- 更新日 : 2025年7月25日
同一労働同一賃金の労使協定方式とは?派遣社員の賃金計算から注意点まで解説
同一労働同一賃金という言葉を耳にする機会が増えましたが、特に派遣社員の働き方に大きく関わるのが、労使協定方式です。派遣元の会社と労働者の代表が協定を結び、賃金などの待遇を決定するこの方式は、多くの派遣会社で採用されています。
しかし、「仕組みが複雑でよくわからない」「自分の時給が適切なのか知りたい」と感じている方も多いのではないでしょうか。この記事では、同一労働同一賃金の基本から、労使協定方式の具体的な内容、賃金の計算方法、メリット・デメリット、注意点までわかりやすく解説します。
目次
そもそも同一労働同一賃金とは
まず、制度の基本である同一労働同一賃金の考え方を正しく理解しましょう。
このルールの最大の目的は、同じ企業内で働く正規雇用の労働者(正社員)と、非正規雇用の労働者(パートタイム、有期雇用、派遣労働者)との間の不合理な待遇差をなくすことです。
仕事の内容、責任の範囲、貢献度が同じであれば、雇用形態が違うという理由だけで賃金や福利厚生、教育訓練などの待遇に差をつけることが禁止されました。
派遣社員の待遇を決める2つの方式
派遣社員の同一労働同一賃金を実現するには、次の2つの方式のいずれかを派遣会社が選択します。
- 労使協定方式
派遣会社が、労働者の過半数代表者と労使協定を結び、その協定に基づいて賃金額などを決定する方式 - 派遣先均等・均衡方式
派遣先の通常の労働者(正社員など)の待遇に合わせて、賃金額などを決定する方式
労使協定方式が多く採用される理由
2023年度の厚生労働省調査によれば、労使協定方式の採用率は約89%です。
その理由は、派遣社員の賃金を安定させやすいからです。派遣先均等・均衡方式では、派遣先が変わるたびに賃金水準が変動する可能性があります。一方、労使協定方式では、国の統計に基づいた客観的な基準で賃金が決まるため、派遣先が変わっても賃金が大きく変動することがなく、派遣社員は安定した収入を見込めます。
これは、派遣会社にとっても、派遣先ごとに待遇調査を行う手間が省け、賃金管理がしやすいというメリットがあります。
労使協定方式による派遣社員の賃金計算の方法
労使協定方式の場合、時給はどのように決まるのでしょうか。計算式は少し複雑に見えますが、3つの要素から成り立っています。
この式を満たすように、派遣会社は賃金を支払う必要があります。一つずつ見ていきましょう。
①一般の労働者の賃金(基本給・賞与など)
これが時給の土台となる部分です。厚生労働省が毎年公表する「職業安定業務統計」などに基づき、以下の式で計算されます。
- 対象職種の一般賃金
仕事内容に応じた全国の平均的な賃金(時給換算額)です。厚生労働省の通達で、職種ごとに細かく定められています。 - 地域指数
物価などを考慮した地域ごとの調整係数です。都道府県別またはハローワーク別の指数があり、派遣会社がどちらかを選択します。
【令和6年度・計算例】東京で働く一般事務員のケース
仮に、厚生労働省が定める「一般事務従事者」の一般賃金が 1,300円で、東京都の地域指数が108.0だった場合で計算してみましょう。
この場合、派遣会社はあなたに対して、基本時給として最低でも1,404円以上を支払う必要がある、ということになります。
※上記はあくまで計算例です。実際の賃金額や地域指数は、厚生労働省が毎年発表する最新のデータに基づき、派遣会社が労使協定で定めます。
②通勤手当
通勤手当についても、労使協定で以下のいずれかの方法で支給することが定められます。
- 実費支給
通勤にかかる費用を、そのまま支給する方法 - 時給に上乗せ
厚生労働省が定める一般の労働者の通勤手当相当額※を時給に上乗せする方法
※この相当額は毎年改定され、令和7年度(2025年度)適用分は時給73円とされています。
③退職金
派遣社員にも退職金が支払われる必要があります。これも労使協定で以下のいずれかの方法が定められます。
- 退職金制度
派遣会社の退職金規程に基づき、退職時に一括で支払う方法。 - 退職金前払い
最も一般的な方法。「一般の労働者の賃金(上記①)」の6%以上を時給に上乗せして支払います。 - 中小企業退職金共済制度などへの加入
派遣会社が掛金を支払い、労働者が退職時に共済から受け取る方法。
例えば、上記①で計算した基本時給が1,404円だった場合、退職金を前払いで受け取るなら、その6%である約84円(1,404円 × 0.06)がさらに時給に上乗せされることになります。
労使協定方式のメリット・デメリット
この方式には、派遣社員と派遣会社の双方にとって、メリットとデメリットがあります。
派遣社員側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
派遣先が変わっても賃金が安定する | 派遣先の正社員の給与が非常に高い場合、その水準よりは低くなる可能性がある |
全国共通の客観的な基準で賃金が決まるため、公平性が高い | 自分の職種分類や評価がどうなっているのか、能動的に確認する必要がある |
派遣会社側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
派遣先が変わるごとの待遇調査が不要で、賃金管理がしやすい | 毎年、法改正や統計データを確認し、労使協定を適切に更新する事務負担がある |
派遣社員に安定した雇用条件を提示できる | 過半数代表者の選出など、適正な手続きを踏まないと協定が無効になるリスクがある |
労使協定方式の手続きと注意点
労使協定方式を適正に運用するためには、正しい手続きを踏むことが不可欠です。ここでは、協定締結までの流れと、特に重要なポイントを解説します。
労使協定の締結から周知までの流れ
労使協定方式を導入する際の基本的な流れは、以下の通りです。
- 協定案の作成
派遣会社が、一般賃金に基づいた賃金テーブルなどを含む協定案を作成します。 - 過半数代表者の選出
投票や挙手など、民主的な方法で労働者の過半数を代表する者を選出します。 - 協定の締結
会社と過半数代表者との間で協定内容について協議し、合意の上で締結します。 - 労働者への周知
締結した労使協定の内容を、対象となる全ての派遣社員に書面などで交付し、周知徹底します。
労使協定に記載すべき必須事項
労使協定には、必ず定めなければならない事項があります。具体的には、対象となる派遣社員の範囲、賃金の決定方法(賃金テーブル、昇給規定など)、賃金以外の待遇(福利厚生、教育訓練など)の決定方法、協定の有効期間などです。これらの項目が漏れなく記載されているかを確認することが重要です。
過半数代表者の適切な選出が重要
手続きの中で最も重要なのが、過半数代表者の選出です。会社側が特定の人を指名したり、管理職が代表者になったりすることは認められていません。全ての労働者が立候補の機会を与えられ、民主的なプロセスで選ばれていることが、労使協定が有効であるための大前提となります。不適切な選出方法による協定は無効と判断されるリスクがあります。
同一労働同一賃金の労使協定方式に関してよくある質問
最後に、同一労働同一賃金の労使協定方式に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
労使協定方式なのに、時給が変わらないのはなぜですか?
労使協定方式は、派遣先が変わっても賃金を安定させるための仕組みです。比較対象は、派遣先の社員ではなく、厚労省公示の一般賃金水準(職業安定業務・賃金構造基本統計による)です。そのため、仕事内容が同じであれば、派遣先が変わっても原則として時給は大きく変動しません。これが時給が変わらない理由であり、この制度の本来の趣旨でもあります。
派遣社員の方が、派遣先の正社員より給与が高いことはありますか?
はい、ケースによってはあり得ます。例えば、専門性の高いスキルを持つ派遣社員が、一般賃金の高い職種で働いている場合、その地域の賃金水準が比較的低い企業の正社員よりも、結果的に時給が高くなる可能性があります。ただし、実際に正社員より高い例は限定的でしょう。
労使協定の内容はどこで確認できますか?
派遣会社は、労使協定の対象となる派遣社員に対し、協定の内容を周知する義務があります。通常は、雇い入れ時や契約更新時に書面で交付されたり、社内ポータルサイトなどでいつでも閲覧できるようになっていたりします。もし手元にない場合は、派遣会社の担当者に問い合わせれば、提供してもらうことができます。
労使協定のサンプルはありますか?
厚生労働省のウェブサイトに、労使協定のひな形(サンプル)が公開されています。派遣会社の人事・労務担当者の方は、これを参考に自社の実情に合わせて作成することができます。労働者の方も、このサンプルを見ることで、どのような項目が定められているべきかを知る良い手がかりになります。
同一労働同一賃金の労使協定方式について理解を深めましょう
同一労働同一賃金における労使協定方式は、派遣社員の待遇を安定させ、不合理な格差をなくすための重要な仕組みです。その根幹には、厚生労働省が示す一般賃金と地域指数があり、これに基づいて公正な賃金が決定されます。
派遣会社にとっては適正な手続きと運用が、派遣社員にとっては制度への正しい理解が、それぞれ求められます。本記事が、労使協定方式への理解を深め、企業と労働者の双方が納得できる働き方を実現するための一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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