• 更新日 : 2025年4月3日

入院時のパジャマ代は労災保険の対象?自己負担になる理由をわかりやすく解説

労災保険は、仕事中や通勤途中にケガや病気になった際に医療費をカバーしてくれる制度ですが、「入院中のパジャマ代も補償されるのか?」という細かな疑問を抱く方は少なくありません。この記事では、労災保険の入院給付が具体的にどこまでカバーされるのか、特にパジャマ代の取り扱いについて詳しく解説します。実際に補償される場合の条件や厚生労働省の公式見解、万が一補償されなかった場合に利用できる支援策についてもわかりやすく紹介します。

労災保険における入院給付の範囲

労災保険における入院給付は、「療養(補償)給付」という形で提供され、業務災害の場合は「療養補償給付」、通勤災害の場合は「療養給付」と呼ばれます。この給付は、労働者が労災による負傷や疾病の治療を受ける際に、原則として自己負担なしで必要な医療サービスを受けることができる制度です。療養(補償)給付の対象となる期間は、労災が発生した時点から、医師によって「治癒」または「症状固定」と診断されるまでの間です。ここでいう「治癒」とは、傷病の状態が安定し、継続して治療を行っても医療効果が期待できなくなった状態を指します。

療養(補償)給付によって補償される費用は多岐にわたり、労災による怪我や病気の治療・リハビリテーションに必要な費用全般が含まれます。具体的には、初診料、診察料、薬剤費、治療費、手術費用、入院費、入院中の看護費用、入院時の食事代などが挙げられます。また、治療のために必要となる装具や器具の購入費、リハビリテーション費用、通院や入院のための交通費(移送費)なども補償の対象となる場合があります。さらに、自宅での療養における管理や看護、世話なども給付の範囲に含まれることがあります。

労災保険における入院給付の範囲
  • 診察料
  • 薬剤費
  • 治療費
  • 手術費用
  • 入院費
  • 入院中の看護費用
  • 入院時の食事代
  • リハビリ費用
  • 検査費用
  • 移送費
    (原則として片道2km以上などの条件あり)
  • 居宅における療養上の管理・世話・看護
  • 装具、器具購入費
    (治療に必要な場合に限る)
  • 診断書作成費用
    (労災申請に必要な場合に限る、上限額あり)
  • 包帯、テープ、湿布などの市販品
    (治療に必要な場合に限る、生活の質や利便性向上のための購入品は自己負担)

労災指定医療機関においては、これらの医療サービスを原則として窓口負担なしで受けることが可能です。一方、労災指定医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合は、一旦治療費を全額自己負担し、後日、労働基準監督署に請求することで費用の還付を受けることになります。

入院時のパジャマ代は原則として労災保険の対象外

労災保険は、業務上または通勤中の事故や病気で入院する際、治療に必要な医療費を広く補償していますが、入院中に必要なパジャマ代については、原則として補償の対象外となります。

労災保険の補償の対象は、診察・検査・手術などの医療行為にかかる費用や、治療のために必要不可欠と判断されるものに限られます。これに対して、パジャマは入院生活での個人的な日用品とみなされるため、治療そのものとは直接関係がないという扱いになります。そのため、自分自身で購入したパジャマの費用は基本的に自己負担となるのです。

入院時のパジャマ代が例外的に労災保険の対象となる場合

原則として入院時のパジャマ代は労災保険の補償対象外ですが、実は一部例外的なケースがあります。それは、病院で貸し出されるパジャマの費用」です。この病衣の貸与費用は、特定の条件下で補償の対象となることがあります。

具体的な例外として挙げられるのは、以下の2つのケースです。

緊急入院により病衣が必要となった場合

事故やケガによって緊急入院した際には、自分でパジャマを持参する余裕がないことがあります。その場合、病院から緊急的に病衣を貸し出されることがあります。このような「緊急的な入院」で、労働者自身が準備できず、病院側から病衣を貸与された場合には、その費用が「病衣貸与料」として労災保険の補償対象になる場合があります。

これは労働者自身の選択ではなく、治療のために緊急的に必要だったと認められるからです。ただし、この場合でも病衣の貸与は病院から提供されている必要があり、労働者自身が後から購入したパジャマ代については補償されません。

感染症の予防など医学的理由が認められる場合

もう一つの例外は、感染症予防や治療上の理由で、病院が病衣を患者に貸与した場合です。例えば、感染症を患っている患者が私服を着用すると感染リスクが高まる場合や、衛生管理の観点から病衣を着用する必要がある場合には、病院側が貸与した病衣代が補償対象となることがあります。

これらの場合も、労災保険から病院へと直接費用が支払われるため、患者自身に自己負担は生じません。ただし、この例外条件は、病院の判断や医学的な理由に基づいて認定されるため、自己判断で適用することはできません。必ず病院側の指示や医師の判断が必要となります。

上記のような例外はありますが、注意すべきは、自己判断で購入したパジャマは一切対象にならないということです。入院時に自身で購入するパジャマは、どんな事情があっても個人的な費用とされ、労災保険で補償されることはありません。

そのため、入院が決まった際は、病院側に「労災保険で病衣貸与が認められるケースに該当するか」を事前に確認することが非常に重要です。また、後から病衣貸与の費用が補償されると期待して自己負担した費用の還付を求めても、基本的には認められませんので注意してください。

入院時のパジャマ代に関する厚生労働省の見解

労災保険を管轄する厚生労働省は、公式ウェブサイトや関連文書を通じて、労災保険給付に関する情報を公開しています。これによると、医療機関が患者に病衣を貸与した場合の費用「病衣貸与料」について規定が存在することがわかります。具体的には、患者が緊急収容され病衣を持参していなかった場合、または傷病の感染予防上の必要性から医療機関が病衣を貸与した場合に、1日につき一定の点数が算定できるとされています。点数は年度や地域によって異なる場合がありますが、これは労災保険から医療機関に支払われるものであり、自己負担が生じるものではありません。

一方で、厚生労働省の公開情報においても、労働者が個人的に購入したパジャマ代が労災保険の給付対象となるという明示的な記述は見当たりません。このことから、労災保険の医療給付は、負傷や疾病の治療に直接的に必要な医療サービスや費用を対象としており、入院生活における個人的な衣類購入費は原則として対象外であるという解釈が裏付けられます。

入院時のパジャマ代に関する社会保険労務士・弁護士の見解

労災保険の専門家である社会保険労務士や労働問題に詳しい弁護士の見解も、概ね労災保険では入院時に労働者が購入するパジャマ代は原則として補償されないという点で一致しています。パジャマは入院生活に必要な個人的な物品であり、直接的な治療費とは性質が異なるためです。

ただし、緊急入院でパジャマを持参できなかった場合や、感染症予防のために病院から病衣が提供された場合の病衣貸与料については、労災保険の給付対象となる可能性があるという点も指摘されています。一部の専門家は、入院中の快適な生活も治療の一環であるという観点から、パジャマ代も補償の対象となるべきとの意見も示唆していますが、現状の労災保険制度の解釈としては、自己購入のパジャマ代は原則として自己負担となります。そのため、具体的な状況については、入院先の医療機関や管轄の労働基準監督署に確認することが推奨されています。

労災保険以外で入院時のパジャマ代を補償する制度

労災保険は、入院や治療に必要な医療費を幅広く補償していますが、パジャマ代のように個人的な日用品は原則として補償対象外となります。ここでは、労災保険でパジャマ代が補償されなかった場合に、他にどのような経済的支援が受けられる可能性があるかについて解説します。

会社独自の支援制度

最初に検討すべきなのは、自分の勤務先に相談することです。労災事故に遭った労働者に対して、会社独自で経済的な支援を提供している場合があります。

会社が行っている支援制度の一例としては、入院時の見舞金や災害時の支援金、入院にかかる雑費に対する補助などがあります。特に大企業や福利厚生が充実している会社では、こうした費用を一部負担する独自の制度があることも珍しくありません。

このような制度はあくまでも会社独自のものであり、法律で義務付けられているわけではないため、勤務先に直接問い合わせる必要があります。会社の人事部門や総務部門、または労働組合などが窓口になることが多いため、まずは会社内部で利用可能な制度を調べてみることをおすすめします。

医療保険・傷害保険

労災で入院した場合でも、個人で加入している民間の医療保険や傷害保険を利用できることがあります。特に、医療保険や入院保険などでは、「入院一日あたりの給付金」や「入院時の一時金」などの形で、経済的支援を受けられる可能性があります。

こうした民間の保険は、労災保険とは別に加入しているものであるため、労災の対象となるかどうかにかかわらず、契約内容に基づいて給付金が支給されることが一般的です。ただし、契約ごとに給付条件が異なるため、自分が加入している保険会社に問い合わせ、具体的な補償内容や申請手続きを確認する必要があります。

労災による入院期間が長期になることも考えられるため、これらの保険による給付があれば、パジャマ代を含む入院中の雑費をカバーすることが可能になるでしょう。

労災保険の休業補償給付

労災事故によって入院や治療が長引き、仕事を休む場合には、労災保険から「休業補償給付(通勤災害の場合は休業給付)」が支給されます。この制度では、仕事を休んだ4日目以降から、「給付基礎日額」(事故前の平均賃金)の約80%が支給されます。

休業補償給付は、パジャマ代のような直接医療費とならない雑費にも間接的に充てることが可能なため、生活費を補う重要な支援策になります。ただし、この給付はあくまで休業期間中の収入減を補填するものなので、直接パジャマ代に支給されるものではありませんが、生活費が軽減されることで入院中の経済的負担が全体的に楽になります。

健康保険の高額療養費制度

労災保険が適用されるケースでは基本的に健康保険の「高額療養費制度」を利用することはありませんが、万が一労災と認定されないケースや、健康保険を使用するような特殊な状況が生じた場合には、この制度を検討する余地があります。

高額療養費制度とは、一定額以上の医療費を支払った場合に、その超えた分が払い戻される制度です。ただし、この制度は「治療費(医療費)」を対象としており、パジャマ代などの日用品費は対象外であることが一般的です。そのため、直接的にパジャマ代が補填されるわけではありませんが、全体の医療費負担が軽減されることで間接的に経済的負担を抑えることができます。

生活福祉資金貸付制度など公的な支援制度

入院や長期間の療養で経済的に困難な状況に陥った場合、自治体の社会福祉協議会が行う「生活福祉資金貸付制度」を活用できることがあります。この制度では、緊急時や一時的な経済的困窮に対して低利または無利子で貸付が行われます。

この制度も直接パジャマ代を対象にしたものではありませんが、生活資金や療養に伴う雑費の工面に役立つことがあります。申請手続きや条件については居住地の社会福祉協議会に問い合わせることが必要です。

入院時のパジャマ代は原則として自己負担

労災保険では入院時の医療費は広く補償されますが、パジャマ代については原則として自己負担となります。ただし、緊急入院や感染症予防のために病院から病衣を借りた場合は例外的に補償対象となる可能性があります。パジャマ代が補償されない場合でも、会社の見舞金や民間の医療保険、休業補償などの方法で経済的な負担を軽減できることがあります。入院時には病院や労働基準監督署に事前に確認しておくことをおすすめします。


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