- 更新日 : 2024年9月6日
私傷病休暇とは?内容や期間、メリット・デメリットを解説!
私傷病休暇とは、従業員が業務外の病気やケガのため就業できない場合に利用できる休暇制度のことです。法的に定められた休暇ではないため、制度の有無や期間などを企業が自由に決めることができます。本記事では、私傷病休暇の内容や期間、メリット・デメリットについて解説します。
目次
私傷病休暇とは?
私傷病休暇とは、業務外の事由で従業員が病気やケガをした場合に、雇用を維持したまま一定期間与えられる休暇制度のことです。法的に決められた休暇ではないため、制度を設けるのは義務ではありません。
また、制度を設けた場合でも、制度の期間や有給無給かどうかについては、企業ごとに自由に決めることができます。ただし、制度を設ける場合には、就業規則で規定する必要があります。
私傷病休暇はどの程度の期間もらえる?
私傷病休暇は法的な規定がないため、期間についても企業がそれぞれ決めることができます。一般的に私傷病休暇の期間は、3か月程度の短期間から2年程度の長期間としている企業が多いです。勤続年数によって、私傷病休暇の期間を決めている企業もあります。
私傷病休暇における給与や各種保険料の扱い
私傷病休暇を取得した場合に、企業はその期間に払う給与や、社会保険料の控除はどのように処理すればよいのでしょうか。本項では、私傷病休暇時における給与や各種保険料の扱いについて解説します。
法律上は給与の支払い義務はない
給与などの賃金は、労働者が労働の対償として受けとるものとして労働基準法に定められています。私傷病休暇時は従業員が労働の提供をできないため、労働の対償として給与を支払う義務はありません。
そのため、私傷病休暇時は無給であっても問題ありませんが、就業規則に私傷病休暇時は有給にすると記載がある場合には、給与を支払う必要があります。
一般的には長期の私傷病休暇時に従業員に給与を支給し続ける企業は少なく、そのような場合には健康保険からの傷病手当金の受給で対応するケースが多いです。
賞与については支給する企業もある
私傷病休暇時の賞与についても、支給の有無は企業ごとに決められます。一般的に賞与は後払いの企業が多いため、私傷病休暇前の賞与査定期間の勤務の実績に対して、賞与を支給する企業が多いです。
社会保険料は別途徴収が必要
厚生年金保険や健康保険などの社会保険料は、適用事業所に在籍している限り、企業と従業員が折半して支払わなければなりません。
従業員負担分の社会保険料は一般的には給与や賞与から控除して支払われますが、私傷病休暇中で給与の支払いがない場合であっても社会保険料の支払いは必要です。その場合には、企業が従業員負担分の社会保険料を徴収する必要があるため注意が必要です。
私傷病休暇制度を設けるメリット
私傷病休暇制度を設けることは、企業側にも従業員側にも様々なメリットがあります。本項では、私傷病休暇制度を設けるメリットについて解説します。
従業員にとっては復職のチャンスが残る
病気やケガは、いつ誰に起こるかは分かりません。長期の私傷病により働けなくなり復職のチャンスがない場合には、従業員は解雇の心配をしなければならないため安心して働けないでしょう。
私傷病休暇制度を設けることで、従業員には解雇を心配せずに安心して療養できるメリットがあります。
企業にとっては貴重な人材の確保・企業イメージの向上につながる
私傷病休暇制度を設けることで、病気やケガなどで療養している貴重な人材の流失を防ぎ人材を確保できます。また、私傷病休暇制度を設けることにより、従業員の労働環境が整備できている企業と認知され、企業イメージの向上につながります。
復職が難しい場合は「自然退職」が基本となりトラブルを防げる
病気やケガが長期になり私傷病休暇制度の期間が経過しても復職できなかった場合、多くの企業では就業規則に復職が難しい場合は退職扱いとすると規定しています。このように就業規則に規定しておくことで、病気やケガが業務外のものであれば退職は適法となるケースが多いようです。
そのため、私傷病休暇制度の期間が過ぎても復職できない場合は、就業規則に規定しておくことで自然退職が基本となり、トラブルを防ぐことができます。
私傷病休暇制度を設けるデメリット
私傷病休暇制度を設けることは、従業員側にはメリットが大きくデメリットがあまりない制度ですが、企業側には様々なデメリットがあります。本項では、私傷病休暇制度を設けるデメリットについて解説します。
社会保険料の支払いは継続して発生する
私傷病休暇期間中が無給であったとしても、厚生年金保険や健康保険などの社会保険料は支払わなければなりません。この間の従業員負担分の社会保険料を企業が立て替えた場合、従業員が私傷病休暇期間後に退職すれば立て替え分を回収できない可能性があります。
このようなことを避けるため、従業員の私傷病休暇期間前に社会保険料の支払いについての取り決めをしておくなどの管理が必要です。
社員を新しく補充するかの判断が難しい
従業員の私傷病休暇が短く復職の目処が立っているのなら問題はありませんが、いつまで長引くか分からない場合は従業員を補充するかの判断が難しくなります。
従業員を補充した後に私傷病休暇を取得していた従業員が復職した場合であっても、新しく補充した従業員を正当な理由なく解雇できないため注意が必要です。
私傷病休暇の申請手続き
業務外の病気やケガにより私傷病休暇を取得する場合、どのような流れで休暇を開始していくのでしょうか。本項では、私傷病休暇の申請手続きについて解説します。
従業員から私傷病休暇の取得を申請する・診断書等を提出する
まずは、従業員が病気やケガにより身体の異変を感じた場合は、病院などを受診して診断書を取得します。その後、従業員は私傷病休暇の取得を企業へ申請して、一般的には診断書などの病気やケガの状況が分かる書類を提出しなければなりません。
また、企業側が従業員の異変を感じるケースもありますが、その場合は従業員から聞き取りした上で病院での受診を勧めて診断書を提出してもらいます。
企業が私傷病休暇の要否を判断する
私傷病休暇の取得は、従業員から提出を受けた診断書を基に企業側が休暇の要否を判断して、休職命令を書面にて従業員に伝えるのが一般的です。私傷病休暇の要否や、休暇の開始日や満了日は、就業規則などに規定された企業ごとの基準に従って企業側が決めます。
私傷病休暇の終了手続き
私傷病休暇を終了する場合は、一定の流れに沿って進めていきます。本項では、私傷病休暇の終了手続きについて解説します。
休職期間の終了前に、継続の有無等を確認する
私傷病休暇期間の終了前に、従業員の状態を一旦確認することが大切です。その状態により、私傷病休暇の継続の有無や、短縮などを判断します。
従業員から職場復帰の申し出を行う
従業員が職場復帰を申し出があった場合は、職場復帰が可能かどうかを判断するために、病院の診断書を提出するように求めます。簡単に職場復帰を認めてしまうと、後々病気やケガが悪化して責任問題に発展する可能性があるため、診断書を確認することはとても重要です。
産業医やスタッフ・従業員との面接を行い、状態を確認する
私傷病休暇期間を終了して復職が可能か判断するために、産業医や産業保健スタッフと従業員との面談を実施することも必要です。接では、従業員の状態の確認と、仕事内容を考慮して復職できるかどうかを判断します。
問題なければ復職の判断を下す
企業は、病院の診断書や、産業医、産業保健スタッフとの面接を考慮して、問題なければ復職の判断を下します。
ただし、完全に完治していないのに従業員が復職を希望する場合もあるため、医学的判断だけでは難しいケースもあります。再発する可能性も考慮して、企業は復職の判断を慎重に行わなければなりません。
復職後しばらくはフォローアップを行う
私傷病休暇期間が終了して復職した場合、以前と同じ仕事を同じようにすることは難しい場合もあります。復職した後しばらくの間は、観察や監督、面談などによりフォローアップを行うことが大切です。
私傷病休暇でも使える?傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガのために休業した日が連続して3日間あった場合に、4日目以降の休暇した日に対して支給される健康保険の給付です。ただし、休暇した日に傷病手当金の額より多い報酬を企業から支給された場合は、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金よりも少ない報酬を企業から支給された場合は、傷病手当金と報酬との差額が支給されます。傷病手当金の支給額は、報酬の約3分の2ですが上限があるため注意が必要です。
傷病手当金の支給期間は、支給を開始した日から支給された日を通算して1年6ヵ月です。傷病手当金の申請方法は以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
参考:傷病手当金における申請書のもらい方 – 申請方法や条件も解説|マネーフォワード クラウド給与
傷病休暇規定のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
私傷病休暇は従業員が安心して働ける環境作りのために最適な制度
業務外の病気やケガのため就業できない場合の休暇である私傷病休暇は、法的に設置が義務付けられているわけではありません。そのため、私傷病休暇の設置や内容は企業によって自由に決められます。
しかし、従業員にとっては病気やケガのリスクは常に抱えているものであり、私傷病休暇が設置されている企業は安心材料の一つです。企業側にとっても従業員が安心して働ける環境作りは優秀な人材の安定確保にもつながるため、私傷病休暇制度の導入はメリットが大きいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
残業とは?定義、法定内残業と時間外労働の違いも解説!
残業とは、一般的には企業が定めた所定労働時間を超えて働くことです。ただし、労働基準法には労働時間の上限時間の定めがあり、法定労働時間を超えて働いた時間と残業時間が一致するとは限りません。 正しい労務管理のためには残業の意味や定義を理解し、割…
詳しくみるストレスは溜めない!集中力アップで業務効率最大化するテレワークのやり方とは
従業員に対してテレワークを指示ないし推奨する企業が増えています。 その一方で、テレワークを導入すると集中できなくなるのではないか、コミュニケーションが滞るのではないかなど、デメリットが気になる人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、テレ…
詳しくみる働き方改革とは?概要や関連法案を分かりやすく解説
日本は現在、生産年齢人口の減少、長時間労働、正規・非正規雇用の格差など、多くの問題を抱えています。働き方改革とは、これらの問題を解決するとともに、働く人々が多様で柔軟な働き方を選択し、能力を十分に発揮できる社会をつくることです。 働き方改革…
詳しくみるテンプレート付き-出張旅費規程とは?相場やサンプルも
出張旅費規定とは、出張に関わる経費を精算する際に基準となる規定です。 出張には宿泊費や交通費などの経費がかかります。加えて、出張中の食費や通信費を補助するための日当も支給しなければなりません。出張旅費規程内であれば日当を損金算入して法人税を…
詳しくみる60連勤は違法?労働基準法に基づき分かりやすく解説!
60連勤特有のきつさは、体力と精神力をすり減らし、回復の余地がない状態に追い込まれることです。 本記事では 「60連勤は違法なのか?」 という疑問を労働基準法に基づいて分かりやすく解説します。法令遵守はもちろん、従業員の健康や働きやすさを守…
詳しくみる時短勤務とは?制度の内容や適用対象、期間などを解説!
時短勤務とは、1日単位の所定労働時間を短縮して勤務することです。短時間勤務と呼ばれる場合もあります。働き方改革や少子化対策が求められる中、育児・介護休業法により制度を設けることが義務付けられています。この記事では時短勤務の定義や、対象者の要…
詳しくみる