• 更新日 : 2025年3月6日

急な退職でも残った有給休暇を取得できる?有給消化できないと言われた場合の対処法も解説

突然退職することになった場合、残った有給休暇をどう扱えば良いのでしょうか? 年次有給休暇は法律で認められた労働者の権利であり、退職時であってもその権利を行使できます。しかし、会社との交渉や手続き次第ではスムーズに消化できないケースもあります。

本記事では、急な退職時に残った有給休暇を無駄なく消化する方法について、労働基準法の基本ルールや会社側の対応、拒否された場合の対処法まで詳しく解説します。最後に、具体的な事例やよくある質問への回答も交え、円満退職に向けたポイントをまとめます。

急な退職でも残った有給休暇を取得できる?

急な退職が決まった際に真っ先に気になるのが、「残っている有給休暇は消化できるのか」という点でしょう。日本では有給休暇の取得率が諸外国と比べて低く、退職が決まった時点で多くの有給休暇日数が未消化のまま残っているケースも珍しくありません。ここでは、退職時の有給休暇に関する基本的なルールを法律や判例の観点から整理します。

労働基準法における有給休暇の権利

年次有給休暇(以下、有給休暇)は、労働基準法第39条により労働者に付与される権利です。雇入れから6か月継続勤務し、出勤率が8割以上であれば少なくとも年10日の有給休暇が与えられ、その後も勤続年数に応じて増えていきます。

退職が決まった後でも、有給休暇の取得は可能です。会社側は労働者からの有給休暇申請を原則拒否できません。これは退職日が迫っている場合でも同様で、急な退職でも残った有給休暇を消化することが法律で認められています。有給休暇取得は労働者に保障された権利であり、退職間際だからといって例外扱いにはならないということです。

会社が時季変更権を行使しても退職前に有給休暇を取得できる

有給休暇をいつ取得するかは労働者の自由であり、取得理由を会社に説明する必要もありません。一方、労働基準法では、会社側が有給休暇のタイミングを変更できる「時季変更権」が認められています。これは、労働者が希望した日に有給休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合に、会社が別の日に有給を取るよう変更を求めることができる権利です。

注意すべきは、時季変更権はあくまで「有給を別の日に振り替える」権利であって、取得そのものを拒否する権利ではないという点です。会社が時季変更権を行使する場合は、必ず代わりの取得日を提示して有給を消化させなければなりません。

そして、会社は有給休暇の取得日を退職日以降にずらすことはできません。退職日を過ぎた後に取得時期を延期すると、労働者は有給を消化できないまま退職することになり、有給休暇の権利行使を結果的に拒否されたのと同じ状態になってしまうからです。つまり、引き継ぎなどが十分できていなくても、法律上は労働者の有給取得の権利が優先されるのです。

パート・アルバイトでも退職前に有給休暇を取得できる

パートやアルバイトであっても、急な退職時に残った有給休暇を取得することは可能です。労働基準法では、有給休暇は「雇用形態を問わず、一定の条件を満たした労働者に与えられる権利」として定められています。そのため、正社員でなくても有給休暇の取得が認められます。

急な退職で有給消化できないと言われた場合の対処法

退職時の有給休暇取得は労働者の正当な権利ですが、実際には会社側が難色を示したり、「急な退職なのだから有給消化は認められない」と有給取得を拒否されるケースもあります。では、会社から有給消化を拒否された場合、従業員はどのように対処すればよいのでしょうか。

従業員の権利を主張する

もし会社から有給取得を拒否された場合、まずは落ち着いて自分の権利を主張することが大切です。有給休暇取得は法律で保障された権利であること、会社ができるのは時季変更のみであることを伝えましょう。特に、「退職日にかかる有給をずらすことはできない」という点は会社側も認識していない場合があります。法律上、自分には有給を取得する正当な権利があることを冷静に説明しましょう。

その際、権利を振りかざすのではなく、「残った有給を消化したいと思っています。引き継ぎには可能な限り対応しますので、ご協力お願いします。」といった丁寧な姿勢で交渉することが大切です。協力的な態度を見せれば、会社側も歩み寄りやすくなることがあります。

労働基準監督署等へ相談する

会社で話し合ってもなお有給消化を拒否される場合は、労働基準監督署へ相談することも検討しましょう。有給休暇の取得は労働基準法で定められた労働者の権利のため、会社が認めないのは労働基準法違反の疑いがあります。このような場合、労働基準監督署に無料で相談することが可能です。そして、会社に対して指導や是正勧告を行ってくれる可能性があります。

また、「労働基準監督署に相談した」と会社に伝えるだけでも効果が見込めるケースがあります。会社にしてみれば行政から是正勧告を受けるのは避けたい事態のため、状況打開の一手となるでしょう。

急な退職でもスムーズに有給休暇を消化するコツ

急な退職であっても、できるだけ円満に、かつ確実に有給休暇を消化するには事前の準備と工夫が重要です。ここでは、会社とのトラブルを最小限に抑えつつ有給を使い切るための方法や、交渉のコツを紹介します。

はやめに退職の意思を伝える

急な退職とはいえ、できる限りはやめに上司や人事に退職の意思を伝えることが望ましいです。法律上は退職の申し出は2週間前で足りる場合が多いですが、早めに伝えればそれだけ引き継ぎや有給消化の計画を立てやすくなります。結果的に、有給休暇をスムーズに消化することにもつながります。

引き継ぎ事項を整理する

自分が担当している業務の残作業や引き継ぎ事項をリストアップし、上司や後任者に共有しておきます。引き継ぎ資料を作成したり、重要な取引先には挨拶や簡単な引き継ぎ説明を行うなど、「自分が休んでも業務が回る状態」を可能な範囲で作りましょう。これにより、「有給を消化されたら困る」という会社側の心理的不安を減らす効果があります。

有給消化のスケジュールを立てる

退職日までに何日有給休暇が残っているのかを把握し、それをどのように消化するか計画を立てます。例えば「○月○日を最終出社日とし、その翌日から退職日までは5日間有給を取得する」など、自分なりのプランを用意しておくと良いでしょう。具体的な日程案があれば、上司とも話し合いがしやすくなりますし、会社側も調整を検討しやすくなります。

有給休暇の申請手続きを行う

有給消化の計画が固まったら、社内の正式な手続きを踏みます。退職時の有給について特別な書式がある会社もありますが、通常の有給申請と同じ方法で構いません。証拠を残すために、メール等で上司に「◯月◯日〜◯日まで年次有給休暇を申請いたします」と送っておくのも有効です。万一トラブルになった場合にも、有給申請を行った事実が証拠として残るからです。

急な退職時の有給休暇に関してよくある質問

最後に、急な退職と有給休暇に関して読者の方から寄せられがちな疑問についてQ&A形式で回答します。

自己都合退職でも有給休暇を取得できる?

急な自己都合退職であっても、退職日までに有給休暇を消化することは法的に認められています。ただし、急な退職が職場に与える影響は大きいため、円満な退職を目指すのであれば、可能な限り会社と調整することが望ましいでしょう。特に、引き継ぎが必要な業務がある場合には、上司や同僚と相談しながら計画的に有給休暇を申請することが重要です。会社側が「急な退職だから有給休暇は認められない」と主張する場合、労働基準監督署に相談すして是正を求めることができます。

退職時に人手不足でも有給休暇を取得できる?

人手不足であっても、退職日までに有給休暇を取得することは労働者の権利です。有給休暇は法律で保障された権利であり、退職時であってもその権利は失われません。会社が認めないと言った場合でも、それは法的には無効な主張となります。会社に許されるのは前述した時季変更権による日程調整のみで、しかも退職日を越える形での日程変更はできません。したがって、「人手不足だから」という理由での取得拒否は労働基準法違反となります。

退職時に有給消化できないとどうなる?

有給休暇を取得できないまま退職した場合、未消化分はそのまま消滅します。労働基準法上、有給休暇を退職後に繰り越すことはできません。そのため、使わずに退職すると、取得する機会を失ってしまいます。したがって、退職前にできる限り残りの有給休暇を取得しておくことが重要です。

退職時に有給休暇の買い取りはできる?

労働基準法上、年次有給休暇の買い取りは原則認められていません。例外的に、退職時に消滅してしまう有給を事後的に会社が買い取ること自体は違法ではないとされていますが、会社に法的義務があるわけではありません。過去に同様のケースで買い取りに応じた実績がある会社や、就業規則で買取を定めている会社でない限り、退職時の有給消化分を金銭補償してもらうのは難しいのが現状です。この点も踏まえ、やはり在職中に権利として有給休暇を消化することが何より重要と言えるでしょう。

急な退職で有給消化できないのは違法!

年次有給休暇は法律で保障された権利であり、退職間際であっても会社はその取得を原則拒否できません。急な退職を理由に会社が有給消化を認めないのは労働基準法違反に当たります。有給休暇の取得を拒否された場合は、労働基準監督署など公的機関に相談しましょう。

また、就業規則の確認や有給残日数の把握、そして労働法の知識を備えておくことで、不当な扱いを受けそうになっても適切に対処できます。自分の権利を正しく理解し、しかるべき手順で行動することが円満退職への近道です。

 


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