと契約内容が不明確となり、従業員との間で相違が生じやすくなります。とくに「いった・いってない」の問題は、契約内容を証明できず、トラブルの原因となりかねません。

たとえば、試用期間の給与が本採用よりも低い場合、事前に説明していたとしても「そんな話聞いていない」と主張される可能性があります。また、労働時間や福利厚生の条件についても、従業員の期待と異なると不満を感じ、関係悪化につながるかもしれません。これらのトラブルとなる事項は、労働条件通知書に記載されている場合であっても、労働者の署名・捺印を必要としないため、使用者と労働者の認識にズレが生じやすいです。

上記のようなトラブルを防ぐためにも、雇用契約書を作成して契約内容を明確にし、労働者の署名・捺印を備え、後から確認できるようにすることが重要です。

従業員の解雇や雇い止めなどに対する認識のズレが生じる

雇用契約書がないと、解雇や雇い止めに対する認識のズレが生じ、トラブルにつながる可能性があります。

労働基準法では、使用者が労働者を解雇するには正当な理由が必要だとされています。たとえば、入社時の経歴詐称や反射的勢力との関係、病気や怪我による長期の休職などです。

ただし、経歴詐称を理由とする解雇は、重大性により判例が分かれています。経歴詐称が解雇の正当な理由となるには、具体的に以下の2点を満たす必要があります。

  1. 経歴詐称が事前に発覚していれば、労働者を雇入れることはなかった場合
  2. 経歴詐称が事前に発覚していれば採用しなかった、と主張することが客観的に相当であると言える場合

また、試用期間中でも雇用契約は成立しており、解雇には合理的な理由が求められます。試用期間は使用者が労働契約解除権を留保しており、通常の解雇よりも広い解雇理由が認められている状態ですが、一方的な解雇は認められません。

トラブルを防ぐため、雇用契約書に解雇や雇い止めの条件を明記し、双方の認識を一致させることが重要です。

雇用契約書を作成する際の4つのポイント

雇用契約書を作成する際は、必要な事項を漏れなく明記する必要があります。記載漏れや口頭での伝達に頼ることは、トラブルにつながる可能性があるため注意が必要です。以下では、雇用契約書作成のポイントを紹介します。

1. 記載事項を網羅する

雇用契約書を作成する際は、記載すべき事項を漏れなく網羅することが重要です。

とくに、雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合、労働基準法で定められた絶対的事項を必ず記載しなければいけません。また、就業規則で定められた相対的記載事項がある場合は、対象の事項を明示する必要があります。

相対的記載事項の書面での交付は義務ではありませんが、契約書に盛り込むことで労使双方の認識を明確にできます。

さらに、有期雇用従業員については、契約更新の有無や更新基準を明記し、とくに更新の可能性がある場合は判断基準を具体的に示しましょう。

2. 労働時間を明確にする

雇用契約書を作成する際は、労働時間を明記することが重要です。具体的には、始業時間と就業時間、休憩時間、所定労働時間を記載します。

また、フレックスタイム制や裁量労働制、みなし労働時間制、固定残業制など、変則的な労働時間制度を導入する場合は、詳細な内容の記載が必要です。

たとえば、フレックス制ではコアタイムフレキシブルタイム、裁量労働制では適用業務とみなされる労働時間を明記することで、労使間の認識のズレを防げます。

さらに、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させることは原則できません。ただし、36協定を締結すれば、一定の範囲内で法定労働時間を超えた労働が可能になります。

契約書には、時間外労働の有無や上限時間を明記し、適切に管理することが重要です。

3. 転勤や人事異動の有無を記載する

雇用契約書を作成する際は、転勤や人事異動の有無を明確に記載することが重要です。企業の運営上、在職中に勤務地や職種の変更が必要になる場合があるため、転勤・人事異動・職種変更について契約書で明記する必要があります。

就業規則に転勤や移動の規定があっても、雇用契約書に記載されていなければ、従業員に転勤を命じても無効となる可能性があります。そのため、契約書には転勤や異動の対象範囲を具体的に記載し、労使間で合意を取ることが重要です。

また、2024年の労働基準法改正により、就業場所や業務の変更の範囲を明示する義務が追加されました。就業場所と業務の変更範囲の明示は、すべての従業員に対して義務となります。

有期契約労働者に対しては、更新上限・無期転換申込機会・無期転換後の労働条件を明示することが義務付けられました。法改正により、記載すべき項目が増えたことも考慮して作成しましょう。

4. 試用期間の条件を明記する

雇用契約書には、試用期間の条件を明記することが重要です。

試用期間を設けることで、労働者の適正を見極め、本採用の可否を判断できます。しかし、契約書に使用期間の記載がないまま本採用を拒否すると、試用期間特有の解雇が認められず、通常の解雇と同様に厳しく判断される可能性があるため注意が必要です。

試用期間中の解雇や本採用の拒否は、試用期間満了後よりも広範囲で認められます。試用期間を定めない場合、解雇の合理性が厳しく問われ、事業主にとって不利になることがあります。

とくに新卒社員の本採用拒否に関する合理的な理由は、能力不足や協調性の欠如、勤務態度不良などが、企業側で丁寧に繰り返し指導しても改善の見込みがない場合のみです。

また、試用期間は就業規則の範囲内で設定する必要があり、契約書でより長い期間を定めても、就業規則の規定が優先されます。

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雇用契約書の記載内容は場合により後から変更できる

雇用契約書の記載内容は場合により後からでも変更可能です。ただし、変更には条件があり、ケースにより一方的な変更は禁じられています。以下では、変更する方法について解説します。

使用者と労働者の同意により変更できる

雇用契約書に記載された労働条件は、使用者と労働者の合意により変更可能です。労働契約法第8条では、「労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められています。

労働者に有利な変更であれば、労働契約法第12条に基づき就業規則の変更により一方的に適用できるため、労働者の同意は不要です。一方、労働者にとって不利益な変更は、原則として労働者の合意が必要です。

ただし、合理的理由がある場合、不利益な変更でも就業規則は有効だと判断されます。判例によると、以下の点が合理性の判断基準になるとされています。

  • 労働組合または従業員の大部分の合意の有無
  • 不利益の程度
  • 変更の必要性の有無
  • 代償措置・経過措置の有無 など

参考:労働契約法 | e-Gov 法令検索

雇用契約書に法律違反がないことを確認する

雇用契約書の記載内容を変更する際は、法律に違反していないかの確認が重要です。労使間で合意していても、法律に反する内容は無効となります。

たとえば、最低賃金を下回る給与や法定労働時間を超える勤務を定めた場合、無効となり、労働基準法の法令に基づいた条件が適用されます。そのため、契約内容の変更を検討する際は、法令を遵守しているか確認することが重要です。

記載内容が法律違反でないか不安な場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

雇用契約書を作成する際の注意点|雇用形態ごとに解説

雇用契約書の記載事項は、雇用形態によって異なります。適切に契約を結ぶためには、事前に各雇用形態の要件を確認しておくことが重要です。以下では、雇用形態別の注意点を解説します。

正社員の雇用契約書に必要な記載事項

正社員は、期間の定めがない無期雇用契約の従業員です。

正社員は在職中に転勤や人事異動、業務内容の変更が生じる可能性があるため、契約書に異動の有無や転勤の可能性(地方・海外を含む)を明記し、採用時に口頭でも説明して合意を得ることが重要です。

また、試用期間の有無、適用される労働時間制、休日、休暇などの設定も記載する必要があります。

契約社員の雇用契約書に必要な記載事項

契約社員は、期間を定めた有期雇用契約の従業員です。雇用契約書には、契約期間と更新の有無の記載が必要です。更新がある場合は更新を、更新がない場合は更新がない旨を記載します。

また、有期労働契約が3回以上更新される、または1年を超えて継続雇用している労働者の契約を更新しない場合、契約満了の少なくとも30日前までに予告が必要です。

さらに、2024年の法改正により、更新上限の有無と内容、および無期転換申込機会や無期転換後の労働条件の明示が義務付けられました。

更新上限の明示有期労働契約を締結する際や契約更新時に、契約の更新回数や契約期間の上限があるかどうかの具体的な内容を明示する
無期転換申込機会の明示「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込む権利があること(無期転換申込機会)を明記する
無期転換後の労働条件の明示「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングに合わせて、無期転換後の労働条件を明示する

参考:2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました|厚生労働省

上記の内容を適切に記載することで、未然にトラブルを回避できます。

パート・アルバイトの雇用契約書に必要な記載事項

パート・アルバイトの雇用契約書には、労働条件を明記する必要があります。パートタイム労働法第6条により、昇給・退職手当・賞与の有無を契約書に記載しなければいけません。

記載しない場合は法律違反となり、10万円以下の過料に処される可能性があります。また、雇用期間に定めがある場合は、契約社員と同様に契約期間や更新の有無、更新条件などの明記が必要です。

記載事項に漏れのない雇用契約書を作成しよう

雇用契約書は、就業場所や労働時間、賃金、休暇など基本的な労働条件を正確に明示する重要な書類です。

記載事項を漏れなく確認し、自社の実情に合わせて作成すれば、労使間の誤解やトラブルを防ぎ、安心できる職場環境の構築につながります。


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