- 更新日 : 2025年4月18日
労災で骨折した際に休業補償給付を受給できる期間は?支給額や労災申請の流れも解説
労災で骨折して働けなくなると、多くの場合は休業補償給付の支給対象になります。休業補償給付は、仕事中のケガで休業する時に働けない日の収入を補償する、労災保険の制度です。
労災で骨折した際の休業補償給付を受給できる期間について、気になる人もいるのではないでしょうか。休業補償給付を受給できる期間を知ることで、労災で骨折した際の収入の見通しを立てやすくなります。
本記事では、労災で骨折した際に休業補償給付を受給できる期間や、関連する補償などを解説します。
目次
労災で骨折した場合に休業補償給付を受給できる期間
労災で骨折した場合に休業補償給付を受給できる期間は、原則として休業日の4日目から仕事に復帰する日の前日までです。
労災保険法では、骨折による休業補償給付の支給要件として以下の3つを定めています。
- 業務上の事由による骨折で療養していること
- 療養のため労働できない日であること
- 賃金の支払を受けていないこと
ただし、休業初日から3日目までは「待期期間」となり、休業補償給付は支給されません。休業補償給付は上記3つの要件を満たした休業日の4日目から受給できます。
休業補償給付が打ち切りになるケース
休業補償給付が打ち切りになるケースは「仕事に復帰した場合」が代表例ですが、ほかにもいくつか存在します。ここからは、休業補償給付が打ち切りになるケースを紹介します。
仕事に復帰し、賃金が支払われた場合
休業補償給付は、療養中で働けない日の収入を補填する制度です。そのため、仕事に復帰して賃金が支払われた場合、休業補償給付は打ち切りになります。しかし、復帰後に再び骨折の症状が悪化して休業する場合は、再度休業補償給付を申請可能です。
骨折の場合、患部を固定するためにプレートやボルトを埋め込んだ状態で勤務し、後でプレートやボルトを外すために再入院するケースがあります。プレートやボルトを埋め込んで勤務している間は休業補償給付が打ち切られますが、再入院する際に休業補償給付を申請できます。
症状が固定された場合
症状が固定された場合とは、骨折の治療を続けても、これ以上良くならないと判断されたケースです。症状の固定が確認されると、骨折の症状が完全に治っていなくても、休業補償給付は打ち切りです。症状が固定されたかどうかは、医療機関の報告に基づき、労働基準監督署長が判断します。
残った症状が障害等級に該当すると認められた場合は、休業補償給付以外の給付が支給される可能性があります。
傷病補償年金を受給する場合
傷病補償年金とは、骨折による休業開始から1年6ヶ月が経過した後も療養を要する場合、一定の条件を満たすと支給される給付です。傷病補償年金は休業補償給付と同時に支給されないため、傷病補償年金を受給する場合は休業補償給付が打ち切られます。
傷病補償年金を受給するには、休業開始から1年6ヶ月が経過した後も症状が固定しておらず、治療で良くなる可能性があることが必要です。
骨折した労働者が亡くなった場合
労災による骨折が原因で労働者が亡くなった場合、休業補償給付は打ち切られ、遺族に対して別の給付が行われます。遺族に対する給付は、生活を支えるための遺族補償給付や、葬儀費用を補助するための葬祭料が挙げられます。
遺族に対する給付は、労働者の死亡後、遺族が請求しないと受け取れません。労災で骨折した場合は、万が一自分が亡くなった場合に遺族がすぐ給付を請求できるよう、骨折の詳細を家族と共有しておきましょう。
休業補償給付の支給内容と関連する補償
労災による骨折で休業する場合、休業補償給付を受給できるほか、別の補償も受けられます。ここからは、休業補償給付の支給内容と関連する補償を解説します。補償の内容を把握することは、生活の見通しを立てるために重要なので、よく確認しておきましょう。
休業補償給付の支給額
休業補償給付の支給額は、休業した日1日につき、原則として給付基礎日額の60%です(1円未満の端数は切り捨てます)。給付基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、当該期間の暦日数で割った額です(1円未満の端数は切り上げます)。
たとえば、毎月末日に月30万円の賃金を受けている労働者が、10月1日に労災で骨折したとします。この場合、給付基礎日額は以下の計算式で求められます。
30万円×3ヶ月÷92日(7月、8月、9月の暦日数の合計)≒9,783円 |
給付基礎日額が9,783円であることから、休業日1日分の休業補償給付は以下の通りです。
9,783円×60%≒5,869円 |
休業補償給付の支給額は、支給申請を行ってから1ヶ月ほどを目安に、労働基準監督署から通知されます。
休業補償給付とあわせて支給される「休業特別支給金」
休業特別支給金とは、労災でケガをした労働者の生活を支援するため、休業補償給付とあわせて支給されるものです。支給額は、休業した日1日につき、給付基礎日額の20%です(1円未満の端数は切り捨てます)。
前述した月30万円の賃金を受けている労働者の場合、給付基礎日額は9,783円なので、1日分の休業特別支給金の額は以下になります。
9,783円×20%≒1,956円 |
休業補償給付の額が5,869円なので、休業特別支給金とあわせると、労働者が休業した日1日分の受給額は以下の通りです。
5,869円+1,956円=7,825円 |
休業補償給付と休業特別支給金の両方を受給できる場合、休業した日1日につき給付基礎日額の80%が支給される計算です。
待期期間中の補償について
労災によるケガや病気が原因で休業する場合、休業初日から3日目までは「待期期間」とされており、労災保険の休業補償給付・休業特別支給金は支給されません。
しかし、待期期間の収入を補填するために、労働基準法に基づく「休業補償」を会社に請求できます。休業補償とは、労災によるケガや病気が原因で働けない場合に、労働者の収入を補填するために会社が支払う補償です。休業補償給付の待期期間においては、会社が代わりに休業補償を支払う義務があります。
会社が支払う休業補償の額は、原則として労災保険の休業補償給付と同じです。
休業補償給付以外に受給できる給付
労災で骨折した場合、休業補償給付以外の労災保険の給付を受けられる可能性があります。ここからは、休業補償給付以外に受給できる給付を紹介します。
療養補償給付
療養補償給付は、労災によるケガや病気の治療費を補償する給付です。療養補償給付の支給方法は「療養の給付」「療養の費用の支給」の2つに分けられます。両者の概要は以下の通りです。
- 療養の給付
「労災指定医療機関等」と呼ばれる病院や薬局において、無料で骨折の治療や薬の支給を受けること
- 療養の費用の支給
労災指定医療機関等に属さない病院や薬局で、全額自己負担で治療や薬の支給を受け、後で治療や薬の支給にかかった費用を受け取ること
骨折を診てもらう病院によって、どちらの方法で療養補償給付が支給されるかが異なります。
傷病補償年金
傷病補償年金は、労災による休業開始から1年6ヶ月経過後において、一定の要件に該当する場合に支給される給付です。「一定の要件」とは、以下の2つを満たすことを指します。
- 労災によるケガや病気が治っておらず、症状の固定もされていないこと
- 傷病の重症度を示す「傷病等級」の1~3級に該当すること
傷病等級の詳細は厚生労働省令で定められており、該当の有無は労働基準監督署長の判断で決まります。傷病補償年金が支給されると、休業補償給付の支給は打ち切られます。
障害補償給付
障害補償給付は、ケガや病気の症状が固定した場合に、後遺症の程度に応じて支給される給付です。後遺症の程度によって、障害等級が1~14級のいずれかに決定され、等級に応じて支給額が決まります。障害等級1~7級の場合は年金として、8~14級の場合は一時金として支給されます。
障害補償給付を受給するには、後遺障害診断書をはじめ各種書類を準備し、労働基準監督署長への提出が必要です。
介護補償給付
介護補償給付は、障害補償給付や傷病補償年金を受給している人が、介護が必要な場合に受け取れる給付です。介護補償給付の支給要件は以下の通りです。
- 障害補償給付、もしくは傷病補償年金を受給していること
- 常時、もしくは随時介護が必要な状態であること
- 実際に常時、もしくは随時介護を受けていること
- 病院や診療所に入院していないこと
- 十分な介護サービスを受けられる支援施設や老人ホームに入所していないこと
介護補償給付は、原則として実際に介護のために支払った額を基準に支給されます。
休業補償給付を受給できる労災として認定される要件
そもそも休業補償給付を受け取るには、骨折の原因である事故が労災と認定される必要があります。労災と認定されるには、事故が「業務災害」「通勤災害」のどちらかに該当することが必要です。
ここからは、業務災害と通勤災害のそれぞれについて、認定を受ける要件を解説します。
業務災害と認定される要件
業務災害とは、業務中に起きた事故による負傷を指し、事故に「業務遂行性」「業務起因性」の2つが認められることで認定されます。
業務遂行性・業務起因性の定義は、それぞれ次の通りです。
- 業務遂行性:労働者が事業主の支配下で業務を遂行している状態
- 業務起因性:業務と事故との間に因果関係がある状態
職場での仕事中に起きた事故であれば、基本的に業務遂行性・業務起因性が認められ、業務災害として扱われます。職場外の事故であっても、外回りや出張など業務上必要な活動中に起きた事故であれば、業務災害として扱われます。
通勤災害と認定される要件
通勤災害とは、通勤中に起きた事故を指します。通勤中と認められる移動の例は以下の通りです。
- 住居と職場との間の往復
- 就業の場所から他の就業場所への移動
- 単身赴任先と家族の住む場所との往復
通勤中の事故であっても「通勤経路を大きく外れていた」「通勤とは関係ない私的な行為をしていた」という場合に該当すると、通勤災害と認められない可能性があります。
労災申請の手続きの流れ
労災で骨折し、休業補償給付を受給したい場合は、所定の申請が必要です。ここからは、労災申請の手続きの流れを解説します。
1.事故の発生を会社に報告する
会社で労災が発生した場合、会社はその旨を労働基準監督署に報告する義務があります。労災が発生した際はすぐ会社へ報告しましょう。
会社は労働者からの報告をもとに労働者死傷病報告書を提出する必要があるため、事故の詳細な状況を具体的に報告しましょう。
2.病院で診察を受ける
労災による骨折を診てもらう際は、できれば労災保険指定医療機関の病院に行くのがおすすめです。労災保険指定医療機関とは、労災保険の適用を受けられる病院で、労災によるケガや病気を無料で診てもらえます。労災保険指定医療機関以外の病院で診察を受けた場合、医療費を一度自分で立て替えて、後で労災保険から医療費分の金額を受け取る流れになります。
立て替えの手間がない分、労災保険指定医療機関のほうが便利ですが、近くにない場合は無理せず最寄りの病院に行きましょう。
3.必要に応じて書類を提出する
労災申請のための書類提出は、会社が代わりに行ってくれるケースが大半です。しかし、対応してくれない場合は労働者が自分で書類を提出します。
療養補償給付や休業補償給付など、申請する給付に応じて提出書類は異なります。必要な書類を確認しながら準備を進めましょう。
書類の提出先は基本的に労働基準監督署ですが、労災保険指定医療機関を受診した場合、療養補償給付の請求書のみ受診した病院に提出します。
4.労働基準監督署による調査が行われる
労災申請に必要な書類を提出した後、労働基準監督署の調査が行われます。事故発生時の状況や原因、業務との関連性などを調査され、労災と認定されると各種の給付を受給可能です。
調査にかかる時間は事例によって異なりますが、骨折は業務との関連性がわかりやすいため、多くの場合は1ヶ月程度で終わります。
労災で骨折した場合の休業補償給付に関する、よくある質問
ここからは、労災で骨折した場合の休業補償給付に関する、よくある質問とその回答を紹介します。
1.疲労骨折は労災として認定される?
疲労骨折は、同じ部位に何度も力が加わることで骨折する症状ですが、労災に認定されるかは原因によって異なります。
仕事中の作業によって、同じ部位に繰り返し負担がかかって骨折した場合は、労災に認定される可能性があります。一方で、仕事と関係ない日常的な動作の繰り返しによって骨折した場合は、労災に認定されません。
2.パートでも休業補償給付は受給できる?
パートでも、労災によるケガや病気で働けない場合は休業補償給付を受給できます。労災保険は雇用形態を問わずすべての労働者に適用されるため、パート・アルバイト・契約社員など正社員以外の働き方でも、休業補償給付を受け取れます。
しかし、休業補償給付は直前の3ヶ月に支払われた賃金をもとに支給額が決まるため、正社員に比べると支給額が少なくなりやすい点は注意しましょう。
3.有給休暇を取得した日に休業補償給付は受給できる?
有給休暇を取得した日に休業補償給付は受給できません。休業補償給付は賃金が発生しない休業期間において支給されます。有給休暇は賃金が支払われるため、休業補償給付の対象外です。
しかし、休業補償給付の額は賃金の約60%であるため、有給休暇を取得したほうが休業日の収入は増えます。休業中の収入額を少しでも上げるために有給休暇を消化するか、よく考えて決めましょう。
4.退職した後も休業補償給付は受給できる?
労災で骨折して休業補償給付を受給していた場合は、退職後も支給要件を満たす限り、休業補償給付を受け取れます。
労災保険法では、労災保険からの保険給付を受けられる権利は、退職によって変更されることがないと明記されています。休業補償給付は退職を理由に打ち切られないため、安心して治療に専念しましょう。
休業補償を受給できる期間は正しく把握しよう
労災による骨折で休業した場合、原則として休業の4日目から仕事に復帰するまでの期間、休業補償給付が支給されます。しかし「症状が固定される」「傷病補償年金を受給する」など、途中で休業補償給付が打ち切りになるケースもあります。
骨折で働けなくなった場合、休業補償給付は貴重な収入源です。受給できる期間は事前によく確認して、収入の見通しを早めに立てておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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