- 更新日 : 2025年7月30日
パーソナルスペースとは?男女による違いや職場や商談での活用について解説
「パーソナルスペース」という言葉は、プライベートスペースの親密な関係について語られることも多いです。しかし、今回はビジネスパーソンに向けて、職場や商談といったビジネスシーンでのパーソナルスペースに焦点を当てます。本記事で紹介するのは、パーソナルスペースという考え方の基礎とビジネスでの活用法です。
目次
パーソナルスペースとは?
パーソナルスペースとは、他人に侵入されると不快に感じる空間のことを意味しています。スイス人H・ヘディガーの動物心理学の研究をヒントに、アメリカの文化人類学者E・T・ホールが導入した概念です。
英語でパーソナル(personal)という言葉は個人を指すだけでなく、元来「身体」を含意しています。単に人間どうしの距離・空間というよりも人間の身体相互の距離・空間を扱う問題意識が、パーソナルスペースという言葉に表れているのです。
似た言葉に、「パーソナルディスタンス」があります。基本的にパーソナルスペースと同じ意味と考えてかまいません。ただし、若干のニュアンスの違いがあります。
パーソナルスペースと呼ぶ場合にイメージされているのは、スペース=空間として2次元・3次元的な広がりです。一方、パーソナルディスタンスと呼ぶ場合には、ディスタンス=距離として端的に1次元の線がイメージされています。
パーソナルスペースやパーソナルディスタンスを扱うプロクシミクス=近接学という社会学の領域が生まれており、パーソナルスペースの研究は現在も発展途上です。
パーソナルスペースの4つの目安
4つのゾーンの対人距離に分けて、パーソナルスペースは理解されています。
公衆距離(360cm以上)
公の場で聴衆に対してスピーチをしたり、聴衆としてスピーチを受けたりするときに安心できる距離は360cm以上といわれます。この距離が「公衆距離」です。公衆距離より近いスペースに聴衆や講演者がいると、落ち着かない気持ちが生まれます。講義や講演会といわれる場では、この程度の距離から席が埋まっていくのです。
社会距離(120~360cm)
知人と呼ぶのがふさわしい関係の人と話すときに適切な距離は、120~360cmといわれます。これが「社会距離」です。会話しやすい距離であり、かつ個人的な領域に踏み込まれる脅威を感じません。会社の同僚・上司・取引先の人との会話の多くでは、自然とこの距離を取っています。ビジネス上のコミュニケーションでは、基本的にこの距離が適切です。
個体距離(45~120cm)
友人や家族と話すときに通常取る距離は、45~120cmです。「個体距離」といいます。互いの表情を読み取りやすく、軽い身体接触も可能な距離です。親しい関係性のため、脅威を感じません。仕事上の関係の人がこのスペースに入ると、警戒感が生じやすいといえます。
密接距離(45cm以下)
45cm以下は、恋人・夫婦・親子といったきわめて親密な関係で許される距離です。「密接距離」と呼ばれます。身体に触れたり、抱擁したりできる距離です。親密な関係の人がこのスペースに入ると安心感を感じますが、それ以外の人であれば強い不快感を感じます。
人により異なるパーソナルスペース
ただし、単に関係性の近さだけでなく、相手の性別や年齢によってもパーソナルスペースの広さは異なってきます。国民性や文化による違いも重要です。
男女による違い
一般に女性より男性の方がパーソナルスペースは広いです。つまり、男性は女性に比べ相手との距離を取りたがる傾向があります。また興味深いのは、パーソナルスペースの形の違いです。女性のパーソナルスペースは正円形なのに対し、男性の場合は中心が前方にある楕円形だとされています。男性は特に前方に広くパーソナルスペースを持っているのです。つまり、男性は前方に集中して警戒しています。
特に男性の特徴的なパーソナルスペースについて知っておくことは、職場などのビジネスシーンにおけるコミュニケーションで役に立つでしょう。
年齢による違い
子どものパーソナルスペースは狭く、警戒心が少ないといえます。12歳頃から意識が強まってパーソナルスペースを徐々に広げていきます。40歳頃にピークに達すると、その後のパーソナルスペースは縮小していくとされています。
国民性、文化による違い
接触文化といわれる南米・南欧・中東に住む人のパーソナルスペースはおおむね狭く、非接触文化といわれるアジア・北米・北欧に住む人の場合はおおむね広いです。また温暖な地域ではパーソナルスペースが狭く、寒冷な地域では広いといわれています。ハグ・アンド・キスが当たり前な温暖ラテン諸国の国民性を想像すればわかりやすいでしょう。
パーソナルスペースを職場や商談で活用するには?
パーソナルスペースについての知識を、職場や商談などのビジネスシーンで活用しましょう。状況別に、距離の取り方や座席の配置などについて解説します。
親しく議論したい場合
例えば同じ職場の仕事仲間とならば、親しくざっくばらんに議論をしたい場合があります。また商談の場面では相手の警戒心を解くことが大切です。そのようなときは、警戒感を与えずかつ遠すぎない120cmくらいの距離を取るのがいいでしょう。また2人の場合は、正面に対するよりも互いが45°の位置にくる座席配置の方がリラックスできます。
チームワークを構築したい場合
まだ打ち解けていない関係の段階でチームワークを構築したい場合には、仲間意識を醸成する工夫が必要です。同じ方向を向き横に並ぶようにすると、同じ目的を共有する意識が生まれやすいといえます。また親しい関係を育む45~120cmの個体距離を取るのが最適です。
リーダーシップを取りたい場合
自分がリーダーシップをとりたい場合には、同僚や部下に対してあえて距離を取ることが有効です。親しい間柄であっても120cm以上の社会距離を取って、よい緊張感を生むようにします。座席配置としては、正面に向かい合う配置が最適でしょう。
相手を説得したい場合
相手を説得したい場面では、テーブル越しに真正面に位置するのがよいでしょう。ある程度の緊張感が必要だからです。距離は、互いに表情を読みやすく視線がしっかり合う120cm以下の個体距離が最適になります。
職場でパーソナルスペースを保つためのレイアウト
職場のオフィスでパーソナルスペースを完全に保とうとするならば、欧米の企業によく見られるように個人ブースを配置したレイアウトが一つの答えになります。ブース型オフィスが特に向いている職種は、個人の集中力で成果を上げる研究者やクリエーターなどです。
コミュニケーションを重視して日本の島型のオフィスレイアウトを採用するならば、社会距離となる120cmの間隔ができるようにデスクを調整するのがよいでしょう。120cmの距離が取れない場合は、視線が気にならない程度の高さのパーティションを導入することが考えられます。互いの視線が気にならないように工夫すれば、パーソナルスペースは狭くなるのです。
ブース型と島型の中間形態の一つが卍型レイアウトです。デスクの向きを90°ずつ傾けて配置し、視線の衝突を防ぎながらビジネスに必要なコミュニケーション環境を確保します。
距離と視線の二つの要素を考慮して、パーソナルスペースとコミュニケーションとのバランスを取ることが重要です。業種や職種に応じた最適なバランスを考え、オフィスレイアウトを選択・採用することになります。
パーソナルスペースを知ってビジネスで実践しよう
パーソナルスペースの理論は、人どうしの関係性をより良くするために、プライベートから公共の場まですべての生活場面で応用できるものです。
とりわけ仕事の場面に応用することは有効といえます。なぜなら、ビジネスシーンは、他者との心理的衝突が起きやすくストレス要因が発生しがちな状況だからです。同僚や上司との物理的距離や互いの視線の向け方を工夫することで無用なストレスを軽減し、働きやすい職場を生み出すことができます。自分の心を大切にするためにも、コミュニケーション戦略のためにも、和やかな職場づくりのためにも、パーソナルスペースの知識は役立ってくれるのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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