- 更新日 : 2025年2月21日
建設業は2024年4月から36協定の時間外労働の上限規制が適用
2024年4月から、建設業においても36協定の上限規制が適用されました。
長時間労働の是正を目的としたこの規制は、労働者の健康を守りつつ、企業が法令を遵守するための重要なルールです。
しかし、現場単位での締結や特別条項の運用など、建設業特有の注意点を理解していないと、違反リスクを招く可能性があります。
この記事では、36協定の基本から建設業における上限規制について、また提出までの流れや注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
建設業で働く方はぜひ参考にしてください。
目次
建設業は2024年4月から36協定の時間外労働の上限規制が適用
2024年4月以降、建設業にも36協定による時間外労働の上限規制が適用されました。この改正は、働き方改革関連法の一環であり、長時間労働の是正を目的としています。働き方改革関連法とは、2018年に成立し、全業種における長時間労働の削減を目指した取り組みです。
これまで長時間労働が常態化していた建設業界も、月45時間、年360時間という一般業種と同様の上限が設定されます。
法改正により業界全体で労働環境の改善が期待されています。建設業者は新たな規制に対応するため、スケジュールの効率化や人員の確保をしなければなりません。
36協定とは労使で結ばれる協定
36協定とは、労働基準法第36条にもとづき、労働者に法定労働時間を超える時間外労働や休日労働をさせるために必要な労使間の協定です。この協定がない場合、1日8時間・週40時間を超える労働は違法とみなされます。労働者の権利を守るだけでなく、企業の適正な労務管理にも欠かせません。
企業は36協定を締結するだけでなく、適切に運用し、従業員にその内容を周知することが重要です。
建設業の上限規制が猶予されていた背景
建設業の上限規制が猶予されていた理由は、ひとつは工期の変動が大きい点です。建設プロジェクトは天候や資材供給に影響されやすく、計画通りに進行しないケースが多々あります。
また、自然災害発生時には迅速な復旧が求められ、通常の業務と異なる負荷がかかることも背景です。
台風や資材供給の遅延、大雪といった悪天候の影響で、建設作業が一時中断し、結果的に納期が延びる可能性があります。
さらに、他業界に比べて建設業界は、就労者数が減少し、高齢化・後継者不足が課題です。そのため、業界全体で働き方改革が進めにくく、タイトな工期設定もあり、週6日労働(時間外労働が常に多い状況)が常態化していました。
こうした要因を踏まえ、2024年4月まで猶予期間が設けられました。ただし、新規制に対応するためには、効率的な工期管理や人員確保が急務です。企業は業務効率化の取り組みを進める必要があります。
参考:建設業における働き方改革
建設業における36協定の上限規制
建設業でも2024年4月から36協定による時間外労働の上限規制が適用されます。この規制は、働き方改革関連法にもとづき、労働者の長時間労働を抑制することが目的です。
とくに建設業では、業務特性から労働時間が長くなる傾向がありましたが、月45時間・年間360時間の上限が原則となります。企業には、効率的な働き方への移行が求められています。
36協定の時間外労働が罰則付き上限規制
2018年の改正労働基準法により、時間外労働の罰則付き上限規制が制定されました。通常の上限は月45時間・年間360時間ですが、特別条項付き協定では以下の範囲内で緩和されます。
- 月100時間未満(休日労働含む)
- 2~6ヶ月平均で80時間以内(休日労働含む)
- 年間720時間以内
この規制は、段階的に導入され、下記の流れになります。
- 2019年4月:大企業に適用開始
- 2020年4月:中小企業に適用開始
- 2024年4月:建設業などの適用除外業種にも適用開始
違反した場合の罰則を避けるためにも、正確な労務管理が不可欠です。
特別条項付き36協定でも上限規制あり
特別条項付き36協定でも年間720時間を上限とする規制が適用されます。繁忙期や災害対応など例外的な状況で活用されますが、以下の条件を守る必要があります。
- 単月100時間未満(休日労働含む)
- 2~6ヶ月平均80時間以内(休日労働含む)
- 公共工事の突貫作業や台風後の災害復旧作業
たとえば、公共工事の突貫作業や災害対応で適用されるケースがあります。ただし、この協定を適用する際には、労働者の健康管理と法令順守が前提です。
災害時の復旧・復興の事業には例外規定が適用
災害時の復旧・復興に関わる事業では、時間外労働の規制が一部緩和されます。具体的には、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内の規制が適用されません。
たとえば、地震や台風などの自然災害による被害に遭った地域では、復旧作業の迅速化が求められるためです。このような例外規定は、緊急時における業務遂行を可能にするために設けられています。
建設業の36協定における例外規定適用ができるケース
建設業では、以下のケースで36協定の例外規定が適用されます。
例外規定適用ができるケース | 具体例 |
---|---|
災害時の復旧・復興 | 地震被害で崩壊した建物の緊急修繕 |
公共工事の工期厳守 | 道路や橋の新設・改修工事 |
繁忙期対応 | 年末年始や年度末の需要増加 |
緊急対応 | 工場や現場でのトラブル対応 |
外的要因による遅延 | 天候不順や資材輸送の遅れ |
上記の状況では、迅速な業務遂行が求められるため、規制の緩和が許可されています。ただし、例外規定を運用する際には、労働者の健康管理を最優先に考え、過度な労働を防ぐ仕組みが必要です。事前のリスク管理やITを活用したシフト調整を徹底し、安全で効率的な働き方を実現しましょう。
建設業の36協定を提出するまでの流れ
建設業で36協定を提出するには、締結から提出までの手順を正確に把握することが重要です。
労働組合もしくは労働者代表と36協定を締結する
36協定の締結には、労働者代表または労働組合との話し合いが必要です。労働者代表または労働組合は、労働者の意見を集約し、企業と協議・交渉を行う役割を担う存在です。労働基準法では、労働条件の決定や36協定の締結時に労働者の代表者を選出することが求められています。話し合いの過程で、時間外労働や休日労働に関する条件を具体的に定めなければいけません。
たとえば、繁忙期や災害時の対応についても取り決めを行い、労働者の意見を反映させることが求められます。話し合いをスムーズに進めるためには、以下のポイントが重要です。
- 労働者代表を選出し、信任を獲得する
- 労働条件について透明性のある説明を実施する
- 協定内容を記録し、後日確認可能にする
労働者の同意を得ることで、締結後のトラブルを回避できます。
36協定届を出して労働基準監督署へ提出する
36協定締結後は、速やかに労働基準監督署へ届け出を行います。提出方法には以下の3つがあります。
- 窓口提出: 書類を直接提出する方法。署員から説明を受けることが可能
- 郵送提出: 書類を郵送する方法。提出の手間が減るが、到着確認が必要
- 電子申請(e-Gov): オンラインで申請を完了可能
電子申請では、厚生労働省の「e-Gov」サイトから手続きが可能です。電子申請を利用する際には、事前に電子証明書の取得や利用者登録が必要になる場合があるため、早めの準備を心がけましょう。正確かつ迅速な届け出を行うことで、法令遵守とスムーズな労務管理が実現します。どの方法を選ぶ場合でも、締結内容が記載された正確な書類を用意することが重要です。
36協定届の記載例
36協定届は、労働内容や条件に応じて使用する様式が異なります。以下に代表的な例を示します。
労働内容 | 使用する様式 |
---|---|
月45時間 年360時間を超えない残業 | 様式9号 |
月45時間 年360時間を超えない残業で災害対応が見込まれる場合 | 様式9号の3の2 |
月45時間 年360時間を超える残業 | 様式9号の2 |
月45時間 年360時間を超える残業で災害対応が見込まれる場合 | 様式9号の3の3 |
上記の様式を正確に記載し、必要に応じて添付書類を用意することで、提出手続きがスムーズになります。詳しい記載例は、以下を参考にしてください。
参考:36協定届の記載例 (様式第9号(第16条第1項関係))
36協定届の記載例(特別条項) (様式第9号の2(第16条第1項関係))
建設業における36協定で注意すべき5つのポイント
建設業における36協定を適切に運用するためには、以下の5つのポイントに注意が必要です。それぞれのポイントを押さえて、労働環境の改善と法令遵守を目指しましょう。
労働基準法・36協定の適用は現場単位になる
建設業では、36協定の適用が「企業」単位ではなく「事業場」単位で行われます。現場事務所を設けている場合、その事務所が労務管理の拠点となります。各現場ごとに労働時間の管理や協定内容の運用が必要です。
同じ会社で複数の現場がある場合でも、各現場で個別に36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。この仕組みは現場ごとの状況に対応するために設けられています。各現場がそれぞれ異なる工期や労働条件に直面しているため、現場ごとの状況に応じた労務管理を行う必要があるでしょう。
月60時間を超えた時間外労働の割増賃金は50%になる
月60時間を超える時間外労働には、通常の25%ではなく50%の割増賃金が適用されます。この規定は長時間労働を抑制する目的で導入されました。
たとえば、月80時間の時間外労働が発生した場合、最初の60時間分は25%割増、それを超える20時間分は50%割増で計算されます。この規定を無視すると、労働基準監督署からの指摘や従業員とのトラブルを招く可能性があるため、注意が必要です。
そのため、企業は以下の取り組みを意識してください。
- 時間外労働の徹底管理
- 業務効率化の推進
- 従業員への周知
労働時間をリアルタイムで記録し、月60時間を超えないよう調整しましょう。また、割増賃金のルールや計算方法を従業員に説明し、透明性を確保するようにしてください。
同一労働同一賃金を遵守する
同一労働同一賃金とは、正社員やパートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者に関係なく、同じ仕事をしている場合は同一賃金を支払うことが義務付けられています。
たとえば、同じ建設現場で正社員と派遣社員が従事している場合、「職務内容(業務内容・責任の程度)」「配置の変更範囲(人事異動等)」などの事情を考慮し、それらが同じ場合は、賃金や手当を同じ扱いにする必要があります。この原則を守ることは、労働者の公平性を確保し、職場全体のモチベーションを向上させるために不可欠です。
同一労働同一賃金を実践し、公平で働きやすい職場環境を構築しましょう。
36協定のいずれかに違反した場合ペナルティあり
36協定に違反した場合、以下のようなペナルティが科されます。
- 労働基準監督署による調査と是正勧告
- 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 企業名が公表される可能性
36協定を締結した後、所轄の労働基準監督署に提出することは法律で義務付けられており、手続きを怠った場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。ペナルティは、法令遵守を怠ることで企業の信用が失われるリスクを示しています。適切な労務管理を徹底することが重要です。
労働時間管理・健康管理を徹底する
労働時間の適正な記録を行い、法定時間を超えないよう管理することが求められます。また、労働者の健康を守るために定期的な健康診断やメンタルケアを実施することも重要です。過剰な時間外労働が続くと、以下のリスクが発生する可能性があります。
- 心身の不調(例: 慢性疲労やストレスによる鬱症状)
- 生産性の低下(例: 作業ミスや遅延の増加)
- 離職率の上昇(例: 労働環境への不満による退職)
そして、労働災害の発生へとつながり、企業の信用低下や人材の損失などを招きかねません。
こうした問題を防ぐために、業務の適正化や健康管理を推進しましょう。
建設業は36協定を守って仕事に取り組もう
建設業で36協定を適切に運用することは、労働者の健康を守り、職場全体の効率を向上させる鍵です。長時間労働の抑制や休息時間の確保は、作業ミスの防止や安全性の向上にもつながります。
法令を遵守しつつ、働きやすい環境を整え、従業員が安心して力を発揮できる職場づくりを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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