- 更新日 : 2024年6月7日
時間外労働の上限規制とは?働き方改革法施行後の変化を読み解く
そもそも時間外労働とは?残業時間との違い
時間外労働の上限規制について解説するうえで、ここではまず時間外労働がどういったものなのか考えていきましょう。
そもそも労働基準法第32条において、「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)」が定められています。この時間を超えると「法定時間外労働」、つまり今回のテーマである「時間外労働」となります。一方で、各企業が就業規則等で定めている「所定労働時間」を超えた時間については、「所定時間外労働時間」といわれます。そして、この「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の合計時間を総称して「残業時間」と呼ばれています。
なお、就業規則等で定められた所定労働時間が「8時間(=法定労働時間)」であれば、所定時間外労働時間=法定時間外労働時間となります。
現行の時間外労働の上限規制と今回の改正点
現行の制度では、原則の時間外労働の上限時間は月45時間かつ年360時間(1年単位の変形労働時間制を適用する場合は、月42時間かつ年320時間)とされており、これを超える残業は違法となります。しかし、「時間外労働・休日労働に関する労使協定書(いわゆる36協定)」で、臨時的な特別な事情があって労使が合意する(「特別条項付き36協定」を締結する)場合には、この原則の上限時間を超過することができるようになり、この場合、各社の特別条項で定める時間内であれば上限なく時間外労働を行わせることが可能になっていました。
しかし今回の法改正により、罰則付きの上限が法律に規定され、さらに特別条項を締結する場合も、「年720時間」という上限規制が設けられることとなりました。
さらに年720時間以内であっても、一時的な繁忙期などにより単月で大幅な時間外労働が発生するリスクを見越して、大きく3つの上限規制が設けられています。
・単月で月100時間未満とする(休日労働を含む)
・連続する2カ月から6カ月平均で月80時間以内とする(休日労働を含む)
・原則で定められている月45時間(変則労働時間制の場合42時間)を上回るのは年間で6回までとする
現行の制度では、単月・年間の時間外労働時間のみの規制でしたが、今回の改正で、さらに2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6カ月平均がすべて1ヶ月あたり80時間以内、月45時間超は年6回までとするなど、年間を通して守るべき上限が追加されたことも漏れなくチェックすべき点です。
また、万が一上限を超えた場合には罰則が設けられており、事業主に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
時間外労働の上限規制の施行日は2019年?2020年?
これまで働き方改革におけるさまざまな議論のもと、2018年にようやく審議に入り、施行される運びとなりました。実際の施行日については企業の規模や業種によって異なる点に注意が必要です。
原則、大企業では2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日から施行となりますが、一部の業種(自動車運転業務、建設事業、医師等)については、猶予期間5年が設けられており、2024年4月1日施行予定となっています。また、新技術・新商品開発等の研究開発業務については、医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けたうえで、時間外労働の上限規制は適用しないものとされています。
各企業によって施行のタイミングが異なるため、時間外労働の上限規制について対応すべき時期を適切に把握し、適応に向けて、早い段階から準備を進める必要がありそうです。
時間外労働の上限規制ついて適切な知識を持とう
長時間労働の是正には社内の業務効率化だけでなく、取引環境の改善も重要です。労働時間等設定改善法では、事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮するよう努めることと規定されました。
多くの従業員を抱える企業としては、適切な労働環境を整備することは今後の必須課題です。規定に違反すれば罰則も与えられるため、「知らなかった」では済まされません。時間外労働の上限規制について熟知し、従業員が安心して働ける環境を整備していきましょう。
<参考>
時間外労働の上限規制等について
労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター
<関連記事>
“残業違反”に罰則!2019年から始まる「時間外労働の上限規制」を解説
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労災保険の様式5号の記入例|書き方と提出の流れを解説
労災保険の様式5号は、療養補償給付を申請する際に使用する書類です。この書類を指定医療機関に提出することで、病院や薬局での支払いが免除されます。 ここでは、様式5号の記入例と具体的な書き方について解説します。提出する流れや、提出時の注意点など…
詳しくみる育児休業(育休)とは?産休~育休の給付金や手続き、延長について解説
育児休業(育休)とは、原則として1歳に満たない子どもを養育する従業員が取得できる休業のことです。近年は改正が行われ、より育休取得の推進が求められています。人事でも手続きについて把握し、スムーズに進めていかなければなりません。 本記事では育児…
詳しくみる労災保険と他の保険の二重取りは可能?自賠責・医療保険・傷害保険の観点から
労災保険と他の保険の給付を両方受けることが可能なのか気になる人も多いのではないでしょうか。結論として、重複受給(請求)できる保険とできない保険があります。いざというときに適切に保険を利用できるように正しい知識を身につけておきましょう。この記…
詳しくみる副業に労働時間の上限はある?違反にならないための管理方法について解説
副業を始める際に気をつけるべきポイントは、労働時間です。本業と副業を両立させるためには、法的な制約を守りながら適切な労働時間を確保することが重要です。 本記事では、副業における労働時間の上限や法律違反にならないための具体的な管理方法について…
詳しくみる社会保険(公的保険)と民間保険の違いとは?
保険には、国などが運営する社会保険と民間保険があります。いずれも保険事故が発生したときに備え、多くの人が集団を作り、個人経済のリスクを分散しようとする保険方式による点は共通しています。 では、社会保険と民間保険の違いは何でしょうか。 本稿で…
詳しくみるスメルハラスメント(スメハラ)は労災認定される?具体的な基準や手続き、事例なども解説
職場におけるスメルハラスメント(スメハラ)は近年増加しており、深刻な社会問題になっています。自分自身が被害を受けた際にどのように対処すればよいのか、特に精神的な病気を発症した場合に労災申請が可能なのか、詳しく知りたい方も多いのではないでしょ…
詳しくみる