• 更新日 : 2025年4月1日

労働基準法第62条とは?18歳未満の重量物の制限や労災認定もわかりやすく解説

労働基準法第62条は、重量物を取り扱う業務について年少者(18歳未満)の就業を制限し、労働者の安全を守るための規定です。これは年少者が過度に重い物を扱うことで生じる腰痛などの健康被害を防ぐ目的があります。

厚生労働省の調査によれば、4日以上の休業を要する労働災害(業務上疾病)のうち実に約6割が腰痛で占められており、重量物の取り扱いが労働災害の大きな要因となっています。そのため、労働基準法第62条および関連法令で「重量物」として扱われる荷重の基準が定められており、年齢や性別に応じた運搬重量の上限が法律で規制されています。

本記事では、労働基準法第62条で定める重量物の定義や運搬制限、安全に運ぶポイント、そして重量物運搬中の労災に関して解説します。

労働基準法第62条における重量物とは

労働基準法第62条第1項では、使用者は18歳未満の者を厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならないと規定しています。

ここでいう「重量物を取り扱う業務」とは、年少者労働基準規則第7条で定められた重量以上の物を扱う業務を指します。また女性労働者についても、妊産婦や一般女性に対し重量物取り扱い作業の制限が女性労働基準規則第2条などで規定されています。

重量物とは特定の種類の物品を指すのではなく、重量そのものによって定義される概念です。例えば、大型家電(冷蔵庫・洗濯機)や機械装置、自動車部品のような明らかに重い物はもちろん、人によっては書類が詰まった段ボール箱ですら重量物になり得るのです。

要は、「人が持って重いと感じる程度」の物体が重量物となりうるため、種類に限定はありません。法令上は、その中でも人力による運搬で労働者の腰部等に負担を及ぼしうる重量を基準にして「重量物」に該当するか否かを判断します。

したがって、労働基準法第62条で定める重量物とは、労働者の年齢や性別に照らして過重な重量を持つ物品を扱う作業を指すといえます。

労働基準法第62条における重量物の運搬制限

重量物の運搬に関しては、労働基準法第62条および関連する省令によって、労働者の年齢・性別ごとに細かな重量制限が設けられています。さらに作業が断続的継続的かによっても上限重量が区別されています。

断続作業とは荷物の積み下ろしの合間に運搬しない時間が長く取れる作業、継続作業とは仕分け作業のように重量物の取り扱いが連続して続く作業を指します。以下に主要な制限をまとめます。

重量物の制限
  • 年少者の男性
    満16歳未満では断続作業で15kg、継続作業で10kgが上限です。16歳以上18歳未満では断続作業30kg、継続作業20kgまでと定められています。18歳以上の男性には法令上明確な重量制限はありません。
  • 年少者の女性
    満16歳未満では断続作業12kg、継続作業8kgまで、16歳以上18歳未満では断続作業25kg、継続作業15kgまでが上限です。
  • 成人女性(18歳以上)
    断続的な作業で30kg未満、継続的な作業で20kg未満が上限と規定されています。これは女性労働基準規則で定められた数値で、事業者はこの重量を超える荷物を女性に単独で扱わせてはなりません。
  • 成人男性(18歳以上)
    上述の通り法律上の上限はありませんが、厚生労働省の指針では体重のおおむね40%以下を目安にするよう明記されています。例えば体重60kgの男性なら約24kgまでが目安となり、法律上許容されていても25kgを超えるような重量物は腰痛予防の観点から望ましくないとされます。

以上のように、男性の方が女性よりも上限が高く設定されています。これは「一般的に女性の筋力は男性の約60%程度」とされるためで、女性には男性の60%程度の重量に留めるべきとの指針が示されているからです。

妊娠中および出産後1年以内の女性については特別の保護規定があり、重量物の運搬作業そのものを原則として禁止しています。妊産婦が重い物を持つことは母体への負担が大きく危険であるため、妊娠中の女性や産後間もない女性には重量物取り扱い業務を就かせてはならないと明確に定められています。

成人男性についてかつては「55kgまで」という行政指導が存在しましたが、腰痛疾患の増加等を背景に平成25年(2013年)に指針が改訂され廃止されています。現在は前述のように体重比40%という基準のみが示され、法律上は上限を設けない形となっています。これは重い荷物が必要な場合は複数名で分担することや、なるべく機械を用いることを促すためでもあります。

事業者はこれらの基準を守り、該当する労働者に過度な重量物を扱わせないようにしなければなりません。違反した場合、労働基準法119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則が科される可能性があります。

労働基準法第62条の重量物を安全に運ぶためのポイント

重量物の運搬作業を安全に行うためには、法定の重量制限を守るだけでなく、持ち方や作業環境にも十分な配慮が必要です。たとえ法令上許容される重量範囲内であっても、無理な姿勢や不適切な方法で持ち上げれば腰痛やケガにつながりかねません。

厚生労働省が公表している「職場における腰痛予防対策指針」などを参考に、以下に人力で安全に重量物を運搬するためのポイントを示します。

作業の手順書を作成しておく

重量物の持ち上げ方・下ろし方の手順や、複数人で運ぶ場合の掛け声やタイミングなど、現場で統一した手順書(マニュアル)を整備しておくことも安全対策に有効です。文章だけでなく写真やイラストを用いて正しい動作姿勢を示せば、視覚的に理解しやすくなります。

また、「腰より高い位置にある荷物は必ず踏み台を使用する」など具体的なルールを決めて周知することで、各人が自己流で無理をするのを防ぐことができます。

扱う荷物の重量やサイズごとに想定されるリスクを洗い出し、自社の現場に適したマニュアルを作成しましょう。

作業スペースや動線を整備する

人力での重量物運搬が必要な職場では、作業スペースや動線を整備し、無理のない動きで運搬できる環境づくりが重要です。例えば、荷物の上げ下ろしを楽にするために適切な高さの台や昇降装置を用意し、床と荷物の上下距離を縮めます。

倉庫内であれば整理整頓を徹底し、台車が通れる通路や十分な作業スペースを確保しましょう。さらに、冷えは腰痛のリスクを高めるため、作業場の温度管理や防寒対策も必要です。

荷物の重量を外側に表示しておく

箱や容器の中身によっては、見た目よりはるかに重い場合があります。作業者が不意に過重な負担を強いられないよう、可能な限り荷物の重量を外側に表示しておくことが望ましいです。特に重心が偏っている荷物については、その旨をわかりやすく表示し、バランスを崩さないよう注意喚起します。

荷主側でも、製品や荷物を出荷する際に重量表示をしておけば、運ぶ側の労働者も安全に取り扱いやすくなります。

腰に負担がかからないよう注意する

重い荷物を持ち上げたり運ぶ際は、できるだけ荷物と自分の体の距離を近づけ、腰を反らしたりひねったりしないようにしましょう。荷物の高さに体の位置を合わせ、腰ではなく足や膝の力で持ち上げることが大切です。

前かがみで背中を丸めた姿勢で持ち上げると、重量物が重いほど腰への負担が増大し、腰痛のリスクが高まります。

体力回復のため適度に休憩を挟む

重量物の運搬作業が長時間に及ぶ場合は、定期的に小休止を挟み、筋肉の疲労を回復させましょう。人間が全力で物を持ち上げ続けられる時間には限りがあり、時間とともに筋力は低下します。

休憩を取らずに継続していると姿勢も崩れやすくなり、ケガのリスクが高まります。可能であれば作業者を固定せず、重量物運搬と軽作業を交替するなど、負荷が連続しない工夫も有効です。また、暑い時期や寒い時期には天候・気温に配慮した休息(水分補給や防寒)も必要です。

定期的に労働安全衛生教育を行う

新しく労働者を雇入れた時や配置転換で作業内容が変わる際には、安全衛生教育(安全衛生法に基づく教育)を実施する義務があります。重量物の運搬作業に従事させる場合は、その教育内容の一つとして「当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防」に関する事項を必ず含めましょう。

具体的には、重量物の取り扱いで生じ得る腰痛や傷害の原因・予防法を教えることです。腰痛予防体操の紹介や正しいリフト動作の実技訓練なども有益でしょう。事業者はこれら教育を怠らず、安全意識の向上に努める必要があります。

以上のポイントは、重量物の取り扱いによる労働災害を防止するために非常に重要です。労働基準法第62条の遵守とあわせて、現場での安全対策もしっかり講じましょう。法律の基準内であっても油断せず、労働者の健康を第一に考えた作業管理が求められます。

労働基準法第62条の重量物の運搬で労災認定されるケース

重量物を運搬している最中に腰を痛めたり事故が起きたりした場合、それは労働災害(労災)として扱われます。重量物運搬が原因で起こる腰痛には、大きく分けて急性の災害性腰痛と慢性的な腰痛があります。

例えば「重い荷物を持ち上げた瞬間に腰に激痛が走った」「運搬中に転倒して負傷した」というようなケースは災害性(急性)の腰痛であり、明確な事故の瞬間があるため労災認定も比較的容易です。

一方、日々の重量物取り扱い作業の蓄積によって椎間板ヘルニアや腰痛症を発症したような慢性の腰痛については、業務との因果関係を判断するための基準が設けられています。

厚生労働省の定める腰痛の労災認定基準では、約3か月以上にわたり次のような作業に従事した場合に、その作業が原因で発症した腰痛は業務上疾病として労災認定の対象になるとされています。

「腰痛」で労災認定の対象となる作業(約3か月以上)
  • 約20kg以上の重量物や重量の異なる物品を、繰り返し中腰の姿勢で取り扱う作業
  • 毎日数時間程度、不自然な姿勢(前かがみ・ねじりなど)を持続して行う作業
  • 長時間立ち上がれず同一の姿勢を続ける作業
  • 腰に著しく強い振動を受け続ける作業

また、約10年以上にわたり継続して重量物を扱う作業に従事した場合に、腰椎の骨の変性が進行して発症した腰痛について、以下のような条件下であれば労災と認定されます。

「腰椎の骨の変性が進行して発症した腰痛」で労災認定の対象となる作業(約10年以上)
  • 労働時間の約1/3以上の時間、約30kg以上の重量物を扱う業務
  • 労働時間の約1/2以上の時間、約20kg以上の重量物を扱う業務

ただし高齢による椎間板の変性など加齢要因も腰痛の原因となり得るため、労災と認められるのは「通常の加齢を明らかに超える負荷」が業務でかかった場合に限られます。

短期間でも繰り返し重量物を扱ったケースや、長年にわたり重量物を扱い続けたケースでは業務起因性があると判断されやすいということです。

実際の労災申請においては、医師の診断書や作業内容の詳細、荷物の重量記録などをもとに総合的に判断されます。

労働基準法第62条を遵守して安全な職場環境を維持しましょう

労働基準法第62条は、年少者(18歳未満)の危険・有害業務を制限し、その中でも重量物の取り扱いについて明確な基準を定めています。年齢や性別ごとに運搬可能な重量が異なり、企業はこれを遵守しなければなりません。

また、重量物の運搬は腰痛や労災のリスクが高く、適切な持ち上げ方や作業環境の整備が必要です。労災認定の基準や判例からも、企業には従業員の安全配慮義務が求められています。

違反すれば罰則が科されるだけでなく、労働者の健康被害や訴訟リスクも生じます。したがって、労働基準法の基準を守るだけでなく、教育やマニュアル整備を徹底し、安全な職場環境を維持することが重要です。


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