- 更新日 : 2025年1月10日
パワハラで退職したら会社都合?退職勧奨や代行サービスについても解説
パワハラによる退職が自己都合か会社都合かの決定は、その内容や経緯によって異なります。本記事では、パワハラが原因で退職した場合の扱いや、退職勧奨の影響、さらに退職代行サービスの利用について詳しく解説します。パワハラに関する正しい知識を持つことは、自分の権利を守ることであり、安心して次のステップへ進むための支えとなるでしょう。
目次
パワハラで退職したら、自己都合と会社都合どちらになる?
パワハラで退職した場合、退職理由が自己都合か会社都合かは非常に重要なポイントです。自己都合退職は、自分の意志で辞めることを意味しますが、パワハラの影響で辞めた場合、会社都合として扱われる可能性もあります。
この違いは、失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)の給付にも大きく影響します。自己都合退職の場合、給付開始までに7日間の待期期間が必要ですが、会社都合の場合は退職後すぐに受給が可能です。
また、会社が自己都合として手続きを進めても、リストラなど会社都合による理由で特定理由離職者として認定されれば、失業保険の受給開始日が変更されることがあります。以下では、これらの点について詳しく解説していきます。
自己都合と会社都合の違い
自己都合退職と会社都合退職は、退職の理由によって大きく異なります。先述の通り、自己都合退職は、労働者自身の意志で退職する場合を指し、結婚や転職、家庭の事情などが主な理由です。自己都合で退社した 場合、失業保険の給付開始までに待期期間があり、給付日数が短縮される可能性があります。
一方、会社都合退職は、 雇用主の事情により退職を余儀なくされることを指し、主にリストラや倒産などが該当します。会社都合で退社する場合、 失業保険が すぐに受給でき、給付日数が長くなります。 退職理由によって 、今後の生活に大きな影響を与えるため、退職前に正しく 理解しておくことが重要です。
退職理由による失業保険給付の違い
パワハラによる退職では、退職理由によって失業保険の給付に違いが生じるので注意が必要です。パワハラが原因で退職した場合でも自主的な理由であれば、離職証明書の離職理由欄で「自己都合退職」と記載される(または扱われる)ことがあります。この場合、失業保険の受給には3カ月の給付制限が課せられます。退職後すぐに給付を受けることができないため、経済的な不安が生じる可能性があるでしょう。
ただし、パワハラの詳細内容が特に深刻であれば、会社都合退職として認められる可能性があります。この場合、待期期間の7日後からすぐに失業保険が支給されるため、経済的な負担が軽減されます。会社都合退職として手続きする際に注意したいのは、会社の担当者が作成した離職証明書の離職理由が「自己都合」と記載されていた場合です。本人署名欄の署名を促されても、署名に応じず異議申し立てを行いましょう。
特定理由離職者とみなされる条件
パワハラによる退職で「特定理由離職者」とみなされるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
まず、パワハラが原因で心身に障害や疾病が生じた場合、これが正当な理由として認められます。具体的にはパワハラによって精神的なストレスやうつ病などを抱えた結果、退職を余儀なくされた場合です。他にも、医師の診断書や職場での具体的な出来事といったパワハラの事実の証拠が必要です。
また、退職時に会社が自己都合として手続きを進めても、ハローワークで特定理由離職者としての申し立てを行うことで、会社都合として認定される可能性があります。この場合、失業保険の給付開始日が早まることもあります。これらの条件を理解し、適切に手続きを行うことが重要です。
退職勧奨したらパワハラになる?
ここでは、まず、懲戒処分に該当しない従業員の退職を促す行為について考察してみます。
退職勧奨と退職勧告の違い
退職勧奨と退職勧告も法的には明確な定義がありません。ただし、個々の企業において、就業規則などの社内規程において相違を定めているケースもあるでしょう。以下、一般論としたうえで、用語の違いを解説します。
- 退職勧奨
退職勧奨は、企業側が従業員に自主的な退職を促すもので、双方の合意を重視します。従業員が自らの意思で退職することを目指し、話し合いを通じて進められるため、比較的円満な形での退職となります。 - 退職勧告
退職勧告は、退職勧奨よりも強い働きかけを伴う場合が多く、従業員に対して退職を強く求めるニュアンスがあります。
いずれの場合も、適切な方法で進めることが重要です。不適切な手段によって退職を促すことは、パワハラと見なされる可能性がありますので、慎重に対応することが求められます。
退職勧奨がパワハラになる事例
退職勧奨がパワハラと見なされる事例はいくつかあります。
例えば、上司が特定の部下に対し、大声で怒鳴りつけるような行為は、明らかに心理的圧力を与え、威圧的な態度で退職を迫ることは、パワハラに該当します。
また、「退職しないと解雇する」と脅したり、業務を与えずに孤立させたりするような行為は、労働者の就業環境を害するため、パワハラと認定される可能性が高いでしょう。人格を否定するような発言や、長時間拘束して退職を強要する行為も同様です。
このように、明らかに不愉快な行為による退職勧奨は、パワハラとして法的措置が取られることがあります。
退職勧奨がパワハラと判断された場合のリスク
退職勧奨がパワハラと判断された場合、企業にはいくつかのリスクが伴います。
- 損害賠償請求を受けるリスク
従業員から損害賠償請求を受ける可能性があります。パワハラが認定されると、慰謝料として数十万円から百万円以上の支払いを命じられることもあります。特に、精神的な苦痛や健康被害が発生した場合、賠償額はさらに高額になることがあります。 - 退職が無効とされるリスク
違法な退職勧奨によって退職が無効とされることもあります。この場合、企業は従業員を復職させなければならず、そのための手続きやコストが発生します。 - 企業の信頼を失うリスク
労働契約法第5条に基づく安全配慮義務違反として、企業の信頼性や評判にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
これらのリスクを避けるためには、適切な方法で退職勧奨を行うことが重要です。
パワハラにならないように退職勧奨するポイント
パワハラにならない退職勧奨を行うためには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。
- 従業員の尊厳を守る
従業員の尊厳を守ることが基本です。退職をすすめる際には、相手の気持ちや状況に配慮し、威圧的な態度や言葉遣いは避けましょう。 - 直接的な強要を避ける
直接的な強要は避けることが大切です。「辞めてほしい」と直接言うのではなく「自己都合退職を考えているか」と尋ねるなど、間接的にアプローチする方法が望ましいでしょう。このような配慮によって、従業員が自らの意思で退職を選択できる余地を与えます。 - 従業員が納得する説明
退職勧奨の理由を明確に説明し、従業員が納得できるように心がけましょう。面談はプライバシーを配慮した場所で行い、他の従業員に知られないよう配慮することも重要です。従業員が素直な気持ちでじっくりと検討する時間を与え、急かさない姿勢を持つことで、パワハラのリスクを軽減できます。
退職した従業員からパワハラで訴えられたらどうする?
退職した従業員からパワハラで訴えられた場合、企業は迅速かつ適切に対応することが求められます。まず、訴えの内容を冷静に確認し、事実関係を把握することが重要です。社内の関連資料や証拠を整理し、必要に応じて専門家の意見を仰ぐことも考慮しましょう。
また、従業員とのコミュニケーションを大切にし、誠実な姿勢で対応することで、信頼関係の維持にもつながります。
パワハラに関する損害賠償請求には時効があるため、その確認も欠かせません。以下では、企業がとるべき初期対応と損害賠償請求の時効について詳しく解説します。
会社がとるべき初期対応とその重要性
退職した従業員からパワハラで訴えられた場合、企業はまず初期対応を迅速に行うことが重要です。初期対応の順序については、以下の通りまとめています。
- 訴えの内容を正確に把握する
具体的には、どのような行為がパワハラとして指摘されているのかを確認し、その事実関係を調査します。この際、社内の記録や証拠を集めることが不可欠です。例えば、メールやメモ、目撃者の証言などが役立ちます。 - 公平な社内調査を行う
社内での調査を行う際には、公平性および中立性を保つことが大切です。外部の専門家や弁護士を交えて調査チームを組むことで、客観的な視点から問題を分析できようになります。 - 従業員への配慮
特にパワハラを受けたとされる従業員には十分配慮し、気持ちを尊重しながら適切なサポートを提供する姿勢が求められます。 - 透明性のあるコミュニケーション
最後に、鍵となるのは迅速かつ透明性のあるコミュニケーションです。従業員や関係者に対して進捗状況や結果について適切な範囲で報告することで、不安感を軽減し、信頼関係を築くことができます。
初期対応は企業としての責任感や誠実さを示す重要な機会です。上記の事項を参考に対象の従業員にとって適切な対応を心がけましょう。
パワハラの損害賠償請求における消滅時効の確認
パワハラによる損害賠償請求には消滅時効が存在します。原則として「不法行為による損害賠償請求」の場合の時効は3年です。ただし、この3年は被害者が損害および加害者を知った時点からのカウントとなります。
つまり、被害者がパワハラによって精神的な苦痛や経済的損失を感じ始めた日から3年以内に請求しなければ、その権利は消滅することになります。そのため、企業側は早期に事実確認や調査を行い、その結果によって必要な対策を講じることが重要です。
訴えられた場合には、訴えられた時点でどのような証拠や資料があるかを、確認・検討しながら対応する必要があります。
さらに、消滅時効については特例も存在します。例えば、被害者が精神的な理由で請求できない状況にある場合、その期間は延長されることがあります。このため、自社だけで判断せず、法律専門家と相談しながら進めることが望ましいでしょう。
パワハラを理由に、従業員が退職代行サービスを利用したらどう対応する?
パワハラを理由に従業員が退職代行サービスを利用した場合、企業は冷静かつ適切な対応が求められます。
まずは、退職代行サービスからの連絡を受けた際に、内容を正確に把握し、事実確認を行いましょう。退職の意思表示が正式に行われたことを確認した後、社内の関連部署と連携し、次のステップを検討します。
パワハラの事実があった場合には、企業としての責任を果たすために、再発防止策や改善策を講じることも必要です。以下では、退職代行サービス利用時の企業対応手順と注意点について詳しく解説します。
退職代行サービス利用時の企業対応手順
従業員が退職代行サービスを利用した際の企業の基本的な対応手順は、以下の通りです(※企業の事情や退職予定者の状況によって、手順が変更になる、もしくは割愛される可能性あり)。
- 退職代行サービスからの連絡内容を確認する
退職代行からの連絡内容を抜け漏れなく確認し、必要に応じて内容を記録します。- 退職代行サービス会社による連絡が、単なる本人からの退職意志の伝達なのか、退職のための話し合いなのか(サービス会社による話し合いであれば、弁護士あるいはユニオンなどの労働組合といった一般組合でなければできない)
- 退職の理由について確かめる
- パワハラに関する具体的な情報を収集し事実確認を進める
- 社内での情報共有を行う
人事部門や法務部門と連携し、どのような対応が適切かを話し合います。- 過去の類似ケースや法律的な観点からも検討する
- 社内規程や就業規則に基づいた手続きを踏み公平性を保つ
- 単なる退職を示す伝達であれば、本人に退職届を提出させる
退職代行サービス会社(弁護士、ユニオン)との話し合いであれば、会社も弁護士と相談するなどといった注意が必要です。従業員とのコミュニケーションも忘れずに行いましょう。 - 再発防止策を講じる
該当者の退職後もパワハラ問題については引き続き注意深く対処する必要があります。- 再発防止策や改善策を講じる
- 他の従業員にも安心して働ける環境を提供する
上記のような手順を把握することで、企業としての責任感を示すことができるでしょう。
対応時の注意点と従業員対応における法的配慮
パワハラを理由に従業員が退職代行サービスを利用した場合の企業対応には、注意点があります。ここでは知っておきたい注意点について、以下の通りまとめました。
- 感情的にならない
感情的にならず冷静に対処することです。退職代行サービスからの連絡は突然で驚くかもしれませんが、この時こそ企業は冷静かつ法的に適切な対応を行う必要があります。感情的な反応はさらなるトラブルにつながる可能性があるので、一呼吸置いてから対処しましょう。 - 法的な配慮をする
パワハラ問題は非常にデリケートなテーマであり、不適切な対応は訴訟リスクにつながります。そのため、法務部門や専門家(弁護士や社会保険労務士)と連携しながら進めることが大切です。また、労働基準法、労働契約法、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)など関連する法律や指針についても理解しておく必要があります。 - プライバシーへの配慮を怠らない
パワハラ問題は個人情報に関わるため、不必要な情報漏洩や噂話は避けなくてはなりません。社内での情報共有も、その方法や内容には十分注意しましょう。 - 退職後のフォローアップを行う
退職後も従業員との関係性を考慮しながら、必要に応じて相談窓口を案内するなどのサポートをすることが重要です。特にパワハラ問題は、少なからず感情的な影響があるため、その後のフォローアップも大切にしましょう。例えば、「何か困ったことがあればいつでも相談してほしい」といったメッセージを伝えることで信頼関係を築くとともに、企業としての誠実さを示すことができます。
パワハラを理由に退職代行を利用した退職者が出た場合は、自社として再発防止策や改善策を講じる姿勢が重要です。この経験を通じて社内文化や職場環境の改善につなげることが、さらなる成長へとつながります。
パワハラでの退職は今後の教訓に
今回は、パワハラによる退職について解説しました。同じ会社で働いていた仲間が、パワハラを理由に退職するという事態は悲しいものです。しかし、起きてしまったことはこれからの教訓とするしかありません。
最後にパワハラによる退職にまつわるトラブルが起こらないように、経営者を含めた全員がパワハラについてきちんと学び直す機会とすることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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