- 更新日 : 2025年2月28日
有給休暇の消滅はいつ?繰り越しルールや違法な場合、計算方法を解説
有給休暇は労働者の権利ですが、忙しい会社ではなかなか消化できないというケースが多いかもしれません。
有給休暇は発生した日から2年経つと消滅するため、注意が必要です。有休の取得は労働者の重要な権利であり、会社には消滅を防止する取り組みが求められます。
本記事では、有給休暇の消滅について解説し、会社が行うべき対策も紹介します。
目次
有給休暇の消滅はいつから?
労働基準法では、6ヶ月以上継続勤務して、なおかつ出勤率が8割を超える労働者に対し、有給休暇を付与することを義務付けています。有給休暇は労働者の権利であり、労働者は原則として自由に取得することができます。
しかし、忙しいために消化できない人が多く、長く放置すると消滅するため注意が必要です。
ここでは、有給休暇はいつ消滅するのかについて、解説します。
有給休暇の取得日から2年経つと消滅する
有給休暇は、付与されてから2年経過すると消滅します。
有給休暇は6ヶ月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合に付与されます。たとえば、2024年4月1日に入社した場合、半年後の10月1日に有給休暇が10日間付与されているケースでは、6日間を消化して残りの4日間を使わない場合、2026年10月1日に残っていた4日間の有給休暇は消滅するということです。
付与された有給休暇を年内に消化できなかった場合、次年度に限り繰り越せます。最大保有日数は40日です。ただし、年5日の消化義務があるため、実質的な最大保有日数は35日となることに注意しなくてはなりません。
失効の有給休暇:企業の64%が「そのまま消滅している」
厚生労働省によると、失効した有給休暇の取り扱いについて「そのまま消滅している」とする企業は64.2%という高い数字です。
一方で、時効消滅した有給休暇の残日数を一定日数に達するまで積み立て、特別な目的の休暇として使う制度を設けている企業もあります。法律で定められた制度ではなく、積立有給休暇制度やストック休暇制度、失効年休積立休暇など、企業ごとに制度の名称はさまざまです。
制度を設ける企業の多くが「病気休暇」のための制度としており、未取得のまま消滅した有給休暇も無駄にすることなく、必要な休暇のために活かされています。
有給休暇の消滅日数の計算方法
有給休暇は、有給休暇が付与された日を起算日として、起算日から2年で消滅します。
初年度は入社6ヶ月で付与し、次年度以降は毎年4月1日に付与する規定のある会社を例に、有給休暇の消滅日数を計算してみましょう。
(2024年9月1日に入社した従業員の場合)
- 入社日(2024年9月1日)から6ヶ月経過した2024/3/1に、10日が付与される
- 2025年4月1日に1年6ヶ月で付与される日数の11日が、2026年4月1日に2年6ヶ月の付与日数として12日がそれぞれ付与される
初年度に付与された10日分の消滅時効は、2024年3月1日から2年後の2026年3月1日です。また、2回目に付与された11日分は2027年4月1日に、3回目の12日分は2028年4月1日に時効により消滅します。
有給休暇の繰り越しルール
付与された有給休暇をその年度で消化できなかったとき、繰り越しができます。
ここでは、有給休暇の繰り越しルールをみていきましょう。
有給休暇の繰り越しは翌年まで
当年度で未使用の有給休暇は次の年度に繰り越しができますが、繰り越せる回数は1回です。
繰越分と次年度の有給休暇がある場合に、どちらを優先するかは特に決まりがありません。消滅時効があるため、一般的には古い方を先に消化させています。
なお、有給休暇を翌年に繰り越しさせないことは違法になるため、注意しましょう。
翌年に繰り越しできる最大日数は15日
有給休暇には、後述する年5日の消化義務があるため、翌年に繰り越しができる日数は最大15日です。
たとえば、20日分の有給休暇が付与され、消化義務のある5日分だけ使用し、残りを翌年度に繰り越した場合、前年度の繰越分15日と当年度に新たに付与される20日を合計して、最大で35日の有給休暇を保有できることになります。
有給休暇の最大保有日数は原則40日
有給休暇の保有日数は、労働基準法に基づき以下のような仕組みで運用されています。
勤続6年6ヶ月以上の労働者には年間最大20日の有給休暇が付与され、未使用分は翌年に繰り越せる仕組みにより、理論上は前年からの繰越20日と新規付与20日を合わせて40日まで保有することが可能です。
2019年4月からの法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して年5日の取得が義務付けられていますが、これは最大保有日数の40日という上限に影響を与えるものではありません。ただし年度内で5日の有給休暇を必ず消費することになるため、実質繰り越したうえで保有できるのは35日、ということになるでしょう、
なお、就業規則で労働基準法よりも多くの有給休暇を付与している場合は、40日を超えて保有することも可能です。
時間単位での有給休暇の繰り越し
有給休暇を時間単位で取得できる「時間単位年休」を導入している場合も、同じく繰り越しが可能です。
時間単位年休は年に5日以内で有休を時間単位で付与できる制度であるため、次年度の時間単位年休の日数も、 前年度からの繰越分も含めて5日以内になります。
たとえば、所定労働時間が8時間の会社で、従業員が有休を3日分、時間単位年休6時間分を次年度に繰り越す場合、次年度の付与日数が11日とすると、当年度の有給休暇は14日と6時間です。
消滅する有給休暇は買い取ってもらえる?
「有給休暇を使う暇がないから、会社に買い取ってもらいたい」と考える従業員がいるでしょう。しかし、会社が有給休暇を買い取ることは、原則として認められていません。
有給休暇は労働者が心身の疲労を回復するための権利であり、会社が買い取ることはその権利を奪うことになるためです。会社は有給休暇を買い取るのではなく、消化してもらうよう働きかける必要があります。
ただし、次のようなケースでは、例外的に有給休暇の買い取りが認められています。
- 退職時に有給休暇が余った場合
- 労働基準法で定められた日数以上の有給休暇を与えている場合
- 有給休暇が消滅時効を迎えてしまったとき
これらのケースでは、買い取ることが従業員の不利益にならないため、認められています。
買取に際しては金額面をはじめとするトラブルが起きやすいため、これらのケースで有給休暇を買い取るときは、金額などの条件を記載した書類を用意しておきましょう。合意書や契約書などにより、双方の同意のもとに手続きを進める必要があります。
有給休暇の消滅後に申請はできる?
有給休暇は取得日より時効期間の経過によって消滅するため、消滅後の申請はできません。
有給休暇の消滅後に申請された場合は承認できないため、会社側はまだ消滅していない有給休暇で申請してもらう必要があります。
消滅した有給休暇については、会社側の判断で買い取ることが可能です。
労働者の権利である有給休暇を無駄にしないためには、積立休暇制度の創設なども検討するとよいでしょう。
有給休暇は何日連続で取得できる?
有給休暇を連続で取得できる日数について、労働基準法上の制限はありません。労働者は保有している有給休暇日数の範囲内であれば、何日でも連続して取得が可能です。
連続取得に制限はありませんが、以下の点に注意が必要です。
- 周囲への影響を考慮し、事前に会社への届出を行うことが望ましい(義務ではない)
- 業務に著しい支障がある場合、使用者は時季変更権を行使できる
なお、連続して取得できる有給休暇の日数を制限するような社内規定を設けることは、労働基準法の趣旨に反するため認められません。
有給休暇の消滅について違法・罰則の恐れがあるケース
有給休暇が消滅する時効期間を短縮したり、会社の都合で有給休暇を消化したりすると、違法・罰則となる可能性があります。
ここでは、違法・罰則になるケースを解説します。
時効期間を短縮する
有給休暇の時効消滅は、労働基準法によって2年と定められています。そのため、会社の判断で短縮することはできません。2年未満の消滅時効を定める就業規則や雇用契約は無効となります。
ただし、有給休暇の期限を就業規則等で2年超に定めることは従業員にとって有益な変更であり、違法ではありません。
会社側の都合で有給休暇を消化する
未消化分が多いからといって、会社側の都合で有給休暇を消化することは違法です。たとえば、店舗の来客が少ない、繁忙期ではないといった理由で有給休暇の取得を要求することは、労働者の権利を侵害する行為です。
あくまで有給休暇の取得は労働者の自由な意思に基づく必要があり、会社側の都合による有給休暇の消化は違法となります。
年5日の有給休暇を取得させなかった場合
日本の有給消化率は低く、取得状況を改善するため、2019年に有給休暇の消化を義務化する法律改正が行われました。
これにより、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者は、雇用形態を問わず、年間5日の有給休暇を消化することが義務付けられています。企業は従業員の意見も踏まえながら、時季を指定して計画的に有給休暇を消化させることが必要です。
所定日数の有給休暇を取得できていない従業員がいた場合、経営者には罰則が科される可能性があります。
有給休暇の消滅を防ぐための対策
従業員の有給休暇取得日数が年5日以下の場合、会社は法令違反で罰金を科される可能性があります。また、有給休暇の取得は労働者の権利であり、会社側は消滅を防ぐための取り組みが求められます。
どのような対策が必要か、詳しくみていきましょう。
消滅しないよう計画的に取得させる
会社側は従業員の有給休暇が消滅しないよう、計画的に取得させる必要があります。
そのために、年次有給休暇の計画的付与の制度を設けるという方法もあります。会社の義務である5日を超える分について、労使協定を結べば、計画的に付与できるという制度です。
制度を設けることで、会社の時季指定義務とともに、有給休暇の取得を促進できるでしょう。
半休や時間休の制度を取り入れる
半休や時間休の制度を取り入れることで、有給休暇の消滅を防止できます。
仕事が忙しくて1日の休暇取得が難しい場合でも、半日や時間単位で取得できれば、少しずつ休暇を取得できるでしょう。1日は休む必要のない用事がある場合に、有給休暇を有効活用できるのもメリットです。
なお、半休や時間単位年休の制度を取り入れる場合、就業規則の定めや労使協定の締結が必要です。
勤怠管理システムで管理する
有給休暇の管理が難しい場合は、勤怠管理システムの導入もおすすめです。
エクセルなど手入力で管理している場合、時間や手間がかかる上に、万が一ミスが発生した場合に有給休暇が消滅してしまったり、違法な状態になったりする可能性があります。
勤怠管理システムを活用すれば、従業員ごとに付与基準日や付与日数、取得日数を一元管理できるため、計画的に有給休暇取得を推進できます。
5日以上の有給休暇を取得していない従業員がいたときにアラートを発する機能があれば、早急に取得を促して違法状態の回避が可能です。
失効年休積立休暇を検討する
前にも少し紹介した失効年休積立休暇の制度を設ければ、有給休暇が消滅してしまっても無駄にはなりません。
本来2年で失効してしまうはずの有給休暇を積み立てておける制度であり、取得条件などのルールは会社が独自に定められます。
制度を設けることで従業員の有給休暇を取得する権利を守ることができ、企業イメージのアップにもつながります。従業員の定着率向上や、求人の訴求力アップなどの効果も期待できるでしょう。
有給休暇の消滅を防ぐ施策を考えよう
有給休暇は2年で消滅するため、期限内に消化しなければなりません。しかし、「仕事が忙しい」「休暇を申し出にくい」といった事情で消滅させてしまうケースが多数あります。
有給休暇は労働者の権利であり、会社側は消滅させないための施策を考え、積極的に取り組む必要があるでしょう。
勤怠管理システムの導入や、失効年休積立休暇の制度を設けるといった施策もぜひ検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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