- 更新日 : 2025年3月5日
パートでも残業は断れない?残業代や休日出勤における法的ルールを解説
パート先での残業が多く、待遇や残業代の未払いについて不満に思う人もいるでしょう。
正社員ではなくパートであるにもかかわらず、残業や残業代の未払いは当たり前なのでしょうか?
パートにおける残業や休日出勤などの法的ルール、考え方の注意点、角を立てずに残業を断る方法などについて説明します。
目次
36協定と残業の関係とは?
36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条にもとづき、労働者に法定労働時間を超えて働かせる場合や休日に労働させる場合に、労使間で締結する協定を指します。
労働時間や休日の管理を行い、過労や労働条件の悪化を防ぐために制定されました。法定労働時間を超えて労働(残業)させるには、36協定の締結が必要です。
また残業とは、通常の労働時間を超えて行われる時間外労働を指します。日本では、法定労働時間は1日8時間、週40時間と定められており、これらを超えて労働した場合は残業に該当します。
36協定が締結されていない場合、法定労働時間を超えて働かせることは違法です。
パート社員との雇用契約書に記載すべき項目や労働時間について、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせてお読みください。
パートタイムで働く場合の残業時間と残業代について
残業は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間に労働させることであり、36協定を締結していれば認められます。しかし、時間に上限を設けずに残業できるわけではありません。パート従業員の場合に認められている、残業時間や残業代の決まりについて解説します。
パートも残業時間に上限がある
36協定にもとづき、パートタイムで働く従業員には、残業時間に上限が設けられています。具体的には以下のように決められています。
- 職場が36協定を締結していない場合:1日8時間・週40時間を超えない範囲での残業が認められる。
- 職場が36協定を締結している場合:月45時間・年360時間を超えない範囲での残業が認められる。
ただし、残業させる場合は職場が36協定を締結していたとしても、あらかじめ就業規則に「所定労働時間以外の労働が発生する可能性がある」など明記している必要があります。
パートも残業代が支払われる
パートタイムで働く従業員に対しても、法定労働時間を超えた場合は残業代が発生します。残業代の考え方は、具体的には以下のとおりです。
- 法定労働時間を超えたとき:25%以上
- 時間外労働時間が月45時間・年360時間等を超えたとき:25%以上
- 時間外労働が月60時間を超えたとき:50%以上
36協定を締結した際、残業時間の上限は月45時間・年360時間です。しかし、どうしても超える場合は、従業員との合意がある場合に限り、特別条項付き36協定を締結することで超えられます。
労働基準法・36協定違反の職場や企業に対する罰則
パート従業員に対して、残業代の未払いや上限を超えての労働が発覚した場合、36協定違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
残業したにもかかわらず残業代が支払われない「サービス残業」も違法です。
従業員から未払い分の残業代が請求されたときの対応については、以下の記事で解説していますので、あわせてお読みください。
【3,000人の従業員が回答】月あたりの平均残業時間
パート従業員が働くほかの職場でも、残業が当たり前なのかが気になる人もいるでしょう。
厚生労働省が令和5年11月に行った「労働時間制度等に関するアンケート調査結果について」をもとに、残業時間の平均や残業に関する考え方について紹介します。
3,000人の従業員を対象に行われたアンケートのなかで、1ヶ月あたりの平均残業時間は、以下の結果となりました。
出典:厚生労働省 労働時間制度等に関するアンケート調査結果について(速報値)
最も多い残業時間は1〜10時間で、34.4%の従業員が該当すると回答しました。また、特別条項付きの36協定を締結することで認められる、45時間を超えた残業をしている従業員は9.8%いることがわかります。
さらに、現在の残業時間に関する考えについては、以下の結果となりました。
出典:厚生労働省 労働時間制度等に関するアンケート調査結果について(速報値)
「ちょうどよい」と回答している人が48.5%と最も多く、残業が当たり前、残業は仕方がないとの考えを持っている人が多いことがわかります。
ただし「ちょうどよい」と回答した人のなかには、残業代が適切に支払われている場合も含んでいます。また、回答した従業員のなかには正社員による回答も含まれているため、すべてのパート従業員に当てはまるわけではありません。
パートとアルバイトの違いや、正社員との待遇の有無について、以下の記事で紹介しています。勤務形態別での働き方の違いを知りたい人は、あわせてご覧ください。
パートで残業を断りやすくするための対処法
残業を断りたくても断れない職場環境に、悩みを抱えているパート従業員もいるでしょう。残業を断りやすくするための方法について、提案と体験談を紹介します。
事前に残業が難しいことを伝えておく
あらかじめ自身の状況や残業の可否について、他の同僚や上司に伝えておくことで、理解を得やすくなります。とくに家庭の事情や健康上の理由など、やむを得ない理由がある場合は、周囲からの理解が大切です。
残業を断る際、たとえば「子どもを迎えに行く必要があるため、残業は難しい」など、家庭の事情で残業ができない旨を伝えましょう。
あらかじめ伝えることで、ほかの従業員が、残業の可否を考慮したシフトやスケジュールを組んでくれる場合があります。さらに、残業ができない代わりにほかの箇所でサポートに入るなど、ポジティブなコミュニケーションが大切です。
残業が発生しやすい時間を避けてシフトを組む
残業を避けるために、繁忙期や残業が発生しやすい期間を避けてシフトを組んでもらう方法も効果的です。自身の状況を説明したうえで残業が難しいことを伝え、残業が発生しやすい曜日や時間帯を事前に教えてもらいましょう。繁忙期での勤務を避けることで、残業の発生を予防できます。
繁忙期に入った時点で残業を断りたい場合は、就業時間前に、自分の予定や家庭の事情とともに、あらかじめ残業の可否について伝えておくと理解が得られやすいでしょう。
ほかの人が実践したパート残業を断る方法を真似してみる
パートでの残業を断る際、ほかの人が実践した、角が立たない断り方をまねてみる方法もあります。実際に伝えることで、円満退職につながった以下のような断り方がおすすめです。
「〜時より実家の母と友人を自宅にお招きすることになっております、申し訳ありませんが、残業が難しいです。」
「大変心苦しいのですが、〜時より歯医者を予約している関係で、定時で帰宅させていただきたいです。」
「大変申し訳ないのですが、現在〜と~の業務を抱えており、非常に時間がかかるのですがいかがでしょうか?」
ただし、過度に事実と反する断り方は避けたほうがよいでしょう。ただ「できません」と伝えるだけではなく、残業ができない理由を一言添えることで、角が立ちにくくなります。
パートタイムにおける残業・休日・残業代の注意点
パートで働く場合、残業・休日出勤・深夜手当などについて、多くの人が勘違いしやすい点や注意点について解説します。
労働時間は職場からの拘束時間で決まる
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。具体的には、実際に業務に従事している時間だけでなく、企業の指示により発生した準備時間や監督のもとで待機している時間も含まれます。
たとえば、所定労働時間が9:00〜18:00で1時間の休憩が含まれている場合、拘束時間は9時間ですが、労働時間は8時間です。
ただし、準備のため30分早く出勤するよう指示されていた場合は、出勤した30分も使用者の指揮命令下に置かれていることになるため、労働時間に含まれます。
残業を断れないケースがある
職場が36協定を締結しており、かつ依頼された残業が以下に該当する場合は、基本的には断れないと思ってよいでしょう。
- 就業規則や契約書に「残業が発生する場合がある」旨が記載されていた場合
- 法定労働時間を超えない場合
- 業務上どうしても必要な残業の場合
上記の場合は、体調不良や家族の体調の急変などのやむを得ない事情を除き、残業が断れないことがほとんどです。
また緊急性が高い業務や、人員が著しく不足している場合なども、職場からの要求に応じる必要があります。業務の円滑な運営を優先しなければならないとされることもあるでしょう。
パートタイマーでも残業を断れないケースは存在し、雇用契約や法的な枠組みによって制限されることがあります。もし、たびたび残業の強要を感じた場合は、雇用契約の内容や就業規則にもとづいて、自分が持つ権利を確認しましょう。
法定内残業の場合は割増賃金による残業代が発生しない
残業代は、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金を支払うよう義務付けられています。ただし、割増賃金が発生するのはあくまで法定労働時間を超えた場合のみです。
法定内残業の場合、残業代は発生しますが、通常通りの給与が支払われるのであって、割増賃金分は適用されないため注意が必要です。
たとえば、所定労働時間が9:00〜16:00で休憩時間が1時間(実働時間:6時間)の場合で考えます。1時間の残業により17:00まで働いた(実働時間:7時間)としても、通常より1時間多く給与が受け取れるだけで、割増賃金は発生しません。
法定休日を満たしていれば休日手当が発生しない
法定休日(週1日)に出勤した場合は、通常の賃金に加えて35%以上の割増賃金が発生します。ただし、所定休日に出勤した場合には、職場の就業規則にもとづいて割増賃金が支払われない場合があります。
たとえば定休日が毎週木曜日としている職場で働く場合、法定休日が満たされているため、日・祝日に出勤しても、休日手当である35%以上の割増賃金が適用されません。
深夜手当が発生する条件
午後10時から午前5時までの時間帯に働いた場合、深夜手当が適用されます。とくに、深夜手当と残業代が本来合算されるにもかかわらず、合算されていない従業員は注意が必要です。
具体的に深夜手当は、該当する時間に対して、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金が発生します。
さらに、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合には、深夜手当と時間外手当が重ねて支払われるため注意が必要です。この場合、深夜労働の割増賃金である25%以上に加えて、時間外労働の割増賃金の25%以上が加算されます。
月60時間超えの残業は通常と異なる割増率の残業代が発生する
通常、時間外労働時間(月45時間・年360時間等)を超えた場合は25%以上の割増賃金が発生しますが、月60時間を超える時間外労働には、特別な割増賃金率(50%以上)が適用されます。
つまり、通常の残業代(1ヶ月60時間以下)は25%以上の割増賃金が適用され、60時間を超える部分は、50%以上の割増賃金が発生します。
パートも労基法・36協定に沿っていれば残業が発生する
パートであっても、職場や企業が36協定を締結していれば、正社員同様に残業が上限規制付きで発生します。
また残業代や深夜割増金も適用されるため、法定時間外労働が発生しているにもかかわらず、残業代が未払いの場合は違法です。
残業を断るか、職場または管轄の労働基準監督署へ相談しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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