- 更新日 : 2025年1月20日
就業規則と労働協約の違いは?どちらが優先?労働契約との関係も解説
企業が従業員を雇って事業を行うには、労働関係の諸法令を遵守することはもちろんのこと、労働契約や就業規則、労働協約の優先順位を理解して、適切に労務管理を行うことが求められます。
ここでは就業規則と労働協約の違いを確認するとともに、労働契約や就業規則、労働協約に重複する規定がある場合は、どちらが優先されるのかを解説します。
目次
就業規則と労働協約の違い
就業規則と労働協約にはどのような違いがあるのでしょうか。最初に就業規則と労働協約の違いについて解説します。
就業規則とは
就業規則とは、企業が従業員を雇う際に適用される賃金や労働時間などの労働条件、職場内の規律などを定めた、いわゆる企業の職場におけるルールブックです。就業規則に職場のルールを定め、これらのルールを守ることで、従業員が安心して働くことができる労働環境を維持することができます。また、就業規則には、労使間のトラブルを防ぐ役割も持っています。
就業規則を有効なものとするためには、以下のことをよく理解しておく必要があります。
- 就業規則の作成と届出の義務
常時10人以上の労働者を使用する事業場の場合、事業場単位で就業規則を作成し、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。その際、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(以後、過半数労働組合と言う)があるときには労働組合、過半数労働組合がない事業場の場合は労働者の過半数を代表する者(以後、過半数代表者と言う)からの意見を聞いて作成した意見書を添付しなければなりません。 - 就業規則の周知
就業規則は労働者に周知してはじめて効力が発生します。作成した就業規則は、労働者がいつでも見られるように、以下の方法で周知しなければなりません。- 職場の見やすい場所に掲示する
- 職場内に備え付ける
- 書面で労働者に交付する
- 電子媒体に記録してパソコンやスマートフォンなどで常時確認できるようにする
- 就業規則に記載しなければならない事項
就業規則に記載しなければならない事項には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、職場内にルールがある場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。
絶対的必要記載事項の内容- 労働時間関係:始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、就業時転換に関する事項
- 賃金関係:賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金締切り日・支払いの時期、昇給に関する事項
- 退職関係:解雇事由を含む退職に関する事項
相対的必要記載事項
- 退職手当関係:対象の労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払い方法・退職手当の支払い時期に関する事項など
- 臨時の賃金・最低賃金額関係:退職手当を除く臨時の賃金に関する事項や最低賃金額に関する事項
- 費用負担関係:食費・作業用品など、労働者に負担をさせることに関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- その他、その事業場で適用されるルールに関する事項
就業規則は、正社員だけではなく、パート・アルバイトなどの従業員も含めた全従業員に適用されるように作成する必要があります。「常時10人以上」にはパート・アルバイトの従業員や有期雇用の従業員の人数も含めて計算する必要があります。
常時使用する労働者の人数が10人未満の事業場の場合は、就業規則の作成・届出の義務はありません。しかし、労働契約書や雇用契約書に労働に関するすべてのルールを記載するのは困難です。そのため、労働者数10人未満でも就業規則を作成している企業が多くあります。
参考:モデル就業規則について |厚生労働省、「モデル就業規則(令和5年7月)」
労働協約とは
労働協約とは、簡単に言うと労働組合と企業との間の約束事のことです。労働組合と企業双方の署名または記名押印がある書面を作成することによって効力が発生します。
労働協約は労働組合の組合員に適用するのが原則ですが、一定の条件を満たすと拡張して適用される拘束力があると言われています。これは一般的拘束力と呼ばれ、労働協約が1つの事業場で4分の3以上の労働者に適用されるなどの一定条件を満たす場合、労働者の適用範囲が拡張され、労働協約が適用されない同種の労働者に対しても適用されるというものです。これによって、労働組合が、組合員以外の者によって団結権を侵害されるようなことがないようにしています。
(一般的拘束力)
第十七条 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。
労働組合法第18条では地域的拡張適用についても定めています。拡張適用の申立てがあった、厚生労働大臣や都道府県知事が拡張適用の決定をすると、労働協約の適用範囲がその地域の他の同種の労働者や企業に拡張して適用されるケースがあります。
就業規則と労働協約はどちらが優先される?
就業規則や労働協約には、企業と労働者が守るべきルールを定めます。就業規則や労働協約の内容・項目が重複している場合や内容に整合性が取れない場合、どちらが優先されるのかを解説します。
就業規則と労働協約の内容が重複している場合
就業規則と労働協約の内容が重複している場合、優先されるのは労働協約です。就業規則が従業員にとって有利なものであっても不利なものであっても、労働協約で定めた内容が優先されます。これは、労働基準法に以下の規定があるからです。
(法令及び労働協約との関係)
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
②行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
就業規則と労働協約の整合性がとれない場合
企業に就業規則があるものの、その後労働組合と労働協約を結び、就業規則と労働協約の整合性が取れなくなるということもあるでしょう。この場合も、「就業規則は労働協約に反してはならない」と法律で定められているため、優先されるのは労働協約です。
就業規則と労働協約の整合性が取れていない場合には、労働協約に合わせて就業規則を改定しなければなりません。労働基準監督署から指導を受ける可能性もあるため、すみやかに見直しをしましょう。
就業規則や労働協約に違反するとどうなる?
労働協約で定めた労働条件の優先順位は就業規則よりも高く、労働協約に違反する労働契約や就業規則があったとしても、その部分については無効となり、労働協約に定めた内容が適用されます。これは、労働組合法に以下の規定があるからです。
(基準の効力)
第十六条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
そもそも労働組合法では、労働協約に違反する契約は無効と定めています。労働基準法第92条第1項は「就業規則は労働協約に反してはならない」と禁止しているだけです。つまり、就業規則が労働協約に反しても有効に成立することはありませんので、労働基準法第92条第1項も労働組合法第16条も罰則の適用はありません。しかし、労働基準法第92条第2項では「法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる」と定めています。労働基準監督署の変更命令に従わなければ、「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
就業規則、労働協約、労働契約、労働基準法の優先順位
就業規則、労働協約、労働契約、労働基準法の優先順位は、以下の順になります。
労働基準法>労働協約>就業規則>労働契約
労働基準法は法律であり、法律に反する協約・規則・契約はすべて無効です。労働基準法に定める労働条件は最低限の基準であり、労働協約、就業規則、労働契約はいずれも、労働基準法で定めた最低水準以上の労働条件としなければなりません。
次に優先されるのは労働協約です。先に説明した通り、就業規則や労働契約が従業員にとって有利であろうが不利であろうが、労働協約が優先されます。
3番目に優先されるのは就業規則です。労働契約の内容が就業規則の水準に達しない場合は、その部分については無効となり、就業規則が適用されます。つまり、就業規則に定めた労働条件よりも、個別に労働契約に定めた労働条件が労働者にとって不利な場合は、その部分については就業規則の水準に引き上げられることになります。これは、労働契約法に以下のような規定があるからです。
(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働契約が就業規則よりも有利な労働条件だとどうなる?
労働契約が就業規則よりも労働者にとって有利な労働条件で定められている場合は、有利に定められた部分は、そのまま有効です。
ときには優秀な従業員を好待遇で自社に向かえることもあるでしょう。就業規則が優先されるのは労働契約で定めた労働条件を上回るときだけであり、従業員にとって有利な条件を労働契約で個別に結んでいる場合には、有利に定められた部分については労働契約が優先されます。
労働関係の法律を適切に理解することが労務管理の基本の第一歩
従業員を雇う際には、就業規則と個別労働契約の関係性をよく理解しておかなければなりません。法令や就業規則を下回る労働条件で労働契約を結んでも、労働基準法者就業規則の水準に引き上げられることになります。
労務管理には、労働基準法や労働契約法など労働関係法令の知識を身につけ、これらの法律に基づき運用することが求められます。労働関係法令を学び、これらの根拠を理解することが、労務管理の基本の第一歩と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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