- 更新日 : 2025年11月5日
遅刻早退控除とは?計算方法や違法にならないための注意点を徹底解説
従業員が遅刻や早退をした場合、遅刻早退控除という給与計算が発生します。計算方法やルールの認識を誤ると、意図せず違法な賃金カットとなり、深刻な労務トラブルに発展する可能性があります。特に誤解されやすい減給の制裁との違いや違法となるリスクなど、人事・労務担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本記事では、遅刻早退控除の法的な根拠から、多様な雇用形態に対応した具体的な計算方法、トラブルを未然に防ぐための就業規則の文言例まで、実務で直面するあらゆる疑問に回答します。
目次
遅刻早退控除とは?
遅刻早退控除とは、従業員が遅刻・早退によって実際に労働しなかった時間分の給与を、所定の給与から差し引くことです。これは懲戒処分ではなく、労働契約の基本原則である「ノーワーク・ノーペイの原則(働かなかった分は支払わない)」に基づく純粋な給与計算上の処理です。
企業によっては「欠勤控除」や「勤怠控除」とも呼ばれます。重要なのは、実際に働いた時間以上の控除は違法となる点です。そのため、労働時間に応じた正確な勤怠管理と、労働基準法に基づいた適切な給与計算が不可欠となります。
遅刻早退控除と減給の制裁の違い
遅刻早退控除と明確に区別すべきなのが、懲戒処分として行う「減給の制裁」です。これは、遅刻・早退を繰り返すといった規律違反に対するペナルティであり、ノーワーク・ノーペイの原則とは異なります。
| 項目 | 遅刻早退控除 | 減給の制裁(懲戒処分) |
|---|---|---|
| 根拠 | ノーワーク・ノーペイの原則 | 就業規則上の懲戒規定 |
| 目的 | 働かなかった時間分の給与調整 | 規律違反に対するペナルティ |
| 金額 | 実際に働かなかった時間分のみ | 労働基準法第91条で定められた上限額の範囲内 |
| 具体例 | 30分遅刻したので30分分の賃金を控除する | 遅刻を繰り返した罰として給与から5,000円減額する |
減給の制裁を行うには、就業規則にその旨を定めた上で、労働基準法第91条で定められた上限額(1回の額が平均賃金1日分の半額、総額が一賃金支払期の10分の1)を遵守しなければなりません。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上限を超えた減給は違法です。遅刻した時間分を超えて罰金として給与を差し引くことは、減給の制裁に該当し、法律の厳しい規制を受けることを理解しておく必要があります。
遅刻早退控除の法的根拠は?
遅刻早退控除は、主にノーワーク・ノーペイの原則と、それを支える民法の条文、そして厚生労働省のモデル就業規則の考え方に基づいています。
ノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイの原則とは、労働者が実際に労働を提供した時間に対してのみ、企業は賃金を支払う義務を負うという、給与計算の基本原則です。この原則があるからこそ、企業は遅刻、早退、欠勤などで従業員が労働しなかった時間分の賃金を控除できます。たとえば、始業時間が9時の企業において、10時に出社したら1時間の遅刻となり、その時間分は労働が提供されなかったとして控除の対象となります。
ノーワーク・ノーペイの原則は、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。
民法の条文
ノーワーク・ノーペイの原則は、民法第623条と第624条の条文が根拠となっています。
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
これらの条文は、労働の提供と賃金の支払いが対価関係にあることを示しており、労働が提供されなかった時間について賃金請求権が発生しないことの法的根拠となります。
厚生労働省のモデル就業規則
厚生労働省が公開しているモデル就業規則にも、遅刻・早退に関する規定があります。
(欠勤等の扱い)
第45条 欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。
このように、国のモデル規則においても、労働しなかった時間分の賃金を支払わない旨を定めることが一般的であることが示されており、控除の正当性を裏付けています。
遅刻早退控除の正しい計算方法は?
ここでは、遅刻早退控除の基本的な計算式から、雇用形態別の複雑なケースまで詳しく解説します。
遅刻早退控除の基本的な計算式
遅刻早退控除額は、以下の計算式で算出するのが一般的です。
- 月の給与額
基本給のほか、どの手当を計算に含めるかを就業規則で定めます。役職手当や資格手当など、毎月固定で支払われる手当は含まれるのが一般的ですが、通勤手当や住宅手当といった、労働とは直接関係のない手当は含めないケースが多いです。 - 1ヶ月あたりの平均所定労働時間
年間の総所定労働時間を12ヶ月で割って算出します。
例:(365日 – 年間休日120日) × 1日の所定労働時間8時間 ÷ 12ヶ月 = 163.33…時間
計算例1. 月給制(正社員など)の場合
月給制の従業員における控除額の計算例は以下の通りです。
- 月給(基本給):30万円
- 1ヶ月あたりの平均所定労働時間:160時間
- 当月の遅刻・早退の合計時間:5時間
計算式
控除額
9,375円
計算例2. 時給制(パート・アルバイト)の場合
時給制の場合は計算がよりシンプルで、不就労時間分を時給換算で控除します。
- 時給:1,200円
- 当月の遅刻・早退の合計時間:30分
計算式
控除額
600円
特殊な雇用形態における控除の考え方
完全月給制や年俸制など、労働時間と給与が直接的に連動しない雇用形態では、原則として遅刻早退控除は行いません。ただし、最終的には個別の労働契約の内容によります。
- 完全月給制
役員などに適用され、1ヶ月の給与が固定されているため、原則として遅刻・早退があっても控除されません。 - 年俸制
年単位で給与が決定しているため、基本的には控除の対象外ですが、契約内容によります。 - 歩合給・出来高払制
成果に対して支払われる歩合給部分は労働時間と直接連動しないため、控除の対象外です。ただし、固定給部分がある場合は、その部分のみ控除の対象となります。 - フレックスタイム制
清算期間全体で所定労働時間を満たしていれば遅刻・早退の日毎の控除がないこともあります。ただし、実働時間が清算期間内で所定時間より少ない場合には控除が発生することがあります。
遅刻早退控除の給与明細への記載方法は?
遅刻早退控除を行う場合、給与明細には以下のように記載します。
- 勤怠項目
「遅刻回数」「早退時間」などの欄を設け、実績を記載します。 - 支給項目
「勤怠控除」などの項目で、控除額をマイナス表示で記載します。
従業員が給与明細を見た際に、控除額について疑問を持たないよう、遅刻や早退の回数・時間数も記載するようにしましょう。
遅刻早退控除で避けるべき違法な処理とは?
給与計算の実務において、慣習的に行われがちな「丸め処理」や「相殺」は、労働基準法に違反する可能性が高いため注意が必要です。
丸め処理
賃金計算において、労働時間を企業が一方的に切り上げる「丸め処理」は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が極めて高いです。
- 8分の遅刻を「15分の遅刻」として計算する
- 1回の遅刻につき、一律で「30分の給与」を控除する
これは、実際に労働した時間(例では7分間)に対する賃金が支払われていないことになるため、違法と判断されます。遅刻早退控除は、必ず1分単位で、実際に労働しなかった時間分だけを正確に計算しなければなりません。
控除額計算で1円未満の端数が出る場合、原則として端数は切り捨てます。これは、切り上げてしまうと、実際の遅刻分以上に控除することになり、労働者にとって不利益となるからです。
遅刻と残業の相殺
所定労働時間8時間の会社で、1時間遅刻し、同日に1時間の残業を行った場合、実労働時間は8時間です。また、割増賃金は実労働時間が8時間を超えた場合に発生します。そのため、この場合には割増賃金の支払い義務はなく、両者を相殺することが可能です。ただし、遅刻分を別の日の残業で相殺することは、割増賃金の規定に違反することになり、認められません。遅刻早退控除の運用ルールと注意点
労務トラブルを未然に防ぐためには、控除に関するルールを就業規則で明確に定め、全従業員に周知徹底することが不可欠です。
就業規則に遅刻や早退の基準を明記する
遅刻・早退の定義や控除に関するルールは法律で詳細に定められていないため、企業ごとに就業規則で具体的に設定する必要があります。
- 遅刻・早退の定義
「始業時刻を1分でも過ぎた時点で遅刻とみなす」など。 - 報告手段・連絡先
「早退や遅刻は、原則として始業時刻前に電話で直属の上司へ連絡する」など、具体的な手段を定めます。チャットツールでの報告を認めないといった規定も有効です。 - 控除の計算方法
控除額の計算基礎となる賃金にどの手当を含むか、または含まないかを明記します。
明確なルール設定は、従業員の責任意識を高めると同時に、企業側の管理体制を強化し、円滑な職場環境の維持につながります。
遅刻の累積を欠勤扱いにする場合の注意点
「遅刻3回で人事評価上の欠勤1日とみなす」といったルールを設けること自体は可能ですが、それを賃金控除に直接適用することは違法です。たとえば、10分の遅刻を3回した場合、控除できるのは合計30分分のみです。これを欠勤1日として控除すると、過大な控除となり労働基準法に違反します。
ただし、人事評価(査定)において、規律違反の累積として「欠勤1日」と同等のマイナス評価をすることは、就業規則に定めがあれば可能です。賃金控除と人事評価は、明確に分けて考える必要があります。
遅刻早退控除に関してよくある質問
最後に、遅刻早退控除に関するよくある質問2つを紹介します。
遅刻や早退を時間単位の有給休暇に振り替えることはできますか?
会社の制度として導入し、就業規則に定めている場合に限り可能です。
原則として、遅刻・早退の事実と有給休暇の取得は別の問題として扱われます。しかし、企業が「時間単位の有給休暇制度」と「有給休暇取得の事後申請」の両方を認め、その旨を就業規則に記載している場合は、従業員の申請に基づき振り替えることが可能です。
電車遅延など本人に責任がない場合の遅刻も控除対象ですか?
はい、法的には控除対象となります。ノーワーク・ノーペイの原則は、労働が提供されなかった原因を問いません。そのため、電車遅延や自然災害といった不可抗力が理由であっても、企業がその時間分の賃金を控除することは法的に問題ありません。ただし、多くの企業では、遅延証明書の提出などを条件に、控除の対象外とするなど独自のルールを設けています。トラブルを避けるためにも、このような場合の取り扱いを就業規則で定めておくことが推奨されます。
時短勤務者の給与を遅刻早退控除の仕組みで計算するのはなぜですか?
基本給の改定を行わずに、実労働時間に応じた給与調整を行うための一つの方法です。
育児や介護のための時短勤務において、基本給の月額は変更せず、短縮した2時間分を毎日早退として扱い、給与から控除する方式をとる企業があります。この場合、短縮後の給与額に応じて社会保険料の標準報酬月額を改定する必要があり、適切に手続きを行わないと従業員が不利益を被る可能性があるため注意が必要です。
遅刻早退控除のルールを明確化し、1分単位で正確な計算を
遅刻早退控除は、従業員が働かなかった時間分の給与を差し引く正当な給与計算上の処理であり、ノーワーク・ノーペイの原則に基づいています。
この制度を適切に運用するための最大のポイントは、懲戒処分である「減給の制裁」と混同せず、あくまで不就労時間分のみを「1分単位」で正確に計算することです。また、計算の基礎となる手当の範囲や、残業との相殺の可否、有給休暇への振り替えなど、細かいルールを就業規則で明確に定めておくことが、無用な労務トラブルを避ける上で極めて重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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