• 更新日 : 2025年3月31日

労働基準法第41条とは?適用除外・管理監督者などわかりやすく解説

労働基準法第41条は、一定の要件を満たす労働者について労働時間や休憩、休日に関する規定を適用しない、いわゆる「適用除外」について定めた条文です。

労働時間制度の運用に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士といった労務の専門家に相談することも有効です。就業規則の見直しや適用除外の判断基準について助言を受けることで、思わぬ落とし穴を事前に防ぐことができます。労働法は改正も多いため、最新情報のアップデートも兼ねて専門家のチェックを受けると安心です。

当記事では、労働基準法第41条についてわかりやすく解説します。

労働基準法第41条とは?適用除外となる条件

労働基準法第41条は、一定の要件を満たす労働者について労働時間や休憩、休日に関する規定を適用しない、いわゆる「適用除外」について定めた条文です。

この条文が適用される労働者には、法定労働時間の上限(1日8時間・週40時間)や休憩時間、法定休日のルールが適用されず、法律上は時間外労働や休日労働の制限から外れることになります。

なぜこのような規定があるかというと、該当する労働者の職種や役職においては、労働時間の厳密な管理が実態にそぐわないケースが多いためです。

例えば、経営判断に関わる立場にある管理職や、自然条件に左右される農業従事者では、一般の労働者と同じような一律の労働時間規制を当てはめるのが難しいと考えられています。

適用除外となる3つの労働者の種類

第41条で適用除外となる労働者の種類は、法律上次の3つに大別されています。

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  1. 農業・畜産業・養蚕業・水産業の従事者(※林業を除く)
    自然条件や季節変動の影響を受けやすく、労働時間の一律な管理がなじまないことから、労働時間規制の適用除外とされています。
  2. 監督または管理の地位にある者、および機密の事務を取り扱う者
    事業の種類を問わず「管理監督者」や「機密事務取扱者」に該当する者で、労働条件の決定や経営上の重要業務に関与する立場にあるため、通常の労働時間管理から除外されます。
  3. 監視または断続的労働に従事する者(行政官庁の許可が必要)
    業務の性質上、継続的な労働とは言いがたい勤務形態(例:夜間の施設警備や間欠的な作業)に該当する場合、労働基準監督署長の許可を受けることで適用除外となります。

以上のような労働者について、労働基準法第41条は労働時間・休憩・休日の規定を適用しない旨を定めています。これが「適用除外」と呼ばれるものです。

第41条の趣旨は、労働実態に応じて労働時間規制を柔軟に運用する点にあります。例えば経営者と一体的な立場で働く管理職や、天候で左右される漁業従事者などは、その実態に合わせて労働時間の規制から除外し、自主性や裁量に委ねる必要があるためです。

ただし、適用除外だからといって労働基準法のあらゆる規定が適用されなくなるわけではありません。あくまで労働時間・休憩・休日に関する規定が除外されるのみであり、労働条件の最低基準や安全配慮義務、最低賃金など他の保護規定は依然として適用されます。

また、第41条該当者であっても労働者であることに変わりはないため、「適用除外だから何時間働かせても良い」というものではありません。健康を害するような長時間労働をさせれば、使用者は安全配慮義務違反などの責任を問われ得ます。この点は企業側も誤解しないよう注意が必要です。

労働時間規制の適用除外になるとどう変わるのか

適用除外となった場合、働き方や労働条件の一部が法律上の制限から外れ、通常の労働者とは異なる取り扱いになります。

労働時間

法定労働時間の制限から除外されます。したがって、36協定なしでも法定時間を超えて労働させることが可能です。極端に言えば1日12時間働かせても労基法上は違反ではなくなります。ただし労働安全衛生法上は後述のように適切な健康管理が必要です。

休憩時間

労基法で定められた休憩を与える義務は適用されません。勤務時間中に必ずしも休憩を取らせなくてもすぐに労基法違反にはならなくなります。ただし、過度の連続勤務は労働者の健康に悪影響を及ぼすおそれがあるため、社内規程などで休憩を設けることが望ましいです。

休日

少なくとも週1日の休日を付与する義務(法定休日の確保)は適用されません。つまり、理論上は法定休日なしで連続勤務させることも可能です。ただし、労務管理の観点からは慎重な対応が求められます。

以上の点が「適用除外」となる事項です。一方で、第41条の適用除外になっても、なお適用される規定もあります。

適用除外でも守るべき規定

割増賃金(深夜手当)

その代表例が深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)です。

実は労働基準法第41条には深夜労働の規定が含まれておらず、除外の対象にはなっていません。そのため、管理監督者など第41条の対象者であっても、22時〜翌5時の深夜労働については25%の割増賃金を支払う必要があります。

つまり「管理職でも深夜手当は必要」という点には十分な注意が必要です。(※後述の「高度プロフェッショナル制度」では深夜手当も含め除外されています)。

年次有給休暇の付与

年次有給休暇の付与義務は、適用除外に含まれておらず、該当する労働者にも必ず付与する必要があります。

このように、第41条の適用除外は労働時間など一部の規定が対象となる特例であり、労働者に対する保護がすべて除かれるわけではありません。

労働時間関連の一部規定を外す特例ですが、労働者保護の全てが失われるわけではありません。企業としては適用除外の範囲を正しく理解し、誤解のないように運用することが求められます。

労働基準法第41条|適用除外の「管理監督者」とは

労働基準法第41条第2号に定める「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者」とは、一般に「管理監督者」と呼ばれます。

この「管理監督者」とは、会社における管理職のうち、労働条件の決定やその他労務管理について、経営者と一体となって責任を担う立場にある人を指す法的な概念です。

例として部長や工場長といった役職者が想定されますが、役職名だけで判断するのではなく、その人が実際に経営側の視点でどれだけ権限や責任を持っているかという「実態」に基づいて判断されます。

管理監督者と認められるための判断基準は、行政解釈や裁判例を総合すると次のように整理できます。

1.経営への関与や労務管理上の権限があること

企業の経営に関する重要な決定に関わっているか、または部下の人事や労務管理について指揮命令できる立場にあることが求められます。役職名や肩書に関係なく、実際に予算策定や人員配置など、経営上の判断に関与できる立場かどうかが重視されます。

2.勤務時間に裁量があること

出勤・退勤の時刻を自分で決められるなど、労働時間の管理についてある程度自由である必要があります。出社・退社や休憩のタイミングについて、一般社員のような厳格な管理を受けていないかがポイントです。例えば出退勤がタイムカードで管理されていたり、遅刻早退によって減給されるような場合は、裁量がないとみなされ、管理監督者には該当しない可能性があります。

3.待遇面(賃金)での優遇があること

役職手当や賞与などを含め、一般社員と比べて明らかに高い賃金が支給されている必要があります。管理職手当などが時間外手当の免除に見合うだけの手当が支給されていることや、年間収入が一般社員より相当高額であることなどが目安となります。反対に、長時間働いた結果、時給換算でアルバイトより低くなるような場合は、管理監督者とは認められません。

以上の要素を総合的に判断して、その労働者が「経営者と一体的な立場」と言えるかどうかが決まります。

厚生労働省も「管理監督者の範囲の適正化」のパンフレットで「肩書や職位ではなく実態で判断すべき」と強調しています。つまり、課長や店長といった役職名だけでは不十分で、仕事内容・責任権限・勤務実態を見て適用除外に値するかが問われるのです。

例えば、ある企業で「店長」という肩書であっても、実際の業務が他のスタッフとほとんど変わらず、自分の裁量で動ける範囲も小さく、給与も一般社員と大差ないような場合は、労基法上の管理監督者には該当しません。このように実態が伴わない管理職は俗に「名ばかり管理職」と呼ばれ、後述するように残業代請求など労使トラブルの原因となります。

最近の判例が示す「管理監督者」の認定基準

管理監督者に該当するかどうかについては、これまで多くの裁判例で判断基準が示されており、近年もその判断基準が確認・強調されています。直近では、令和6年(2024年)3月14日 大阪地裁による判決です。この判決では、従来の基準を踏まえつつ、以下の点が特に重視されています。

実質的な権限を持っているか

単に「店長」「課長」などの役職名があるだけでなく、人事評価や予算編成など実際に経営に深く関与できる権限を持っているか。形式上の地位ではなく、その人がどれだけ会社運営に影響力を持っている実態があるかどうかが判断材料となります。

労働時間に対する裁量があるか

出退勤の時間や働く場所をどの程度自分で決められるか。また、上司の指示がなくても自律的に働けているか、自由度の高い働き方と言えるかがチェックされています。

報酬が職務に見合っているか

一般従業員と比較して十分に高い報酬が支払われているか。基本給や手当を含め、そのポジションに相応しい待遇かどうかが改めて強調されています。

これらの基準は、これまでも管理監督者性を判断するうえで重視されてきた要素とおおむね一致しています。今回の判決では「名実ともに経営層に準じた待遇・権限であること」が重要であると明確に示されました。

実際、この大阪地裁の事案でも、名ばかり管理職と見なされる要素があった場合には、管理監督者としては認められないという判断が下されています。

管理監督者と認められる判例はごくわずか

「管理監督者性を認めた判例は極めて少ない」というのが実務の傾向です。例えば有名な日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年判決)では、店長職の社員について会社は管理監督者だと主張しましたが、裁判所は先述のような観点から実態を検討し「店長=管理監督者とはいえない」と判断しました。

その結果、会社に対し未払い残業代と未払い休日割増賃金あわせて500万円超の支払いが命じられています。

このように近年の判例も含め、管理監督者と認められるハードルは非常に高いのが現状です。裁判所は形だけの管理職を許容しない姿勢を一貫して示しており、よほど明確に経営側の立場・待遇が与えられている場合でなければ適用除外は認められません。

企業としては、判例が示す厳格な基準を踏まえて管理監督者の範囲を慎重に判断する必要があります。

労働基準法第41条|適用除外の監視労働従事者・断続的労働従事者とは

管理監督者以外にも、労働基準法第41条が適用除外としている監視労働従事者および断続的労働従事者について解説します。

労働基準法第41条第3号では、「監視または断続的な労働に従事する者」で所轄労働基準監督署長の許可を受けた労働者が労働時間等の規制の適用除外となると定めています。では「監視労働」や「断続的労働」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。

監視労働

主たる業務が一定の部署での見張り・監視であり、通常は身体的・精神的な緊張や負担が少ない業務を指します。典型例としては門番・守衛、踏切番(踏切の監視員)などが挙げられます。立法当時想定されたのは工場の守衛や施設の門番で、長時間にわたり大きな負荷なく監視する業務です。

ただし、監視業務であっても著しく高度な注意や緊張を要する場合(例:犯罪者の看視、交通誘導員など)は除外の対象になりません。危険を伴う警備業務や、高度な判断を要する監視は「身体・精神的に緊張する業務」とされ、第41条の適用除外にはならない点に注意が必要です。

断続的労働

業務が連続して発生するのではなく、間隔をおいて断続的に業務が発生する働き方を指します。平たく言えば、「待ち時間が長く、手待ちの合間に短時間の作業を行う」ような職種です。例として学校の用務員(学校管理人)や社長専属運転手、マンション・団地の管理人などが典型です。これらの職種は一日の中で業務が発生したりしなかったりの波があり、常に働き続けるわけではありません。

そのため労働時間を厳密に区切るよりも柔軟に対応させる必要があるとして、第41条の適用除外対象となり得ます。

監視・断続的労働いずれの場合も、事前に所轄労働基準監督署長の許可を得ることが必要です。会社が単独で「この従業員は監視業務だから残業代なし」と決めても、それだけでは適用除外にはなりません。必ず行政官庁の許可というプロセスを踏むことが法律上要求されています。

許可を得た場合、これら監視・断続的労働従事者は労働時間や休憩・休日の規制が除外されます。ただし、適用除外の趣旨は「緩やかな労働だから規制しない」という点にありますので、実態が監視・断続的と言えないような業務を行わせた場合は違法となります。企業は該当する業務内容かどうかを慎重に見極め、許可申請時にも詳細な勤務形態を届ける必要があります。

管理監督者と高度プロフェッショナル制度との違い

2019年の働き方改革関連法の施行により、新たに高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」)が労働基準法第41条の2として創設されました。この制度も労働時間規制等の適用除外に関するものですが、第41条が職務の性質や地位による適用除外なのに対し、高プロ制度は高度専門的な業務に従事し高収入である労働者を対象としています。

高度プロフェッショナル制度の主なポイントと、第41条適用除外(管理監督者など)との違いは以下のとおりです。

対象労働者の範囲

高プロの対象は、省令で定める高度専門職のうち成果と労働時間の関連性が低いと認められる業務(金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務の5業務)に就き、かつ年収1,075万円以上の労働者に限られます。

一方、管理監督者は業種を問わず経営に携わる地位であれば年収要件などはありません(ただし前述の通り事実上高い処遇が必要)。つまり高プロは「職種・収入による限定付きの適用除外」という違いがあります。

適用の手続き

高プロ制度を適用するには本人の同意が必須であり、会社が一方的に適用することはできません。さらに労使委員会での決議(対象業務や健康確保措置など法定の10項目について決議)を行い、労基署に届け出る必要があります。

これら煩雑な手続きを経て初めて適用できます。対して管理監督者は法律上は特段の届け出は不要で、該当する役職に就ければ即適用除外となります(もっとも後から争いにならないよう就業規則等に管理監督者の範囲を定めておくことは有益です)。

適用されなくなる規定の範囲

管理監督者(第41条2号)は労働時間・休憩・休日の規定が除外されますが、深夜業の割増賃金規定は適用されます。

高プロ(第41条の2)は労働時間・休憩・休日に加えて深夜割増賃金の規定も適用除外となります。つまり高プロ対象者には深夜労働手当も支払わなくてよく、まさに「残業代ゼロ」の働き方になります。この点が両者の大きな違いです。

健康維持のために必要な措置

高プロでは労働時間の上限規制がない代わりに、年間104日以上かつ4週4日以上の休日確保や、2週間連続の休日取得促進、在社時間の上限設定、定期健康診断の実施など、法律で定められた健康・福祉確保措置を講じる義務があります。

企業は対象労働者の「健康管理時間」(労働者が自発的に労働した時間も含めた把握時間)を記録し、長時間労働による健康障害を防止しなければなりません。管理監督者についてはここまで具体的な健康措置義務は直接規定されていませんが、前述のように一般的な安全配慮義務の下で過重労働を避ける必要があります。

まとめると、高度プロフェッショナル制度は「高収入専門職に限り労働時間規制を外す代わりに、企業に厳格な手続きと健康確保義務を課す」制度です。

一方、第41条での従来の適用除外(管理監督者・監視労働等)は手続き不要で適用できる代わりに、誰もが該当するわけではなく厳密な要件を満たす場合に限られます。高プロ制度導入後も、第41条による管理監督者制度等は存置されていますので、企業は自社のどのポジションにどの制度を適用するか慎重に判断する必要があります。

なお、高プロ制度そのものの是非については施行前後から議論がありました。労働界(労働組合側)は「残業代ゼロ法案」とも呼ばれる高プロ制度に対し、過労死の増加などを懸念し強く反対してきました。一方、経済界は柔軟で成果重視の働き方として期待を寄せています。現状では年収要件が高いため適用される労働者はごく一部に留まっていますが、将来的に対象範囲を拡大するかどうかについては引き続き議論が続く可能性があります。

企業が適用除外を誤るとどうなる?

では、実際に企業が労働基準法第41条の適用除外の判断を誤ってしまった場合、どのような事態になるのでしょうか。前項と重なる部分もありますが、具体的な影響を整理します。

未払い残業代・手当の発生

適用除外と扱っていた労働者が実は適用除外ではなかった場合、本来支払うべきだった時間外割増賃金や休日割増賃金が未払いとなっている状態です。

労働者から請求があれば、企業は未払い残業代の全額を支払わねばなりません。先述のマクドナルド店長の例では500万円超の支払い命令となりましたが、これは企業にとって想定外のコストとなります。複数の社員から同様の請求を受ければ、支払い額はさらに膨らみます。

労働基準監督署からの是正指導・罰則

労基署に名ばかり管理職の実態を把握された場合、是正勧告や指導票が交付され、未払い賃金の支払い是正を求められます。それでも改善しない悪質なケースでは書類送検され、前述のように6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性もあります。罰則自体は金額的に大きくなくとも、刑事処分を受けた事実は企業にとって大きな汚点です。

社内体制の見直しコスト

誤った適用除外運用を是正するために、人件費計算や就業規則の修正、管理職層の処遇変更など大掛かりな対応が必要になります。

今まで残業代を払っていなかった管理職全員に残業代を支払うよう制度変更すれば、人件費予算の見直しを迫られます。さらに過去分の清算に応じるとなれば、一時的な特別支出も発生します。これらは経営計画に影響を及ぼしかねません。

信頼の喪失や人材の流出

適用除外を誤った結果、従業員から見れば「会社に騙されて長時間働かされていた」と受け止められます。これにより社内士気が下がったり、有能な人材が離職する恐れがあります。また、外部にもブラック企業との評判が立てば新規採用にも悪影響です。適用除外の誤用は労務トラブルとして報道されるリスクもあり、企業ブランドの毀損に繋がります。

監視・断続的労働の許可違反

監視または断続的労働の従業員を許可なく適用除外扱いしていた場合も違法です。この場合も未払い残業代の精算と是正が必要になるだけでなく、許可を得ていなかったこと自体が労基法違反となります。労基署から許可制の趣旨を厳しく指導されるでしょう。

高プロ制度の誤適用

高度プロフェッショナル制度についても誤った運用には注意が必要です。「あなたは高プロだから残業代なし」と会社が一方的に告知しているケースがありますが、労使委員会の決議や本人同意を経ていない場合、高プロ適用は無効であり結局残業代を支払う羽目になります。高プロは手続き要件が厳しいので、そこを怠ると違法になります。

以上のように、適用除外の誤適用は法的・金銭的ペナルティと企業経営へのダメージを招きます。特に管理監督者か否かの判断ミスは頻発しているので、企業側は細心の注意を払わねばなりません。

実務上、「管理職=労基法上の管理監督者」という先入観は禁物です。役職に応じた待遇や権限を与えているかを常に点検し、少しでも疑義があれば残業代を支払うなど安全側に倒す方が無難でしょう。

労働基準法第41条の最新動向と改正ポイント

労働基準法第41条周辺で直近の大きな改正といえば、先述した高度プロフェッショナル制度(労基法第41条の2)の新設です。2019年の働き方改革関連法施行による労働基準法改正で導入されたこの制度は、時間ではなく成果で評価する働き方を推進する目的で創られました。

高プロ制度により、特定の高収入専門職については労働時間や残業代の制限を撤廃しつつ、企業に健康確保措置を義務づけるという新たな枠組みがスタートしました。これは第41条の適用除外の範囲を事実上拡張するものでもあり、日本の労働時間法制にとって大きな転換点となっています。

一方、管理監督者制度そのものに大きな法改正は近年行われていません。労働基準法第41条第2号の条文自体(管理監督者・機密事務取扱者の適用除外規定)は従来どおりです。ただし、社会的な動向として「名ばかり管理職」問題への関心が高まり、行政や裁判所がその適正化に力を入れるようになりました。

厚生労働省が発行した『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』というパンフレットはその一例で、広く取られがちな管理監督者の範囲を正しく理解させる啓発資料となっています。これは、企業が適用除外を乱用しないよう注意喚起する意味合いがあり、労基署による立ち入り調査でも管理監督者の実態がチェックされるケースが増えています。

労働基準法第41条|企業がとるべき対応策

労働基準法第41条の適用除外を正しく運用し、リスクを回避するために、企業が講じるべき対応策をまとめます。

管理監督者の要件を満たす人のみ適用除外とする

肩書だけで一律に管理職を適用除外にしないようにしましょう。先述の要件(権限・裁量・待遇)を満たすかどうか、管理職一人ひとりについて精査します。実態が基準に達しない場合は残業代や休日手当を支給するなど、適用除外の範囲を乱用しないことが肝心です。特に若手の課長職や店舗責任者など、判断が微妙な場合は安易に適用除外にせず、時間管理の対象とした方が安全でしょう。

また、一般的に管理監督者の数は全従業員のうちごく一部に留まるはずです。管理監督者比率が高すぎる職場は要注意で、社内で10%以上の社員を管理監督者扱いにしているような場合は見直しを検討してください。

就業規則等に管理監督者の範囲・待遇を明記する

誰が管理監督者に該当するのか、その待遇(役職手当額など)はどう定めるかを就業規則や賃金規程に明文化しておきましょう。例えば「課長以上の役職者で、○○手当を支給された者は管理監督者とする」等です。

あわせて管理監督者には遅刻早退時の賃金カットを行わないこと、深夜手当のみ支給対象とすることなど運用ルールも定めておくと良いでしょう。これにより社内の誰もが基準を共有でき、トラブル時にも会社の方針を示しやすくなります。

管理監督者にも適正な報酬を支払う

管理監督者と位置付ける以上、その責任に見合った十分な給与・手当を支給してください。もし一般社員と大差ない報酬で長時間労働だけ強いていれば、それは名ばかり管理職の典型です。同一労働同一賃金の観点からも、不当に低い処遇は是正しましょう。

役職手当を増額する、人事考課で管理職には特別加点するなど、待遇面での差別化が必要です。待遇改善は労使トラブル予防だけでなく、管理職のモチベーション向上にも寄与します。

全労働者の労働時間を把握・管理する

たとえ適用除外の管理監督者であっても、労働時間の客観的把握は全員について実施しましょう。2019年の法改正で、使用者は原則すべての労働者の労働時間を適切に把握する義務があります。タイムカードやICカード記録、PCのログイン時間などを用いて、管理職であっても働いた時間を記録・管理してください。

これは健康管理や過重労働の予防に不可欠ですし、万が一訴訟になった場合の証拠ともなります。時間管理を放棄せず、「管理職だからノーチェック」は厳禁です。

高度プロフェッショナル制度は手順を守る

高プロ制度を導入する場合は、法律の定めるプロセスを厳格に守りましょう。労使委員会の設置・決議(対象者の範囲や健康措置等10項目)を行い、対象労働者一人ひとりから書面で同意を取得し、所轄労基署に届出をします。

同意しない労働者に強制適用はできません。また、導入後も健康管理時間の把握や年104日休日確保などの義務を確実に実行してください。高プロは要件不備だと無効になり、未払い残業代問題に直結しますので細心の注意が必要です。


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