• 更新日 : 2025年7月25日

タイムカードがない会社の出勤簿は危険!違法性や残業代請求の証拠集めについて解説

「うちの会社、タイムカードがないんだけど大丈夫かな…」
「出勤簿はあるけど、ハンコを押すだけで本当に管理できているの?」

タイムカードや正確な出勤簿がない会社で働いていると、自分の労働時間が正しく管理されているのか、残業代はきちんと支払われるのか、不安になりますよね。

結論から言うと、会社には従業員の労働時間を客観的な方法で把握する義務があります。タイムカードがないこと自体が直ちに違法となるわけではありませんが、適切な勤怠管理がなされていない場合、それは問題です。

この記事では、タイムカードや出勤簿がない状況で、ご自身の権利を守るために今すぐできることを具体的に解説します。

タイムカードがない会社はやばい?

なぜ、タイムカードがないような勤怠管理が不適切な会社はやばいと言われているのでしょうか。それは、法律で定められた会社の義務を怠っている可能性が高いからです。

労働時間の把握は法律上の義務

会社(使用者)は、従業員(労働者)の労働時間を適切に把握する義務があります。これは、2019年4月に施行された働き方改革関連法により、労働安全衛生法で明確に義務化されました。

参考:働き方改革関連法のあらまし (改正労働基準法編)

単に何時間働いたかを自己申告させるだけでなく、客観的な方法で記録・管理することが求められています。客観的な勤怠管理がされていないと、安全配慮義務違反として労働基準監督署からの指導や是正勧告の対象となる可能性があります。さらに、適切な勤怠管理がされていないことは、従業員自身の残業代請求など、将来的なトラブルの原因にもなりかねません。

タイムカード以外でも認められる客観的な記録とは

労働時間の把握は義務ですが、その方法がタイムカードに限定されているわけではありません。厚生労働省のガイドラインでは、原則として以下のいずれかの方法で始業・終業時刻を確認し、記録することとされています。

  • 使用者が自ら現認(直接確認)して記録する
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する

つまり、パソコンのログイン・ログオフ時間の記録や、入退室管理システムのデータなども客観的な記録として認められます。

「出勤簿すらない」「ハンコを押すだけ」の違法性

タイムカードだけでなく、それに代わる客観的な記録や出勤簿すらない会社は、労働時間把握義務を果たしておらず、違法と判断される可能性が非常に高いです。

また、労働基準法では、出勤簿やタイムカード等の労働関係に関する重要な書類を原則5年間(当分の間は3年間)保存する義務も定めています。これらの記録が存在しない、あるいはハンコを押すだけで実際の勤務時間と異なる記録しか残っていない場合、会社は労働基準監督署による是正勧告を受ける可能性があります。

労働基準法第120条には、労働関係の重要書類を適切に保管しないなどの違反に対して30万円以下の罰金が規定されています。つまり、ハンコを押すだけで実態と異なる記録を残すことは明確なリスクです。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

タイムカードの代わりとなる勤怠時間の記録方法

会社が適切な勤怠管理をしてくれない以上、自分の身は自分で守らなければなりません。最も重要なのは、「その日、その時間に、あなたが働いていた」ことを第三者が見ても客観的にわかる形で記録することです。

以下に挙げる方法は、単体でも有効ですが、複数組み合わせることでさらに強力な証拠となります。

デジタル記録

  • 業務メール・チャットの送受信履歴
    始業時にその日の業務予定を、終業時に簡単な業務報告を、会社のPCから自分のプライベートアドレスや家族宛にメールで送ります。送受信時刻が客観的な記録として極めて有効です。
  • GPS機能付きの勤怠管理アプリ
    スマートフォンのアプリで、出退勤時に打刻します。位置情報も記録されるため、その時刻に会社の近くにいたことを証明できます。
  • PCのログイン・ログオフ履歴
    会社があなたのPCの使用時間を記録している場合、開示を求めることで証拠になります。スクリーンショットを撮っておくのも有効です。

物理的な記録

  • 手書きの勤怠メモ(勤怠管理表)
    手帳やノート、出力したExcelシートなどに毎日記録します。最も手軽に始められますが、他の客観的証拠と組み合わせることで証拠力が飛躍的に高まります。
  • 交通系ICカードの利用履歴
    駅の券売機で利用履歴を印字します。駅の通過時刻が記録されるため、通勤時間を考慮すれば、おおよその出退勤時刻の有力な参考資料となります。
  • 業務日報や手帳
    日々の業務内容を詳細に記録した日報や、商談の予定が書き込まれた手帳などを保管しておきます。何時までどのような仕事をしていたのかを具体的に示すことができます。

その他の証拠

  • 家族への連絡履歴
    「今から帰る」といったメールやLINEの送信履歴。
  • 同僚の証言
    同じように残業していた同僚の証言。単独では証拠力が弱いものの、客観的な記録と併せて用いることで補強証拠として効果を発揮します。

手書きでもOK!信憑性を高める勤怠記録の付け方

特別なツールがなくても、手書きのメモやExcelでの記録は有効な証拠になります。ただし、単に時間を書くだけでなく、後から覆されないよう信憑性を高める工夫が不可欠です。

記録すべき必須項目

以下の項目を毎日欠かさず記録しましょう。

  • 日付と曜日
  • 始業時刻・終業時刻(1分単位で)
  • 休憩時間(開始時刻と終了時刻を具体的に)
  • その日の具体的な業務内容
  • 時間外労働(残業)の時間
  • 特記事項(休日出勤、早退、遅刻、上司からの指示内容など)

信憑性を高める3つのポイント

  1. 毎日欠かさず記録する
    記録が途切れると、その期間の労働時間を証明することが難しくなります。大変でも、継続することが何よりも重要です。
  2. 1分単位で正確に記録する
    「9:00〜18:00」のような大雑把な記録は避け、「8:57に出社、19:42に退勤」のように、1分単位で具体的に記録しましょう。
  3. 客観的な事実と紐づける
    終業時刻の横に「(退勤時に〇〇部長と最終退出の警備システムを操作)」「(最寄り駅で△△さんと会う)」など、第三者が関わる事実や客観的な出来事をメモしておくと、単なるメモではない「真実の記録」としての信憑性が格段に増します。

勤怠記録を証拠に未払いの残業代を請求する手順

ご自身で記録した証拠をもとに、実際に未払い残業代を請求する際の具体的なステップをご紹介します。冷静に、順序立てて進めることが重要です。

1. まずは自分で労働時間を計算する

集めた証拠をもとに、未払いの残業代がいくらになるのかを計算します。残業代は、基礎賃金や割増率(時間外、休日、深夜)など複雑な計算が必要です。インターネット上にある残業代計算ツールは手軽に利用できて便利ですが、すべてのツールが正確であるとは限りません。計算ツールには精度や信頼性に差があるため、あくまで参考値として活用し、正確な金額把握や実際の交渉の際には弁護士など専門家のアドバイスを併用するのが望ましいでしょう。

2. 会社に内容証明郵便で請求する

計算結果が出たら、まずは会社に対して直接、未払い残業代の支払いを求める交渉を行います。口頭での交渉も可能ですが、後々のトラブルを避けるためにも、「いつ、誰が、誰に、何を要求したか」を記録として残せる内容証明郵便を利用するのが一般的です。請求書とその根拠となる勤怠記録のコピーを同封して送付します。これにより、会社に対して本気度を示すとともに、時効の中断(催告)という効果も得られます。

3. 解決しない場合は専門家へ相談する

会社が交渉に応じない、あるいは提示された金額に納得できない場合は、労働問題に強い弁護士や、地域の労働基準監督署、労働組合といった専門家・専門機関に相談しましょう。特に弁護士に依頼すれば、会社との交渉代理から、労働審判や訴訟といった法的手続きまで一貫して任せることができます。無料相談を実施している法律事務所も多いため、一人で抱え込まず、まずは専門家の意見を聞いてみることをお勧めします。

タイムカード・出勤簿がない場合のよくある疑問

タイムカードや出勤簿がない状況では、さまざまな疑問や不安が生まれます。ここでは、特に多くの方が悩むであろうケースについて、Q&A形式で解説します。

残業代は本当に請求できる?みなし残業でも大丈夫?

タイムカードがなくても、自分で記録した証拠があれば、残業代を請求することは十分に可能です。みなし残業制度(固定残業代)が導入されている会社でも、みなし時間を超えて勤務した場合は、超過分の残業代を会社は支払う義務があります。これは労働基準法第37条で定められています。会社がこれを支払わない場合は違法です。

手書きやハンコだけの出勤簿は証拠として有効?

状況によりますが、不十分な場合が多いです。出勤簿に手書きで時間を記入したり、ハンコを押したりするだけの運用は、自己申告制にあたります。会社がその時刻の正当性を確認する措置を何も講じていない場合、労働時間を客観的に把握しているとは言えず、不適切と判断される可能性が高いです。特に、上司の指示で実態と異なる時間を書かされている場合は、その指示自体が問題となります。

会社に勤怠記録の開示を求めることはできる?

できます。会社が勤怠記録を保持しているにもかかわらず開示を拒否する場合、従業員側から法的手続きを用いて証拠の保全や開示を求めることが可能です。裁判所を通じた証拠保全の手続きなどがありますが、実際の手続きには専門的な法的知識が必要なため、弁護士など法律専門家に相談することをおすすめします。

自分の働きは、自分自身で守る時代へ

タイムカードや適切な出勤簿がない会社は、残念ながら今も存在します。しかし、それは従業員が正当な対価を受け取る権利を諦める理由にはなりません。

  • 会社の労働時間把握は法律上の義務である
  • タイムカードがなくても、客観的な記録を自分で残すことは可能
  • 手書きのメモやメール、アプリの活用が有効な証拠になる
  • 証拠があれば、みなし残業であっても残業代請求はできる

この記事でご紹介した方法を参考に、今日からでもご自身の労働時間を記録してみてください。その小さな積み重ねが、いざという時にあなたを守る最も強力な武器となります。もし少しでも不安や疑問があれば、決して一人で悩まず、信頼できる専門家に相談してください。あなたの働きが、正しく評価されることを心から願っています。


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