- 更新日 : 2025年1月17日
みなし残業に上限はある?45時間・60時間では?目安や違法な場合を解説
みなし残業の上限は、労働基準法で明確に定められているわけではありません。しかし、36協定の上限規制に合わせて、一般的には月45時間以内に設定されています。
みなし残業とは、事前に一定時間の残業代を給与に含めて支払う制度です。みなし残業は、上限時間が明確でないためトラブルも起こりやすいですが、正しく利用すればメリットも多くあります。
本記事では、みなし残業の上限について徹底解説します。
目次
みなし残業に上限はある?
みなし残業に明確な上限は設けられていません。
そもそも、みなし残業は事前に一定時間の残業代を給与として支給する制度です。たとえば、基本給と残業代20時間分が支給された場合、20時間以内の残業でも、毎月同じ額が支給されます。しかし、20時間を超える残業は、別途手当が必要のため注意が必要です。
そのため、みなし残業を企業で導入する場合は、労働者代表や労働組合と36協定を締結し、労働基準監督署に届け出を提出しなければいけません。36協定については以下で解説します。
みなし残業は45時間が上限の目安(36協定により)
厚生労働省によると、みなし残業の上限は1ヶ月で45時間、年間で360時間が目安です。みなし残業の上限は36協定に合わせるのが一般的です。
36協定とは「時間外労働・休日労働に関する協定」のことであり、労働基準法第36条に基づいた協定であることから「36協定」とされています。36協定は1日8時間、週40時間の法定労働時間以上の時間外労働を従業員に命じる際に必要な労使協定です。
そのため、みなし残業を導入する際は、36協定を締結する必要があることを理解しておきましょう。
みなし残業に含まれる残業時間
みなし残業には、時間外労働、休日労働、深夜労働などが含まれ、各割増率に応じて適切な計算と労働条件が必要です。
労働基準法では、法定労働時間を超える労働や法定休日の労働、午後10時から午前5時までの深夜労働に対して、割増賃金の支払いが義務付けられています。そのため、みなし残業制を導入する際は、割増率を考慮したうえで適切に設定することが重要です。
たとえば、みなし残業で月20時間分を給与に含める場合、時間外労働に25%以上、休日労働に35%以上、深夜労働に25%以上の割増賃金が必要です。
時間外労働は「1日8時間で週40時間以上」、休日労働は「週1日または4週4日の法定休日」、深夜労働は「深夜10時から午前5時まで」の労働を指します。
上記を踏まえ、みなし残業代には各割増率を適用した金額を含める必要があります。また、実際の労働時間がみなし時間を超えた場合は、超過分に対して割増賃金を支払う必要があるため注意しましょう。
みなし残業を導入するためには、時間外労働、休日労働、深夜労働の各割増率を考慮したうえで、明確な労働条件を設定しましょう。
みなし残業が60時間を超えても違法ではない?
みなし残業が60時間超えた場合は、違法となる可能性があります。月60時間の残業をするには、1ヶ月に20日出勤する場合、1日3時間程度の残業が必要です。たとえば、朝8時に出勤し、1時間のお昼休憩がある場合は、退社時間は定時の9時間と残業の3時間を含んで20時退社となります。
上記を毎日続けるのは心身ともに苦痛となり、体調を崩す可能性も高まるため非常に危険です。
ただし、労働基準法で定められている時間外労働時間の上限の「1ヶ月45時間」を超えた労働が6ヶ月以上続く場合は、ケースにより違法になるケースもあります。
36協定において、時間外労働の上限は「1ヶ月45時間、1年360時間」です。臨時的で特別な事情がない場合の超過は認められておらず、事情があったとしても年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えてはいけません。また、月45時間を超えてもいいのは、年間6ヶ月までのため注意が必要です。
万が一、みなし残業が36協定に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
みなし残業時間を超えた場合は残業代の支払いが必要
みなし残業を超えて労働した場合、労働内容に応じて適切な割増賃金を追加で支払う必要があります。みなし残業時間を超える労働に対して割増賃金を支払わなければ、労働基準法違反となるため注意が必要です。
労働基準法第37条では、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払いが義務付けられています。
たとえば、月20時間のみなし残業の場合、実際の残業時間が30時間になった場合、超過した10時間分の残業代を追加で支給しなければいけません。時間外労働には、基本給の25%以上の割増率が適用され、もし超過分の残業代が支払われない場合は、労働者は未払い残業代を請求する権利があります。
みなし残業制を導入する際は、実際の労働時間を管理し、みなし残業時間を超える残業が生じた場合は、法定の割増率にしたがって支給することが重要です。
みなし残業で発生しやすいトラブル
みなし残業は適切に導入するとメリットが多い制度ですが、企業や担当者の知識不足や不当な対応によりトラブルが生じる場合があります。トラブルを避け、従業員に働きやすい環境を提供するためにも、みなし残業で生じやすいトラブルを確認しておきましょう。
月給が最低賃金を下回る
みなし残業代が最低賃金を下回る場合、最低賃金法により違法となるため注意が必要です。パートやアルバイトの従業員や正社員など雇用形態にかかわらず、最低賃金以下の月給は設定できません。
労働基準法では、労働者に対して最低賃金以上の給与を支払うことが義務付けられています。みなし残業代は、所定労働時間外の労働に対する割増賃金として支給されるため、基本給とは別です。そのため、みなし残業代を除いた基本給が最低賃金を下回ると法令違反となります。
たとえば、最低賃金が時給1,000円の場合、1日8時間、月20日勤務の最低月給は16万円です。もし、月給が19万円で4万円をみなし残業として設定されている場合は、基本給部分は15万円で最低賃金を下回り、違法です。
そのため、みなし残業を導入する場合は、基本給と残業代を分けて考え、基本給が最低賃金を上回るように設定する必要があります。
みなし残業を超えた残業代の未払い
みなし残業を超えて残業した際は、従業員に対して超過分の残業代を支給しなければいけません。みなし残業時間を超える労働に対して残業代を支払わない場合、労働基準法違反となり6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
労働基準法では、時間外労働に対して割増賃金の支払いが義務付けられています。みなし残業は、一定時間分の残業代を定額で支給する制度です。実際の労働時間がみなし残業を超えた際は、割増賃金を支払わなければいけません。
そのため、みなし残業制を導入する際は、実際の労働時間を管理し、みなし残業時間を超過した分の残業代を法定の割増率に応じて支払いましょう。
みなし残業代がいくらか説明されていない
みなし残業を導入する場合、就業規則や雇用契約書にみなし残業代と手当に対する残業時間について記載する必要があります。また、記載する際は、基本給やみなし残業の労働時間、固定残業代の金額を明確にしなければいけません。
みなし残業代は、従業員により支給額が異なるため、事前に内容を書面で確認し、合意を求めることでトラブルを避けられます。そのため、みなし残業制を導入する際は、事前に就業規則や雇用契約書に残業代を明記しておきましょう。
みなし残業の上限が裁判になった事例
みなし残業の上限に関するトラブルにより、裁判になった事例は「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件」(札幌高裁 平成24年10月19日判決)です。
ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件は、職務手当に対する時間外労働時間の記載がなく、残業時間も計算されていなかったことが事件の発端です。
ある日、会社が給料を引き下げると原告に伝えたところ、原告は長時間の残業にもかかわらず、残業代も出さずに賃金を引き下げる会社に不満を感じました。のちに原告は退職し、未払いの時間外賃金を請求するために裁判を起こしたのです。
裁判では、会社は「職務手当は95時間分の残業代」と主張しました。しかし、裁判所は「95時間も残業させること自体が労働基準法に反する」と判断し、月45時間を超えた残業代に対して、支払いを命じました。
上記の事例により、みなし残業制を導入する際は、残業時間は45時間以内に設定することが重要だといえます。
みなし残業時間を変更する場合
みなし残業時間を20時間から30時間に引き上げる、または引き下げる場合は、理由と必要性を明記することが重要です。
まずは、労働者に対して変更理由を解説し、個別に同意を得る必要があります。次に、就業規則を変更し、労働者代表の意見を聞き、労働基準監督署への届け出を行う必要があります。36協定の範囲内であることを確認し、実際の労働時間とかけ離れた設定にしないように気をつけてください。
しかし、みなし残業時間は安易に引き上げないことが重要です。厚生労働省でも時間外労働と休日労働は必要最小限にするよう注意喚起しているため、必ず従業員の同意を得てから引き上げるようにしてください。
みなし残業制とみなし労働時間制の違い
みなし残業制とみなし労働時間制では、残業時間の計算方法や適用範囲が異なります。
みなし残業制は、事前に一定時間分の残業代を給与に含める制度で、実際の労働時間に応じて超過分の残業代を支払う必要があります。一方、みなし労働時間制は、労働時間の把握が難しい業務に対し、所定の労働時間を労働したとみなす制度です。実際の労働時間に関係なく、一定の労働時間が認められます。
たとえば、営業職で外回りが多く、労働時間の管理が難しい場合、みなし労働時間制が適用される場合があります。一方、オフィス勤務で月20時間の残業が見込まれる場合、みなし残業制を導入し、20時間分の残業代を固定で支給するケースもあるでしょう。
みなし残業制とみなし労働時間制では適用条件が異なるため、労働者と企業の双方が正しく理解して導入することが重要です。
みなし残業の上限、超過分を適切に管理するツール
みなし残業の上限に伴い、超過分の残業代を適切に管理するツールとしてマネーフォワード クラウド勤怠、マネーフォワード クラウド給与がおすすめです。
マネーフォワード クラウド勤怠は、クラウド上で管理する勤怠システムです。従業員が働いた時間や休憩時間、出勤日数などを管理できます。さらに、スマートフォンやタブレットからでも勤務状況を確認できるため、従業員の働き方を正確に把握可能です。マネーフォワード クラウド勤怠は、給与計算機能が搭載されており、従業員の勤務時間から自動で給与の計算と支払い処理をできます。そのため、給与計算の人的ミスとトラブルの軽減につながります。
マネーフォワード クラウド給与は、中小企業から大規模の企業まで利用できる給与計算ソフトです。基本給や手当、税金、社会保険料などを含む支給額や控除額の計算がすべて自動で行えます。さらに、明細書のデータや領収書画像の自動取得機能が搭載されているため、よりスムーズな給与計算が可能です。
みなし残業の超過分を設定する方法については、以下の記事をあわせてご覧ください。
みなし残業を理解して適切に導入しよう
みなし残業は、事前に一定時間分の残業代を含めた金額を従業員に支給します。明確な上限は定められていませんが、36協定に合わせて1ヶ月で45時間、年間で360時間が上限の目安とされています。
万が一、みなし残業時間が超過した場合は、残業時間に応じて追加で支払う必要があるため注意が必要です。
そのため、みなし残業制を適用する際は、従業員の勤怠管理と給与計算を行い、適切に導入しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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