• 更新日 : 2025年3月5日

労災保険の休業補償とは?支給要件や申請手続きの流れをまとめて解説

企業において、労働者が業務中の事故や業務に起因する病気によって休業を余儀なくされた場合、労災保険の休業補償給付が適用になります。

この制度は、労働者が業務上の理由で働けなくなった際に、休業4日目以降から賃金の一部が補償される仕組みです。

企業は労災が起きてしまった場合、従業員の生活を守ると同時に、適切な手続きと対応を行うことが求められます。

本記事では休業補償の概要に加え、受給に必要な支給要件、企業がサポートすべき申請手続きの流れ、そして支給金額の計算方法についてわかりやすく解説します。

従業員が安心して療養に専念できるよう、正しい知識を身につけ、迅速かつ的確な対応を行うための参考にしてください。

労災の休業補償とは?

労災の休業補償とは、業務上のケガや病気により働けなくなった労働者に対して、企業が支払わなければならない災害補償です。

休業補償の対象となるのは、「業務災害」または「通勤災害」のいずれかに該当している場合のみです。

  • 業務災害:業務上の事由によるもの
  • 通勤災害:通勤中にケガもしくは病気にかかること

なお労働基準法で定められている休業補償は業務災害のみで、正式には「休業補償給付」と呼ばれます。一方で企業が加入している労災保険では通勤災害も休業補償の対象となり、「休業給付」の名称となります。

業務災害の場合、休業1〜3日目までは労災の休業補償対象外となり、労働基準法の定めで、平均賃金の60%を会社負担で労働者に支払うのが義務です。

ただし休業してから4日目以降は、加入している労災保険に休業補償給付の支払いを求められます。

一方で通勤災害は、会社に非がないことから、休業1~3日までの休業補償の義務はなく、休業4日目から休業給付の支払い対象になります。

なお、休業補償給付および休業補償は、非課税の扱いのため、年末調整確定申告は不要です。

参考:e-Gov法令検索「労働基準法 第七十六条」
国税庁「労働基準法の休業手当等の課税関係」

また休業補償については、下記記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください

関連記事:休業補償とは?休業手当との違い、支払い金額の計算方法を解説!

休業補償の支給要件

休業補償の支給を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。

次項で詳しく解説しますので、ご参考ください。

業務中に起きたケガや病気による療養中であること

休業補償を受けるには、ケガや病気が業務により発生し、療養中により「労働ができない状態」にあることが大前提です。

労働時間のすべてを労働できない場合のほか、一部の時間労働できない場合でも、「労働できない状態」と認められるケースがあり、休業補償給付を受けられます。

ただし、仕事以外の要因も影響して発症した病気やケガ、通勤経路外で起きた事故は該当しない可能性があります。

休業補償の適用要件については、以下の記事でも解説していますので、ご参考ください。

関連記事:労災保険の休業補償とは?金額や手続きについて解説

療養による労働ができない期間が4日以上であること

業務上で発生したケガや病気の治療により、働けない状態の期間が4日以上であることが求められます。

休業1〜3日は「待期期間」と呼ばれ、休業補償給付の対象にはならず、企業負担で平均賃金の60%を支払います。

待期期間を経て、働けない状態が4日以上であれば、4日目から休業補償の対象です。

なお「働けない状態」とは、ケガや病気が起こる前と「同じ業務では働けないこと」が条件ではありません。合意のもと業務軽減や配置転換で復帰できるのであれば、働けると見なされるケースもあります。

療養中に賃金を受けていないこと

休業補償は、療養中に賃金が支払われていないことが条件になります。

ただし、所定労働時間内のうち、一部だけ労働した分に値する賃金が、平均賃金の60%未満であれば、賃金を受けていないと見なされます。

具体的な例をみていきましょう。

  • 1日の平均賃金が10,000円
  • 平均賃金の60%=6,000円
  • 通院で午後は早退のため、午前のみの労働により、5,000円だけ賃金が支給された

上記の例は、平均賃金が6,000円なのに対して1日の支給額が5,000円と、平均賃金の60%未満であるため「賃金を受けていない日」になります。

なお、療養のために有給休暇や欠勤扱いの場合でも賃金が支払われている場合、会社から賃金が補填されているので、賃金を受けていない日に該当しません。

労災の休業補償給付を受けられる期間

休業補償給付は、再び仕事ができるようになるまで、もしくは傷病補償年金に移行するまで給付されます。

傷病補償年金とは、治療開始から1年6ヶ月経過しても治療されず、厚生労働省が定める一定の障害状態が続く場合に、労災保険から支給される年金です。

傷病補償年金の受給要件は以下のとおりです。

  • 業務上または通勤災害が原因で発生した傷病であること
  • ケガまたは病気が治っていないこと
  • ケガまたは病気が、労働者災害補償保険法施工規則によって定められている等級に該当すること

また完治していなくても、これ以上治療の効果が期待できないと判断された場合は、給付が打ち切りになるケースもあります。

状態の判断は、医療機関からの報告にもとづいて、労働基準監督署に委ねられます。

参考:厚生労働省「傷病(補償)等年金について」

なお、労災保険に休業補償以外にも種類があり、それぞれ給付期間や申請期限が異なります。以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

関連記事:労災保険の給付期間や申請期限は?休業補償などの種類別に解説!

労災の休業補償手続きは誰がする?

休業補償は正社員やアルバイト、派遣社員など雇用形態に関わらず対象となり、原則本人または、亡くなっている場合は家族が申請します。

ただし、会社や派遣会社の代行申請も可能なので、会社での代行申請が大半です。

なお、病気やケガの状態によっては、本人が申請できないケースも考えられるでしょう。その場合、労災保険法施行規則二十三条一項により、企業は労災申請のサポートが義務付けられています。

また、休業中の労働者から給付を受けるために必要な証明を求められた場合、すみやかに証明する義務もあります。

そのため企業は、休業補償給付の手続きや、証明書の提出は、早急に対応するように心がけましょう。

参考:e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施工規則」

労災の休業補償給付の計算方法

休業補償給付は休業4日目から、「休業補償給付」と「休業特別支給金」が支給されます。

支給額の内訳は以下のとおりです。

  • 休業補償給付:1日あたりの平均賃金×60%/休業1日
  • 休業特別支給金:1日あたりの平均賃金×20%/休業1日

つまり、あわせて1日あたりの平均賃金の80%が支給対象額になります。また所定労働時間の一部について労働した場合、実働に対して支給される賃金額を控除した額の80%が支給対象です。

次項では具体的な計算方法について、例を挙げて解説しますので、ご参考ください。

なお以下の記事では、休業特別支給金について詳しく解説しています。

関連記事:労災の休業特別支給金とは?支給要件やもらえない場合、申請方法、税金を解説

給付基礎日額を計算

給付額を計算するには、最初に1日あたりの平均賃金である給付基礎日額を計算します。

なお給付日額を計算する際は、労災が発生した日の直前3ヶ月間に、対象の労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割って算出します。また臨時的に支払われた賃金や、賞与などは含まれません。

具体的な計算方法をみていきましょう。

月に20万円の賃金の支払いを受けており、賃金の締めは毎月月末、労災発生は10月
直近3ヶ月の暦日数(7月:31日、8月:31日、9月:30日)=92日

上記の例で給付日額を計算すると

20万円×3ヶ月=60万円

60万円÷92日≒6,522円(1円未満は切り上げ)

上記の例では、給付基礎日額は、「6,522円」となります。なお、給付基礎日額の最低補償額は、令和6年8月1日以降、「4,090円」です。

就業先の給付基礎日額を計算した際に、最低補償額を下回る場合は、最低保障額を給付基礎日額として、給付額が計算されます。

参考:厚生労働省「給付基礎日額の最低保障額」

給付基礎日額をもとに給付額を計算

給付基礎日額を計算したら、休業補償給付額と休業特別支給金の計算です。なお、所定労働時間の一部だけ労働した場合、給付基礎賃金から働いた賃金を差し引いた金額の、80%が支給対象です。

またダブルワーカーなど、複数の企業で働いている場合、原則すべての就業先にかかる給付基礎日額を合算した金額で、給付額を計算しましょう。

ここでは、前述で算出された給付基礎日額「6,522円」をもとに、休業4日目以降の給付額を計算します。

  • 給付基礎日額 6,522円
  • 休業補償給付=6,522円×0.6≒3,913円(1円未満切り捨て)
  • 休業特別支給金=6,522円×0.2≒1,304円(1円未満切り捨て)
  • 合計 3,913円+1,304円=5,217円

上記の例では、休業1日あたりの休業補償額は「5,217円」となります。

労災の休業補償における申請手続きの流れ

労災の休業補償は、管轄の労働基準監督署に必要書類を提出して、請求を行います。

なお労災保険の給付には時刻があり、労働者災害補償保険法第四十二条で「賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年」と定められています。

次項で申請手続きの流れを解説しますので、もれなく申請するようにしましょう。

参考:e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法第四十二条」 

1. 休業補償給付支給請求書の作成

休業補償給付の申請は、業務災害か通勤災害かにより、申請書類が異なります。

  • 業務災害:休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号様式第)
  • 通勤災害:休業給付支給申請書(様式第16号の6)

様式は厚生労働省のHPからダウンロードが可能です。

書類には、労働者の個人情報や休業期間、初診日や災害情報の詳細を記載する必要があります。詳しい記載例は、以下をご参考ください。

休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続

引用:休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続 |厚生労働省

請求書の下部では、事業主や医師の証明が必要になるため、記載してもらうようにしましょう。また初回提出時のみ、「平均賃金算定内訳」の提出が求められます。

休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続2

ダブルワーカーなど、複数事業所から賃金を受けている場合、労災が発生していない事業所からの賃金台帳も確認対象となるので、取得してもらうようにしましょう。

2. 労働基準監督署への申請

必要書類が整ったら、管轄の労働基準監督署に提出します。本人または家族の提出が原則ですが、会社が代理で申請しても問題ありません。

申請期日に決まりはありませんが、申請から支給までは一定期間かかるため、遅ければその分、労働者へ支給されるのが遅くなってしまいます。

したがって、休業補償は生活費の補填が目的であることを念頭において、給与と同じ間隔で支給されるように、1ヶ月ごとの申請が望ましいでしょう。

3. 労働基準監督署から通知書の送付

申請後は、提出した申請内容にもとづき、労働基準監督署が審査を行います。不備等がなく、認定されると「支給決定通知書」が届き、後日給付金が指定した口座に振り込まれます。

ただし労災が発生した経緯やケガ・病気などの状況によっては審査に時間を要するため、その旨は労働者に伝えておきましょう。

会社は「労働者死傷病報告書」の提出が必要

会社は、労災による休業者が発生した場合に「労働者死傷病報告書」の提出が義務付けられています。

提出をしない、もしくは虚偽の内容を報告した場合は、労災隠しとなり、50万円以下の罰金に処されます。

休業が4日以上であれば遅延なく、4日未満なら3ヶ月ごとの提出が必要です。なお令和7年1月1日より、電子申請が義務化されました。

電子申請については、詳しくは厚生労働省ポータルサイト「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」をご覧ください。

参考:e-Goc法令検索「労働安全衛生法第百条」
e-Gov法令検索「労働安全衛生規則第九十七条」
労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます(令和7年1月1日施行)|厚生労働省

労災の休業補償でよくある質問

休業補償について、概要や計算方法、手続き方法について解説しました。

本章では、労災の休業補償についてよくある質問について回答していきますので、ご参考ください。

受給者が途中で退職した場合はどうなる?

休業補償給付を需給している労働者が、途中で退職するケースも考えられるでしょう。そのような場合でも、労働者災害補償保険法第十二条の五の定めにより、補償は継続されます。

ただし退職後に、以下のような環境変化がある場合は、賃金の受取が発生していると見なされるため、受給は終了します。

  • 傷病が治癒したと判断される
  • 医師が就労可能を認める
  • 新しい会社に就職した
  • フリーランスで収入を得た

退職後の状況変化については、本人が労働基準監督署へ報告し、必要な手続きを行う必要があるため、退職時にその旨を伝えておくといいでしょう。

骨折の場合でも休業補償の対象になる?

骨折の場合でも医師の指示のもと療養を行い、仕事ができない状態ならば、「賃金を受けられない期間」の対象になるため、休業補償の対象です。

ただし完治していなくても仕事ができる状態まで回復すると、休業補償の受取要件を満たさなくなるため、給付受取は打ち切りになります。

労災の休業補償は休業4日目から請求できる

労災保険の休業補償は、労働者が業務に起因して働けなくなった際に、経済的な支えとなる重要な制度です。企業にとっても、従業員の生活を守るために正しい知識を持ち、迅速に対応することが求められます。

休業補償を受けるためには、業務起因性の確認や休業4日目以降であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。また、申請には企業側のサポートも不可欠です。適切な手続きを行うことで、労働者が安心して療養に専念でき、復帰に向けた環境づくりを整えられます。

万が一の事態に備え、休業補償の仕組みや申請フローをしっかり理解し、社内体制を整えておきましょう。


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