• 更新日 : 2025年7月16日

懲戒解雇とは?解雇要件および解雇の手続きについて解説!

企業が従業員を懲戒解雇により退職させるには、懲戒解雇の要件に該当するとともに、法律に定められた解雇の手続きを踏む必要があります。

何をしたら懲戒解雇ができるのかは、会社の就業規則などに定めが必要です。ここでは、懲戒解雇と普通解雇の違いや懲戒解雇の要件、手続き、不当解雇とならないための注意点についてわかりやすく解説します。

目次

懲戒解雇とは?

従業員の行為が企業秩序に違反する場合、企業は従業員に対して懲戒処分を行うことがあります。懲戒解雇は、その懲戒処分の種類の中でも最も従業員にとって不利益となる重い処分です。会社側(使用者)が一方的な意思表示により労働契約を終了させることを解雇と呼びますが、同じ解雇でも企業の重大な秩序違反をした従業員に対して行う制裁罰である懲戒解雇と普通解雇とでは違いがあります。

普通解雇との違い

普通解雇とは、従業員が将来的に債務を履行できないと判断した場合に、会社側の理由により労働契約を一方的に終了させることを意味します。労働契約は使用者と労働者の労務提供に関して対等な立場で結んだ契約であり、企業が従業員の債務不履行と呼ばれる契約上の責任を問うことができる場合には、労働契約を一方的に解除することが可能です。

普通解雇の中には、従業員に責任がなく経営上の理由で整理解雇を行うケースや、労働者側の理由により企業が将来的に従業員が労働債務を履行できないと判断して解雇するケースの2つがあります。

【整理解雇のケース】

  • 経営上の理由による事業縮小
  • 不採算となる事業所の閉鎖
  • 経営上必要な人員削減

【労働者側の理由により解雇するケース】

  • 私傷病による病気やケガ、身体や精神の障害などにより業務に耐えられない場合
  • 能力不足、勤務成績不良により従業員として適さないと判断した場合
  • 勤務態度不良により従業員として適さないと判断した場合
  • 協調性の欠如など他の従業員に悪影響がある場合

一方、懲戒解雇は、企業が定めた刑事罰のようなものであり、企業の重大な秩序違反による制裁罰として一方的に労働契約を解除する解雇の一種です。退職金が支給されないほど不利益が大きい処分であり、普通解雇とでは意味が異なります。したがって、就業規則にも普通解雇と懲戒解雇の規定は区別して規定する必要があります。

懲戒解雇の要件・基準

企業には当然に懲戒権があるのか、労働者が労働契約で具体的に同意している限度内でのみ懲戒処分が可能となるのかは、諸説あるところです。判例では、労働者は労働契約に従い「労務提供義務」とともに「企業秩序を遵守すべき義務」を負い、使用者側は労働者の企業秩序違反に対して懲戒処分ができるとされています。

また、企業が従業員を懲戒解雇するには、あらかじめ労働契約の内容となる就業規則に懲戒処分の種類や事由を定めておく必要があり、就業規則に根拠がなければ、懲戒解雇をすることができないとされています。ここでは、代表的な懲戒解雇に該当する事由・要件について紹介します。

参考:
労働政策審議会労働条件分科会 第68回資料 関西電力事件(昭和58年最高裁第一小法廷判決)|厚生労働省
労働政策審議会労働条件分科会 第68回資料 フジ興産事件(平成15年最高裁第二小法廷判決)|厚生労働省

セクハラ・パワハラ

職場で重大なセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが行われていれば、企業の秩序を維持することはできません。マタニティハラスメントやジェンダーハラスメントなども同様です。ハラスメントにより従業員に強い心的ストレスが積み重なれば、従業員が精神疾患に罹患する可能性があり、企業の秩序に大きな影響を与えます。

無断欠勤

無断欠勤も、注意や指導しても改善が見られないときや長期間となるときには、懲戒解雇の事由になります。労働基準法第20条(解雇の予告)の解雇予告除外認定の基準となる「労働者の責に帰すべき事由」を示した通達に「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、会社の督促に応じない場合」とあることからも、長期間の無断欠勤は労働者の過失として認められるでしょう。したがって、解雇予告除外認定の基準が必ずしも懲戒解雇を有効とするわけではありませんが、多くの企業の就業規則で長期間の無断欠勤を懲戒解雇の事由に定めています。

従業員が労務提供義務という基本的な労働契約上の義務を果たさなければ、重大な債務不履行行為になります。無断欠勤をする従業員がいれば、その分他の従業員の負担が増えます。企業の人員配置に影響を与えることがあれば、企業の秩序を乱すことになりかねません。ただし、懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分です。懲戒解雇が無効となるリスクもあるため、軽微なものであれば、普通譴責・減給・出勤停止など、懲戒解雇よりも軽い処分や普通解雇を行うことを検討したほうがよいでしょう。

参考:解雇予告除外認定申請について|厚生労働省・岩手労働局・労働基準監督署

経歴詐称

経歴詐称で懲戒解雇が有効となるためには、経歴詐称が悪質であり、企業に誤った判断をさせる行為となるかが重要となります。したがって、経歴詐称が重要なものといえない場合は、懲戒解雇の処分は無効となる可能性があるため注意が必要です。

重大な犯罪歴を詐称した場合や業務に必要な資格を持っていると偽ったケースでは、懲戒解雇が可能かもしれません。しかし、弁明の機会を設け、知っていたら労働契約を結ばなかったといえるほどの重大な経歴詐称となるかを慎重に判断する必要があります。わずかな期間の勤務履歴を履歴書に記載しなかった場合や、学歴や勤務歴の年月日の単純な書き間違え程度の軽微のもので懲戒解雇とするのは難しいでしょう。

犯罪行為

暴行・傷害、脅迫、名誉棄損、酒酔い運転・酒気帯び運転、窃盗、横領、賭博などが刑法犯に該当し、職場内で行われたのであれば、懲戒解雇の事由になり得ます。ただし、これらの犯罪行為が職場外で行われたとなると、判断は難しくなるでしょう。

原則として、業務外の犯罪は懲戒処分の対象外です。ただし、事業活動に直接的な関連や影響があるときや、企業の社会的名誉・信用が害される場合には、懲戒解雇が有効となるケースがあります。会社の社会的名誉・信用が害される場合であっても、企業規模や業種、犯罪行為を行った従業員の地位や業務内容、報道の有無やその影響の程度、クレームの有無や顧客や取引先への影響など、さまざまな点を総合的に考慮して有効かどうかが判断されることになります。

懲戒処分行動を何度も繰り返す

会社が何度注意しても問題行為を繰り返す場合には、1つの行為が懲戒解雇するほどの事由に当てはまらなかったとしても、悪質で重大なものと判断され、懲戒解雇ができるケースがあります。

過去に類似の非違行為を行い処分を受けたのにもかかわらず繰り返す場合や、同時に2つ以上の懲戒処分に該当する行為を行った場合には、当該行為に該当する処分を加重して、懲戒解雇とするケースもあります。ただし、懲戒処分の加重についても、就業規則に根拠を明確に定めておく必要があります。

懲戒解雇の要件「社会通念上の相当性」の判断基準

懲戒解雇は、企業が行う懲戒処分の中でも最も重いものであり、法律上は「社会通念上相当であること」が要件となります。その妥当性を判断するための観点を解説します。

社会通念上の相当性とは何か

「社会通念上の相当性」とは、懲戒解雇という重大な処分が、一般的な社会の常識や価値観から見て妥当であると判断されることを意味します。労働契約法第15条では、「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当と認められない場合には、解雇は無効」とされています。

法的有効性を確保するためには、行為の内容だけでなく、その処分が社会的に納得されるレベルにあるかどうかを検討する必要があります。

判断基準となる主な要素

社会通念上の相当性を評価するためには、以下のような複数の要素を総合的に勘案する必要があります。

  • 違反行為の内容と悪質性(故意か過失か、業務に与えた影響の程度)
  • 被害者や周囲への影響(会社の名誉や他従業員への影響)
  • 就業規則における明確な懲戒事由の有無
  • 同種行為に対する過去の処分との一貫性
  • 本人の反省の態度や再発防止の可能性
  • それまでの勤務態度や勤続年数

    たとえば、横領やセクハラ、重大な虚偽申告などの行為があっても、初犯かつ被害が軽微であり、本人が深く反省しているような場合には、即座の懲戒解雇が「重すぎる」と判断されることもあります。逆に、再三の注意にもかかわらず行為が繰り返された場合には、解雇が相当と認められる可能性が高くなります。

    懲戒解雇を行う際の手続き

    重大な犯罪行為などがあれば別ですが、懲戒解雇はハードルが高く、裁判などでは過去に注意や指導もしていない状態ではなかなか認められません。したがって、手順を間違えると懲戒解雇が無効となるリスクがあります。懲戒解雇を行う際には、懲戒解雇をせざるを得ないといえる事実の積み重ねが重要です。

    次の手順に従って進めるのがよいでしょう。

    ①注意や指導をする

    従業員が問題となる行為を行った場合には、注意や指導を行い、従業員に改善する機会を与えます。書面による指導書を交付することや始末書を提出させるなど、従業員に改善を促すとともに、記録を残しておくことが重要です。何度注意しても改善されず再度同じ行為をした場合には、懲戒解雇を検討せざるを得ません(懲戒処分の加重)。ただし、一度過去に処分をした行為に対して懲戒処分をすることはできません(二重罰の禁止)。

    ②懲戒解雇を通知する

    解雇は企業側から一方的に労働契約を解除する行為であり、契約解除の意思を到達させなければ効力が発生しません。

    ③弁明の機会を設ける

    情状酌量の余地があるようなら、普通解雇とすることや懲戒処分を軽減することも検討しましょう。公平性や平等性の観点からも、弁明の機会を設けることが必要です。

    ④解雇予告

    懲戒解雇も解雇であり、労働基準法第20条の解雇予告の手続きが必要です。ただし、「労働者の責に帰すべき事由」に該当し、労働基準監督署の認定を受けた場合には、解雇予告の手続きをすることなく解雇することが可能です。

    懲戒解雇通知の無料テンプレート・ひな形

    懲戒解雇を通知する際には、適正な手続きを踏むことが必要です。これには、事実関係の確認、法的要件の確認、弁明の機会の提供などが含まれます。

    マネーフォワードクラウドでは、実務で使用できる、懲戒解雇通知書のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。
    ベースを保ちつつ、自社の様式に応じてカスタマイズすれば使い勝手の良い書類を作成できるでしょう。この機会にぜひご活用ください。

    懲戒解雇に関する就業規則の整備と周知

    懲戒解雇は企業にとって重大な処分であり、適正に行うためには、就業規則による明文化と労働者への周知が欠かせません。法的有効性を担保するために、整備すべきポイントを解説します。

    就業規則に懲戒解雇の事由と手続きを明確に定める

    労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、就業規則の作成と届出を義務づけています。その中で、懲戒処分に関する事項、特に懲戒解雇に関しては、具体的な事由や手続きの定めが必要です。

    たとえば、懲戒解雇の対象となる行為として、「横領」「重大な背信行為」「就業規則違反の繰り返し」などを列挙し、どのような行為が解雇に該当するかを労働者が理解できるよう明記します。また、処分の決定までに弁明の機会を設ける旨や、懲戒処分の段階(戒告、けん責、出勤停止など)を併せて記載することで、手続きの公正性も保たれます。

    就業規則が曖昧であると、懲戒解雇が「予見可能ではなかった」とされ、無効と判断されるリスクが高まります。規定は具体的かつ客観的であることが重要です。

    周知徹底がなければ規定の効力が認められない

    就業規則を整備するだけでは不十分であり、労働者への周知も法律上の要件です。労働基準法第106条に基づき、就業規則を常時見られる場所に掲示する、書面で配布する、社内ポータルサイトで公開するなどの方法で、労働者がいつでも確認できる状態にしておくことが求められます。

    また、入社時に就業規則の説明を行い、内容に同意を得たことを確認する手続き(署名付きの説明書の提出など)を取り入れることで、後のトラブル防止につながります。特に懲戒に関する項目は、重要な労働条件のひとつであり、周知義務の中でも優先度の高い項目です。

    規定と実際の運用に一貫性を持たせることが重要

    就業規則に記載された内容と、実際の運用にズレがある場合、裁判などで企業側が不利になることがあります。たとえば、同様の行為に対して過去に軽微な処分しかしていなかった場合、急に懲戒解雇を行うと「一貫性がない」と判断されかねません。

    そのため、懲戒処分の履歴や判断理由を記録として残し、社内で統一した基準に基づいて処分を行う体制づくりも必要です。就業規則の見直しも、法改正や社内の事情に応じて定期的に実施し、現実に即した内容とすることが求められます。

    懲戒解雇に告知義務はある?

    懲戒解雇は企業側から一方的に労働契約を解除する行為であり、契約解除の意思を到達させるためにも告知が必要です。また、労働基準法第20条では、

    「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」

    と定めており、懲戒解雇をする際にも予告が必要となります。

    引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

    「労働者の責に帰すべき事由」に該当する場合には、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受ければ、予告なしに懲戒解雇をすることができます。ただし、懲戒解雇をする前に解雇予告外認定を受ける必要があり、認定を受ける前に懲戒解雇を告知してしまうと、解雇予告の手続きが必要となるため注意が必要です。

    【解雇予告除外認定の対象となる「労働者の責に帰すべき事由」に該当する行為】

    1. 刑事犯に該当するような行為(極めて軽微なものは除く):窃盗、横領、傷害など
    2. 職場の規律を乱し、他従業員に悪影響を与えるような行為:賭博、風紀の乱れなど
    3. 経歴詐称(採用条件の要素となる経歴、採用時に不採用の原因となる経歴の詐称)
    4. 他企業へ転職
    5. 正当な理由のない無断欠勤(2週間以上で催促しても出勤に応じない)
    6. 勤務不良(注意しても改善されない)

    参考:解雇予告除外認定申請について|厚生労働省・岩手労働局・労働基準監督署

    不当な懲戒解雇にならないための注意点

    懲戒処分の有効性については、労働契約法で判断されることになります。労働契約法第15条には以下の定めがあります。

    【労働契約法第15条(懲戒)】

    使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

    引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

    法律上では、従業員に問題行動があり、就業規則に定めた懲戒解雇の事由に該当して懲戒解雇ができるとしても、客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ権利の濫用となり、無効となります。つまり、就業規則に規定があり、きちんとした手続きを踏んで懲戒解雇を行ったとしても、処分が重すぎると判断されれば無効となるのです。

    懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い制裁罰となるため、普通解雇と比べてハードルが高いといえます。やむを得ず懲戒解雇をする場合には、不当解雇とならないように、以下の点に注意しましょう。

    • 就業規則に懲戒処分の種類や事由が定めてあり、懲戒解雇ができる内容となっているか
    • 従業員の行為が企業の秩序を乱す行為に該当するか
    • 注意した記録や従業員の誓約書や始末書などがあるか
    • 従業員の行為が懲戒解雇の事由に該当するか
    • 懲戒処分を行う前に弁明の機会を与えているか
    • 過去の懲戒処分の事例と比べて公正性・平等性が保たれているか

    この場合は懲戒解雇が妥当?―懲戒解雇の可否を判断するための考え方

    懲戒解雇は企業にとって最も重い処分であり、その有効性は厳格に判断されます。実務では「このケースは懲戒解雇に該当するのか」と迷うことも多く、判断を誤れば無効となるリスクもあります。以下、代表的なケースをもとに判断のポイントをQ&A形式で解説します。

    Q1:無断欠勤が10日間続いた社員を懲戒解雇にしたい。可能か?

    A:可能性はありますが、慎重な判断が必要です。就業規則に無断欠勤の懲戒事由が明記されており、かつ本人と連絡が一切取れない状況であれば、懲戒解雇が認められる可能性があります。ただし、無断欠勤による解雇では14日以上がひとつの目安とされているため、10日では認められない可能性が高いでしょう。また、病気や家庭事情などやむを得ない事情があった場合には、懲戒解雇は無効とされるリスクもあるため、事実確認と弁明の機会の確保が不可欠です。

    Q2:業務中に私的な動画を長時間視聴していた社員に懲戒解雇は可能?

    A:通常は、直ちに懲戒解雇とするのは重すぎると判断されます。まずは注意・けん責など軽度の懲戒処分を行い、再発や悪質性がある場合に段階的に処分を重くするのが適切です。初犯であり、業務への支障が軽微であれば、懲戒解雇は社会通念上相当とは認められにくいと考えられます。

    Q3:会社の営業機密を社外に漏洩した社員に懲戒解雇は可能?

    A:営業秘密の漏洩行為は、懲戒解雇が認められる代表的な事由の一つです。行為が故意であり、かつ会社に実害が生じた、または重大なリスクを発生させた場合には、就業規則上の定めがあれば懲戒解雇が妥当とされる可能性が高いです。ただし、事実関係の調査と、処分の前提となる手続きを丁寧に進めることが前提となります。

    懲戒解雇が与える労働者の再就職への影響・企業の対応策

    懲戒解雇は、企業が従業員に課す最も重い処分であり、その影響は解雇時点にとどまらず、労働者の今後のキャリアや生活にも深く関わります。一方、企業にとってもその後の対応によって法的・社会的リスクが生じることがあるため、適切な対処が求められます。

    懲戒解雇が労働者に与える再就職への影響

    懲戒解雇された事実は、履歴書や職務経歴書には明記の義務はありませんが、前職の退職理由を問われた際に、正直に回答すべきか迷うケースが多く見られます。また、前職への在籍確認などで懲戒解雇の事実が判明する可能性がある場合、採用に悪影響を与えるリスクは高まります。

    懲戒解雇の内容が社会的に重大なものであった場合、採用側企業の懸念も大きくなり、採用に至らないケースも少なくありません。特に、業務上の不正、横領、重大なハラスメント行為などは、職場の信頼性や安全に直結するため、再就職への壁となりやすいのが実情です。

    懲戒解雇を行う企業がとるべき対応策

    懲戒解雇を行う企業は、処分の正当性を担保するだけでなく、労働者への配慮とリスク管理の両面から対応策を講じる必要があります。まず第一に重要なのは、懲戒解雇を決定する際の手続きと記録の適正化です。弁明の機会を与えること、公平な調査を行うこと、就業規則に基づいた判断を行うことが前提となります。

    また、退職証明書の発行にあたっては、本人の希望がない限り「懲戒解雇」の具体的理由を記載しないことが原則です。本人が希望する場合には、「懲戒解雇である旨」の記載に応じる義務がありますが、強制はできません。この点を誤ると、プライバシー侵害や名誉毀損として訴訟リスクを招く可能性もあるため注意が必要です。

    従業員が不当な懲戒解雇を受けた場合

    従業員が企業から懲戒解雇をされて納得ができない場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。従業員の立場からも考えてみましょう。

    ①会社に対して懲戒解雇の理由を求める

    従業員が企業に対して退職の理由(解雇の理由)について証明書を請求した場合、企業は証明書を交付しなければなりません。解雇理由の証明書に具体的な理由が記載されていない場合には、さらに具体的な理由を求め、その理由に対して反論する必要があります。

    ②懲戒解雇の手続きが就業規則に定めた手続きを行われているかをチェックする

    就業規則に懲戒処分の規定がない場合や定められた手続きに則っていない場合には、企業は懲戒解雇をすることができません。

    ③企業と労働者で直接解決・和解に向けた交渉をする

    当事者間で話し合って解決できるのであれば、それが最も解決が早く、望ましい方法です。懲戒解雇の理由に納得できなければ、無効であることを主張し、撤回を求めます。それでも企業が退職の意向を譲らないようであれば、退職金の支給、離職票の発行、再就職に向けた支援、懲戒解雇後の生活費の保障の有無などについて交渉し和解を目指すのがよいでしょう。

    ④労働局や労働委員会などでの「あっせん」による解決を図る

    あっせんとは、個別労働紛争と呼ばれる労働者と事業主との間の労働関係のトラブルについて、和解を目指して解決する制度です。学識経験者の中から選ばれたあっせん員が間に入って当事者間の話し合いを促進することで解決を目指す制度であり、裁判などとは異なり早期解決が図れるメリットがあります。ただし、あっせんに強制力はなく、和解を拒否されることや、企業があっせんに参加しない可能性もあります。

    ⑤労働審判や訴訟手続きのために弁護士に相談する

    従業員自身の力では企業との交渉がまとまらず、労働審判の申立てや訴訟などを視野に入れて企業と交渉する場合には、法的な手続きのすべてを弁護士に依頼することが可能です。慰謝料や賠償金を請求する場合には、個人で企業と交渉するのは簡単ではありません。専門家である弁護士に相談するのがよいでしょう。

    懲戒解雇はリスクが高くトラブルに発展することが多いため注意

    懲戒解雇はハードルが高く、裁判などになると無効となり多額の賠償金やバックペイの支払いが必要となることがあるので、慎重に取り扱う必要があります。懲戒解雇の事由を就業規則に定めていないケースや、過去に注意や指導もしていないケースなど、要件や手続きに不備があると、懲戒解雇は認められません。

    懲戒解雇を行う際には、「企業として努力を尽くしても懲戒解雇をせざるを得なかった」という事実の積み重ねが重要です。懲戒解雇には一定のリスクがあると考え、懲戒解雇をする必要がある場合でも、ときには弁護士などの専門家に相談してから決定を下すようにしましょう。


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