• 更新日 : 2024年2月16日

労働災害(労災)とは?種類や対策について解説!

労働災害(労災)とは?種類や対策について解説!

企業の人事担当者にとって、労働災害の発生は避けられない課題の一つです。予期せぬ事故はいつでも発生する可能性があり、その際には迅速かつ適切な対応が求められます。本記事では、労働災害に関する基本知識から、発生時の法的責任、対応手順に至るまでを詳細に解説します。

労働災害(労災)とは?

労働災害とは、労働者が業務遂行中に業務に起因して負傷・疾病または死亡に至る事故のことを意味します。労働基準法の姉妹法である労働安全衛生法では、労働災害を「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」と定義付けています(労働安全衛生法第2条第1項第1号)。

ただし、業務上の疾病の場合、その発生が事故や災害などの突発的な事由に起因するものではなく、鉛中毒症、じん肺、などのように長期間、徐々に進行して生じたもののほか、食中毒や伝染病は除きます。

また、通勤途上の負傷・疾病または死亡という通勤災害は、業務災害に該当しません。

労働安全衛生法との関わり

労働災害の定義は労働安全衛生法に定められていますが、もともと安全衛生に関する規定は1947年に施行された労働基準法の「第5章 安全・衛生」に置かれていました。しかし、戦後の復興期及び、その後の高度経済成長期における労働災害死亡者数の増加を背景に労働災害を防止するための規制の整備・強化が不可欠となり、1947年に労働基準法から独立した法律として労働安全衛生法が制定・施行されたという経緯があります。

なお、労働基準法第42条では、「労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法の定めるところによる」とし、各条文は削除しながらも「第5章 安全・衛生」の表題は残しています。

ここでは、労働災害を防止するために労働安全衛生法に定められている主な内容を見てみましょう。

安全体制の確立

労働災害防止のためには、職場における安全体制の確立が不可欠です。そのために労働安全衛生法では、責任体制を明確化しています(労働安全衛生法第3章)。

一定の規模以上の事業場では、事業者は安全衛生に関する業務を総括管理する総括安全衛生管理者のほか、その下で安全に関する技術的事項を管理する安全管理者、衛生に関する技術的事項を管理する衛生管理者、そして専門家として労働者の健康管理に当たる産業医を選任する義務があります。

中小規模事業場についても、安全衛生水準の向上を図るため、安全衛生推進者を選任し、労働者の安全や健康確保などに係わる業務を担当させることが義務付けられています。

また、一定の規模に該当する事業場では、安全・衛生に関する事項を調査・審議し、事業者に意見を述べる安全委員会や衛生委員会を設置しなければなりません。

労働者の危険または健康障害を防止するための措置

事業者は、労働者の危険または健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません(労働安全衛生法第4章)。具体的には、次の措置を講じることが義務付けられています。

① 機械・器具などによる危険を防止するための措置

② 掘削、採石、荷役などの業務の作業方法から生じる危険を防止するための措置

③ 墜落のおそれのある場所などにおける危険を防止するための措置

④ 原材料、ガス、蒸気、粉じんなどによる健康障害を防止するための措置

⑤ 通路・床面・階段の保全、換気、採光などのほか、清潔に必要な措置

⑥ 労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するための必要な措置

また、事業者は、設備、原材料、作業行動などに起因する危険性や有害性等を調査(リスクアセスメント)をし、その結果に基づいて労働者の危険や健康障害を防止するための必要な措置を実施することが努力義務とされています。

機械等ならびに危険物および有害物に関する規制

一定の機械、危険物、有害物については、労働災害の防止の危険防止基準の確立の一環として規制が設けられています(労働安全衛生法第5章)。具体的には、ボイラーなど、特に危険な作業を必要とする機械については特定機械等とし、製造許可、製造時等検査、検査証の交付などで都道府県労働局長や労働基準監督署長による厳しいチェックを受けることになります。

また、黄リンマッチ、ベンジジンなど、重度の健康障害を生じる有害物質については、製造が禁止されるだけでなく、輸入、譲渡、提供、使用も禁止されているほか、これ以外にも厚生労働大臣の許可がなければ製造できない有害物質などについて定められています。

労働者の就業に当たっての措置

労働災害を防止するためには、上記のほかに労働者自身が安全衛生に関する知識を高め、その重要性を認識することが重要となります。

そこで、労働者の就業に当たっての措置として、事業者に安全衛生教育や研修を実施することを義務付けています(労働安全衛生法第6章)。

事業者が労働者を雇い入れたときや、作業内容を変更したときは安全衛生教育をしなければなりません。さらに、労働者を特定の危険・有害な業務に従事させるときは、特別の教育をする必要があります。また、新たに職務に就くことになった職長には、作業方法の決定、指導監督の方法等について安全衛生の教育を行うこととされています。

クレーンの運転など、危険性が伴う一定の業務については、免許を受けた者や技能講習を修了した者など有資格者でなければ従事させてはならないという就業制限も定められています。

労働災害の種類

労働災害が発生した場合、労働者災害補償法(労災保険法)では、被災労働者や遺族に対し、所定の保険給付をすることになっています。この労災保険法では、保険給付の対象となる災害を労働安全衛生法上の労働災害である業務災害だけでなく、通勤災害も含めています。

また、第三者行為災害という態様についても保険給付の仕組みを定めています。

業務災害

労働基準法では、「第8章 災害補償(第75条~88条)」において、労働者に業務上の災害が発生した場合、事業主に労働者または遺族に対する補償義務を定めています。この補償義務は、事業主に過失がなくても負わなければならない無過失責任とされています。

しかしながら、実際には事業主が速やかに補償してくれない可能性もあります。そこで被災労働者や遺族が確実かつ迅速に補償を受けることができるように労働者を雇用する事業主には強制的に保険制度への加入を義務付けました。これが労働基準法と同じ1947年に施行された労災保険法であり、保険料は全額、事業主の負担となります。業務災害が発生した場合には、事業主が直接、補償するのではなく、労災保険から保険給付されます。

通勤災害

労働安全衛生法において通勤災害を労働災害としていないのと同様、もともと労災保険法でも通勤災害は保険給付の対象外としていました。その後、高度経済成長期にマイカー通勤の増加とともに交通事故が増えたことを背景に、1973年に改正されました。

通勤災害も労災保険の支給対象とされましたが、事業主には使用者としての責任はないため、業務災害とは異なり、労働基準法上の事業主の補償義務は負いません。

第三者行為災害

業務災害、通勤災害のいずれも被災労働者だけが関与して発生する場合のほか、加害者(第三者)が関与して発生する場合があります。後者を労災保険法では、第三者行為災害と呼んでいます。

事例としては、交通事故による業務災害、通勤災害が多いと思われます。被害者には、加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権が発生します。一方、労災保険に対しては保険給付請求権が生じます。同一の事由で両者から重複して損害の補填を受けることになれば、実際の損害額よりも多くの支払いを受けることになり、不合理です。そこで、労災保険法では両者を調整することとしています。

労働災害が発生した場合の事業者の法的責任

万が一、労働災害が発生した場合、事業者にはどのような責任が生じるのでしょうか。ここでは、刑事責任、民事責任、行政上の責任など法的な責任に加え、社会的責任についても考えてみます。

刑事責任

労働災害が発生した際、事業者は刑事責任を問われる場合があります。これは、労働安全衛生法などの法律に基づくもので、事業者が安全管理義務を怠ったことが原因で労働災害が発生した場合に適用されます。例えば、適切な安全対策を講じていない、必要な安全教育を従業員に提供していないなどの状況が該当します。労働安全衛生法では、罰則として次のように定めています(労働安全衛生法第117条~第122条)。

  • 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
  • 6月以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 50万円以下の罰金

また、重大な過失があった場合には、業務上過失致死傷罪などで刑事訴追される可能性があります。なお、労働安全衛生法では故意があれば死傷を問わず犯罪として成立するのに対し、刑法上の業務上過失致死罪は死傷が生じることで成立する点が異なります。

民事責任

労働災害が発生した場合、被災労働者や遺族は、労災保険から保険給付を受けることができますが、慰謝料など、保険給付の対象とならないものもあります。こうした損害については、事業者は民事上の損害賠償責任を追及されることがあります。主に民法上の不法行為責任(民法第709条)、労働契約法の労働者の安全配慮(労働契約法第5条)などが根拠法となっています。

行政責任

労働災害が発生した場合、事業者は行政上の責任も負います。この責任は、労働基準監督署からの指導や処分という形で現れます。労働基準監督署は、労働災害の発生を受けて事業場の調査を行い、その結果に基づいて事業者に対して必要な指導や命令を出すことができます。これには、労働安全衛生法違反に対する是正命令の発出や、再発防止のための指導などが含まれます。

重大な違反が発見された場合、労働基準監督署は事業者に対して罰金や業務停止などの行政処分を下すことがあります。また、事業者が安全管理義務を怠ったことが明白な場合、労働基準監督署は事業者を刑事告発することも可能です。

補償責任

労災保険法では、労働者を1人でも使用する事業は強制適用事業とされ、原則として労災保険に加入する義務があります。事業主は労災保険に加入することにより、労働基準法上の災害補償義務を免れることになります。

しかし、労災保険では例外として強制的に適用されない暫定任意適用事業というものがあります。次の3つが該当します。

  • 労働者数5人未満の個人経営の農業であって、特定の危険または有害な作業を主として行う事業以外のもの
  • 労働者を常時は使用することなく、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
  • 労働者数5人未満の個人経営の畜産、養蚕または水産(総トン数5トン未満の漁船による事業等)の事業

これらの暫定任意適用事業において労働災害が発生した場合、事業主は労働基準法に基づいて被災労働者に補償しなければなりません。

社会的責任

労働災害が発生した場合、事業者は法的責任に加えて社会的責任も負います。この社会的責任は法律によって直接規定されるものではないものの、企業の信頼性や社会的評価に大きな影響を与えます。

死亡事故のような特に重大な労働災害が発生した場合、事業者は発生状況を適切に報告し、関係するすべての当事者に対して責任を明確にしなければなりません。これには従業員、その家族だけでなく、顧客、投資家、地域社会などのステークホルダーも含まれます。また、事故の原因を徹底的に調査し、再発防止のための具体的な対策を講じ、公開することが求められます。

社会的責任は、企業のイメージやブランド価値にも直接関わるため、事業者は災害後の危機管理にも十分な注意を払う必要があります。顧客や社会に対する企業の責任を重視する傾向が強まる昨今は、非常に重要なことだといえるでしょう。

労働災害の事例

労働災害の事例として、化学工場での薬品漏洩による労働者の中毒死のケースを「発生状況」「原因」の観点から見てみましょう。

発生状況:

ある化学工場で、有害な薬品が漏洩し、作業中の労働者がその蒸気を吸入。労働者は複数の臓器に重度の損傷を受け、病院に運ばれたが、治療にもかかわらず死亡した。事故発生時、工場の換気システムは不十分で、有害蒸気が十分に排出されていなかった。さらに、労働者は適切な保護具を装着しておらず、直接有害物質に曝露された状態で作業を行っていた。

原因:

【直接原因】

労働者が適切な保護具を装着していなかったこと、および工場の換気システムが不十分だったこと。

【間接原因】

  1. 工場で使用されている有害薬品の管理が不適切で、漏洩を未然に防げなかったこと。
  2. 労働安全衛生マネジメントシステムが十分に機能しておらず、リスク評価や安全対策の実施が不十分だったこと。
  3. 労働者への適切な安全教育や保護具の提供が行われていなかったこと。

この事故は、化学工場における有害物質の取り扱いと労働者の安全確保の重要性を浮き彫りにしています。特に、労働安全衛生管理の徹底と適切な保護具の使用が、重大な労働災害を防ぐ上で不可欠であることを示しています。

労働災害を防ぐための「労働安全衛生マネジメントシステム」とは

労働安全衛生マネジメントシステム(Occupational Safety and Health Management System、略称: OSHMS)は、職場の安全と労働者の健康を守るための体系的なアプローチです。このシステムは、事業者が労働災害を予防し、職場環境を改善するために策定し実施する計画です。日本においては、労働安全衛生法に基づき、事業者は労働者の安全と健康を保護するための責任を負います。OSHMSはこの法的義務を果たすための具体的な手段の一つとして位置づけられています。

OSHMSの主要な要素には、リスク評価、危険予防措置の策定と実施、事故発生時の緊急対応計画、定期的な安全監査、労働者への安全衛生教育・訓練などが含まれます。これらのプロセスを通じて、事業者は労働災害のリスクを特定し、これを最小限に抑えるための対策を講じます。

労働安全衛生マネジメントシステムは、単に法規制を遵守するだけでなく、職場の安全文化を構築し、労働者の安全意識を高めることにも寄与します。継続的な改善と従業員の積極的な参加を奨励することで、より安全で健康的な職場環境を実現することを目指しています。

労働災害が発生したら?対応手順

では、実際に職場において労働災害が発生した場合、どのように対応すればよいのでしょうか。いざというときに慌てないようにポイントを適切に把握しておきましょう。

① 現場の確認・対応を行う

労働災害が発生した際には、まず現場の安全を確保し、必要な救護措置を行うことが最優先です。危険源を特定し、他の労働者へのリスクがないように措置を講じます。怪我人がいる場合には、ただちに応急処置を施し、必要に応じて医療機関への搬送を行います。事故現場は、原因調査のために可能な限りその状態を保持することが重要です。

➁ 原因を調査する

緊急対応が完了した後、事故の原因を徹底的に調査します。これには、事故の目撃者からの聞き取り、現場の状況分析、関連する機器やツールの点検が含まれます。事故の直接的な原因だけでなく、間接的な原因や背景にある問題も明らかにすることが必要です。

③ 労災保険の手続きを行う

労働災害が発生した場合、被災した労働者に対しては労災保険の給付が行われます。事業者は、事故の発生後速やかに労災保険の手続きを行う必要があります。所定の保険給付請求書に労務担当者または被災労働者や遺族が必要事項を記載し、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出します。

④ 死者や休業者が出た場合、労働基準監督署へ届出を行う

死亡事故や休業を伴う労働災害が発生した場合、労働安全衛生法により、労働者死傷病報告を遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出することが義務付けられています。労働者死傷病報告を提出しない場合や虚偽の報告をした場合は、「労災かくし」として、50万円以下の罰金に処される可能性があります。

また、労働安全衛生規則第96条に規定する事業場内での火災や爆発などの事故があった場合には、労働基準監督署に労災事故報告書を提出しなければなりません。

※「労災事故報告書」についての詳細は、こちらの記事をご覧ください

⑤ 再発防止対策

労働災害の発生後、事業者は同様の事故の再発を防止するための対策を講じる必要があります。これには、事故原因の徹底的な分析に基づくリスク管理の見直し、安全教育や訓練の強化、作業プロセスや安全規程の改善が含まれます。事業者は、労働安全衛生マネジメントシステムを活用して、継続的な安全管理の向上を図ることが重要です。また、労働者とのコミュニケーションを強化し、彼らの安全意識を高める取り組みも効果的です。これらの対策は、労働災害の予防だけでなく、職場の全体的な安全文化の向上に寄与します。

労災保険の加入条件および給付の種類

労災保険では、業務災害だけでなく、通勤災害についても必要な保険給付を行います。公的な社会保険の1つですが、他の社会保険と異なり、被保険者として個人が加入するのではなく、事業所単位で適用され、適用事業所で使用される労働者は正社員、パートやアルバイトなど関係なく、すべて給付の対象となります。

事業所については、前述のように原則として労働者を1人でも使用していれば当然、適用事業所となり、強制的に加入義務が生じます。事業主は保険関係成立の手続きをしなければなりません。

労災保険における保険給付は、業務災害については、基本的に労働基準法の災害補償で定められている本来、事業主に支払義務がある各補償を肩代わりする内容となっています。通勤災害についても保険給付の内容は、基本的に業務災害の場合と同様ですが、事業主に補償責任はないことから、給付の名称には「補償」という言葉が付されていません。

具体的には、傷病、障害など、保険給付の原因となる事由(保険事故)ごとに次のような種類があります。

  1. 傷病
    • 療養(補償)給付:治療代
    • 休業(補償)給付:収入補填
  2. 障害
    • 障害(補償)給付:後遺障害手当
  3. 死亡
    • 遺族(補償)給付:遺族への生活費
    • 葬祭料(葬祭費用):葬儀費用

これら以外にも、介護(補償)給付や、労働安全衛生法で定める定期健康診断(一次健康診断)の結果、異常の所見が認められた場合に脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断に加えて脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を無料で受診できる二次健康診断等給付があります。

※労災保険の加入条件および給付の種類詳細については、以下の記事をご覧ください

労働災害への正しい対応で労働者と企業を守ろう!

労働災害は、企業にとって重要なリスク管理の一つです。

事故予防のための労働安全衛生マネジメントシステムの導入や、労災保険への適切な加入といった対策も重要となります。日々の業務の中でこれらの知識を活かし、労働者の安全と健康を守ることが企業の持続可能な発展に寄与するでしょう。


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