• 更新日 : 2025年7月18日

60歳以上の高齢者雇用の助成金や給付金、支援、手続きまとめ

人手不足が深刻化する中、60歳以上の高齢者を積極的に雇用する企業が増えています。こうした取り組みに対して、国や自治体は助成金を支給し企業を支援しています。高齢者雇用助成金は、60歳以上の雇用に対して一定の条件を満たすことで受け取ることができます。この記事では、助成金の種類、条件、手続き、金額、注意点を具体的にわかりやすく紹介します。

60歳以上の高齢者雇用に関する助成金

60歳以上の高齢者雇用に役立つ助成金は、主に厚生労働省が管轄します。これらは、特定の要件を満たすことで企業が受給でき、雇用形態によっても支給額や条件が異なります。

1.特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、ハローワーク等の紹介により、就職が困難な方を継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主が受給できる助成金です。60歳以上のシニアの方もこの対象に含まれます。

支給要件

この助成金を受け取るには、以下の要件を満たす必要があります。

  • ハローワークまたは有料・無料職業紹介事業者等の紹介で、対象となる高年齢者を雇い入れること。
  • 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れること。
  • 対象労働者が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上であること。

支給額

支給額は、短時間労働者と短時間労働者以外で異なり、高年齢者や母子家庭の母、障害者など、労働者の状況に応じた額が支給されます。また、中小事業主か否かでも支給額は異なってくるため、具体的な額は公式サイトをご確認ください。

申請手続き

申請は、各支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内に、管轄のハローワークに提出します。手続きの流れや必要書類は、ハローワークで確認できます。

参考:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)|厚生労働省

2.65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)

65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、65歳以上まで継続して雇用できる制度を導入し、実際に高年齢者を雇用する事業主を支援する助成金です。

支給要件

以下のいずれかの制度を就業規則等で定め、労働基準監督署に届け出ていることが条件です。

  • 65歳以上への定年引上げ
  • 定年の定めの廃止
  • 旧定年年齢及び継続雇用年齢を上回る66歳以上の継続雇用制度の導入
  • 他社による継続雇用制度の導入

また、以下の要件を満たすことも必要です。

  • 専門家への委託(該当する場合): 就業規則作成等を専門家(社労士、弁護士など)に委託し、費用を支払っていること。
  • 高年齢者雇用推進者の選任: 高年齢者雇用推進者を選任し、関連する雇用管理措置を1つ以上実施していること。

支給額

支給額は、導入する制度の内容や、対象となる高年齢者の人数に応じて異なります。

具体的な支給額は、制度の内容や高年齢者の人数によって異なるため、厚生労働省のウェブサイトや管轄のハローワーク、または独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のウェブサイトで確認が必要です。アルバイトやパートなどの雇用形態でも、雇用保険の適用がある場合は支給対象となる場合があります。

申請手続き

申請は制度を導入した後、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)へ提出します。事前に計画書を提出し、認定を受ける必要があります。

参考:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)|厚生労働省

3.65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)

65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)は、高年齢者が働きやすい環境を整備するため、人事評価制度や賃金制度の見直しなど、雇用管理改善の措置を実施する事業主を支援する助成金です。

支給要件

主な支給要件は、以下の通りです。

  1. 雇用管理整備計画の認定: 雇用管理整備計画書を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出し、計画内容について認定を受けていること。
  2. 措置の実施: 高年齢者の能力評価、賃金・人事制度の改善、短時間勤務制度の導入など、1つ以上の雇用管理措置を実施していること。
  3. 経費支払い: 措置にかかった費用を支給申請日までに支払っていること。

支給額

支給額は、中小企業か否かで異なります。具体的な支給額については、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のウェブサイトをご参照ください。

申請手続き

申請は、措置実施前に計画書を提出し、認定を受ける必要があります。その後、措置の実施後に支給申請を行います。申請窓口は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)です。

参考:65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)|厚生労働省

4.65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)

65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)は、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた事業主を支援する助成金です。

支給要件

以下の要件を満たす必要があります。

  • 無期雇用転換計画の認定: 無期雇用転換計画書を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出し、計画の認定を受けていること。
  • 無期雇用転換計画の実施: 雇用する50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること
  • 無期雇用転換と賃金支払い: 対象労働者を無期雇用に転換後、6ヶ月以上継続雇用し、その間の賃金を支払っていること。

支給額

支給額は、転換した労働者の人数に応じて決まります。具体的な支給額は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のウェブサイトで確認できます。

申請手続き

申請は、転換実施後に独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に提出します。

参考:65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)|厚生労働省

終了した助成金と制度変更の注意点

下記の助成金制度は終了しました。なお、現在利用可能な助成金制度についても、今後内容の変更や廃止となる可能性があります。申請の際は、最新の情報を厚生労働省や各地域のハローワークで必ずご確認ください。

  • 高年齢労働者処遇改善促進助成金→令和7年3月31日で廃止
  • 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)→令和4年度末で廃止

参考:高年齢労働者処遇改善促進助成金|厚生労働省
参考:特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)|厚生労働省

60歳以上の高齢者雇用に関する支援

国や地方自治体は、助成金以外にも、60歳以上の高齢者雇用を促進するための様々な支援を行っています。これらを活用することで、企業は高齢者の採用や職場定着を円滑に進められます。

ハローワークによるマッチング支援

ハローワークでは、高齢者向けに特化した職業紹介や就職相談を行っています。特に「生涯現役支援窓口」では、60歳以上の求職者と企業のマッチングを強化しています。企業は求人票を出す際に、高齢者向けの配慮や希望条件を明記することで、より適した人材との出会いが可能になります。

参考:人材確保対策コーナー|厚生労働省

シルバー人材センターの活用

各地域にあるシルバー人材センターでは、60歳以上の方を中心に、短期・短時間の就業機会を提供しています。企業が直接雇用契約を結ぶ形ではなく、業務委託という形で作業を依頼する仕組みのため、雇用リスクを抑えつつ高齢者の経験を活かすことができます。

業務内容には清掃、軽作業、事務補助などがあり、専門知識を活かした仕事の依頼も可能です。

参考:全国シルバー人材センター事業協会|公益社団法人

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)による支援

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)は、高齢者の雇用に関する専門的な支援を提供しています。

  • 相談・情報提供: 高齢者雇用に関する企業の相談に応じ、情報提供を行います。
  • 職場改善支援: 高齢者が働きやすい職場環境を整備するためのアドバイスや支援を行います。
  • 能力開発支援: 高年齢労働者の能力開発に関する情報提供や、研修実施の支援を行います。

参考:高齢者雇用の支援|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

地方自治体による高齢者雇用支援

都道府県や市区町村単位で実施している高齢者雇用支援制度もあります。これらは、地域経済の活性化や高齢者の社会参加を促す目的があります。

東京都:東京シニア雇用促進・トライアル65事業

シニア就業応援プロジェクトは、東京都が高齢者の働く意欲を支えるために実施している支援策です。65歳以上の求職者に対して、シニアの求職ニーズの高い事務職や営業職、IT技術職を中心に派遣先企業を紹介します。

また、受け入れ企業には派遣費用を都が全額負担する制度もあり、シニア人材の活用を始めやすい環境を整えています。企業と高齢者の双方にとって、安心して取り組める仕組みです。

参考:シニア就業応援プロジェクト|東京都TOKYOはたらくねっと

大阪府:アクティブシニア

大阪府では、高齢者の社会参加を促進する「アクティブシニアがあふれる大阪事業」を展開しています。講座やセミナーで地域活動へのきっかけを提供し、意欲のあるシニアを育成。活動先の紹介も行っています。毎月15日を「アクティブシニアの日」と定め、行動を後押し。協力施設「アクティブシニアパートナー」では特典も受けられます。さらに、地域を支える人材として「シルバーアドバイザー」の養成と認定も実施しています。

参考:アクティブシニア|大阪府

札幌市:アシニアワーキングさっぽろ

札幌市では、60歳以上のシニアと企業をつなぐ「シニアワーキングさっぽろ~60代からの体験付き仕事説明会~」を開催しています。2017年度から続く取り組みで、実際の仕事体験を通じて業務内容を理解できるのが特徴です。60歳以上の方はもちろん、将来に備える40代・50代の参加も歓迎されています。

参考:シニアワーキングさっぽろ~60代からの体験付き仕事説明会~|札幌市

自治体によって制度の内容や申請条件が異なるため、事業所所在地の自治体ホームページや地域の商工会、ハローワークでの確認が必要です。

60歳~65歳未満の賃金低下を補う高年齢雇用継続給付

60歳以降も働き続ける際、賃金が60歳時点の75%未満に減少した場合に活用できるのが「高年齢雇用継続給付」です。60歳時点と比べて賃金が25%以上下がった(=75%未満)際、雇用保険から一定の補填を受けることができます。

対象となるのは、雇用保険に加入している60歳以上65歳未満の方です。給付内容は「継続して同じ企業で働く場合」と「再就職した場合」で異なり、それぞれ次のような仕組みになっています。

ただし、この制度は2025年度以降、段階的に縮小・廃止が予定されており、利用には注意が必要です。

高年齢雇用継続基本給付金(継続雇用向け)

60歳以降も同じ企業で働き続けており、賃金が75%未満に下がった方が対象です。毎月、賃金の最大15%相当(2025年4月1日以降は10%相当)が支給され、最長で65歳まで継続されます。申請は事業主が行いますが、本人が行うことも可能です。

高年齢再就職給付金(再就職者向け)

60歳以降に離職後、再就職した方が対象で、再就職後の賃金が前職の75%未満に下がった場合に支給されます。支給額は賃金の最大15%(2025年4月1日以降は10%相当)で、原則最長2年間にわたり月ごとに支給されます。資格確認は事業主が行いますが、申請は本人が行うことも可能です。

参考:高年齢雇用継続給付について|ハローワーク インターネットサービス

60歳以上の高齢者雇用の社内手続きの注意点

60歳以上の高齢者を雇用・再雇用する際には、社内での適切な手続きとルール整備が欠かせません。年齢や雇用形態に応じた処遇や制度の見直しを行うことで、トラブルを防ぎ、高齢者が安心して働ける環境を整えることができます。

定年延長・再雇用時の手続き

定年後も継続して雇用する場合は、新たな雇用契約を結びます。契約期間、業務内容、勤務時間、賃金などの条件を明示し、変更がある場合は本人の同意を得る必要があります。賃金については、年金受給や業務内容の変化を踏まえた見直しが一般的です。

また、社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険は原則継続されますが、報酬額の変動によっては保険料の見直しが必要になる場合があります。

在職老齢年金との関係

60歳以降の年金を受給しながら働く高齢者の給与と年金の合計が一定額を超えた場合に、年金の一部が支給停止となる制度が存在します(在職老齢年金制度)。これは特にフルタイムで働く高齢者に影響するため、制度の概要や影響を事前に説明し、本人の理解を得ておくことが重要です。

新規採用時の対応

60歳以上の高齢者を新たに採用する際も、雇用契約書を取り交わし、契約期間、更新の有無、賃金、勤務条件などを明記します。有期契約での雇用が多いため、更新ルールや業務の範囲を明確にしておくと、後のトラブルを防げます。

給与はスキルや経験、業務内容に応じて設定します。既存の社員とのバランスを考慮しつつ、公平性を保つことが求められます。

保険・失業給付の取り扱い

60歳以上の従業員でも、加入条件を満たせば、雇用保険・社会保険への加入義務があります。65歳以上でも雇用保険の適用対象ですが、給付金制度が通常とは異なり「高年齢求職者給付金」として短期給付になるため、事前に確認しておくと安心です。

年金受給者の場合は、厚生年金との関係や在職老齢年金制度の影響についても説明し、納得したうえで入社してもらうことが望ましいです。

60歳以上の高齢者雇用において企業が定めること

60歳以上の高齢者を雇用し、安心して働き続けてもらうには、企業が社内制度を明確に整備することが大切です。就業規則や雇用に関するルールをきちんと定めることで、トラブルを防ぎ、従業員との信頼関係を築けます。

就業規則で定年制度と継続雇用の方針を示す

企業が60歳以上の従業員を雇用・再雇用する際は、就業規則に以下の内容を明確に定めておくとよいでしょう。

定年・継続雇用制度の整備
  • 定年年齢の記載(例:「定年は満60歳とする」)
  • 継続雇用制度の内容(再雇用・勤務延長など)
  • 対象者の基準と手続き(例:「健康状態・勤務成績などを考慮」)

※2025年4月以降は70歳までの就業機会確保が努力義務になります。

賃金・退職金の取扱い
  • 再雇用後の賃金水準(例:「定年前の〇〇%とする」)
  • 退職金の支給条件(例:「定年時に一括支給、再雇用後はなし」)

事前にルールを明確にしておくことで、従業員との認識のズレを防ぎ、安心して長く働いてもらえる環境が整います。

配置と業務内容への配慮

高齢者の経験や能力を活かしつつ、身体的な負担を考慮した配置転換や業務内容の調整についてルールを設けます。「高年齢者の健康状態に配慮し、必要に応じて業務内容や勤務時間を調整できる制度を設ける」といった内容は、長期的な活躍につながります。

評価制度を見直す

高齢者の貢献を適切に評価するために、高年齢者向けの評価制度を導入することも有効です。経験や知識を活かした指導や育成能力を評価項目に加えるなど、多角的な視点での評価がモチベーション維持に役立ちます。

健康と安全への配慮

高齢者は体力や持病の面で配慮が必要な場合があります。定期健康診断の実施や、負担軽減のための業務配分、柔軟な勤務時間の設定など、体調に合わせた勤務が可能な体制を整えましょう。

60歳以上の雇用支援で企業の人材戦略を強化

60歳以上の高齢者を雇用する企業には、国や自治体からさまざまな助成金や支援策が用意されています。これらを活用することで、経験豊かな人材の確保と人件費の抑制を両立できます。効果的に制度を使うためには、就業規則や評価制度など社内ルールの整備が欠かせません。申請手続きも計画的に進め、制度改正にも柔軟に対応できる体制を整えましょう。高齢者が安心して働き続けられる環境づくりが、企業の持続的な人材戦略につながります。

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