- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第33条とは?災害による時間外労働についてわかりやすく解説!
労働基準法第33条は、災害その他避けることのできない事由による臨時の必要がある場合の時間外労働等に関する規定です。一見、難解な条文ですが、その内容は、労働者の保護と事業の継続という、二つの重要な側面に関わっています。
本稿では、同条の趣旨、要件、効果について、平易な言葉で解説し、使用者・労働者の双方にとっての留意点を示します。
目次
労働基準法第33条とは?
労働基準法第33条は、災害や事故など、通常は避けられない緊急事態が発生した場合に限り、企業が法定労働時間を超える残業や、法定休日に労働を命じることを特別に認める規定です。平常時であれば、労働基準法第32条により「1日8時間・週40時間」が原則とされており、それを超える時間外労働や休日労働を行わせる場合は、いわゆる「36協定(さぶろくきょうてい)」を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
しかし、地震・台風・火災・設備の重大故障など、緊急かつやむを得ない事態が起こった場合には、事前に36協定を結んでいなくても一定の条件下で残業や休日出勤を命じることができます。
これが労働基準法第33条の趣旨であり、企業の事業継続や社会公共の安全確保のための非常時の例外措置と言えます。
条文の概要と目的
労働基準法第33条第1項では、
「災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合」
に、使用者(会社側)が所轄官庁(労働基準監督署長)の許可を受けることで、必要な限度で法定時間を延長しまたは休日に労働させることができると定めています。
ただし、事態が急を要し、あらかじめ許可を受ける時間的余裕がない場合には、事後に速やかに届け出をしなければならないとも規定されています。
このように、第33条は労働時間の原則に対する例外を認めるものですが、その適用はあくまでも厳格に限定された緊急時のみです。
目的は、労働者の生命・身体や公共の利益を守るために必要な緊急措置に限る点に注意が必要です。
労働基準法第33条が適用されるケース
労働基準法第33条が適用される典型的なケースとしては、次のような避けることのできない緊急事態があげられます。
労働基準法33条が適用されるのは「客観的に見て避けられず、緊急に対応しなければならない事態」に限られます。逆に言えば、事前に予見できた事態や計画的に対応可能な業務は第33条の対象にはなりません。
例えば、「繁忙期で受注が集中したから残業させたい」「人手不足だが人員補充が間に合わないので臨時に長時間労働させたい」といった事情は、たとえ会社にとって緊急であっても法律上は予見・回避可能な問題とみなされ、第33条の適用は認められません。
人事労務担当者は、この条文があくまで例外的な緊急措置であることを正しく理解し、安易に適用しないよう留意する必要があります。
自然災害の発生
地震・台風・洪水・大雪などの災害が起きた場合です。例えば、地震で工場やオフィスが被災し復旧作業が必要な場合や、台風で倒木や停電が発生し復旧対応に当たる必要がある場合がこれに当たります。
こうした災害時には通常では考えられない緊急の業務が発生し、法定労働時間の枠に収まらない対応が求められることがあります。労働基準法第33条はそのような災害対応業務について残業時間の上限規制等を適用しない特例を設けています。
重大な事故・設備トラブル
火災や爆発等の重大事故が発生した場合や、生産ラインの機械設備が突然故障し事業の継続が困難となるような場合も該当し得ます。
例えば、工場で機械が壊れこのままでは製品に大きな欠陥や損害が出る、といったケースでは、緊急に復旧作業のため臨時の残業が必要になるでしょう。これも会社側では予期し得ない避けられない事由による臨時の必要と言え、第33条の適用が考えられます。
ライフライン復旧・公益的業務への対応
社会インフラである電気・ガス・水道などライフラインの早期復旧作業は、人命や社会生活の保護の観点から急務と考えられ、第33条第1項の要件に該当し得る代表例です。実際に、大規模災害時には被災地域外の事業者が被災地に応援に駆けつけ、長時間の復旧作業に従事することがあります。
このように他の事業者や行政機関からの協力要請に応じて行う緊急作業(例:政府の依頼で避難所に物資を輸送する等)も、「災害その他避けることのできない事由による臨時の必要」がある場合として第33条の適用対象になり得ると厚生労働省も解釈を示しています。
公衆衛生上の緊急事態
近年では新型コロナウイルス感染症への対応など、公衆衛生上の危機も想定されます。例えば医療・保健分野で感染拡大防止のために急遽長時間の対応が必要になった場合や、関連物資の緊急生産が求められる場合なども、労基法33条の適用事例として考えられます。
実際、厚生労働省も新型コロナ対応は災害時の臨時の必要に該当し得る旨の通達を出しており、適切な手続きを踏めば緊急残業が可能とされています。
労働基準法第33条で企業が遵守すべき基本ルール
労働基準法第33条に基づいて、企業が緊急時に労働者へ時間外労働や休日労働を命じる場合でも、無制限に働かせてよいというわけではありません。あくまで非常時の例外規定であり、適用にあたっては企業側にも厳格なルール遵守が求められます。以下に、その主なポイントを整理します。
必要最小限の範囲にとどめる
大前提として必要最小限の範囲内に限定することです。第33条第1項自体、「その必要の限度において」労働時間を延長しまたは休日に労働させることができると規定しており、緊急時であっても無制限の長時間労働を許可するものではありません。あくまでも臨時の措置であり、対応に必要な時間を超えて労働させることは違法となります。
企業は状況が落ち着き次第速やかに労働者を休ませ、通常の勤務体制に戻すよう努めなければなりません。
割増賃金(残業代・休日手当)の支払い義務
割増賃金(残業代・休日手当)の支払い義務は非常時であっても免除されません。労働基準法33条を適用して時間外労働や休日労働をさせた場合でも、通常の残業と同様に法定割増率にもとづく賃金を支払う必要があります。例えば時間外労働であれば25%以上の割増賃金、法定休日労働であれば35%以上の割増賃金を支払う義務があります。
緊急対応だから残業代を支払わなくてよいと誤解する企業もありますが、それは誤りです。後述するように違法な未払いは労働者から請求を受けるリスクに加え、労基法違反として罰則の対象にもなります。
労働者の健康と安全に配慮する義務
労働者の健康と安全に配慮する義務も平常時と変わりません。むしろ非常時だからこそ従業員に過度の負担がかかりやすいため、一層の配慮が求められます。
厚生労働省は、災害時の長時間労働について「過重労働による健康障害を防止するため、時間外労働は月45時間以内とすることが重要」だと指摘しています。法律上、災害対応業務には時間外労働の月45時間・年360時間といった上限規制は適用されませんが、だからといって無制限に働かせて良いわけではないということです。
やむを得ず長時間に及んだ場合には、該当労働者に対し産業医や医師による面接指導を実施するなど、適切な健康管理上の措置を講じるよう行政から求められています。非常時の業務が一段落した後は、できるだけ早く十分な休憩や休養日を与え、心身の負担を回復させることが企業の責務と言えるでしょう。
行政への許可申請・届出を確実に行う
行政への許可申請・届出を確実に行うことが基本ルールとなります。これについては次章で詳しく解説しますが、労基法33条の適用には所轄労働基準監督署長の許可もしくは事後届出が法律上必須です。
この手続きを怠れば、どんな事情であれ違法な時間外労働となってしまいます。非常時で混乱している中でも、法定の手続きを踏むことを忘れないよう、人事労務担当者は平時から準備を整えておく必要があります。
労働基準法第33条|非常時における時間外労働の適用条件
労働基準法第33条は、緊急事態において労働時間の規制を一時的に緩和できる特例を定めた条文です。この規定は、主に民間企業の労働者を対象としていますが、条文では以下の2つの場面を想定しています。
- 非常災害等により臨時の必要が生じた場合(第1項)
- 公務のため臨時の必要がある場合(第3項)
それぞれ適用条件や手続きが若干異なるため、違いを押さえておきましょう。
一般的な非常災害時等の場合
一般的な非常災害時等の場合についてです。これは前述のとおり、「災害その他避けることのできない事由」により臨時の必要が生じた場合に、企業が労働者に時間外労働や休日労働を命じることができると定められています。
対象となるのは民間企業で働く労働者全般で、電気・ガス・水道などインフラ企業から製造業、サービス業に至るまで 業種を問わず 緊急事態であれば適用可能です。
たとえば、次のようなケースが該当します。
- 台風により電線が倒壊し、電力会社の社員が復旧作業に従事する場合
- IT企業でシステム障害が発生し、サービスの継続に向けて深夜まで対応が必要となる場合
これらは労基法33条第1項の定める「災害その他避けることのできない事由」による時間外労働であり、所轄労働基準監督署長の許可または事後届出を条件に認められるものです。
公務上の緊急事態の場合
公務上の緊急事態の場合とは、国家公務員や地方公務員に対して適用される特例です。労働基準法第33条第3項において、「公務のために臨時の必要がある場合」には、第1項の規定にかかわらず官公庁の事業に従事する公務員について残業・休日労働をさせることができる、と定められています。
この規定は、行政機関自体が緊急事態に対応するために公務員を長時間勤務させるケースを想定した規定です。
- 市役所職員が災害対策本部で深夜まで対応に従事する場合
- 保健所職員が感染症対応により臨時出勤を求められる場合
- 警察・消防に準じた公務員が緊急活動にあたる場合
公務員については、民間企業と異なり、労働基準監督署長の許可や届出の手続きは求められていません。所属する省庁や自治体など、所属機関の管理の下で法定時間を超える勤務が可能となります。そのため、公務員の場合は実質的に使用者である国や自治体自らが許可権者となるイメージです。
ただし、長時間労働になれば民間同様に法律や条例に基づいた健康確保措置や時間外手当の支払いは必要です。
公務上の緊急事態に関するこの規定は民間企業の人事担当者には直接関係ないように思えますが、災害対応では民間企業と行政機関が協力する場面もあります。その際、自社社員は第33条第1項、公務員は第3項と適用条項が異なることを理解しておくと、行政との連携時にもスムーズに対応できるでしょう。
労働基準法第33条|使用者が取るべき対応と手続き
非常災害などの緊急事態が発生し、労働基準法第33条の適用が必要と判断される場合、企業には迅速かつ適法な対応が求められます。ここでは、人事労務担当者が押さえておくべき手続きの流れを段階的に解説します。
1. 緊急対応の判断と社内指示
発生した事態が本当に第33条を適用できる緊急性を有するか判断します。人命の保護や重大な二次被害の防止など、待ったなしの状況であれば現場判断で必要な従業員に残業や休日出勤を指示します。
この際、可能であれば経営トップや人事責任者とも速やかに連絡を取り、会社として公式に「労基法33条による時間外労働を命ずる」判断をします。指示は口頭でも構いませんが、後日のために誰に何時から何時まで勤務させたか等記録を残しておくことが望ましいでしょう。
2. 労働基準監督署への許可申請(事前)
時間的猶予が少しでもある場合は、所轄の労働基準監督署に対し事前に許可を申請します。例えば翌日以降も復旧作業が長引くと予想される場合など、事前申請が可能なケースでは速やかに行いましょう。労働基準監督署への申請には所定の様式があります。
通常、「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書」(様式第6号)という書類に必要事項を記入し提出します。記入項目は、災害等の発生状況や作業内容、何名の労働者に何時間の残業・休日労働をさせたいか、といった具体的な計画です。申請にあたっては、可能であれば緊急事態を裏付ける資料(例えば被害状況のわかる写真や自治体からの要請文書など)があれば添付します。
労働基準監督署長は申請内容を審査し、妥当と認めれば許可を出します。許可が下りれば、その範囲内で法定時間を超える労働が可能となります。許可基準については厚労省から詳細が示されていますが、災害の状況や業種によりケースバイケースで判断され、許可される範囲も必要最小限となる点に留意してください。
3. 労働基準監督署への届出(事後)
事態が急迫していて事前の許可申請を行う余裕がない場合は、事後に遅滞なく届出を行います。法律上、「事後に遅滞なく」とは出来るだけ速やかにという意味ですので、対応にめどがついた段階で直ちに手続きを進めます。届出に用いる書類は「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働届」です。先述の事前申請書と様式は似ていますが、許可申請ではなく届出である点が異なります(記載事項は許可申請書と同様です)。
届出の場合も、可能であれば緊急事由を証明する資料を添付すると良いでしょう。提出後、労働基準監督署から特に許可の通知等はありませんが、必要に応じて状況の聞き取りや追加資料の提出を求められることがあります。
4. 労基署からの指示への対応
事後届出を行ったケースでは、労働基準監督署が内容を確認し「その残業や休日労働は不適当であった」と判断する場合があります。その場合、労基署長は企業に対し、その労働者に後日相当時間の休憩や休日を与えるよう命令することができます。これは労働基準法33条第2項の規定による措置で、緊急時とはいえ不必要または過剰な労働が行われたと認定された場合に下されます。
万一こうした命令を受けた場合は、速やかに該当労働者を休ませるなど従う必要があります。命令に違反すると罰則の対象ともなりますので(後述)、企業として真摯に受け止めましょう。
5. 事後報告と記録の保管
非常時対応が終わった後は、社内で今回の対応を振り返り報告書を作成します。誰が何時間働いたか、健康状態に問題はないか、行政への届出は適切に行われたか、といった点を確認します。作成した記録や労基署へ提出した書類の控えは、将来のために会社で保管しておきます。労働基準監督官から後日問い合わせがある可能性もありますし、万一労働者との間で残業代支払い等についてトラブルになった際の証拠にもなります。
緊急時の対応とはいえ、記録をしっかり残し書面を整備することが適正な労務管理には欠かせません。
以上が非常時に企業が取るべき対応と手続きの流れです。平時から非常災害時の対応マニュアルを整備し、人事担当者だけでなく現場管理職にも周知しておくことで、実際に緊急事態が発生した際も落ち着いて法令遵守の対応ができるようになります。
労働基準法第33条|労働基準監督署への届出と許可の要件
労働基準法33条の適用にあたり、労働基準監督署への届出または許可取得は法的な要件です。これを満たさなければ第33条の適用自体が認められず、単なる違法残業となってしまうため、手続きを怠らないよう注意しましょう。
許可申請または事後届出の基本的な要件は前述のとおりですが、ここではその重要ポイントを整理します。
所轄労働基準監督署長への申請・届出が必要
非常時の残業・休日労働については、会社の所在地を管轄する労働基準監督署長が許認可権者です。36協定の場合は協定締結後に労基署へ届け出るだけですが、第33条の場合は労基署長の許可(または事後承認に近い届出)が直接必要となります。したがって、緊急時にはまず自社の管轄労基署がどこかを把握し、連絡先もすぐ分かるようにしておくことが大切です。
昨今は電子申請も整備されており、厚労省の電子申請システムからオンラインで届出を送信することも可能です(停電時などは難しいですが)。
緊急事由と臨時の必要性があること
労基署に提出する申請書・届出書には、残業・休日労働を命じた理由を詳細に記載する欄があります。そこで「災害その他避けることのできない事由」に該当する具体的状況と「臨時の必要」がある理由をきちんと説明できなければなりません。
労基署はその記載内容や提出された資料をもとに、形式的にではなく実質的に緊急性を判断します。厚生労働省は第33条適用の許可基準としていくつかの典型例を示していますが、最終的にはケースバイケースで個別具体的に判断されるとしています。そのため、「なぜそれが避けられない緊急事態なのか」「どのくらいの時間が本当に必要なのか」を第三者にも理解できるように説明することが重要です。
労働時間は「必要最小限」にとどめる
許可申請書には残業や休日労働をさせる見込み時間も記載します。当然ながら「無制限」「できるだけ長く」などと書くことはできず、必要最小限の見通し時間を記載する必要があります。労基署もその時間が妥当か審査しますので、仮に復旧作業に1週間フル稼働が必要でも、労働者が交代で休める体制を組むなどして一人あたりの労働時間を極力抑える計画とすることが望ましいです。
例えば「3日間で○時間程度の残業」など具体的に示し、労働者の負担が過重になりすぎないように計画します。必要限度を明確にしていないと許可が下りない可能性がありますし、事後届出の場合でも後から不適当と判断されるリスクがあります。
事後届出は「遅滞なく」行う
事後届出の場合、「遅滞なく」とは一般にはおおむね事態収拾後ただちに、遅くとも数日以内には行うことが求められます。例えば深夜に緊急作業が完了したなら翌営業日には届出を提出する、といったスピード感です。万一届出を失念して時間が経ってしまうと、「届出をしなかった」すなわち労基法違反とみなされるおそれがあります。届け出の遅れが違反と判断される明確な基準はありませんが、少なくとも故意に届出を怠ったと受け取られないよう迅速な対応を心掛けてください。
以上の要件を満たしていれば、非常時における残業・休日労働は労働基準法第33条の下で適法に行うことができます。要件を満たさない場合、たとえ災害対応であっても違法な長時間労働と判断されかねません。特に届出や許可といった行政手続きは企業側の責任で確実に実施すべき事項です。
労働基準法第36条(36協定)との違い
人事労務担当者にとって、日常的に問題となる時間外労働は主に労働基準法第36条(いわゆる36協定)に基づくものです。第33条と第36条の違いを正しく理解しておくことで、非常時と平常時の対応を混同せず適切に管理できます。
手続きと主体の違い
第36条は労使間の協定(過半数労組または労働者代表と使用者との書面協定)を結び、行政へ届け出ることで法定労働時間を超える残業や休日労働を可能にする規定です。一方、第33条は協定ではなく法律の直接の定めによって時間外労働を認めるものであり、労使協定は不要です。その代わり行政官庁(労基署長)の許可または届出が必要となります。
つまり、36協定は事前に労働者側と締結するもの、第33条は事前または事後に行政への手続きを行うものと大きく異なります。
適用場面の違い
36協定は日常的な残業や繁忙期対応など計画し得る時間外労働に適用されます。会社は年間を通じて必要な残業枠を見込み、労働組合または労働者代表と協議して協定を結びます。これに対し33条は前述のように想定外の緊急事態に限り適用されます。災害対応などは事前に協定で取り決めておくことが困難なため、法律で直接例外措置を設けているのです。
言い換えれば、第33条は「緊急避難的」性格を持つ規定であり、常態的に使われることを想定していません。36協定でカバーできる残業は極力36協定で賄い、第33条は本当に必要な時だけ使う、という住み分けが求められます。
残業時間の上限の違い
36協定には法定の上限規制があります。原則として残業は月45時間・年360時間までに制限され、特別条項付き協定でも単月100時間未満や年720時間以内等の上限が定められています(いわゆる働き方改革関連法による上限規制)。一方、第33条による残業・休日労働には明確な時間数の上限規定はありません。法律上「必要な限度で」としか書かれていないため、例えば月に何時間までとは定められていないのです。ただし前述のとおり、行政通達により健康確保の観点から 45時間以内を目安にするよう指導 が入っており、事実上は無制限には認められないと考えるべきです。要は第33条は上限規制の例外ではありますが、「青天井に働かせて良い」という意味ではないことに注意が必要です。
頻度や乱用防止の違い
36協定に基づく残業は日常的に発生し得ますが、第33条の行使は極めて稀であることが前提です。もし第33条の適用が頻繁に必要になるようであれば、それは平時の業務計画に問題がある可能性があります。たとえば設備故障対応が度重なるなら設備保全計画を見直す、災害対応が常態化しているなら人員体制やBCP(事業継続計画)を強化する、といった対応が求められるでしょう。
行政も第33条について「厳格に運用すべきもの」と繰り返し強調しています。36協定は使用者にとってある程度自由度のある残業枠ですが、第33条は使うこと自体が例外的措置であり乱用厳禁である点を肝に銘じましょう。
労働基準法第33条|違反時の罰則とリスク
労働基準法33条に関する手続きを怠ったり、適用条件を満たさない残業・休日労働を行わせたりした場合、企業や責任者には法的な罰則が科される可能性があります。また、罰則にとどまらない様々なリスクが存在しますので確認しておきましょう。
法定手続き違反に対する罰則
労働基準法第120条第1項は、第33条第1項但し書きに違反した場合の罰則として「30万円以下の罰金」を定めています。具体的には、緊急残業をさせたにもかかわらず所定の許可申請や事後届出をしなかった場合などがこれに該当します。
届出をし忘れた、あるいは意図的に届け出なかったような場合には、この罰金刑が科される可能性があります。さらに悪質なケース、例えば緊急でもないのに第33条を装って残業を強行したような場合には、労働基準法第32条違反(法定労働時間超過)の罪にも問われ得ます。
その場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金というより重い罰則適用もありえます。実際、「36協定もなく労基署への届出もないまま違法に時間外労働を行わせた」と認定されれば、労働基準法違反として刑事処分の対象となり、会社と管理責任者が送検・起訴されるケースもあります。人事担当者は、「緊急だったから仕方ない」で済まされず必ず何らかの罰則規定に抵触することを念頭に、法定手続きを順守しなければなりません。
労働者からの補償請求リスク
罰則とは別に、違法な長時間労働をさせた場合には労働者から損害賠償請求等の民事上のリスクも発生し得ます。例えば残業代を適切に支払っていなかった場合、後になって未払い残業代の請求を受けるでしょう。労働基準法第37条では、違法な残業であっても割増賃金の支払い義務があることが明示されています。
たとえ会社が「第33条の要件を満たしていなかったので違法だった」と主張しても、働いた分の賃金を払わなくてよい理由にはなりません。むしろ違法残業であれば割増賃金の未払いとして付加金(同額のペナルティ賃金)の支払い命令を受ける可能性もあります。
また、過重労働によって労働者が体調を崩したり、最悪の場合過労死・労災事故につながったりすれば、企業に安全配慮義務違反として損害賠償責任が問われる事態にもなりかねません。緊急時であっても企業には労働者の命と健康を守る責任があることを忘れてはならず、その責任を果たせなかった場合の代償は非常に大きいと言えます。
行政指導・社会的信用の低下
労働基準法33条の運用を誤り労基署から是正指導を受けたり、罰則適用にまで至ったりすれば、行政指導の記録として残ります。悪質なケースでは企業名が公表されたり、厚生労働省の労働基準関係法令違反事案公表リスト等に掲載されたりすることもあります。
それにより社会的信用が低下し、取引先からの信頼を損なったり優秀な人材の採用に支障をきたしたりといった 経営リスク に波及しかねません。特に災害時の対応は社会から注目されやすく、労働者保護より事業優先で違法な長時間労働をさせていたとなれば、マスコミに報じられ企業イメージが大きく損なわれる可能性もあります。
労働基準法第33条の実務への活かし方
本記事で述べてきたように、労働基準法第33条は企業が非常時に労働時間の柔軟な運用を行うための重要な規定です。しかし、その適用には厳格な条件と手続きが伴います。人事労務担当者は平常時から非常時に備えて以下のような対応策を整えておくと良いでしょう。
BCP(事業継続計画)に労務対応を組み込む
まず、自社の事業特性を踏まえてどのような緊急事態が起こり得るかを洗い出し、労務管理面の対応をBCPに組み込んでおきます。例えば、地震で本社が被災した場合の従業員の勤務体制や、ライフライン復旧要請を受けた際の増員計画などをシミュレーションします。BCPの中に「労働基準法33条に基づく非常時労働対応フロー」を明記し、発動の判断基準や社内承認フロー、労基署への連絡方法などを書面化しておくと、実際の災害時にも混乱を減らせます。
36協定と就業規則の整備
平常時の時間外労働については適切な36協定を締結し、法定範囲内で運用することが基本です。36協定でカバーできる部分をきちんと網羅しておけば、非常時に第33条を使わずとも対処できるケースもあります(例えば多少のトラブルでの臨時残業程度なら36協定内で対応可能)。
また、就業規則や労働契約書に「非常災害時等やむを得ない場合には時間外・休日労働を命じることがある」旨の規定を設け、労働者に周知しておくことも有用です。いざという時労働者に突然残業や休日出勤をお願いする際、規則上明記があれば協力を得やすくトラブル防止につながります。
緊急連絡体制と書類準備の整備
災害等が発生した際、誰が人員招集や労基署対応を指揮するのかを決めておきましょう。人事責任者だけでなく現場の管理職にも緊急連絡網を配備し、非常時にすぐ連絡が取れるようにします。特定の担当者が不在でも対応できるよう、代替要員も決めておくと安心です。また、管轄労基署の緊急連絡先や所在地もリスト化し、申請書類のひな型(会社名や所在地などあらかじめ記入済みのもの)を用意しておくと届出業務がスムーズになります。
昨今はオンラインで様式をダウンロードできるので、社内共有フォルダ等に格納しておくと良いでしょう。
従業員への周知とシミュレーション訓練
非常時対応は人事部門や管理職だけでなく、実際に現場で働く従業員の協力も不可欠です。日頃から「会社として災害時には安全確保のうえで必要に応じ残業や休日出勤をお願いする場合がある」こと、それに対して「割増賃金の支払いはもちろん、極力速やかに休養させ健康に配慮する」ことなどを説明しておきます。
年に一度は防災訓練と合わせて緊急時勤務のシミュレーション訓練を行い、従業員に自覚を持ってもらうのも有効です。非常時に備えた会社と従業員の信頼関係構築が、いざという時迅速な対応と円滑な協力体制を生みます。
労働基準法第33条を実務に活かすには、日頃からの備えが最も重要です。制度の正しい理解はもちろん、就業規則やBCPへの反映、社内フローの明文化、従業員との信頼関係の構築まで含めた総合的な準備が、非常時の迅速で適法な対応を支えます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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