- 更新日 : 2025年2月21日
有給休暇の買取は原則違法!認められる3つのパターンやデメリットを解説
有給休暇の買取は、労働基準法39条に反するものであり原則としては違法です。
しかし、退職時など特定の3つの条件下では買取が認められる場合もあります。
この記事では買取が可能なケースや買取時の注意点、金額の計算方法などを解説していきます。
目次
有給休暇の買取は労働基準法により原則違法
有給休暇の買取は、原則違法です。
有給休暇は労働基準法39条で定められた、労働者が心身の疲労を回復するための制度です。
下記の条件を満たしていれば、正社員やアルバイトなど雇用形態に関わらず有給休暇が取得できます。
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しかし、有給の買取が認められていたら、会社が労働者の休暇を買取り続け、労働者が十分な休息を取れなくなるおそれがあります。
その結果、労働者の長時間労働や過労が助長され、心身の健康を損ないかねません。
上記のような事態を防ぐ目的もあり、有給休暇の買取は労働基準法39条に反するものとして認められていません。
しかし、例外的に有給休暇の買取が認められているパターンもあります。
有給休暇の買取が認められている3つのパターン
この章では、有給休暇の買取が例外的に認められている3つのパターンを紹介します。
①法律で定められた日数を超過している場合
法律で定められた有給休暇の日数を超過している部分については、買取が認められています。
企業によっては独自の福利厚生として「バースデイ休暇」や「夏季休暇」といった特別休暇を労働者へ付与している場合があります。
特別休暇の付与日数が、本来取得できる有給休暇の法定日数を超えている場合は、付与部分のみ買取が認められているのです。
たとえば、有給休暇が10日残っている従業員に、企業がさらに5日間の特別休暇を追加で付与していれば、追加の5日分は買取が可能です。
②時効を過ぎて消滅した場合
時効を過ぎて消滅した有給休暇も買取が認められています。
年度内に使い切れなかった有給休暇は翌年へ繰り越しできますが、有給の付与から2年を過ぎると時効によりその有給は消滅します。
上記のように有給休暇の付与から2年が経ち、消滅の時効を迎えた有給休暇については買取が認められているのです。
理由としては、「消滅後の有給休暇を労働者は使うことができないので、企業がその分を買い取っても問題ない」とされているからです。
すでに使えなくなった有給のため、労働者側にはとくにデメリットなく有給を買い取ってもらえることになります。
③退職時に余っている場合
退職日までに有給休暇を使い切れず余らせてしまった場合も、買取の対象になります。
なぜなら、有給休暇は在職中に限って行使可能な権利であり、「退職後の従業員は有給休暇を使用する権利がなくなる」からです。
そのため、消化できなかった有給を買い取っても問題ないとされています。
有給休暇の買取の制度に関しては就業規則に記載されている場合もあるため、自社に適用されるかをよく確認しておきましょう。
もし有給休暇の買取についての記載がなくても、労使の合意(企業側とそこで働く従業員)があれば、買取が可能です。
有給休暇を買い取ってもらうときの注意点・デメリット
次に、有給休暇を買い取ってもらうときの注意点やデメリットを解説していきます。
買取は企業の義務ではない
有給休暇の買取は、法律で定められているわけではないため、企業の義務ではありません。
そのため、従業員が有給休暇の買取を望んでも、企業が拒否することも十分に考えられます。
就業規則に有給休暇の買取の記載がない場合は、その企業では買取を認めていない可能性があるため人事担当者へ確認してみましょう。
また、有給休暇を買い取ってもらえるものと決めつけて収入の見通しを立てておかないように、十分注意しておきましょう。
年5日の取得義務は買取に対しては適用されない
有給休暇の買取は取得扱いにはならないため、年5日の取得義務を満たすことができません。
働き方改革による法改正で、2019年4月から有給休暇が年間10日以上付与される従業員には、年5日以上の有給の取得が義務化されています。
しかし、「有給休暇の買取=取得」にはならないため、取得の義務がある方は通常通り有給休暇を取るようにしましょう。
会社としては年5日以上の有給取得義務を従業員が守らなかった場合、違反者1名につき30万円以下の罰金を支払うよう命じられたり、行政指導を受けるおそれがあります。
会社へ迷惑をかけてしまう可能性もあるため、有給休暇を買い取ってほしかったとしても、年間10日以上の有給休暇を付与されている場合は、確実に5日間の有給を取得しましょう。
買取を予約することはできない
有給休暇の買取は例外的に認められているものの、あらかじめ有給の買取予約をすることはできません。
たとえば従業員が余った有給を買い取ってもらうつもりでいても、会社が事前に有給休暇の付与日数を減らすことは認められていません。
もし買取を見越して付与する有給を減らしてしまった場合、労働基準法に違反するおそれがあります。
有給買取時の金額は?3つの計算方法
有給休暇を買い取って貰うときの金額を計算する方法は、おもに3つあります。
ただし、有給休暇の買取は法的に義務づけられている制度ではないため、計算方法に関しても法律上の規定があるわけではありません。
もし会社の就業規則に買取時の計算方法が定められている場合は、そちらに従いましょう。
計算方法 | 概要 | 1日分の買取金額 | 特徴・注意点 |
---|---|---|---|
通常賃金 | 月給や時給に基づき、普段の勤務を想定して計算 | 月給 ÷ 所定労働日数 × 有給休暇日数 (※月給の場合) | 日給制や時給制の場合は計算式が異なる |
平均賃金 | 直近3ヶ月の賃金総額を総暦日数で割り、平均賃金を計算 | 平均賃金 × 有給休暇日数 | 賃金が少ない月は最低保証額を適用する |
標準報酬月額 | 健康保険の標準報酬月額を基に計算 | 標準報酬月額 ÷ 30 × 有給休暇日数 | 労使協定が必要で社会保険に未加入の場合は使用できない |
有給休暇買取時のもっとも一般的な計算方法は「通常賃金での買取」です。
計算方法もシンプルかつ、基本的には普段の勤務時と同じ金額をもらえるため、従業員と会社の間でトラブルも起こりにくくなります。
なお、有給休暇は買取時、賞与として計上されます。
計算方法についての備考や注意点については、関連記事をご確認ください。
関連記事:「有給休暇の買取ができるパターンと計算方法を解説」
有給休暇が忙しくて取れない場合の対処法
有給休暇の買取を希望の方の中には、「本当は普通に有給を取りたいが、忙しくて有給を取る暇がない」という方もいるでしょう。
この章では、有給休暇が忙しくて取れない場合の対処法を紹介します。
上司へ相談する
有給休暇を取得できない理由が業務過多によるものであれば、まずは上司へ相談してみることをおすすめします。
業務が忙しすぎて有給休暇もまともに取れない状況であることを伝えれば、一部業務を他の人に割り振ったり、業務量を調整してくれる可能性があります。
とくに年5日の取得義務を満たすことすら難しい場合であれば、会社としては対応せざるを得ないため、しっかり話を聞いてくれるでしょう。
また、自分だけではなくチームや部署全体が忙しく上司へ相談しにくい場合は、人事部など管理部門へ相談してみましょう。
忙しいときは自分ひとりで抱え込まずに、周囲としっかりコミュニケーションを取ることが大切です。
時間単位で取得する
業務が多忙で有給休暇をまとめて取得することが難しい場合は、時間単位での有給取得を検討してみましょう。
労働基準法では労使協定を結ぶことで、有給休暇を時間単位で取得することが可能です。
取得時間の単位(1時間・2時間など)は会社の就業規則により異なりますが、時間単位で取得すれば、忙しい中でも有給を少しずつ消化できます。
ただし、残念ながらすべての有給を時間単位で取得できるわけではありません。
時間単位での有給取得は、年間最大5日分までとなるため注意しましょう。
また、直近では時間単位の有給取得の上限を「年5日以内」→「付与日数の50%」と緩和する規定が、政府の規制改革推進会議で検討されています。
もし実現すれば、たとえば有給20日を保有している方なら、10日分の有給を時間単位で取得できるようになります。
この新しい規定が導入されたらさらに有給を取得しやすくなるため、気になる方は続報がないか気に留めておきましょう。
参考:“時間単位取得の有休 上限緩和を” 規制改革推進会議中間答申│ | NHK
業務の効率化を図る
「有給でしっかり休む日を作ろう」という目的意識を持ち、業務の効率化を図ることも大切です。
▼業務を効率化するための一例
|
また、有給取得を取る暇もないほど忙しい場合は、周囲から新しく仕事を頼まれても、無理に引き受けないことも重要です。
有給休暇の買取に関するQ&A
最後に、有給休暇の買取に関するQ&Aを紹介します。
有給消化と有給の買取はどっちが得?
下記の表を、有給消化と買取のどちらが得か考えるための判断材料にしてみてください。
ただし、最終的にはその時々の状況や当人の考え方次第になるでしょう。
項目 | 有給消化 | 有給買取 |
---|---|---|
メリット |
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|
デメリット |
|
|
おすすめの状況 |
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また、上記の表内の有給は、有給の買取が認められている3つのパターンのうち「法律で定められた日数を超過している場合」「退職時に余っている場合」を想定しています。
「時効を過ぎて消滅した場合」の有給はすでに消化できません。
そのため、時効が過ぎて消滅した有給に関しては、「買い取ってもらう」のがお得です(会社が買取を許可している場合)。
有給が1000円で買取されるのは違法?
有給の買取金額については相場などがなく「金額◯円以下は違法」と決まっているわけでもないため、仮に1000円で買取されても違法であるとは一概に言えません。
もし就業規則により買取金額が1000円と定められていれば、それが契約上の買取金額になります。
一方で、就業規則に明確な取り決めがなく1000円での買取を提示された場合は、金額の交渉の余地があります。
有給休暇を使用するか、買い取りしてもらうかはよく考えよう
有給休暇の買取は原則違法であるものの、3つの条件下では認められています。
もし買取をしてもらう場合は金額や日数などで揉めることのないよう、就業規則をよく確認し、人事担当者と話し合ってみてください。
また、有給休暇はそもそも労働者が休むための権利であるため、適切に使うことも大切です。
有給休暇を使用するか、買い取ってもらうか、いずれにせよご自身が納得できる選択をしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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