- 更新日 : 2025年7月7日
育休から早めに復帰はできる?復帰に必要な手続きや準備を解説
育児休業(以下、育休)からの早期復帰は、個々のライフプランやキャリアプラン、家庭の状況など、様々な理由から検討される選択肢です。近年、働き方の多様化や育児と仕事の両立支援への関心の高まりを背景に、予定よりも早く職場に戻りたいと考える方や、そうした従業員の意向にどう対応すべきか悩む企業担当者の方も増えています。
この記事では、育休からの早期復帰の可否、必要な法的手続き、社会保険や育児休業給付金の取り扱い、そしてスムーズな復帰を実現するためのポイントについて、従業員と企業双方の視点から分かりやすく解説します。
育児休業の期間について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
目次
育休から早めに復帰はできる?
育休からの早期復帰は、多くの方が関心を持つテーマです。法律上の取り扱いや、従業員と会社双方の権利と義務について正しく理解することが、円滑な復帰への第一歩となります。
原則、育休から早めに復帰することはできる
育児・介護休業法は、労働者が育児のために休業する権利を保障しています。育休期間は原則として子が1歳に達するまでと定められていますが、保育所に入所できないなどの特定の事情がある場合には、最長で子が2歳に達するまで延長することが可能です。
終了予定日を繰り上げて、育休から早めに復帰することは労働者の意思だけでは不可能となります。法律に終了予定日の繰り上げに関する規定がないだけでなく、会社が代替人員を確保している場合もあり、給与や社会保険料負担の問題も出てくるからです。ただし、不可能というわけではなく、会社が認めれば可能となります。実際に、保育園の入園が決まったタイミングなどで早期復帰を検討するケースは少なくありません。
近年の育児・介護休業法の改正では、育休期間の分割取得や、1歳以降の休業開始日の柔軟化が認められるなど、より多様な働き方や家庭の状況に対応できるよう、柔軟な育休取得を後押しする方向性が示されています。
しかし、早期復帰が可能だとしても、それがスムーズに実現するかは、企業側の受け入れ体制や実務上の調整にかかっています。企業がこのような従業員の意向に柔軟に対応できる体制を整えることは、従業員の満足度向上はもちろんのこと、優秀な人材の確保や定着という観点からも非常に重要です。
育休から早めに復帰する手続き
育休からの早期復帰が決まった場合、従業員と会社(人事労務担当者)の双方で、いくつかの手続きが必要になります。ここでは、それぞれが行うべき具体的な手続きについて解説します。
育休早期復帰に伴う主な手続き一覧
手続き項目 | 担当者 | 主な提出先・相手方 | 主な書類名 | 期限・タイミングの目安 |
---|---|---|---|---|
会社への早期復帰申し出 | 従業員 | 所属上司・人事 | 育児休業期間変更申出書 | 育休開始1ヶ月前まで |
育児休業取扱通知書の変更・交付 | 会社 | 従業員 | 育児休業取扱通知書(変更後) | 従業員からの申し出受理後、速やかに |
社会保険料免除期間の変更手続き | 会社 | 日本年金機構・健康保険組合 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書・終了届 | 育休終了(復帰)後、速やかに |
育児休業給付金の支給停止・変更手続き | 会社 | ハローワーク | 育児休業給付金支給申請書(職場復帰年月日を記載) | 復帰日を含む支給単位期間の申請時 |
保育園の入園手続き・慣らし保育の調整 | 従業員 | 自治体・保育園 | 就労証明書、その他自治体指定書類 | 自治体・保育園のスケジュールに合わせ、早期に開始 |
復帰後の社会保険料標準報酬月額の改定手続き | 会社 | 日本年金機構・健康保険組合 | 育児休業等終了時報酬月額変更届 | 復帰後3ヶ月間の給与支払い後、1等級以上の差がある場合 |
厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例の申し出 | 会社・従業員 | 日本年金機構 | 厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書 | 復帰後、子が3歳になるまで |
従業員が行う手続き
育休からの早期復帰を希望する従業員は、まず会社への申し出と、子どもの預け先である保育園に関する手続きを並行して進める必要があります。
会社への申し出
育休の終了予定日を繰り上げて早期に復帰したい場合、会社の規定に基づいた手続きを行います。
申し出の方法は、書面であることが一般的です。ただし、会社によっては、FAXや電子メールでの申し出を認めている場合もありますので、事前に確認しましょう。
提出する書類は、一般的に「育児休業期間変更申出書」といった名称になります。記載すべき主な事項は、申出年月日、所属部署・氏名、当初の育児休業期間、変更後の育児休業終了予定日(早期復帰希望日)、変更理由などです。
保育園の入園手続き・慣らし保育の調整
早期復帰を実現する上で最も重要な課題の一つが、子どもの預け先である保育園の確保と入園準備です。
就労証明書の準備と提出タイミング
保育園の入園申請には、勤務先が発行する「就労証明書」が必須です。育休中であっても、会社に早期復帰の意向を伝え、復帰予定日を明記した就労証明書を発行してもらう必要があります。提出時期は自治体や入園希望時期によって大きく異なるため、早めに確認し、会社に作成を依頼しましょう。
慣らし保育の期間と調整
多くの場合、保育園では「慣らし保育」の期間が設けられます。期間は数日から2週間程度が一般的です。職場復帰のタイミングは、この慣らし保育の期間を考慮して設定する必要があります。
自治体への確認事項
保育園の入園手続きや条件は自治体によって大きく異なるため、入園申込のスケジュール、必要書類、育休明け復帰の場合の入園選考基準、慣らし保育の期間とその間の育休の取り扱い、復職証明書の提出期限などを事前に確認することが不可欠です。
会社(人事労務担当者)が行う手続き
従業員から育休の早期復帰の申し出があった場合、会社(人事労務担当者)は、関連する法的手続きを適切に行う必要があります。
従業員からの申し出の受理
従業員から育児休業期間の変更(早期復帰)の申し出があった場合、会社はこれを速やかに受理し、変更後の育児休業期間や復帰日を明記した「育児休業取扱通知書」を改めて従業員に交付する必要があります。
社会保険料免除期間の変更手続き
育休期間中は社会保険料が免除されますが、早期復帰によって育休期間が短縮される場合、この免除期間も変更となります。そのため、会社は日本年金機構(または加入している健康保険組合)に対し、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届」を提出し、育休の正式な終了日を届け出る必要があります。この手続きは、育休終了(復帰)後、速やかに行います。
育児休業給付金の支給停止・変更手続き
早期復帰に伴い、育児休業給付金の支給対象期間も変更されます。会社は、管轄のハローワークに対し、育児休業給付金の支給期間変更の手続きを行う必要があります。具体的には、「育児休業給付金支給申請書」の「職場復帰年月日」の欄に、実際の復帰日を正確に記載して提出します。
これらの行政手続きは相互に関連しており、手続きの遅延や誤りは、従業員に不利益が生じるだけでなく、会社側も行政指導や追徴金のリスクを負う可能性があります。
育休から早めに復帰するメリット・デメリット
育休からの早期復帰は、従業員と会社双方にとって、様々な側面からメリットとデメリットが生じます。
従業員側
メリット
- 給与収入を早く得られるようになり、家計の安定につながります。
- 休業期間が短いほど、職場環境の変化へのキャッチアップが容易になり、業務知識や専門スキルの陳腐化を防ぎやすくなります。
- 仕事を通じて社会との接点を持ち続けることや、自身の能力を発揮して自己実現を図りたいと考える従業員にとって、精神的な充実感やモチベーションの維持につながることがあります。
デメリット
- 乳児期の子どもの成長は著しく、その貴重な時間を十分に確保できないという側面があります。
- 仕事と育児の両立は、特に復帰直後は大きな負担となります。睡眠不足や疲労が蓄積しやすく、精神面でもプレッシャーを感じることがあります。
- 短期間であっても職場を離れると、人間関係の変化や業務内容の変更などに戸惑うことがあります。
- 早期復帰に伴い、育児休業給付金の支給は復帰日の前日で終了します。
会社側
メリット
- 欠員期間が短縮され、代替要員の確保や他の従業員への業務負担を軽減し、組織全体の業務体制をより早く正常化できます。
- 従業員の早期復帰の希望に柔軟に対応する姿勢は、従業員のエンゲージメントを高め、離職を防ぐ効果が期待できます。
- 長期的な代替要員の採用や、新たな人材を一から育成するコストを抑制できる可能性があります。
デメリット
- 早期復帰が急に決まった場合、代替要員の契約期間の調整や配置転換など、新たな人事調整が必要になる場合があります。
- 早期復帰する従業員が仕事と育児を無理なく両立できるよう、サポート体制を整える必要があります。
- 復帰直後は、従業員が以前と同様のパフォーマンスをすぐに発揮できない可能性も考慮し、徐々に業務に慣れてもらう配慮が必要です。
育児休業給付金への影響
早期復帰は、育児休業給付金の受給期間に直接影響します。育児休業給付金は、職場復帰日の前日までで支給が終了します。
2025年4月1日から育児休業給付制度が拡充され、「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」が新設されます。
- 出生後休業支援給付
子の出生後8週間以内に両親がそれぞれ14日以上の育休を取得した場合などに、休業開始前の賃金の13%相当額を上乗せ支給するものです。 - 育児時短就業給付
2歳未満の子を養育するために時短勤務を選択し、賃金が低下した場合に、低下した賃金額の10%を上乗せして支給するものです。
これらの新制度は、早期復帰を選択する従業員にとってもメリットがある可能性があります。特に「育児時短就業給付」は、早期復帰後に時短勤務を選択する従業員にとって、収入面の不安を和らげる直接的な支援となり得ます。
社会保険料の免除ルール
育休期間中は社会保険料が免除されます。免除期間は、育休開始月から育休終了日の翌日が属する月の前月までです。社会保険料の計算は月単位で行われ、日割り計算はありません。重要なのは、月末時点で育休を取得しているかどうかです。
したがって、社会保険料の負担を考慮すると、月末まで育休を取得し、翌月の1日に復帰するのが経済的には有利な場合があります。ただし、保育園の入園時期や業務の引き継ぎ状況などを総合的に考慮して、最適な復帰日を決定することが重要です。
育休から早めに復帰するためのポイント
育休からの早期復帰を成功させるためには、従業員と会社双方の周到な準備と、円滑なコミュニケーションが何よりも重要です。
従業員と会社のコミュニケーション
復帰前面談の重要性と話し合うべき内容
復帰後の働き方や条件、育児との両立に関する懸念事項などを事前に共有し、双方の認識のズレを防ぐために、復帰前面談は非常に重要です。
- 会社側がヒアリングすべき主な内容
復帰希望日、保育状況、復帰後の働き方の希望(勤務時間、業務内容、柔軟な働き方の希望など)、両立支援の必要性、キャリア観、不安や懸念事項。 - 従業員側が伝えるべき・確認すべき主な内容
復帰希望時期、希望する働き方(勤務時間、業務内容、利用したい社内制度など)、育児環境、育休中の自己研鑽(もしあれば)、会社・チームの状況確認。
会社への伝え方(時期、理由、例文など)とトラブル防止策
早期復帰の意向を会社に伝える際は、タイミングや伝え方が重要です。
- 伝える時期
早期復帰の意向が固まった段階で、できるだけ早く直属の上司や人事担当者に相談することが推奨されます。 - 伝える理由
なぜ早期復帰を希望するのか、具体的な理由を伝えることで、会社の理解と協力を得やすくなります。 - 伝え方のポイント
まず育休取得への感謝の気持ちを伝え、早期復帰への意欲や貢献したいという前向きな姿勢を示すと良いでしょう。 - トラブル防止策
重要なやり取りは記録に残し、話し合った内容は双方で確認します。社内規程を確認し、不明な点は人事担当者や専門機関に相談しましょう。
復帰後の働き方への配慮
従業員が早期復帰後も安心して働き続けられるようにするためには、会社側の柔軟な対応とサポート体制が不可欠です。
時短勤務、テレワークなどの検討
育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する従業員が申し出た場合、時短勤務を講じることが事業主に義務付けられています。企業によっては、テレワークやフレックスタイム制など、より柔軟な働き方を支援しています。時短勤務を利用する場合の給与や年金への影響(養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置など)について、会社は従業員に正確な情報を提供し、必要な手続きをサポートすることが求められます。
業務量の調整、周囲の協力体制
復帰直後は、子どもの慣らし保育や急な体調不良などで、従業員が思うように働けないことも少なくありません。そのため、上司や同僚と密に連携を取り、一時的に業務量を調整したり、チーム内でサポートし合える体制を築いたりすることが極めて重要です。厚生労働省が推奨する「育休復帰支援プラン」は、企業がこうした両立支援体制を計画的に整備する上で非常に有効なツールです。
育休から早めに復帰するときは、しっかりとした事前準備を
育休からの早期復帰は、会社が認めれば可能です。しかし、その実現には従業員と会社双方が適切な手続きを理解し、十分なコミュニケーションを取ることが不可欠です。
2025年4月からの育児休業給付金の新制度も踏まえ、最新情報を常に確認し、従業員への情報提供と適切な運用を心がけることが望まれます。
最終的に最も重要なのは、法律や制度を遵守することはもちろんのこと、従業員一人ひとりの状況やキャリアプランに寄り添い、仕事と育児の両立を真に支援する企業文化を育んでいくことです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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