• 更新日 : 2025年6月23日

就業規則を無視して退職できる?退職できない場合やよくある質問を解説

就業規則を無視して退職できるかは、雇用期間に定めの有無によります。雇用期間に定めがない場合は、法令により退職予定日から2週間前までに申し出て退職できるでしょう。

就業規則を無視して退職できる場合とできない場合、退職時に起こりえるトラブルと対処法について解説します。

目次

就業規則を無視して早く退職できる?

退職を決めたとき、できるだけ早く退職して転職活動に専念したり、新しいことにチャレンジしたりしたい人も多いでしょう。

しかし、職場の就業規則で退職について明記されている場合は、規則に従って退職する必要があります。

就業規則を無視して早く退職できる場合とできない場合について解説します。

【最短2週間】就業規則より早く退職できる場合

雇用期間に定めがない場合は、民法第627条にもとづき、退職の申入れから2週間が経過することで退職可能です。

また、家庭の事情や体調の変化などやむを得ない事情がある場合、たとえ雇用期間に定めがあっても、早期退職が受け入れられる場合があります。

就業規則に退職通知の期間が記載されている場合は、期間内にて退職する旨を伝えるのが原則です。ただし、設けられている期間があまりにも長い場合は、民法第627条の2週間前までの申入れが優先される場合があります。

就業規則を無視して早く退職できない場合

就業規則を無視して早く退職できないケースは、雇用期間が定められている場合です。このような場合には、原則として家庭の事情や体調の悪化などやむを得ない事情がない限り、早期退職が認められません。

ただし、やむを得ない事情が従業員側の一方的な理由によるものである場合には、企業側から損害賠償を請求される恐れがあるでしょう。また、業務の引継ぎが十分に行われないまま退職した場合にも企業側から損害賠償を請求される場合があります。雇用契約の期間が定められている場合には、原則として就業規則を無視して早期退職できないことに注意が必要です。

就業規則で「退職は3ヶ月前に申し出ること」されている理由

多くの職場では、就業規則に「退職は3ヶ月前に申し出ること」と定めています。3ヶ月に設定しているおもな理由は、以下のとおりです。

  • 退職を申し出るまでの期間設定が自由なため
  • 引継ぎをして体制を整えるために必要な期間なため
  • 有給が消化しやすいよう余分な期間を設けているため

    民法第627条で、雇用期間が定められていない場合での解約について定められていますが、基本的には退職の申し出期間は企業が自由に決められます。ただし、あまりにも長い場合は民法が適用される場合があるため注意が必要です。

    また、退職における業務の引継ぎや人員の確保、計画的な人事管理は、3ヶ月程度が妥当と考えている職場が多いことも理由に挙げられます。

    就業規則に沿って早めに退職を伝えることで、円満退職が図れるでしょう。

    労働基準法と民法で定められている、退職についてのルールは下記の記事でも解説していますので、あわせてお読みください。

    「退職代行サービス」を使って早めに退職することは違反?

    昨今では、サービス提供者が依頼者に代わって退職手続きを行う「退職代行サービス」が登場しています。退職代行サービスを利用した退職が違法にあたるかどうかは、就業規則や雇用期間に定めがあるかどうかによります。

    雇用期間に定めがない場合民法第627条にもとづき、2週間前にサービスを利用して退職の申し出が可能。
    雇用期間に定めがある場合基本的には契約満期中の退職はできない。ただし、家庭の事情や体調の変化などのやむを得ない理由がある場合は、期間を選ばずサービスを利用した退職が可能なことが多い。

    やむを得ない理由がない場合、サービスを利用してから退職日まで会社へ行きたくないときは、以下の方法で退職日を迎えられます。

    • 有給を消化する
    • 欠勤する

      退職時の有給消化は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、基本的に職場は拒否できません。そのため、サービスを利用してから退職日まで有給消化で待つ方法が効果的です。利用できる有給休暇の日数が足りない場合は、給与が発生しませんが、欠勤することで職場へ行く必要がありません。

      就業規則をもらっていない場合の対応

      就業規則を一度も見たことがないまま退職を迎えてしまうケースは珍しくありません。退職金や最終出勤日などの取り扱いに不安を感じて初めて、「就業規則を確認していなかった」と気づく人も多くいます。会社が就業規則を交付していない場合の法的な扱いや、退職前後に確認しておくべき対応について解説します。

      会社が就業規則を渡さないのは違法?

      就業規則は、労働基準法第89条にもとづき、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成が義務づけられている文書です。就業規則を作成した企業には、その内容を労働者に周知する義務があります。周知の方法としては、社内への備え付け、イントラネットへの掲載、書面の配布などが認められています。

      会社が就業規則の内容を一切知らせておらず、従業員が閲覧できる状態にない場合は、労働基準法第106条違反に該当する可能性があります。ただし、法的には「交付する」ことが義務なのではなく、「周知する」ことが求められているため、紙の資料として渡していないからといってただちに違法とは限りません。とはいえ、従業員が希望しても就業規則の内容が確認できない状況は、適切とは言えません。

      周知が不十分な場合、企業は労働基準監督署から是正指導を受ける可能性があります。さらに、トラブルが発生した際には、就業規則の内容が従業員に効力を持たないと判断されるおそれもあります。

      周知されていない就業規則の効力

      就業規則は、労働条件を明確にするためのルールブックのような役割を果たします。ただし、その内容が労働者にきちんと周知されていなければ、就業規則は有効となりません。裁判例でも、労働者に就業規則の存在や内容が伝わっていなかったときには、会社の一方的な主張が退けられる事例があります。

      周知の方法が限定されているわけではありませんが、会社側が「周知していた」と主張するためには、客観的な証拠が必要になります。例えば、社内ポータルサイトに掲載した履歴や、配布した文書の受領記録などが該当します。これらが存在しない場合には、「知らされていなかった」とする労働者側の言い分が認められることもあります。

      就業規則が就業条件の根拠として機能するためには、周知が前提となります。会社が内容を隠していた場合や、労働者がアクセスできない状況を放置していた場合、その規定の効力が一部または全体にわたり否定されることがあります。

      就業規則が交付されていないことを理由に損害賠償請求できる?

      就業規則が渡されていなかったために損害が発生した場合、その損害について会社に賠償を求めることができるかどうかは状況によります。例えば、退職金の有無や支給条件を事前に知っていれば退職の判断が変わっていたといったケースでは、損害との因果関係が認められる可能性があります。

      とはいえ、損害賠償が成立するには、①会社に違法行為があったこと、②損害が発生したこと、③その損害と違法行為の間に因果関係があることの3つを証明する必要があります。このうち、因果関係の立証は難易度が高く、例えば「就業規則が配られていれば退職しなかった」といった主張が通るかどうかは微妙なところです。

      一般的に、就業規則が手元になかったことだけを理由に損害賠償を認める判断はされないでしょう。ただし、交付されていないことによって精神的な不安や混乱が生じたと認められるような特殊な事情があれば、一定の慰謝料を認める余地がないとは言えません。具体的な対応については、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。

      退職後に就業規則の内容を確認できる?

      退職後であっても、在職中に適用されていた就業規則の内容を確認したいという場合はあります。例えば、退職金の支給条件や、秘密保持義務の有無などが問題となる場面です。このような場合、退職後であっても就業規則を確認したいと考える場合もあるでしょう。しかし、退職後の従業員に就業規則を閲覧させる義務はありません。会社が就業規則を周知しなければならない義務を負うのは、あくまでも在籍中の従業員に対してだからです。退職金の支給条件や秘密保持義務などについて確認したい場合には、在職中に確認しておきましょう。

      退職時に就業規則を確認していないと問題が起きる?

      就業規則を確認せずに退職した場合、トラブルに巻き込まれる可能性があります。最も多いのは、退職金に関する誤解です。会社によっては、一定の勤続年数や退職理由によって支給の有無が決まる場合があります。就業規則を確認していれば、退職タイミングや退職理由の選定について、より適切な判断ができたはずです。

      また、退職後の競業避止義務や就業制限に関するトラブルもあります。退職後に同業他社で働いたところ、会社から競業避止義務違反だと指摘されることもあります。こうした条項が就業規則に記載されていたとしても、退職前に知らされていなければ、納得感を持って対応するのが難しくなります。

      さらに、未払い賃金や有給休暇の残日数の確認においても、就業規則の内容が判断の基準となることがあります。退職後に交渉する際、就業規則を見ていない状態では適切な主張をするのが難しくなり、会社の説明をそのまま受け入れるほかない状況に陥ることも考えられます。

      このように、退職に関連する多くの手続きや判断において、就業規則の内容は大きな意味を持ちます。退職前には、少なくとも退職金、賃金、守秘義務、競業避止義務に関する規定を確認しておくことが望ましいといえます。

      就業規則をもらっていなければ、いつ退職を申し出てもよい?

      就業規則を受け取っていない場合でも、退職の申し出には一定のルールがあります。民法では、期間の定めのない雇用契約において、退職の意思を伝えた日から2週間が経過すれば契約を終了できるとされています。これは就業規則の有無にかかわらず適用される基本的な原則です。ただし、就業規則に退職の申し出期限が定められていることがあり、その場合にはできる限りその規定に沿うことが望ましいとされています。

      一方で、就業規則が労働者に周知されていなかった場合、その内容が一方的に効力を持つとは限りません。したがって、会社が「1ヶ月前に申し出るべきだった」と主張しても、その規定が労働者に示されていなかったのであれば、強制力がないと解釈される余地があります。

      引継ぎなどの調整を踏まえ、円満に退職するためにも早めに申し出る方が望ましいですが、法的には就業規則を受け取っていない場合でも、2週間前に退職の意思を示せば原則として退職は可能です。

      退職時に考えられるトラブルと対処法

      できるだけ早く退職したいが、可能なら円満に退職して、余計なトラブルや衝突を作らないことが望ましいでしょう。退職時に考えられるトラブルと対処法について解説します。

      退職を認めてくれない・受理されない

      退職する意思を何度も伝えたり退職届を出したりしているにもかかわらず、引き止められたり受理されなかったりする場合があります。

      民法627条では、従業員が退職を申し出てから2週間が経過した時点で、労働契約を解除できます。たとえ企業側が、引き延ばしたり退職できないようなルールを設けたりしたとしても無効です。

      例えば、退職する際は代わりの人員を配置するか紹介する必要がある、といったルールを就業規則に設けたとしても、無効になります。

      民法により退職を阻止できないため、本来であれば退職を申し出てから2週間が経過すれば職場へ行かなくとも違法ではありません。ただし連絡をしない場合、離職票が受け取れなかったり円満退職が難しくなったりする可能性があるでしょう。

      退職が認められないときは、職場や企業に設置されている相談先、または管轄の労働基準監督署へ相談しましょう。

      退職するまで嫌がらせを受ける

      早期に退職する場合、腹いせとして職場で嫌がらせを受けることがあるでしょう。しかし、無断欠勤は給与が発生しなかったり円満退職ができなかったりするなど、自身にとって不利益が生じます。そのため、冷静に以下を実施して退職日まで過ごしましょう。

      • 有給を消化してなるべく出社する日を減らす
      • しかるべき部署へ相談して人員の配置換えをしてもらう

        退職日までの有給消化は、やむを得ない理由を除き、基本的に職場は拒否できません。従業員としての権利なので、安心して有休を使いましょう。また、有給休暇の日数や足りない場合や引継ぎにより出社が必要な場合は、職場に設置された相談窓口を利用して相談しましょう。

        残業代や退職金を支払ってくれない

        早期に退職する場合、残業代や退職金は一切支払わないと言われることがあります。

        まず、残業代を支払わないことは労働基準法違反にあたるため、従業員は適切な金額を請求できます。ただし退職金に関しては、支払いが義務づけられていません。法律で明確に定められているわけではないため、支払いを請求できる場合とできない場合がある点に注意が必要です。

        就業規則に退職金について明記されており、支払いの対象者に該当している場合は、退職金が請求できます。

        一方で、就業規則に退職金について明確な記載がない場合は、請求が難しいでしょう。

        退職を理由に自分だけボーナスは支払わないと言われた

        退職するため、ほかの従業員が受け取るボーナスを自身のみ支払わないと言われることがあります。

        ボーナス(賞与)は、退職金と同様に法律で定められているわけではなく、支払いも義務ではありません。そのため、ボーナスをほかの従業員と同様に請求できる場合とできない場合がある点に注意が必要です。

        就業規則にボーナスの支給条件が明確に記載されており、かつ条件をすべて満たしている場合は、請求できます。

        しかし、就業規則にボーナスについての明確な記載がない場合は、義務ではないため請求が難しいでしょう。また、すでにボーナスを受け取ったにもかかわらず、職場から返金するよう求められたら、職場は労働基準法に違反していることになります。

        有給の消化を認めてくれない

        有給消化してから退職を申し出たものの、有給の利用を拒否されることがあります。

        原則、職場は従業員の有給利用を拒否できません。ただし職場には、有給を取得することで職場の業務が滞ったり損害が発生したりする場合にのみ、有給取得日の変更を求める「時季変更権」の行使が認められています。

        職場が繁忙期の場合は、業務の引継ぎを済ませてから有休消化を申し出るなど、従業員側もある程度の配慮が必要でしょう。

        しかし特別な理由がないにもかかわらず、嫌がらせなどで有給消化が拒否される場合は、職場に設置されている相談窓口や、管轄の労働基準監督署などへ相談しましょう。

        トラブルを回避して退職する3つのポイント

        最も理想的な退職は、損をせず早期に円満退職することでしょう。トラブルを回避しつつ円満退職するためのポイントを3つ紹介します。ただし、心身に大きなストレスを抱えている場合は、早期に退職することを優先しましょう。

        1. ボーナスを受け取ってから退職届を出す

        ボーナスは、受け取りの有無で、退職後の金銭的な余裕に大きな差があります。

        退職してから転職活動を続ける場合は、一定期間収入がない状態となります。ボーナスの支給日が近い場合は、できるだけ受け取ってから退職したほうがよいでしょう。また、退職する意思を伝えてから退職日までにボーナスの支給日があったとしても、退職を理由にボーナスが支払われない場合があります。

        そのため、退職する旨は必ずボーナスを受け取ってから伝えましょう。

        2. 口頭のみではなく書面で退職届を提出する

        退職する意思は、口頭のみではなく、書面での退職届と一緒に上司へ伝えましょう。

        口頭のみでは引き止められる可能性が高いためです。また、民法627条では退職の申し出をしてから2週間が経過したあとに退職できるとされています。しかし退職を申し出た日を明確にしない場合、早期に退職できない場合があります。さらに口頭のみでは、退職することを聞いていないと拒否される可能性もあるでしょう。

        退職の申し出をした日を明確にするためにも、書面で伝えましょう。

        3. 退職を伝えると同時に有休消化を伝える

        退職を伝えると同時に有給消化をすれば、休み明けと同時に退職できます。しかし、退職日までの有給取得が拒否される場合があります。

        原則、企業は事業の正常な運営を妨げる場合でない限りは、有給の取得を拒否できません。とはいえ、前もって退職と同時に有休消化する旨を伝えておけば、引継ぎの計画や繁忙期の人員配置について相談できるため、職場に迷惑をかけることがありません。退職日までの有給取得も、認めてもらえやすいでしょう。

        何の準備もしないまま、退職日の直前まで有給取得したい旨を伝えると、職場や後任の人員に迷惑がかかる可能性があります。

        無事に退職が受理された場合は、退職の手続きをして晴れて退職できます。退職の流れと受け取るべき書類など、下記の記事で解説していますので、あわせてお読みください。

        【企業の方へ】就業規則で定めておくべき退職の決まり事とは?

        企業は、就業規則のなかに退職に関する具体的なルールを定めることをおすすめします。明確なルールがない場合、引継ぎが十分でないまま退職されたり、退職した従業員による情報漏えいが発生したりするリスクがあります。

        おもに、就業規則では以下について定めておくとよいでしょう。

        • 退職通知の期間:引継ぎの期間に余裕を持たせるため、期間を30日や60日などに設定するのがよいです。
        • 退職手続きの仕方:退職時の手続きについても明確にしておく必要があります。例えば、退職願の提出方法や期間、最終出勤日までの引継ぎについてのルールを明確にしましょう。
        • 退職理由の確認:自己都合退職と会社都合退職の違いや、退職理由の確認に関する条項も設けることが一般的です。
        • 機密保持に関する取り決め:退職後の機密保持に関する注意事項を設けます。退職後も情報漏えいが起こらないよう業務に関する情報やデータの削除などを明記します。

          就業規則に退職に関するルールを設けることは、自社を守ることにもつながります。トラブルを避けて自社を守るため、制定しましょう。

          就業規則を無視して退職の申し出があった場合は認めなければならない?

          退職の申し出が就業規則を無視してあった場合でも、原則、企業は退職の意思を受け入れる必要があります。

          無期雇用の従業員が退職する場合、たとえ就業規則に「退職の申告は3ヶ月前まで」と記載されていても、退職の意思を伝えてから2週間後に適用される、という民法でのルールが有効な場合があります。

          一方で、有期雇用の従業員による退職の申し出は、あらかじめ定めた契約期間が完了するまでは、退職を認めなくてよい場合がほとんどです。

          退職を認める場合は、退職を希望する場合の正式な手続きや、退職時の引継ぎなどについて説明し、円満退職を促進しましょう。退職を認めることで、引継ぎが不十分なまま後任が担当する場合や損害を被る場合は、退職の時期について冷静に相談する必要があります。

          退職金やボーナスの支給においては、法律では明確な定めがありません。就業規則に明確な定めがない場合は、支払わなくても問題ありません。

          雇用期限がなければ就業規則を無視して退職できる

          雇用期間に定めがない場合は、民法第627条にもとづき、退職を希望する2週間前に申入れをすれば退職できます。就業規則に退職について記載があったとしても、退職の申入れから退職日までが長い場合、民法627条が優先される場合があります。

          ただし雇用期間に定めがある場合は、就業規則を無視して早期退職ができないため注意が必要です。

          自身が早期退職できるかどうかは職場の就業規則と雇用契約の内容によるため、確認してみましょう。


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