• 更新日 : 2025年2月21日

就労定着支援とは?利用期間・料金・対象者などを紹介

就労定着支援は、障がい者の一般就労後の職場定着を目的に、支援を行う障がい福祉サービスです。支援内容には、障がい者本人へのヒアリングや、担当者との連携、関係者への連絡調整など多岐にわたります。就労定着支援は2018年にはじまったサービスなので、実施施設や利用条件など、まだわからない方もいるでしょう。本記事では、就労定着支援の業務内容や利用条件、事業所側としての申請方法についても解説します。

就労定着支援とは

就労定着支援は、障がいや病気を持つ人が一般就労した職場で、働き続けるために支援を行う障がい福祉サービスです。「障がいの有無に関わらず、誰もが共生する社会の実現」といった、障害者総合支援法によって定められました。2018年にはじまったサービスのため、需要がある一方で、まだ提供している事務所は追いついていない現状もあります。

就労定着支援が広がる背景

障がい者の雇用は、1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」を前身として、1976年に、障がい者の職業の安定や自立促進を目的に改正が行われました。これ以降、障がい者の雇用率は上昇傾向にあります。一般企業に就労した障がい者の定着率は、障がいの種類によって異なり、中でも精神障がいを持つ人の定着率は低い傾向にあります。

参考:令和5年 障害者雇用状況の集計結果 

【一般企業への就職後の障害別職場定着状況】

就職後3ヶ月時点の定着率就職後1年時点の定着率
身体障害77.8%60.8%
知的障害85.3%68.0%
精神障害69.9%49.3%
発達障害84.7%71.5%

参考:障害者の就業状況等に関する調査研究

ダイバーシティ・インクルージョンについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?事例や効果的な導入ポイント

就労定着支援と類似サービスの違い

就労定着支援には、似たような名称のサービスが多数存在します。具体的な違いを解説していきます。

就労移行支援

就労移行支援は、一般就労が見込まれる方の就職をサポートする福祉サービスです。職場見学や実習などの体験と、基礎体力向上や適正・課題の把握などに加え、生産活動と呼ばれる雇用契約に基づかない就労機会の提供、また就職活動のサポートも行われます。就労定着支援は就職後の定着支援であることに対し、就労移行支援は就職に向けたサポートが主な内容です。

また、就労移行支援を活用して就職した場合、就職後6ヶ月間は支援事業者が就職後の継続的な支援を行います。終了後は必要に応じて多くの場合、就職までの支援に携わった支援事業者による就労定着支援へと移行し、長期就労に向けたサポートを実施します。

ジョブコーチ(職場適応援助者)

ジョブコーチは「職場適応援助者」とも呼ばれます。障がいのある方が就職し、職場に上手く適応して働き続けられるよう支援を行う人がジョブコーチです。職業リハビリテーションのひとつで、ジョブコーチは職場で直接支援を実施します。使用者や職場の方に対し、体調や特性を理解したコミュニケーションについてアドバイスを行うのが主な役割です。

ジョブコーチには、社会福祉法人などに雇用される訪問型、企業内で雇用される企業在籍型、地域障害者職業センターに所属する配置型の3種類に分類されます。

ジョブコーチについては、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。

ジョブコーチ(職場適応援助者)とは?支援内容や種類、助成金制度など解説!

就労継続支援A型

就労継続支援A型(以下A型)は、就労継続支援事業所と雇用契約を結び、給料を受け取りながら仕事に取り組む障害福祉サービスです。A型の対象は、障がいなどにより一般企業での就労が難しい方に限定されます。仕事内容は、就労継続支援事業者が請け負った軽作業や、事業者によってはプログラミングやウェブコンテンツの作成、ECサイトの運営などです。

これらの仕事を事業者に雇用される支援者(スタッフ)の支援を受けながら行います。A型での所定労働時間は週20時間以上となっており、個々の利用者の状況を考慮して決定されます。

就労継続支援B型

就労継続支援B型(以下B型)は、一般企業での就労が難しい方に向けて、働く場所を提供するための障がい福祉サービスです。対象者は、障がいなどによる一般就労の難しい人の中でも特に安定した出勤に向けたトレーニングが必要な人です。A型と異なりB型は雇用契約を結んだ就労ではありません。実施内容も労働ではなく「生産活動」を行い、給料ではなく「工費」が支払われます。

生産活動の内容は農作業や部品加工などの軽作業が多く、工費は最低賃金を下回りますが、個人の体力にあわせて働ける点がメリットです。

就労定着支援の内容

就労定着支援は、障がい者の就労における課題に対し、解決に向けた各種サポートを実施します。3つの項目に分けて解説しますので、理解を進めましょう。

課題のヒアリング

担当者は、月1回以上の頻度で障がい者と企業担当者の双方にヒアリングを実施します。ヒアリング内容は、業務での困りごとや勤務状況、企業側に伝えたい事柄など、仕事にまつわる悩みが中心です。同時に、生活面や体調面での悩みなど、就労の土台となる生活面も必要に応じてヒアリングを行います。

企業の担当者には、受け入れ環境や教育状況、当人への伝達事項などを聞き、最終的に両者の面談内容を整理し、課題解決に向けて必要な手配を整えます。

関係者との連絡調整

就労定着支援では、就労が長期的に維持できるよう直接サポートを行うだけでなく、関係者との連絡調整も行います。たとえば、体調面での不安があれば、医療機関や福祉機関などと連携を取るのも重要な役割です。ストレスによる生活リズムの乱れに加えて、家計管理が上手くできなかったり、疲れが溜まって仕事上でミスを続けてしまったりするなど、悩みは多岐にわたります。こうした課題の解決へ向けて、連絡調整を進めていきます。

課題解決へのサポート

障がい者が就労先で定着するためには、さまざまな課題をクリアする必要があります。障がい者が就労先で定着するためには、その障害特性から生じる課題を克服する必要があります。就労継続支援では支援員が一緒に課題に向き合い、就労先への定着に向けたサポートを行います。

就労定着支援の概要|対象者・利用期間などを紹介

就労定着支援には、利用するための条件が決まっています。詳細について正確に理解しておきましょう。

利用対象者

就労定着支援の利用対象者は、「就労移行支援」「就労継続支援」「生活介護」「自立訓練」のいずれかの障がい福祉サービスを利用し、一般就労した方が対象です。 また、一般就労から6ヶ月経過した方が該当します。なぜなら、障がい福祉サービス利用後に一般就労した方は、就労から6ヶ月間は障がい福祉サービスによる定着支援が実施されるからです。

利用期間

就労定着支援のサービスの利用期間は、最大で3年です。「就労移行支援」「就労継続支援」「生活介護」「自立訓練」を行う事業所から一般就労した場合、6ヶ月は事業所からの定着支援が行われます。支援が終わり次第、本人の意向も確認の上、引き続き就労定着に向けた支援が必要な方は就労定着支援へと移行し、3年間サービスを受けられる流れです。

利用料金

利用料金は厚生労働省が定めた障がい福祉サービスのサービス提供費に応じて設定されています。前年度の世帯所得や自治体によっても負担の上限額は異なります。

区分世帯の収入状況負担上限月額
生活保護生活保護受給世帯0円
低所得市町村民税非課税世帯(注1)0円
一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円(注2)未満)

※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除きます(注3)。

9,300円
一般2上記以外37,200円

(注1)3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。

(注2)収入が概ね670万円以下の世帯が対象になります。

(注3)入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」となります。

引用:障害者の利用者負担(厚生労働省)

就労定着支援の実施主体

就労定着支援の実施事業者にはいくつかの種類があります。「就労移行支援」「就労継続支援」「生活介護」「自立訓練」を行う事業所が、必ずしも就労定着支援を実施しているわけではありません。また、すでにジョブコーチを配置に取り組んでいる職場であれば、対象となる障害者の就労定着支援がよりスムーズになります。

【おもな就労定着支援の実施主体】

  • 就労移行支援事業所
  • 障がい者職業センター
  • 障がい者就業・生活支援センター
  • 就労継続支援A・B型事業所
  • 自立訓練事業所

就労定着支援を利用するメリット

就労定着支援には、事業者側にも利用者側にも、双方にメリットがあります。それぞれ解説していきます。

事業者側のメリット

障がいの種類や特性は人により異なります。就労定着支援を利用すると、就労定着支援員が障がい者本人・企業双方の観点から就労定着に向けた課題や問題の提起など、障がい者本人だけでなくまわりの従業員も働きやすい職場づくりをサポートしてくれます。

利用者側のメリット

障がい者の方にとって、新しい環境でのトラブルや悩みへの不安は通常の労働者以上に大きいものです。多くの場合、これまで利用していた就労定着支援などの実施事業者が就労定着支援事業もあわせて行っているため、就労定着支援を利用することが望ましいです。新しい環境での不安が大きい場合、就労定着支援を受けることで、就労先への定着をサポートしてもらえるという安心感を得られる、という点がメリットとして挙げられます。

就労定着支援事業所として指定を受けるまでの流れ

就労定着支援を行うには、就労定着支援事業所として指定を受けることが必要です。また就労定着支援事業所として指定を受けるには、すでに「就労移行支援」「就労継続支援」「生活介護」「自立訓練」を行うサービス事業者でなくてはいけません。それに伴い、過去3年間で3人以上の障がい者を一般就労させていることが求められます。

以下に就労定着支援事務所として、指定を受ける際の流れについて解説します。

事前面談

まずは市町村の担当課に事前相談が必要です。相談の際は、事業計画等の資料を準備し、指定を希望する2〜3ヶ月前に予約を取ります。 事業計画の作成が遅れると、指定を受けられるタイミングも後倒しになる可能性があるため、注意しましょう。

書類提出

書類提出は所定の申請フォーマットがあります。ダウンロードして作成を進めましょう。東京都の場合、申請の受付は、公益財団法人東京都福祉保健財団が実施しています。

参考:

東京都障害者サービス情報(東京都福祉局)

就労定着支援指定申請のしおり 

審査

書類提出後は国の定める基準を基とした各自治体の条例に沿って、大きく3つの視点で審査が行われます。全て満たしていないと指定は受けられませんので、注意しましょう。

審査基準  1.人員配置基準

就労定着支援の指定を受けるには、有資格者の配置や人数に関する基準を満たす必要があります。

職種就労定着支援の人員配置基準常時要件
管理者1名以上なし
サービス

管理責任者

  • 利用者60人以下:1人以上
  • 利用者60人以上:1人に、利用者数が60人を超えて40または、その端数を増すごとに1人以上を加えて得た数以上
    ※就労移行等と同一の事務所で一体的に運営している事業の場合は、利用者の合計数に応じて配置する
1人以上は常勤
就労定着

支援員

常勤換算方法で、利用者の数を40で除した数以上なし

参考:

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準

審査基準  2.設備基準

事業所に必要な設備に関する基準です。

第206条の5

指定就労定着支援事業者は、事業を行うために必要な広さの区画を有するとともに、指定就労定着支援の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない。

引用:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準

設備基準について、就労移行支援事業者などの指定を受ける際にクリアしているはずですが、今一度確認しておきましょう。

審査基準  3.運営基準

事業を実施するうえで求められる運営上の基準です。その中でも重要な基準のひとつが、既存の支援事業などを通じた就職実績です。

第206条の7

指定就労定着支援事業者は、生活介護等に係る指定障害福祉サービス事業者であって、過去3年以内に当該事業者の事業所の3人以上の利用者が新たに通常の事業所に雇用されたもの又は障害者就業・生活支援センターでなければならない。

引用:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準

就労移行支援事業者などの指定とは基準が異なりますので、注意しましょう。

新規指定事業者説明会に参加

就労定着支援事業所として指定を受けた後は、新指定事業者説明会に参加しましょう。開催頻度は自治体によって異なります。事業所運営に欠かせない重要な説明を受けられ、運営において発生しやすい不明点もその場で質問できます。効率的に活用し、事業所運営に役立てましょう。

今後も就労定着支援へのニーズは高まることが予想される

就労定着支援事業は障がいの一般就労の定着を支援する重要な役割です。障がい者の就労を、仕事の面だけでなく、生活面からもサポートを行います。近年需要は高まっていますが、2018年に始まったサービスのため、まだまだ指定事業所の数が追いついていない状況です。申請を検討する事業所は、スケジュールや審査基準を理解し、準備を進めていきましょう。


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