- 更新日 : 2018年9月26日
雇用契約を民法と労働契約法で比較してみました
雇用契約とは、民法第623条で定められている役務型契約の1つです。民法で定められている雇用契約は諾成契約といって、双方の合意があれば必ずしも書面で契約を交わす必要はないとされています。
しかし労働形態が多様化されるに伴い労使間のパワーバランスが崩れ始め、雇用契約上の紛争が増加することとなりました。そこで労働者保護や紛争防止を目的とする「労働契約法」が平成20年に施行されることになりました。
ここでは雇用契約を民法と労働契約法のそれぞれから眺め、相違点を明らかにしたいと思います。
雇用契約の民法上の解釈
雇用契約は民法第623条で
「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」
と定められており、「労務に服すること」と「報酬を与えること」に主眼が置かれています。
民法のもう少し大きな視点から雇用契約を捉えると、「役務型契約」に分類されていることがわかります。役務(えきむ)型契約とはサービスを提供することであり、雇用契約では労働というサービスを提供することを意味します。
役務型契約には他にも「請負契約」や「委任契約」などがあります。請負契約の最終的な目的は「仕事を完成させること」にあるため、労働というサービスそのものを提供する雇用契約の考え方とは異なる意味を持ちます(民法第632条)。
また、委任契約は信頼関係が元になっているため、特別な理由がなくても両者とも自由に契約解除することができるのが特徴です(民法第651条)。
役務型契約は、売買型契約や賃貸借契約と比較すると対象物が介在せず、サービスの提供に主眼が置かれています。そのため雇用契約は、労働というサービスを提供し、それに見合った報酬を受け取ることが前提となっているわけです。
しかしながら民法上の雇用契約は諾成契約であるため、書面締結することを必ずしも要件としていません。諾成契約とは、お互いの意思さえあれば成立する契約のことをいいます。
請負契約も委任契約も諾成契約ですが、請負契約は「仕事の完成」と「報酬支払い」が対等な関係にあり、委任契約は双方から契約解除の申し入れをできるため、パワーバランスは均衡していると考えることができますが、雇用契約は「労務に服す」という契約の性質上、労働者の立場が弱くなってしまいがちです。
そのため、従来は民法上の「雇用契約」で労使間のトラブルがあった場合、罰則規定を定めた「労働基準法」によって解決を図る方法をとるしかありませんでした。しかし、雇用契約に関するトラブルが起こってしまってから解決する方法よりも、未然に紛争を防ぐ方法のほうが合理的であるとし、「労働契約法」が施行されることになったのです。
雇用契約の労働契約法上の解釈
これまで前述してきた経緯のとおり、民法や労働基準法ではカバーしきれない内容を法規定したものが「労働契約法」となります。
労働契約法は
「この法律は(中略)労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。」
と第1条で定められているように、労働者を保護し、労使間のパワーバランスを均衡させることが目的となっています。
労働契約法上の雇用契約は「労働契約」とも呼ばれ、使用者と労働者の関係が民法よりも明確に規定されるだけでなく、書面締結することも定められることとなりました(労働契約法第4条第2項)。
また第5条では
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
とし、民法では具体的に定めなくても労働者を危険から保護する義務があるとされていた内容を明らかにしています。
「労働者の生命や身体等の安全」には、心身の健康も含まれている点で、社会的情勢の変化を反映したものであると解釈することができます。
第6条から第16条で定められている「労働契約」に関する内容は、これまでの最高裁判決などから確立してきた判例法理に沿って規定されている他、第17条から第20条は「期間の定めのある労働契約」として、契約終了に伴う影響の大きさから生じる不安の解消を考慮した内容となっています。
契約期間中の解雇についてこれまでの民法では「やむを得ない理由があれば解雇できる」とするのみにとどまり、「やむを得ない理由がない場合」に備えていませんでした。
そこで労働契約法では「やむを得ない理由がない限り解雇することはできない」と明文化することとなりました。
「やむを得ない理由がある場合の解雇」については、これまでどおり民法第628条の規定に従うこととなり、使用者は「やむを得ない」という評価の根拠となる事実を立証する必要があります。
民法と労働契約法の相違点一覧表
民法 | 労働契約法 | |
---|---|---|
目的 | 個人の尊厳と両性の本質的平等(第2条) | 労働者保護(第1条) |
書面締結 | 規定なし | 第4条第2項 |
安全配慮義務 | 規定なし | 第5条 |
契約期間中の解雇 | やむを得ない理由があれば可(第628条) | やむを得ない理由がなければ解雇不可 (第17条) |
まとめ
労働契約法が制定されることによって、それまで暗黙の了解であった事項や、一般概念から当然だと思われる事項が明確に定義づけられました。
これまで労働基準法による罰則でしか解決手段がなかった雇用契約は、労働契約法の制定によって労働者保護と労使間の安定を助けることとなったのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
算定基礎届の提出期限はいつ?遅れた場合の対処法や提出方法を解説
算定基礎届は社会保険料を決定する大切な届出書で、毎年決まった時期の提出が必要です。提出方法には窓口での提出や郵送、電子申請などがあり、会社の規模やシステム環境によって選択できます。 この記事では、算定基礎届の概要や具体的な提出期限、遅れてし…
詳しくみる厚生年金の保険料は一括払い・前納ができる?
厚生年金保険料は毎月支払う必要があり、数ヵ月分をまとめて支払う一括納付は認められていません。厚生年金の一括適用とは、社会保険の被保険者資格に関する各種手続きや保険料納付などを本社でまとめて行うことです。国民年金保険料は前納制度があり、定めら…
詳しくみる労災保険法(労働者災害補償保険法)とは?改正についても解説
労働者災害補償保険法は「労災保険法」とも呼ばれ、労働に起因する傷病を補償する労災保険について定めた法律です。労災保険は被災労働者の社会復帰や遺族の支援、労働者の安全および衛生の確保を目的としており、労災保険法によって手厚い補償が定められてい…
詳しくみる引越ししたら、どうする? 住所変更時の社会保険手続き
社会保険の適用事業所に勤める従業員が結婚、転居、自宅の新築などで住所が変更になったときには、住所の変更状況を国が把握しなければなりません。 住所変更先が国内か国外かによって把握する方法が異なります。国外移住の場合は、移住先の社会保障制度に加…
詳しくみる【保存版】すまいの給付金や失業給付金だけじゃない!8種の給付金一覧
消費税の増税や、相続税の改正など、税負担の増加に関する話はよく聞きます。しかし、実際にはこれらの負担増を軽減するために様々な給付金が用意されていることをご存知でしょうか? 有名な給付金では、失業手当や子ども手当があります。ですが、この他にも…
詳しくみる従業員が退職したら何をすべき?社会保険手続きや必要書類の書き方まとめ
従業員の退職が決まったら、人事がするべき手続きが数多くあります。なかでも健康保険や厚生年金保険、雇用保険などの社会保険は、手続きの期限が決まっているため、迅速に必要書類を提出しなければなりません。 ここでは、いつまでに何をすればいいのか、従…
詳しくみる